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ソニーはいつまでスマホを作り続けるのか…劇的復活したソニーがアップルを超えるために必要なこと

プレジデントオンライン / 2023年7月24日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nemanjazotovic

■スマホに代わる発明品が待たれる

さいきん、ソニーグループは、これまでになかったような新しい商品や、技術の開発に注力しているとの話を耳にすることが多い。世界全体でスマートフォンの出荷台数が減少傾向にあり、リーマンショック後の世界経済の成長を牽引したデバイスの需要は飽和している。社会はスマホに代わるモノの創造を欲しているともいえるだろう。

5月下旬以降、世界のIT先端分野で、“AI=人工知能”の成長期待は高まった。エヌビディアなどに対する主要投資家の成長期待は上昇した。しかし、今のところ、まったく新しい製品は登場していない。拡張現実(AR)技術を搭載したゴーグル型のデバイスは登場したが、強い成長期待を集めるには至っていない。

ソニーは、創業以来、“モノづくり”の力を磨き、世界が予想しなかったモノを生み出してきた。象徴はウォークマンだ。そうしたモノを生み出す組織の文化を強化するため、ソニーは金融ビジネスの分離検討を発表した。

■モノづくりの力に資源を集中させる

5月以降、ソニーは事業変革のスピードを引き上げようとしている。まず、株式の公開を前提に、金融ビジネス(ソニーフィナンシャルグループ)の分離を検討すると発表した。ソフトウエア分野に属するゲーム事業の強化方針も鮮明だ。共通するのは、画像処理用の半導体など、ソニーにしかできないモノづくりの力に磨きをかけることだろう。

ソニーの強み、存続する意義は、新しい、高付加価値のモノを生み出すことだ。トランジスタラジオ、トリニトロンテレビ、ウォークマン、ハンディカムなどのヒット商品を生み出すことによって、ソニーは高い成長を実現した。その姿に、アップルの故スティーブ・ジョブズも憧れた。

特に、ウォークマンは、人々の生活を劇的に変えた。ソニーは、音楽というソフトウエアを持ち運ぶことを可能にした。持ち運びを可能にするために、洗練されたデザイン、機器の小型化、電池の使用時間の長期化なども欠かせない。新しい製造技術の結合によってそれらを実現し、好きな時に好きな場所で、気に入った音楽を聴く環境を世界に提供した。

■金融ビジネスは経営体力を支えてきたが…

ソニーは、人々の生活の何気ないシーンを、音楽などのコンテンツで鮮やかに彩り始めた。それは、家族や知人に話したくなるような体験(コト)だった。ウォークマン創造によって、モノからコト(ハードからソフト)へ、付加価値の連鎖的な創造を実現した。ソニーの成長の源泉は、よりよい生き方を想起させるモノの創造にある。

一方、金融ビジネスの本質は異なる。資金調達コストの低いところでお金を調達し、需要増加期待の高い分野に再配分する。それによって利ざやを確保する。1979年以降、ソニーは収益源を多角化するために、生命保険、銀行などの分野に進出した。

1990年代以降、ソニーの業績は悪化した。ウォークマンに続く世界的なヒットが生み出せず、リーマンショック後はスマホの普及にも乗り遅れた。業績が悪化する中、金融ビジネスはソニーの経営体力を下支えした。ただ、それは、音響や映像などの分野で最先端の研究を強化し、新しいモノの創造を目指すことではなかった。

■半導体需要を受けてゲーム領域の強化へ

むしろ、金融ビジネスがあるからなんとかなるという雰囲気が醸成された可能性は高い。一時期、ソニーはモノづくり精神を高めることが難しかったように見えた時期もあった。しかし、ソニーはものづくりを諦めなかった。今日の事業運営体制を支えているのは、イメージセンサなどと呼ばれる画像処理半導体だ。

