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「喜びの味付け」が頭のいい子を腐らせる…「できた!」と喜ぶ子供に親が絶対にやってはいけないこと

プレジデントオンライン / 2023年8月3日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

「頭のいい子」を育てるにはどうすればいいのか。スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長の星友啓さんは「知能アップに最も効果的なのは、子供のメンタルを強くすることだ。世間では『自己肯定感を高めるべき』という言説があふれているが、親が子をやたらと褒めると、むしろメンタルが弱くなる恐れがある」という――。

※本稿は、星友啓『「ダメ子育て」を科学が変える! 全米トップ校が親に教える57のこと』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■メンタルの強い子供は「頭のいい子」に育つ

難しいことに直面したときでも、前向きに、辛抱強く生きていってほしい。

先が読めない現代社会で、やはりメンタルが一番大事。

そんな親心にお応えするため、この章では、子どものメンタルを強くする科学的なアプローチについて解説していきます。

まずお伝えしたいのは、子どものメンタルを強くすることが、子どもの知能をアップするのに最も効果的だということです。この事実はこれまで心理学や脳科学の分野で確認されてきました。

その中でもメンタルと学業の関係が現場レベルで最も明確に示されたのが、アメリカで盛んな「SEL」研究です。

「SEL」は「Social Emotional Learning」の頭文字を取った略語。目的は、子どもたちの社会性(social)を育み、感情(emotional)の認識やコントロールのスキルを身につけさせることです。アメリカの教育界ではSELの名の下に、子どもたちの心と社会性の発達を科学的にサポートするプログラムの研究開発が進んできています。

その火付け役となったのがイェール大学の研究です。学校のカリキュラムに、社会性や感情をサポートするプログラムを導入したところ、子どものメンタルを強化できただけでなく、学業成績が大幅に上がったのです。

このイェール大学の研究を皮切りに同様な報告が現在までに数々積み重ねられてきました。さらに、これはアメリカ特有の効果ではなく、文化によらないことも最近になって解明されてきました。SELのプログラムの投資利益率(ROI)を計算してみると、元手の20倍という試算もあるくらいです。

つまり、一言で言えば、メンタルサポートは学力サポートなのです!

■むやみに自己肯定感を高めようとしてはいけない

まず、子どもの「自己肯定感」について解説していきましょう。

ちまたには、自己肯定感について教える本や動画があふれており、こちらとあちらで真逆のことが書かれているなんていうことがしばしば起こります。そして、その中には、厳重注意の「ダメ子育て」も含まれているので、子どもに、むやみやたらな自己肯定をすすめてはいけません。

自己肯定の仕方によっては、子どものメンタルに逆効果になってしまいます。そこで先に、ちまたでよく見かける、危険な自己肯定感のアップ法について見ていきましょう。

1つ目は、「成功体験」による自己肯定感アップ法。これは、子どもが「できた!」と思えるポジティブな体験をたくさんさせてあげることで、自己肯定感を育もうとするやり方です。

たとえば、勉強やスポーツ、生活、お手伝いなど、なんらかの目標やタスクを設定して、できるところまでサポートしてあげる。できたときにわかりやすく褒めてあげたり、プレゼントやお小遣いをあげたりする。できることがよいことだという意識を刷り込むのがこの方法のカギになります。とてもわかりやすく、説得力もある子育て法で、誰でも使いたくなってしまいそうです。

しかし、こうした「成功体験」ベースの自己肯定感のアップ法には、注意が必要です。なぜなら、こうした自己肯定感の育て方は、子どもの成功体験を強調するがあまり、外発的報酬に頼りがちになってしまうからです。

■過剰な「成功体験」は子供の心身に悪影響を及ぼす

前述のように、何かをやってみたときの「できた!」という感覚は、心の三大欲求の一つです。そのため、純粋な達成感を味わわせてあげること自体は、非常に大切です。

しかし、その成功体験をより強く感じてもらおうとして、大げさに褒めてしまったり、お小遣いやプレゼントなど外発的報酬を与えてしまったりすると、子どもの「内発的やる気」が壊れてしまいます。

ここで、厄介なのは、褒め言葉やお小遣いなど外発的報酬を得ることで、実際に子どもがポジティブな気分になり、その瞬間は自分を肯定する気持ちが高まるということです。

しかし、それが落とし穴なのです。なぜなら、外発的報酬に基づく自己肯定感は短期的に強いものの、長期的に依存していると、心にも体にも悪影響を及ぼすからです。

たとえば、うつや不安のリスク、頭痛、肩こりなどの身体的健康に加えて、人間関係にも問題が出てくることが報告されています。ことに子どもは、外発的報酬を求め続けることで、タバコや酒、ドラッグなどに依存してしまうリスクも高まるといわれています。

