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マスコミは「マイナ保険証問題」で騒ぎすぎている…私が「紙の保険証は廃止すべき」と考えるこれだけの理由

プレジデントオンライン / 2023年8月3日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

健康保険証とマイナンバーカードを一体化した「マイナ保険証」を巡り、トラブルが相次いで報告されている。評論家の八幡和郎さんは「この程度のミスは想定の範囲内で、マスコミは過度に騒ぎすぎだ。マイナ保険証による国民生活のメリットは大きく、政府は早期の一体化という基本路線を崩すべきではない」という――。

■国民の不安を煽る「マイナ保険証」報道

「健康保険証」が、来年秋に廃止され、代わりに、「マイナ保険証」が義務化されることへの抵抗が強まっている。

マイナカードの普及は、菅内閣・岸田内閣のもとで、マイナポイントの付与をてこに大きく前進し、人口に対する普及率は77パーセントに達した。現実社会でのIT社会の進展に伴って国民の抵抗感が減ったことも背景にある。

そこで、河野太郎デジタル大臣は、一気に保険証と運転免許証とマイナカードの一体化を進めようとした。IT後進国から先頭ランナーになるための大勝負だ。

ところが、一体化作業の過程での誤入力が針小棒大に報道されることで、国民の不安が煽られている。国家による個人情報の把握を嫌う人たちの扇動が背景にある。これまでも脱税やなりすましがばれて困る人たちが、個人情報の「名寄せ」を妨害してきたことはまた論じたいが、今回も状況は同じだ。

■実は紙の保険証もミス、不正利用だらけ

そもそも、現在の保険証だって酷い運用なのである。自民党の平井卓也元デジタル相は、紙の健康保険証について、本人確認ができないことなどを理由に、年間およそ500万件の差し戻しが起きているとしている。

写真もついてない保険証だから不正利用は膨大で、しかも、それが身分証明書として使用されることは犯罪の温床であり、安全保障上も重大な懸念がある。

だから、携帯電話の契約では、各社が保険証を本人確認に使用することを受け付けなくなってきているわけである。もしマイナカードと一体化しないなら、保険証を写真付きのものにすべきで、それは、マイナカードとも照合されるべきであろう。

フランスでは、マイナカードにあたる身分証明書(以下、便宜上マイナカードという)のほかに、医療関係に特化した「Vitale」という共通カードが別途1998年からあるが、やはり問題が多いので統合しようという動きがあって論争中だ。

日本でも、健康保険証に変えて、マイナンバーと紐付けされた新しいカードを発行する方法もあるが、いまさら、そんなことするなら、マイナカードと一体化した方が手っ取り早いに決まっている。

■韓国では「マイナカード=保険証」は一般的

デジタル先進国である韓国では、保険証が大型の書類として交付されているが、保険の情報はマイナンバーとリンクしているから、医療機関の窓口では、マイナカードを保険証の代わりに使うのが便利なので一般的だ。

近未来には、マイナンバーカードとスマートフォン以外は、外出の際に持たないで良いという生活になるのだと思う。そんな極端なことをと反論する人もいるだろうが、海外生活の経験と世界の動向の観察からすれば、必ずそうなると思う。

そもそも、公的な身分証明書を義務として携行することは、世界的になにも珍しいことでないし、社会主義国家の専売特許でもない。私が1980年にフランスに留学したとき、滞在許可証の携帯が義務だった。一時滞在でない旅行者なら大事なパスポートを携行しなければならないので便利だった。

■いつでもどこでもマイナカードを求められるフランス

フランス人の場合は、北欧諸国などと違って、マイナカードの携行は義務でなかったが、不携帯の場合、警察が必要と判断したら無条件で24時間の拘留をされる危険があったし、そもそも不携帯だと社会生活が成り立たなかった。ともかく、毎日、「カルト・ディダンティテ・シルブプレ(マイナカード見せてください)と何度も言われるからだ。

オフィスを訪問しようとすると入り口で提示を求められるし、当時は、クレジットカードもまだ今ほど普及せず、脱税防止のために現金取引は白い目で見られた。高額紙幣は使いにくいようにわざわざ超大型だったりして、数千円以上の支出は小切手で支払ったが、必ず、マイナカードの提示を求められた。

その後、買い物はクレジットカードが普及して暗証番号でチェックできるのでそちらが主流になったが、社会生活でマイナカードの提示を求められることは多いし、クレジットカードでも高額の買い物だとダブルチェックが必要になる(新型コロナウイルス流行直前にイタリアを旅行したときも、暗証番号とマイナカードのダブルチェックが普通だった)。

