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「夏ボーナスは本当はもっと出せるのに出さない裏切り」日本人会社員の7割は日経報道"過去最高"と全く無関係

プレジデントオンライン / 2023年7月27日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RichLegg

「夏のボーナスが過去最高」との報道があったが、それは本当なのか。ジャーナリストの溝上憲文さんは「上場企業の2023年3月期の決算は最高益だったが、儲かった分はボーナスで社員に反映されていない。今春の賃上げでは大盤振る舞いしたように見えるが、ボーナスは低く抑えたいという“渋ちん”ぶりを証明した」という――。

■22年夏は前年比11.29%増、今夏は前年比2.6%増と小幅

「夏のボーナス最高89.4万円」。7月18日の日本経済新聞の1面トップにこんな見出しが躍った。上場企業を中心に406社を調査し、2年連続で過去最高(平均額)を更新したそうだ。

今春闘では大手企業の満額回答が相次ぎ、30年ぶりの大幅賃上げが注目された。それがボーナスにも波及しているのかと思いきや、よく見ると実はそうではない。

22年夏は前年比11.29%増だったが、今年の夏は前年比2.6%増と小幅な伸びにすぎない。

今春の賃上げ率が労働組合の連合の最終集計で従業員1000人以上の企業で3.69%、全体平均で3.58%増だったが、それすらも下回っている。

連合が集計した一時金(ボーナス)交渉でも、妥結した平均月数は昨年同期と同じ4.87カ月。金額ベースで約2万8000円増えているが、賃上げで基本給が上がった分が反映されているだけで、いくらも増えていない。

上場企業の2023年3月期の決算は円安効果も加わり、純利益は前期比1%増と2期連続の最高益となった。本来、儲かった分は毎月の給与ではなく、ボーナスで社員に還元するのがこれまでの倣いだったはずだ。にもかかわらず儲けの分はボーナスに反映されていない。

結局、急激な物価上昇への対応として賃上げでは大盤振る舞いしたように見えるが、ボーナスは低く抑えたいという“渋ちん”ぶりを証明したことになる。この事実に気づいていた人々からは「やっぱり、ウチの会社を含め日本の企業はすごくケチ」といった辛辣(しんらつ)な声も聞かれる。

大企業以上にもっと深刻なのが中小企業だ。

■中小企業の平均は29.9万円、前年比0.03カ月増

賃上げでは大企業の大幅アップが日本の労働者の7割を占める中小企業に波及することが期待された。しかし蓋を開けてみると、中小の賃上げ企業は増えたものの、金額を含めて2極化していることが明らかになった。

日本商工会議所が5月31日に発表した調査(約2000社)によると、2023年度に所定内賃金の引き上げを実施した企業(予定を含む)は62.3%。2022年6月調査の50.9%と比べ11.4ポイント増加した。

一方、「賃金の引き上げは行わない」企業が25.9%、「現時点では未定」の企業が11.8%。計37.7%の企業が賃上げできない状況にあった。

所定内賃金を引き上げた企業の内訳は、純粋にベースアップした企業が53.7%。手当の新設・増設が14.0%。手当の中にはインフレ手当や物価高騰対策手当も含まれている。

また、この調査では所定内賃金に一時金(ボーナス)を加えた給与総額の引き上げ率も聞いている。それによると3%以上の引き上げ企業が50.5%。3%未満が41.2%だった。2022年通期の物価上昇率が3.2%(総合)だったことを考えると、賃上げした中小企業でも半数弱の企業は物価上昇率を下回っていることになる。

ベースアップした中小企業でも大きなバラツキがある。

中小の製造業が多く加盟する産業別労働組合のJAM(ものづくり産業労働組合、組合員39万人)が集計した6月20日時点のベースアップの平均額は、従業員3000人以上の企業労組が7933円、これに対して300人未満の企業は5005円だった。大企業と約3000円の開きがあるが、それでも前年度よりアップしている。

しかし300人未満の企業の賃上げ分布を見ると、全体の半数以上の組合が平均額を下回っている厳しい現実が浮かび上がった。

妥結した607組合のうち、ベア額1万円以上が42組合もある一方、1000円未満が26組合、1000~2000円未満が66組合、2000~3000円未満が66組合、3000~4000円未満が81組合、4000~5000円未満が72組合あったのだ。

しかも賃上げ交渉を断念した労働組合が17組合もある。

1万円以上のベアを出す企業もある一方で、回答額ゼロあるいは数百円程度の企業もあるなど、中小企業の間でも大きな格差がある。

では、ボーナスの妥結月数はどうか。300人未満の半期の妥結月数は2.14カ月。前期比わずか0.03カ月増えただけだ。ちなみに従業員3000人以上の大企業は2.72カ月。前期比0.11カ月分増えている。金額では300人未満が約58万円、3000人以上が約92万円。中小と大企業のボーナス格差も広がっている。

しかも労働組合のある企業に限った話だ。日本の従業員100人未満の企業の労働組合の推定組織率は0.8%(厚生労働省「令和4年労働組合基礎調査」)にすぎない。

労働組合のない99%の中小企業では賃上げどころか、ボーナスを払えないところも少なくないだろう。

JAMの幹部は「労働組合のある中小企業は経営者と粘り強く交渉し、何とか勝ち取ったが、それでも企業間で金額のバラツキがある。労働組合のない中小企業は賃金も上がらなかったという実態が今後浮かび上がってくるのではないか」と語る。

人々が行き交う中にたたずむ高齢のビジネスマン
写真=iStock.com/stockstudioX
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stockstudioX

■ボーナス含む年収が上がらなければ個人消費は先細る

1つのサンプルとして、大阪シティ信用金庫が取引先企業に調査した「中小企業の2023年夏季ボーナス支給予定」(2023年6月22日)を紹介したい。

1030社の回答の企業のうち、夏のボーナスを支給すると答えた企業は59.5%。昨夏に比べて0.4ポイントも減少している。支給しない企業40.5%のうち、小売業の65.8%、運輸業の50.0%が支給しないと答えている。世の中が賃上げで騒いでいる一方で、賃上げやボーナスに無縁な中小企業も多いのが実態だ。

しかもボーナスを支給するにしても、その金額は大企業に比べて大きく見劣りする。

1人あたりの平均支給予定額は29万9957円。最も低いのは小売業の22万7439円。規模別では従業員50人以上が約34万円、20~49人が約30万円、20人未満が約27万円。50人以上は昨年夏比15.8%増であるが、20人未満はマイナスになるなど、中小企業の間でも格差が拡大している。

4月分の厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、物価を考慮した労働者1人あたりの実質賃金は前年同月より3.0%減少した。賃上げ効果は5月以降に出てくると言われていたが、5月の実質賃金も前年同月比1.2%減となり、14カ月連続のマイナスとなった。

中小企業の賃上げやボーナス支給の実態を見る限り、物価高によって可処分所得は減少し、生活が苦しい状況は今も変わってはいない。ボーナスも含めた年収が上がらなければ、節約や買い控えの傾向が続き、個人消費も先細ることになる。

結局、外国人旅行客のインバウンド需要に頼らざるを得ないのが日本の現実だ。

お金の問題に苦しむ男
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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