そのため、「成功体験」の子育てをするならば、意識して大げさな外発的報酬を避けなくてはいけません。褒め言葉やお小遣いで気分が良くなり、自己肯定感が一時的に上がったとしても、長期的には心や体のリスクが上がってしまいます。

子どもが「できる」「できた」と感じられること以上に、喜びの味付けは必要ないどころか、してはいけないと肝に銘じておく必要があります。

■ネガティブな気持ちは「忘れる」より「受け入れる」

自己肯定感に関して、もう一つ注意しておくべきことが、ネガティブな気持ちを無理やり抑え込んだり、無理に忘れようとしたりするのは逆効果だということです。

嫌なことが起きたときに、忘れようと試みるものの、どうしても気になる。それどころか、その気持ちを抑え込もうとすればするほど、かえってネガティブな気持ちが強くなってしまいます。結果、嫌なことは忘れようとすればするほど忘れられず、ネガティブな気持ちが続いてしまうのです。

そして、そのネガティブな気持ちが続いてしまうことで、心や体にさまざまな悪影響が出てきてしまいます。たとえば、気持ちを抑え込みがちな人は疾患による死亡リスクが30%高まってしまい、がんになる確率も70%上がるという驚きの報告があるくらいです。

そのため、ネガティブな気持ちを無理やり忘れさせたり、抑え込ませたりするのではなくて、ネガティブとのうまい付き合い方を子どもに教えていかなくてはいけません。

私たち人間はネガティブな気持ちになっている自分を見つめ、その自分を受け入れたときに、その自分を変える準備が整うのです。この本質を、臨床心理学の歴史においてフロイトと並ぶ偉業を成し遂げたカール・ロジャースは以下のように述べています。

興味深いパラドックスがある。それは、ありのままの現在の自分を受け入れるとき、自分が変わるということだ。

■子供に身につけさせるべき自己肯定感とは

そしてここでカール・ロジャースが言う「ありのままの現在の自分を受け入れる」というのが、子どもが持つべき自己肯定感のカギになります。

父と母と娘が川で遊ぶ
写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

外発的報酬に依存した「成功体験」からの自己肯定子育てはダメ。ネガティブな気持ちを無理に忘れさせようとするのもダメ。それなら、いったいどんな自己肯定感を育んでいけばいいのか?

それはシンプルにまとめると、現実の自分をありがたく思う気持ちです。この自己肯定感の定義には2つの重要な要素が含まれています。それは「自己受容(Self-acceptance)」と「自己価値(Self-worth)」です。

まず、1つ目の「自己受容」は、まさしくカール・ロジャースの「ありのままの現在の自分を受け入れる」と表現した気持ちのこと。ポジティブな自分もネガティブな自分も、ありのままを受け入れる。そうした自己受容ができる人は、精神的に安定していて、幸福感が高い。逆にそうでないと、ストレスが高く、うつ病のリスクが高まることなどがわかっています。

また、自己受容感の高い人の方が、ストレスマネジメントのトレーニングで、メンタル強化の効果が高くなりやすいとか、けがの治療の効き目や体の回復のスピードが速い、寿命が延びるなどの報告もあります。

つまり、自己受容感が高いと心にも体にも良い影響があるのです。

■ありのままの自分を受け入れる

求めるべき自己肯定感のもう一つの要素である「自己価値」は、ポジティブもネガティブも、ありのままの自分を受け入れた上で、そんな自分に、文字通り自分なりの価値を見つけることです。

たとえば、以下の2つの例は日常の中で感じる自己価値をシンプルに表しています。

・また仕事で遅刻してしまった。気分はヘコんだけど、明日からも頑張ろう。
・ヘコんだ自分に正直になれる自分を誇りに思う。まだまだ必要なスキルも身についていない、成績も悪い。でも、将来のなりたい自分に向かって頑張る自分でいられることがありがたい。

自己価値を感じられないと、うつ病や不安症になってしまうリスクが上がってしまい、また逆に、自己価値を感じている人たちは、幸福感が高く、ストレスにも耐えられる、強い心の持ち主であることがわかっています。

さらに、自己価値を感じていると、勉強の成績や仕事の業績も上がるという報告まであります。

子どもの求めるべき自己肯定感は、「現実の自分をありがたく思う気持ち」です。なぜなら、「自己受容」「自己価値」ともに、子どものメンタルにいいことずくめだからです。

■「ナルシシストな子」にしないために気を付けるべきこと

このように求めるべき自己肯定感の解説をすると、しばしば出てくる疑問があります。それは以下のような心配です。

自己肯定感が大事なのはわかったが、いき過ぎると、子どもがナルシシストになってしまうのではないか? ご安心ください。現代の心理学では、ナルシシストと自尊心の高い人は違うとされています。その違いを詳しく説明していきましょう。