さらに、法律で現金決済は厳しく制限がかけられてできないことが多い。韓国でも、マイナカード不所持で外出などあり得ない。

つまり、フランスに限らず、昔からマイナカード常時携帯は当然のことで、不便とか危険だなどと感じておらず、日本人が心配することが馬鹿げているのである。

■中国ではアナログの現金や名刺が消えつつある

中国では、現金受け取りを断るケースが多くなって、日本でいえばPayPayのようなスマホ決済が主流だ。お寺の賽銭すらQRコードを取得したうえでのスマホ決済でしか払えない。

名刺交換も、中国ではなくなってきている。日中の学者が集う会合で、中国側メンバーはほぼ全員名刺を持たず、微信(ウィーチャット)の自己紹介QRコードを交換しようとするのだが、日本側は誰一人対応できなかったそうだ。

すでに、若い人の間では、LINEの情報をQRコードで交換するのが主流になっているが、早くビジネスにも拡大するほうがいい。鍵もスマホで代替されることになるだろうから、名刺入れもキーホルダーもなくなる。

また、画像技術の進歩で、目視、さらにはコピーでの確認が不正確だとして受け付けられなくなりつつある。日本では、免許証を身分証明書代わりとすることが多く、多くの場合、コピーを示したり、それを画像として送ったりして通用してきたが、写真の貼り替えが簡単になったので、銀行などでは受け付けなくなってきた。

マイナンバーカード、健康保険証、運転免許証、通帳、スマホのイラスト
イラスト=iStock.com/ringo sono
※イラストはイメージです - イラスト=iStock.com/ringo sono

■マイナカードとスマホだけを持ち歩く生活は楽

つまるところ、IT技術の進歩で、本物のマイナカードとか運転免許証を、目視だけでなく、電子機器を使って読み取ることだけで本人確認ができる方向になっているのである。そして、その情報をスマホと連携させることになる。

となると、究極的には、マイナカードとスマホだけ持ち歩くことに収斂することは火を見るより明らかであろうし、ポケットのなかもすっきりする。

こういう流れを理解したら、マイナカードへの一体化への反対がいかに不合理か、が分かるだろう。

もちろん、紛失したらとか、不心得にも不携帯のときに事故に遭ったらとか、暗証番号を覚えられない人をどうするかは、考えなくてはならないが、それも、マイナカードと携帯を身につけていない人は、普通はいないと割り切った上で、例外的な事態への対応だけ考えたほうが合理的だ。

そもそも、いまだって、保険証を忘れて受診する患者や事故で担ぎ込まれた急患はいくらでもいる。そのときに、医療機関は、「次に持って来てください」などとリスクを少し背負いながら対処しているわけで、それとどう違うのか理解できない。

■日本のIT化がうまく進まない根本原因

日本でIT化が遅れがちなのは、制度やそれを扱う企業が多すぎること、また、細かい事情に配慮しすぎることが原因だ。カード類も多くの会社が発行して、ポイント付与などを競うので、何枚も必要になるし手数料も高くなっている。

本来は、IT化は弱者にとって有利なのである。各種の公的な支援策も申請しなくてもプッシュ型で自動的に支給されるようにできる。

中国では高齢の行商人がPayPayのようなシステムでしか代金を受け取らないし、仕入れもしない。そのおかげで帳簿を付ける必要も、税金の計算をする必要もなくなっている。

それでは、なぜ、日本は何でも複雑化するのか。それは、細かいニーズに応えようという消費者重視の姿勢もないわけでないが、問題を複雑にすればするほどそこにビジネスが生じ、また、システム開発やメンテナンスにシステム屋さんたちの仕事が生じるからだ。

それを解消しようとするなら、消費サイド(企業も含む)が、目先の小さなオマケに惑わされず単純なシステムを好むことが必要だ。行政には、社会を分かりやすくシンプルにするための施策を講じることが求められる。

たとえば、各社バラバラのシステムが併存したり、地方ごとに別のシステムを利用したりするより全国統一システムを採用するほうが適切なときは、行政自身が統一システムの採用を断行する、あるいはバラバラのシステムを乱立させないように法規制をしなければいけない。

■日本人は個人情報の管理を役所に任せすぎている

マイナ保険証の発行手続きでミスが続出したことについては、保険組合の仕事の質がそもそも低く、間違いが続出してきているのだから、今回のような程度のミスは予想の範囲内だし、一元化によって誤給付もなくなっていくだろうから、過度に気にする必要はない。まして、間違いを犯した組織やシステムを温存する口実に使うなどもってのほかだ。

