新NISAスタートに向けて…急増中の「独立系フィナンシャルアドバイザー」は資産運用の理想の相談相手なのか
プレジデントオンライン / 2023年7月27日 10時15分
■新しいNISA導入で高まる資産運用への関心
岸田政権が掲げる「資産所得倍増プラン」では、貯蓄から投資へのシフトを進めるため、NISA(少額投資非課税制度)の拡充、顧客本位の業務運営、金融経済教育の充実といった総合的な取り組みを進めている。
特に、NISAについては、制度がごちゃごちゃしていて不評だったが、①一般NISAとつみたてNISAを一本化、②非課税期間を無制限にし、③年間投資上限額を最大360万円、生涯にわたる非課税限度額も1800万円に増やし、2024年1月から「新しいNISA」に生まれ変わる予定だ。
人生100年時代、物価高になかなか上がらない給与所得、公的年金への不安もあるなか、足元の日経平均株価の上昇など明るい話題もあり、老若男女問わずNISAをはじめ資産運用への関心は高まるばかりだ。
ネット上でも新しいNISAの解説や、今後の日経平均株価の予想、どの金融機関がお得か、といった記事や動画で溢れかえっている。
■銀行、証券会社、ネット証券以外の選択肢
個人が資産運用を行う際に、選択肢となるのは、①メガバンクや地銀など銀行、②証券会社、③ネット証券やネット銀行が挙げられよう。
①②の既存の銀行や証券会社は、対面サービスを受けられる安心感がある一方、営業担当者には当たり外れがあり、助言や投資情報はありきたりで、商品説明や手続きも長かったりする。今年6月には、千葉銀行・千葉銀行傘下のちばぎん証券・武蔵野銀行が、ハイリスク商品である仕組債を投資初心者に販売したとして、金融庁より業務改善命令を受けた。このように、顧客のニーズより銀行の収益を優先するといった話も見聞きする。
③のネット証券は、営業担当者に惑わされることなく、自らスマホを利用して安く早く取引ができ、商品ラインナップも豊富だ。一方で、対面サービスは原則ない点が、なんとなく不安でもある。
こうしたなか、第4の選択肢として、既存の銀行・証券やネット証券・ネット銀行ではなく、④IFA(独立系フィナンシャルアドバイザー)に相談するケースが増えているという。
■「独立・中立的にアドバイスをする」というIFA
実際、大手の証券会社やメガバンクなど既存金融機関を退職した人が、IFAとなったり、IFA法人を立ち上げたりする動きが盛んだ。
IFAは、独立・中立的な立場から資産運用のアドバイスを行う専門家とされる。わが国では内閣総理大臣の登録を受けて、金融商品取引業者(証券会社)と業務委託提携を結んだ金融商品仲介業者(IFA法人)に所属するIFA(個人)が主流だ。
なお、IFAというのは業界の自称で、法律上は金融商品仲介業者となる。日本証券業協会によると、IFA法人を含む金融商品仲介業者(723社)の登録外務員数は、前年比1007人増加の6148人にまで拡大している(2022年12月末)。
金融庁から委託を受けたみずほ総合研究所による「独立系フィナンシャルアドバイザー(IFA)に関する調査研究」によると、IFAの特徴として、
① 特定の金融機関に所属せず、独立した立場
② 自社運用商品販売のしがらみがなく、顧客との利益相反が生じない
③ 金融機関のようなノルマに基づく営業がない
④ 会社都合の転勤がなく、顧客と長期にわたる接点継続が可能
⑤ 「金融機関の代理人」ではなく、「顧客の代理人」
といった点が挙げられている。
顧客のニーズを踏まえず、リスクの高い仕組債や外貨保険などの販売に注力してきた既存の金融機関の営業員に不信感が高まるなか、独立・中立・ノルマなし・転勤なしで、「顧客の代理人」となってくれるIFAは、理想的な相談相手なのだ。
■販売手数料に依存した営業手法の限界
そもそも既存の銀行や証券会社など金融機関への不信感のもととなったのが、金融商品の販売手数料に依存した営業手法だ。営業員は、仕組債や外貨保険など販売手数料や業績効果の高い金融商品を勧める誘惑にかられ、顧客とのトラブルを繰り返してきた。
ようやくこうした既存の銀行や証券会社も、販売手数料ではなく、フィーベース(残高連動報酬)を主体としたビジネスモデルへの転換を目指すものの、多くがまだその途上にある。
一方で、いち早く残高連動報酬を掲げた大手IFA法人のファイナンシャルスタンダードは、預かり資産残高で1000億円、取引口座数は5800口座を突破している(2022年12月末)。同じく大手のGAIA(ガイア)も、投資信託の残高連動報酬で稼ぐことで、預かり資産が500億円を突破、証券収入に占めるフィー(信託報酬と助言報酬)比率は89%に達している(2022年8月末)。
こうした大手IFAの一部では、そもそも仕組債や個別株といったハイリスク商品を取り扱わず、営業員は正社員で固定給制であったり、フィーベースで給与を払う仕組みとなっていたりする。
■IFAにも利益誘導や利益相反の問題はある
しかしながら、IFA法人とIFA(個人)が個別に業務委託契約を結ぶ場合は、既存の銀行や証券会社の一部と同じように、販売手数料が収益の柱となることが多い。
新しいNISAでも柱となるであろう、つみたて型やバランス型の投資信託などを売るだけでは、販売手数料も低く抑えられており、日々の生活を成り立たせることは事実上困難だ。顧客側もより短期間での高いリターンのハイリスク商品を望んでいたりする。販売手数料を得るためもあり、おのずと、仕組債や外貨建て保険、日本や米国の個別株といったハイリスク商品の回転売買に傾斜していくことになる。
あるIFAは、大口の個人顧客(60代、都内会社役員)のために、日中は日本株、夜中は米国株の値動きをスマホで追うため「四六時中気が休まることがない」という。しかも、顧客からパスワードを教えてもらい、顧客名義の口座で「成りすまし」売買するといった違法行為も行われていたりする。
足元のように株価が上昇し儲かっているときは、顧客も満足ながら、一転して相場が崩れ損失が発生したときに、果たしてお互いが良好な関係を築けるのか。IFAも既存の金融機関同様、営利活動である以上、顧客に対する利益誘導や利益相反の問題などが完全に消えるわけではない。
■どうやって最初の顧客にたどり着いたのか
IFAの活動には、もう一つ素朴に気になる点がある。証券会社やメガバンクを退職し、独立や転職をした当初は、全く顧客基盤がない状態だと思うが、一体どうやって、最初の顧客を獲得し、ビジネスを軌道に乗せていったのだろうか?