まず、ナルシシストは、自分が他人より特別で優れているものであると感じ、それに応じた承認や尊敬を周りから得ようとします。つまり、周りからの褒め言葉や世間でのステータスなどに、外発的報酬に動機づけられているわけです。そうなってしまっては、前述した「外発的やる気」を長期的に持つことによるリスクが上がってしまいます。

一方、「自己受容」と「自己価値」が高い人は、自分が自分であること自体に価値を認めて充足しているわけです。つまり、ナルシシストのように外発的報酬を求めて、他人との比較や優越感によって承認欲求を満たそうとはしていないのです。

■他人との比較、周りからの承認に頼り切ってはいけない

だから実際に、ナルシシストの「求めるべき自己肯定感」は低くなりがちで、他人より優越していると感じても、自分に満足していない。

そして、ナルシシストは、人を見下し、横柄な態度を取るので、人間関係があまりうまくいきません。そうなると自分が求めている承認を得ることが難しくなり、その結果、精神的にも不安定になってしまうのです。

こうした比較からわかるように、「求めるべき自己肯定感」と「ナルシシズム」は全く別物なのです。だから、「求めるべき自己肯定感」を高めても、子どもはナルシシストになりません。注意すべき点は、どのように「自己肯定」するかです。

他人との比較による優越感や、周りからのポジティブな承認に頼りきった外発的報酬に基づく肯定感は、長期的には心と体のリスクにつながるだけでなく、ナルシシズムにつながってしまうので、厳重に注意する必要があります。

■子供に伝授しておきたい「最強メンタル術」

子どもの「求めるべき自己肯定感」を育てるための方法を紹介していきます。まずは、自分のネガティブな気持ちであっても、うまく受け止めるための重要スキル「ディスタンシング(distancing)」について解説していきます。

これは、自分の気持ちと適切な「距離(ディスタンス)を置く」ためのスキルで、最近の心理学研究でも注目されている心の働きです。

私たちの心は、いったんネガティブに傾きだすとぐいぐいとマイナスの方向に突き進んでしまうことがあります。

たとえば、悲しい失恋をしてしまったとしましょう。ネガティブな悲しみが強いあまりに、ついつい相手のことや、これまでの出来事を思い返してしまう。「ああしていれば」「こうしていれば」と、自分の気持ちや考えを巡らして、悲しさを募らせてしまう。そのせいでさらにくよくよして、ネガティブな気持ちが強くなり、数日、数週間と、長く続いてしまう。

まさにネガティブ思考の悪循環に陥ってしまいました。

でもある時、ふとわれに返る。
なんでこんなにくよくよしているのか?
相手にだって、いろいろな非があった。
それに、これから自分を磨いて、もっといい相手を見つけることができるはずだ。

■自分の気持ちと適切な「距離を置く」といい

そんな大失恋とまではいかないものの、似たような気持ちのネガティブループや、そこから「ふとわれに返る」体験というのは誰しも想像に難くありません。

そして、この「ふとわれに返る」というのが、まさに「ディスタンシング」のイメージです。

星友啓『「ダメ子育て」を科学が変える! 全米トップ校が親に教える57のこと』(SB新書)
星友啓『「ダメ子育て」を科学が変える! 全米トップ校が親に教える57のこと』(SB新書)

自分の心がネガティブ思考のループに入ってしまっている。抜け出したい。そんなとき、自分の心を他の誰かのように見立てて、自分を外側からふと見直す。そうやって自分の心と適度な「距離」を置くことで、心のネガティブなスパイラルから抜け出して、より建設的に考えるきっかけになるのです。

実際に、こうしたディスタンシングの心の働きが、感情のバランス維持やメンタル強化、さらには、冷静な判断力や人間関係の改善につながることが確認されています。ネガティブ思考に陥ったとき、それを無理にかき消そうとか、忘れようとしては、逆効果になることは前述の通りです。

ディスタンシングのスキルを身につければ、ネガティブな自分をうまく見つめ直すことができるようになり、それが求めるべき自己肯定感に必要な「自己受容」につながるのです。

ディスタンシングは、まさに子どもに伝授しておきたい最強メンタル術の一つです。

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星 友啓(ほし・ともひろ)
スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長
哲学博士、EdTechコンサルタント。1977年東京生まれ。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。その後渡米し、Texas A&M大学哲学修士、スタンフォード大学哲学博士を修了。同大学哲学部の講師として教鞭をとりながらオンラインハイスクールのスタートアップに参加。2016年より校長に就任。現職の傍ら、哲学、論理学、リーダーシップの講義活動や、米国、アジアにむけて教育及び教育関連テクノロジー(EdTech)のコンサルティングにも取り組む。全米や世界各地で教育に関する講演を多数行う。著書に『スタンフォード式生き抜く力』(ダイヤモンド社)がある。

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(スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長 星 友啓)

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