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人体に侵入すると炎症を起こし、肝臓や脳を侵す…風呂や台所に潜む"殺人カビ"への正しい対処法

プレジデントオンライン / 2023年7月29日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/show999

家の中のカビは人体にどんな影響を及ぼすのか。産業医の池井佑丞さんは「生活の至るところにカビは存在する。特に、風呂や台所に発生する“黒いカビ”には注意が必要だ」という――。

■「なかなか治まらない咳」の意外な原因

本格的な夏を迎え、気温の高さや湿度に参っている方も多いのではないでしょうか。そしてこの時期、特に注意が必要なのが「夏型過敏性肺炎」です。

この時期になると、なかなか治まらない咳を主訴に来室する人が増加します。夏風邪だと思い放置しているケースがほとんどですが、その中にはカビが原因の「夏型過敏性肺炎」が潜んでいる場合があります。

「夏型過敏性肺炎」とは、カビやホコリなどを繰り返し吸い込むことによりアレルギー反応を引き起こし、結果肺炎を起こす、過敏性肺炎のひとつです。夏に発症し、秋には症状が治り、同じ季節になるとまた症状を繰り返すのが特徴で、症状が悪化すると入院が必要となるケースもあります。

「夏型過敏性肺炎」はトリコスポロンというカビが原因とされており、知らず知らずのうちに吸い込むことにより起こる、非常に身近な病気です。エアコンが原因となる事が多く、職場のエアコンが原因で「夏型過敏性肺炎」を発症される方も見受けられます。

対策としては、エアコンの清掃が大前提です。その他には空気清浄機の設置や、個人の対策では不織布マスクも効果が期待できます。

■エアコンの使用時間が長いほどカビが増える

エアコンの風の通り道となるフィルター部分に発生するカビは、空気の移動によって部屋中にカビの胞子をまき散らすことになります。スイッチを入れた時にカビ臭を感じたり、咳き込むことがある場合は、カビの温床となっている可能性が非常に高いです。

エアコンの送風ファンや吹き出し口の部分には、肺炎やぜんそくなどのアレルゲンとなる「トリコスポロン」や「クラドスポリウム」などの好湿性カビが非常に多いことが分かっています。また、これらの好湿性カビはフィルターに溜まったホコリの中でも生育します。

一般家庭のエアコン使用状況とカビについての調査では、使用時間が長いほど多くのカビが検出されたそうです。1日12時間以上使用する場合に最もカビ数が多くみられることがわかり、使用時間が短くなると共にカビ数も減少傾向がみられました。

設定温度を28℃以上にしている場合と、24℃以下にしている場合でカビ数の比較を行ったところ、24℃以下の場合は28℃以上の場合に比べ2倍以上のカビが検出されました。設定温度が低いほどエアコン内に結露が発生しやすく、カビも生育しやすい環境となるようです。〔J.Antibact. Antifung. Agents Vol.44, No.7,pp.349-356(2016)エアコンにおける好温性カビ汚染に影響する要因とその対策 濱田信夫〕

■フィルター掃除をしてもカビは減らない

エアコンのカビ汚染には注意が必要ですが、だからといって使用を控えることは熱中症の危険もあるため現実的ではありません。そこで、清潔なエアコンを保つために欠かせない清掃について、上記に挙げた調査で少し意外な事実も示されているのでご紹介します。

掃除機でのフィルター掃除ではカビの減少は見られず、むしろフィルター掃除をしなかった場合に対し、掃除をした方がカビの量が多くなった例もあったそうです。水洗いや洗剤を用いた洗浄をおこなった場合であっても、一般カビ・好湿性カビどちらも減少傾向は確認できず、効果がなかったということです。一方、プロによる清掃サービスを受けた場合はカビ数の減少が確認され、効果がみられました。最近のエアコンに搭載されている自動クリーニング機能も内部のカビ抑制、特に高湿性カビには効果的であることが判明しています。

掃除したエアコンフィルターを元の位置にセットする手元
写真=iStock.com/Kira-Yan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kira-Yan

プロによるエアコンクリーニングを年に一回受けるだけでも、カビの発生数は優位に減少したということです。健康的な生活を送るため、清潔な状態を維持したエアコンを利用するよう心がけていただきたいと思います。