資産運用に興味がある個人は多いものの、誰も名も知らないIFAにいきなり虎の子の資産の運用を託そうとは思わないはずだ。SNSでの情報発信やセミナー開催という手段で地道に広げるにも限度がある。
はっきりと言えば、前職からの顧客に「内密に」アプローチし乗り換えてもらったのではないか。逆に言えば、乗り換えてくれる見込み顧客がある程度算段できたから、独立や転職に踏み切れた、のかもしれない。
IFA法人やIFAは、一様に「前職からの顧客を引き継ぐことなく、一から開拓した」というが、その言葉を信じるものはほとんどいないだろう。もっとも、顧客が了解していた、顧客の自由だと言われると対応に限界があるのも事実だ。
アドバイザーナビによるIFAアンケート調査によれば、転職するにあたり、前職から引き継いだ既存顧客と新規顧客の割合は「既存が7割以上、新規が3割未満」が全体の52%に達しているという。
■日本証券業協会が新規制案を発表
これは実は、資産運用業界全体にとって由々しき問題だ。既存金融機関にとっては顧客情報の流出や営業基盤の毀損(きそん)、IFA側にとっても業界でのプレゼンスがいつまでも向上しない要因となろう。
外資系金融機関は無論、本邦金融機関の多くでも、退職の際に、名刺やメールアドレスを含む既存顧客リストの持ち出しは厳禁であり、顧客引き抜きをしない旨の誓約書などを書かせるところも多い。
そもそも、顧客情報の持ち出しは、製造業であろうと金融業であろうと、訴訟対象になる行為だ。仮に法令違反に問えなくとも、信義則に反する。
大手の金融機関側にも問題がある。本件に関して、去る者を追わずなのか、ほとんど野放し状態だった。退職者に対して、今一度、顧客情報持ち出しについて厳格に対処する必要があろう。
こうしたなか、日本証券業協会は、6月に新規制案を発表した。証券会社の役職員による、転職時の顧客情報持ち出しを禁止し、前職から持ち出した顧客情報をもとに、転職先で営業活動することを禁止するというものだ。禁止行為をした場合には、営業活動に必要な外務員資格登録を取り消すという。
ようやく重い腰を上げたわけだが、何より勝手に情報が持ち出され、情報がぞんざいに扱われている大多数の顧客にとってはたまったものではない。不信感が募る。
実際、顧客からの通報により、IFAの顧客情報流用が明らかになり、前職場から警告文を受けたり、係争に発展したりするケースもあるという。
■IFAには不透明な部分も多い
顧客に寄り添い、着実に成果を出すIFA法人などがある一方、新規顧客獲得や営業手法が不透明なIFAも多いというわけだ。
こうした懸念や問題点は、金融当局も把握してきており、本来「資産所得倍増プラン」で主役を担うはずのIFAの立ち位置が揺らぎ始めているのだ。
実際のところ、「資産所得倍増プラン」においても、新たに「金融経済教育推進機構(仮)」の設立と「中立的な認定アドバイザー」の設置がうたわれている。
既存の銀行や証券会社や営業員は顧客本位ではないという理由でIFAが注目されてきたものの、そのIFAにも種々の問題点があり、それならばと、(必ずしも役割が全て重複しているわけではないが)新たに「中立的な認定アドバイザー」制度ができようとしているのだ。
この先IFAは、
・新規顧客をどう確保したのか?
・どうやって収益を上げているのか?
・持続可能な経営は可能なのか?
・何かあったときの対応や保証は本当に問題ないのか?
といった顧客の疑問に答えるとともに、「顧客本位の業務運営」と「持続可能な収益性」の両立を今以上に追求していくことが必要になる。
ここまでみてきたように、個人が資産運用を行う際に、選択肢となるのは、①メガバンクや地銀など銀行、②証券会社、③ネット証券やネット銀行に加え、④IFAなどがあるが、どれも一長一短ではある。
彼らが民間企業として営利を求めるのは当然ではあるものの、資産運用に興味のある個人が、安心し信頼できるような環境の整備が全てに優先するはずだ。
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株式会社マリブジャパン 代表取締役
金融アナリスト、事業構想大学院大学 客員教授。三菱銀行、シティグループ証券、シティバンク等にて銀行クレジットアナリスト、富裕層向け資産運用アドバイザー等で活躍。2013年に金融コンサルティング会社マリブジャパンを設立。世界60カ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。映画「スター・ウォーズ」の著名コレクターでもある。1993年慶應義塾大学経済学部卒。2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。日本金融学会員。著書に『銀行ゼロ時代』(朝日新聞出版)、『いまさら始める?個人不動産投資』(きんざい)、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(講談社)、『地銀消滅』(平凡社)など多数。
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(株式会社マリブジャパン 代表取締役 高橋 克英)
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