モノづくりの底力をソニーは主に“B2B(企業向け)”の分野で発揮し、CMOSイメージセンサ市場で世界4割のシェアを得た。獲得した資金を音楽、映画、ゲームなどの分野に再配分した。それによって業績は拡大した。2022年ごろからソニーは、ゲーム領域での投資増加ペースを引き上げた。ソニーはデジタル空間でのコンテンツ創出を強化しているように見える。

狙うは、より多くのユーザーと、より密接な関係を構築することだろう。そのための一つの方策として、ゲーム領域でサブスクリプションビジネスを強化する。

■“コール・オブ・デューティ”の提供で契約

サブスク型のビジネスは、特定の行動を続ける傾向が強いという、わたしたちの心理特性(心の慣性の法則)に注目した事業運営の発想といえる。機器などの販売と異なり、消費の意思決定のタイミングで支払う金額は小さい。それによって、モノやサービスの継続利用契約を結ぶ心理的なハードルは低下する。一度サブスクすると、忘れてしまうこともある。

また、ソニーは米マイクロソフトと、人気ゲーム“コール・オブ・デューティ”の提供継続で契約した。マイクロソフトは英当局とアクティビジョン・ブリザード買収に関する交渉を進めなければならないが、人気ゲームの継続提供に目処は立ちつつあるとみられる。ソニーはコンテンツ事業を強化し、より多くの消費者のニーズに寄り添うことができるだろう。

プレイステーション5とデュアルセンスコントローラー
写真=iStock.com/Girts Ragelis
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Girts Ragelis

いずれも、顧客と長期の関係を構築するために有効だ。どのような音響、画像などがユーザーのゲーム没入体験を高めるか。AI=人工知能がユーザーの満足感向上にどう寄与するか。ソニーは、さまざまな検証をユーザー参加型で、より積極的に進めると予想される。

■スマホ市場は消耗戦、ゴーグル端末も不確実

ゲーム領域で消費者との密接な関係を構築、強化するために、音響、映像、通信など、ソニーのモノづくりの重要性は増す。新しい製造技術を実現するために、マイクロソフトなど海外のIT大手企業とのコンテンツ利用契約も強化しなければならない。諦めることなく、そうした取り組みを徹底強化できるか否かが問われる。

世界経済全体の観点から考えると、足許、最終製品分野でスマホに代わる、新しいヒット商品の登場が求められている。

スマホ市場では、バルミューダや京セラが個人向け端末の撤退を決めている。ソニーは数少ない日本製スマホの生き残りといえるが、今後は薄い利幅を争奪する消耗戦が鮮明化するだろう。ソニー、メタ、アップルなどが発表したゴーグル型の端末に関しては、かさばること、装着時の見た目など、本当に需要が急増するか不確実との指摘もある。

そうした展開が予想される中、短期的な収益をソニーは画像処理や車載用などの半導体、コンテンツ事業で獲得する。得られた資金を、いまだ世界の消費者、大手IT企業などが具体的なコンセプトをイメージできていないモノ(最終製品)の創造に再配分する。その実現によって、世界をあっと驚かせる。ソニーが目指しているのは、そうした展開であるはずだ。

■生活が一変するようなデバイスが誕生するか

取り組みには相応のリスクが伴う。何が消費者に受け入れられるか、デザイン、機能などを具体化して言語に落とし込み、従業員、株主などのステークホルダーの納得と賛同を得ることは容易ではない。発表したものが、期待外れに終わる恐れもある。

そうしたリスクを認識しつつも、経営陣は金融ビジネスの分離によって、ソニーの、ソニーたるゆえんはモノづくりにあり、という価値観を組織全体で醸成しようとしている。歴史を振り返っても、同社の強みは、誰もが思いもしなかったデバイスを世に送り出し、生活様式を一変させることにあった。

口で言うほど容易なことではないが、経営陣は諦めることなく世界の消費者の声に耳を傾け、思わず手にとってしまうようなモノの実現に徹底して取り組まなければならない。どのようにそうした組織体制を確立して成果を世に示し、世界的ヒットにつなげるか。国内外でソニーの事業戦略への注目は増え始めるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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