年金月23万円“余裕の老後”を満喫する父だったが…55歳長男、半年ぶりの実家で目にした〈まさかの光景〉に唖然「なにかの間違いだろ」【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月22日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
離れて暮らす高齢の親を気にかけていても、電話の向こうの「大丈夫」を信じて、しばらく会っていないという人も多いでしょう。しかし、元気だと思っていたら、いざ実家に足を運んで愕然とすることも。55歳のAさんが半年ぶりに実家へ帰省したところ、厳格な父に「まさかの変化」がありました。実例をみていきましょう。株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが解説します。
厳格な父親に、いったいなにが…55歳長男が目撃した「まさか」の光景
都内の上場企業で管理職を務めるAさん(55歳)には、最近非常にショックな出来事がありました。それは、父親の「変化」です。
Aさんの父親Oさんは元警察官で、まじめで厳格な性格でした。怒ると怖いところはあったものの、Aさんはそんな父親を子どものころから尊敬し、背中を見て育ってきました。
定年後は、月23万円の年金を受け取りながら余裕のある生活を送っていたOさんですが、妻(Aさんにとっての母)Kさんが病気で先に亡くなってしまったことをきっかけに、様子がおかしくなってしまったのです。
実家の玄関は、足の踏み場もないほどモノで溢れ…父の異変
Kさんが亡くなってから初めてのお盆。Aさんが家族を連れて半年ぶりに実家へ帰省した日のことです。慣れ親しんだ玄関のドアを開けたところ、「まさかの光景」が飛び込んできました。
「えっ、なんだこれ……父さん、なにかの間違いだろ?」
食材や服、日用雑貨、本……床は所狭しとたくさんのモノで埋め尽くされており、鼻をつく異臭が漂っています。なんとかリビングに進みましたが、足の踏み場もないほどモノであふれていました。半年前とあまりにも違う実家の様子に、しばらく唖然としてしまったAさん。なかなか現実を受け入れることができません。
「父さん!?」慌てて父親を呼ぶと、部屋の奥のほうから、身なりも小汚く、不健康そうになったOさんがゆっくり出てきました。
月に1度は電話で連絡をとっていたAさんと父。妻を失い少々寂しそうではあったものの、電話口では特段変わった感じはありませんでした。
Aさんは「父が認知症になったのではないか」と疑いましたが、物忘れなどはなく、会話も以前のように成立します。医療従事者の友人に相談したところ、「お父さんは、『買い物依存症になったのではないか』」という話になりました。
「広告」が引き金となることも…「買い物依存症」に陥る3つの要因
「買い物依存症」とは、モノを「購入する」という行為に強い快楽を覚え、コントロールが効かなくなる状態のことをいいます。自分の意思をもってしても買うことをやめられず、借金や自己破産に陥ってはじめて自身が買い物依存症であると気づく……という人も少なくありません。
なお、「買い物依存症」は正式な病名ではないものの、精神疾患の症状のうちの1つで、医療機関での治療が必要なケースもあります。
買い物依存症は、さまざまな要因によって引き起こされますが、主に以下のようなものが挙げられます。
1.精神的ストレス
買い物依存症を引き起こす大きな要因のひとつに、不安、孤独といった精神的なストレスが挙げられます。うつなどの精神疾患と併発しているケースも多く、その場合買い物を止めさせるだけでは完治にはいたりません。
「モノを買う」という行為が一時的な快楽や幸福感をもたらすため、これらのネガティブな感情を和らげようと限度を超えて買い物を行ってしまう傾向があります。
2.自己肯定感の低下
自己肯定感の低さが、買い物依存症の要因となっていることも少なくありません。「欲しいものを手に入れた」という状態は自己肯定感を一時的に満たすことができますが、自分自身が満たされているわけではありません。時間が経つと再び買い物を繰り返してしまいます。
3.広告や社会的圧力