ただ、デジタル庁や厚生労働省は、職員によって作業の質に差が出ないよう、手順を少々面倒でも間違えにくいものにする工夫が必要だったし、それ以上に、被保険者本人に間違いがないか、しっかり確認を行うように呼びかけ、責任も取らせるべきだったと思う。

そもそも日本人は自分についての公的情報が、正しいかについて無関心すぎると思う。私は以前から、例えば5年に1度いちど、市役所が住民を呼んで対面で、必要な公的な情報が正しく登録されているか、必要な書類を自分で保管しているか、暗証番号は分かっているか、申請できるのにしていない公的扶助はないかなど、チェックすることを義務づけるべきだと主張している。

日本では、役所はサービス産業で、公務員はシビル・サーバントなどという考えが蔓延して、国民が公に対して甘えすぎ、そして任せすぎだ。もちろん、そうあってほしい場面も多いが、国民はむしろ国や自治体の主権者なのであるから、消費者でなく株主みたいなものだ。

■「情報流出が怖いから返還する」は不可思議

マイナポイントが典型だが、国や自治体が国民に協力してほしいときに、アメばかり使うのもよろしくない。むしろ、手続きしなければ、罰金を取るとかサービスを給付されないとかムチも使うべきだ。マイナ保険証による業務効率化で節約できる税金はかなり大きく、増税を回避できる可能性もあるのだから、国民にとって損な話ではない。

マイナカード普及を促進する総務省のマイナポイント事業サイト
マイナカード普及を促進する総務省のマイナポイント事業サイト

情報流出については、どんなシステムのもとでもリスクをゼロにすることは難しく、今回のようなわずかな件数で騒ぎすぎだ。民間企業でも顧客や会員情報が流出するケースが多々発生しているが、自分の個人情報が流出したからといって、便利な生活を捨ててまで解約するということはあまりないだろう。にもかかわらず、情報流出の危険性を理由にマイナカードに反対し、返還までするのは筋が通らない。

現在のように、ネットショッピングやカードを申し込むときに、やたらと個人情報を聞かれるのは不愉快で、情報流出も起きやすい。むしろ私は、支払いを踏み倒したら警察・裁判所がマイナンバーで追跡することを可能にすることと引き換えに、企業が必要以上の個人情報を収集することを禁じることのほうが合理的だと主張してきた。

■保険証との一本化路線は崩すべきではない

日本の将来を考えれば、基礎的な個人情報とか、不動産などについての情報は、明治維新のときのように、一度全面的にリニューアルすべきだ。

とくに、漢字が正式で読み方は従だというのは、なんともIT時代にそぐわない。なにしろ、戸籍にこれまで記載がなかった氏名の「読み仮名」を書く改正戸籍法が議員立法で成立したのは、この6月で、2024年度に施行され、全国民が施行後1年以内に本籍地の市区町村に届ける必要があることになったばかりだ。

「キラキラネーム」をどうするかばかりが話題になっているが、重要な一歩だ。次は地名についてもきちんとした整理をすべきだ。

それも含めて、10年とかしっかり時間をかけて、公的情報についてのシステムは、一から作り直したほうがいい。そのなかで、戸籍・国籍・氏名などのあり方も検討し、マイナンバーを活用してあらゆる行政サービスが公平に透明性高く行きわたるシステムを作ればいい。その場合、韓国や台湾といった先進的なシステムを輸入し、日本の実情に合わないところだけ変えるだけにしたほうが、早いかもしれない。

ただ、そんな大事業を待っていられないし、とりあえずは、パッチワーク的でも、現行のマイナカードと保険証を紐付けし集約しておいたほうが、新システムの導入も楽になるだろう。

マスコミは、来秋の保険証廃止を政府が見直すかどうかをしきりに報じているが、河野太郎デジタル大臣も岸田文雄首相も、補完的対策は取るにしても、一体化という基本路線だけは崩すべきではない。

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八幡 和郎(やわた・かずお)
徳島文理大学教授、評論家
1951年、滋賀県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。フランスの国立行政学院(ENA)留学。北西アジア課長(中国・韓国・インド担当)、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任後、現在、徳島文理大学教授、国士舘大学大学院客員教授を務め、作家、評論家としてテレビなどでも活躍中。著著に『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス、八幡衣代と共著)、『日本史が面白くなる47都道府県県庁所在地誕生の謎』(光文社知恵の森文庫)、『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)、『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)など。

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(徳島文理大学教授、評論家 八幡 和郎)

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