■湿度70%以上、気温15~30度で繁殖しやすい

身近なカビの種類としては黒カビ、青カビ、赤カビ、白カビ、ススカビなどが存在します。食品や建物の内部、壁や床の表面、家具、布地、書類、植物や土壌など、カビは空気中のどこにでも存在し、条件が揃うと繁殖し、広がります。

カビ菌の種類にもよりますが、カビが繁殖しやすい条件は主に以下3つで、これらの条件が揃うと爆発的に繁殖します。(「カビ対策マニュアル 基礎編」文部科学省)

・70%以上の湿度(60%以上から活発に活動、80%以上で一気に繁殖)
・15~30度の気温(25~28度がもっとも生育に最適)
・栄養分(食品の食べカス、ホコリ、汚れ、ダニなど)

ヨーグルトやチーズなど、害のないカビもある一方、黒カビ、青カビ、ススカビは人体に悪影響を及ぼします。カビの胞子が体内に入ることで、気管支ぜんそくや鼻炎といったアレルギー症状が現れる場合があります。

呼吸器疾患である「アレルギー性気管支肺アスペルギルス症」はカビが原因で起きるもので、「アスペルギルス」とはカビの一種です。畳やじゅうたん、押し入れ、冷蔵庫、エアコンなどの生活空間に繁殖します。実は量の差はあれど、ほとんどの人がほぼ毎日吸入していますが、気管支ぜんそくを患っている方は特に発症しやすく、症状が進行すると息切れ・呼吸困難が常に起こるようになります。

■浴室や台所の黒カビは素手で掃除しない

青カビの中には「マイコトキシン」というカビ毒を作る種類があり、穀類等の農産物や食品に付着、増殖して作り出される毒素の総称です。通常の調理温度によって無毒化されないため、人や動物の健康危害を防ぐには、基準値を超える汚染物を排除するしかありません。「マイコトキシン」は毒性が強く、肝臓や腎臓等に障害を与えます。造血機能障害や免疫機能不全などを引き起こすもの、肝臓がんや腎臓がんの原因となるものもあります。このため、毒性の強いカビ毒に汚染された食品は、食品衛生法で厳しく規制されています。

浴室や台所などにみられる黒いカビにも注意が必要です。排水溝の蓋などに付着しているドロドロした黒カビは、人間に感染する可能性があります。「エクソフィアラ」という黒カビは、傷口から侵入すると炎症を起こします。皮膚の膿瘍(のうよう)や潰瘍を引き起こすだけでなく、皮膚の深いところまで入ると血流に乗り、肝臓や脳に膿瘍を形成します。脳を侵されると死に至るケースもあるといわれています。浴室だけではなく、洗濯機や加湿器の内部にも発生しやすく、こういった場所を掃除される際は必ずゴム手袋をつけるようにしましょう。

タイル張りの浴室の床と排水管と足元
写真=iStock.com/olaser
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/olaser

■カビがアルツハイマー病の原因になる可能性

最近では、カビとアルツハイマー病との関連についても注目されています。

ディアナ・ピサルース氏らの研究によると、アルツハイマー病患者の脳組織から真菌細胞と菌糸が発見されました。このことからカビがアルツハイマー病の原因の一つである可能性が示唆されています。

アルツハイマー病患者と、症状のない方で比較調査をしたところ、症状のない方には外前頭皮質、小脳半球、海馬、脈絡叢などのさまざまな脳領域に真菌物質は存在しませんでした。一方、10人のアルツハイマー病患者の脳切片からはもれなく真菌感染症が確認されたそうです。また、真菌感染は血管でも観察されており、血管の真菌感染は血管性認知症(脳に血液を供給する血管が損傷され、認知症を引き起こす原因となる病気)患者との共通点を説明している可能性もあります。

アルツハイマー病が真菌性疾患である可能性、または真菌感染が危険因子である可能性は、アルツハイマー病患者に対する効果的な治療法に新たな展望をもたらすことでしょう。〔Different Brain Regions are Infected with Fungi in Alzheimer’s Disease  Diana Pisa, Ruth Alonso, Alberto Rábano, Izaskun Rodal&Luis Carrasco Scientific Reports volume 5, Article number: 15015(2015)〕

このように、生活の至るところに存在するカビは、人体へ大きな影響を及ぼします。夏バテで体力が落ちている時は、ちょっとしたきっかけでも体調を崩すことがあります。面倒ではありますが、健康のためにもしっかりとカビ対策を行い、清潔で快適な住空間を保つことを心がけましょう。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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