現代社会は、テレビやSNS、電車内、街のなかにいたるまで、非常に多くの広告で溢れています。こうした広告はなにかしらの商品を購入させるよう仕向けるものが多く、あたかも物質的な豊かさや消費行為が幸福や成功の指標であるかのように錯覚されることがあります。
こうした広告や社会的な圧力に刺激を受け、「よりいいものを・よりたくさん買わなければ」と気づいたら買い物に依存してしまうケースも少なくありません。
Oさんは現役時代、警察官として地域の人から信頼され、頼られる存在でした。就職してから定年まで「警察官」という職業をまっとうしたOさんは、定年退職したとたん自分自身の役割を失ったように感じ、自己肯定感が下がってしまったようです。
ここに加えて妻の逝去があり、Oさんは喪失感とともに大きな心理的ストレスを感じました。これらが原因となり、買い物依存症となってしまったようです。
また、高齢者の1人暮らしは外からの刺激がなく、認知症を発症するリスクも高まるといわれています。幸いOさんは認知症ではありませんが、仕事人間だった父は趣味もなく、一緒に出かける友人もいません。このままでは、いずれ認知症になってしまう可能性が高いといえます。
また、生前家事の一切を担い家庭を支えていた妻が急にいなくなったことで、部屋は荒れ放題になってしまったようです。
買い物依存症になったことで、貯蓄も大幅減…父親の「救済策」は
父親の様子から、「お金は大丈夫なのか?」と父親の金銭面についても心配になったAさん。父親の通帳を確認してみると予想通り、Kさんが亡くなってからの数ヵ月で貯蓄もどんどん減っていました。
クレジットの利用明細書も複数枚あり、特にネットショッピングの利用が目立ちます。クレジットカードを登録すればクリックひとつで自宅まで届けてもらえるネットショッピング。ITの進歩で便利な世の中になった反面、浪費をしやすくなっているといえます。
Aさんは「このままでは取り返しのつかないことになる」と、筆者のもとへ相談に訪れました。
FPがAさんに提案した「4つ」の救済策
Aさんからひととおり話を聞いた筆者は、現状を打開する方法として次の4つを提案しました。
1.健康的な習慣づくり
ストレスや寂しさを和らげるため、適度に運動する習慣をつけることや趣味を持つことで、買い物以外の活動に時間とエネルギーを費やすことができます。植物を育てたり、ペットを飼うなど、癒しを得られる生き物に触れるのもよいでしょう。
2.メンタルクリニックの受診
メンタルクリニックを受診し専門家の支援を受けることで、買い物依存症を解決するためのプロによるサポートを受けることができます。具体的には心理療法やカウンセリングといった方法がありますが、心理療法では、買い物をしたくなるキッカケや行動パターンを特定し、正常な行動への変化を促します。
3.家計の見直し
むやみに買い物をするのではなく、事前に予算を立てたりクレジットカードの利用を制限することで、無駄な買い物を減らすことができるでしょう。ネットショッピングサイトにおいてはクレジットカードとの紐づけを解除することも選択肢のひとつです。
また、買い物をする前に購入品リストを作成し買いたいものを可視化することで、それが本当に自分に必要なものかどうかを確かめることができます。
4.父親と一緒に生活する
1人で過ごしていると刺激がなく、気分も低下してしまいます。可能であれば家族と一緒に生活することで、生活環境の改善を図ることができるでしょう。
家族と過ごすことでOさんも再び役割を持ち、生活にもメリハリが生まれるはずです。信頼できる人との関係を活用することは、買い物依存症の解決にも効果的です。
筆者の助言を聞いたAさんの決断と父の変化
筆者から助言を受けたAさんは、父に対して、まず②のメンタルクリニックの受診を促しました。当初は「俺は大丈夫だから」と抵抗していた父親でしたが、長男の心からの説得に折れ、渋々受診。
しかし、カウンセリングや診察で繰り返し自分の気持ちを言葉にすることによって、しだいに心も前向きになっていきました。
やがてOさんは自宅で小さな植物を育て始め、毎日の水やりが習慣になったことでさらに気持ちが安定。買い物依存症も少しずつ落ち着いてきたそうです。
武田 拓也 株式会社FAMORE 代表取締役
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