それで長生きできるとは限らない…「酒をやめろ、たばこをやめろ、この薬飲め」と押し付けられた高齢者の末路
プレジデントオンライン / 2023年7月28日 15時15分
※本稿は、和田秀樹『わたしの100歳地図』(主婦の友社)の一部を再編集したものです。
■長生きを目指すのではなく、長生きできたらラッキー
患者さんにこのような生活をさせたら長生きさせることができる、そう過信している医師が世の中にたくさんいます。本当はなんの保証もないのに、「この血圧の薬を飲んだら大丈夫」と患者さんに言うのです。
保証がないどころか、日本の医師が「血圧を下げたら長生きできますよ」と言っている根拠はアメリカでのデータであって、日本で大規模な比較調査をしているわけではありません。
血圧の薬を飲んだ群と飲まない群とで、5000人規模の比較調査をすれば、それが信頼できるデータかどうかある程度はわかりますが、本当のところは誰にもわからないのです。これは日本の医師が理屈のほうを完全に信じているからです。
ところが、理屈どおりにいかないのは、わたしが勤めていた高齢者専門の総合病院、浴風会病院に付設する老人ホームの入居者を対象にした調査データが示していました。たばこを吸っている人と吸っていない人の生存曲線を見てみると、まったく差がありません。
理屈で言えば、たばこはからだによくありません、ですが、たばこを吸ってがんや肺気腫を患った人は浴風会の老人ホームに入る前に亡くなっている可能性が高いし、老人ホームに入るまでたばこを吸い続けてきた人には、たばこは害だから吸うなとは言えないのです。
もちろん、長生きすることに関して、そのための努力や研究などは続けたほうがいいに決まっていますが、結局、「運」には勝てないとつくづく感じています。長生きできるかどうかは誰にもわかりません。けっして理屈どおりにはいかないということはわかっていますし、そのうえ、個人差もあります。
それなのに、医師に言われるがまま、お酒をやめて、塩分を控えて、薬をもらって飲んで、頭がフラフラしながら80歳、90歳、100歳まで生きられたとしても、あまりうれしくも楽しくもありませんし、そのような人生が幸せなのでしょうか。
長生きを目指すのではなく、自分の生きたいように生きて、その結果、長生きできたらラッキーくらいでいいとわたしは思っているのです。
■歩きながらつくる100歳地図
わたしのイメージでは、100歳までの地図というのは「すごろくゲーム」のようなもので、サイコロを振って進んだ先に分かれ道があったら、どちらへ行くかを決めて、うまく当たりの道を選び続けることができればゴール=100歳まで生きることができるというようなものです。
ですから、わたしの100歳までの地図は、あらかじめ用意するものではなく、歩きながら地図ができていくというようなイメージです。
勘違いしてほしくないのは、行き先をサイコロ任せにしているのではなく、サイコロはあくまでも前へ進むためのもので、分かれ道に出くわしたときにどちらの道が充実しているか、どちらの道がおもしろいのかを決めるのは自分だということです。
サイコロを振った先に、こっちの道は楽しそうだけどちょっとヤバそう、こっちの道はつまらなそうだけど長生きはできそう、など即決できないようなときもあるでしょう。しかし、どちらの道へ進むかを決めるのは、自分しかいません。
このように、本来は自分自身が行きたい道を自由に選んで決められるはずですが、その選択を邪魔する存在が、医師と家族です。
■「酒をやめろ、たばこをやめろ」善意の押しつけに屈しない
医師は、「こんなことしていたら長生きできない」と脅し、「この薬を飲め」と迫ります。家族は、「酒をやめろ、たばこをやめろ」「塩分、脂質を減らせ」と言い、我慢だらけのイバラの道を押しつけてきます。
高齢者の話を聞いていて悲しくなってくるのは、「奥さんにしょうゆを取り上げられた」「コーヒーに砂糖5杯入れないと我慢できないのに、からだに悪いからと止められた」など、医師ではなく家族や周りの近しい人から好きなものを制限されてしまうことです。相手も悪気はないどころか善意で言っていることなので、本当に困ったものです。
それでもなかには、「そこまでして長生きしたくない」と言う人もいますが、その本心はきっと違うものだとわたしは思っています。
「本当は長生きしたいけど、医師の言うことはあてにならないし、好きなことを我慢するのはイヤだ」というのが本心だと思うのです。そのような言葉をのみ込んで、「そこまでして長生きしたくない」という言い方をしているような気がしてなりません。
わたしも、いいかげんな暮らしを続けているからといって、けっして長生きしたくないわけではありません。我慢を強いられた暮らしをするよりも、たとえ命を縮める不摂生な暮らしぶりであったとしても、自分が楽しいと思える生活のほうが、もしかしたら長生きできるかもしれないと思っているのです。
長生きはできなくとも、我慢を押しつけられた生活の果て、人生の最期にきて後悔をしたくない、ただそれだけなのです。
■誰だって死から逃れることはできない
わかりきった話に聞こえるでしょうが、人は生まれた瞬間から老い始め、その先の死に向かって歩んでいきます。多くの高齢者を診てきたわたしの最大の教訓は、実は人間の死ぬ確率は100%であるということです。誰もがいつかは必ず死にます。
残念ながら年をとればとるほどその確率は高くなっていくのだから、年をとってからあれこれ悩むことは無意味ですし、それによって神経をすり減らしてしまうのは、精神の無駄遣いです。
どんな人でも老化を止めることはできませんし、死を回避することはできません。そのようなことを普段の生活で意識することはなく忘れられがちですが、ある年齢になったら、「人間は必ず死ぬものだ」という覚悟をもたなくてはいけないとわたしは考えています。
わたしは、2019年に血糖値が660mg/dlまで上がり、体重は1カ月に5kg減り、膵臓がんの可能性を強く示唆されました。そのときに、「そうか、死ぬのか」「それならお金を借りてでも映画を撮ろう」と思ったわけです。
結局、精密検査を受けたらがんではなかったのですが、わたしはそこで、「どうせ人間いつかは死ぬのにジタバタしてもしかたがない、いまを楽しもう」と「死」に対する覚悟をもつことができたおかげで、死に対する恐怖もなくなりました。
死ぬのが怖いからといって、家に閉じこもってばかりいれば足腰が弱くなって、外出はおろかトイレにも自力で行けなくなり、おいしいものを食べてもおいしいと感じられなくなってしまいます。これではあまりに悲しすぎます。
ただやみくもに死を恐れるのではなく、死から目をそらさず、真剣に死と向き合ってみるといいと思います。自分の死について考えることで、生きることの意味、自分が進むべき方向がより深くわかってくるはずです。
■悔いのない人生を航海する
なるようにならないのが人生なら、なるようになるのも人生です。必要以上に悩んだり、怖がったりする必要はありません。死にたくないと思えば思うほど、その恐怖から普段の生活のなかの多くを制限してしまい、人生の充実度が下がってしまうでしょう。
いつまで生きられるのか、いつ死ぬのかわからないのだから、いつ死んでもいいやとポジティブに考えることができれば、好きなように楽しく生きられるものです。
自分のあるがままを認めて、何も恐れず、余計な心配もしない。自分のやりたいことをやり、食べたいものを食べて、一日一日を積み重ねて生きていく。これまでも、これからもわたしはそうしていくつもりです。
100歳まで生きられたとしても生きられなかったとしても、後悔のないように人生を航海する、それがわたしの100歳地図です。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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