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改革事例として考えるマイナンバーカード問題…橋下徹「僕がデジタル大臣だったら現状の無駄を告発して大騒ぎします」

プレジデントオンライン / 2023年8月11日 9時15分

早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。最新の著作は『折れない心 人間関係に悩まない生き方』(PHP新書)。 - 撮影=的野弘路

元大阪市長・大阪府知事で弁護士の橋下徹さんであれば、ビジネスパーソンの「お悩み」にどう応えるか。連載「橋下徹のビジネスリーダー問題解決ゼミナール」。今回のお題は「マイナンバーカード問題」です──。

※本稿は、雑誌「プレジデント」(2023年8月18日号)の掲載記事を再編集したものです。

■Question

ネガティブ報道が続きデジタル庁に逆風が吹いていますが?

マイナンバーカードの普及率が7割を超えましたが、一方で「公金受取口座が別人のマイナンバーに登録されていた」「マイナンバーカードと一体化した健康保険証に別人情報が登録」といったネガティブ報道が相次ぎ、所管するデジタル庁には強い逆風が吹いています。本格的なデジタル政府の実現に向けて踏ん張りどころだと思いますが、もし橋下さんがデジタル大臣だったら、国民にどう語りかけていきますか。

■Answer

紙ベースの非効率を改めるのがデジタル化の本質です

今回の事例は、東京都中央卸売市場だった築地市場を現在の豊洲へ移転する際に起きた大騒ぎと構造が似ています。現状のシステムに大きな課題があり、それを改善すべく策を打つが、移行期にあたり強烈な拒絶反応が起きて、その対応に当局が苦慮しているのです。

まず、前提を確認しておきたいのは、どれほど完璧に計算し尽くしても「100%瑕疵のない改革」などこの世には存在しないということです。いつ、誰が行っても、何かしらの問題が噴出するのが「改革」のリアル。そこをわかっていない人が多すぎます。

国民の皆さんも、これまでの人生「オール100点」とはいかなかったはずなのに、政治行政には100点満点を求める不思議。「改革」の結果が仮に80点だったとしても、30点の現状より前進しているならよしと納得し、残り20点の改善策を考えるべきです。

メディアもメディアで、噴出するミクロな問題ばかりを指摘するのではなく、国民全体にとっての最適解を探るべきです。「こんな問題がある」「ここも不安だ」と危機感を煽る記事のほうが注目を集めるという事情はわかるのですが、それだけでは社会全体の課題解決にはつながりません。

豊洲移転に関しては、日本の食の玄関口・旧築地市場が老朽化していることが最大の問題でした。建物の耐震性に懸念があることに加え、雨ざらしの構造、走り回るネズミといった衛生面の課題も深刻でした。しかし話が進むうちに、議論はこうした「核心的問題点」からどんどんズレていき、水道水として使うわけでもない豊洲の地下水が飲用には適していないことなど「周辺的問題点」ばかりがクローズアップされるようになりました。

女性会社員は彼女の机の上の書類の多くで困っています。
写真=iStock.com/Bignai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bignai

一方、マイナンバーカード問題は、長年にわたる紙ベースの行政作業が非効率・不正確・不正の温床であることが改革の原点でした。紙ベースだとヒューマンエラーが起きやすく、紛失や不正受給、大災害時には消失するリスクもあります。そもそも1億人を超す国民情報をいまだに紙で保管・処理すること自体が不自然で、21世紀のテクノロジーを大いに活用すべきだというのが僕の持論です。

ただ、ここで改革を推進する側が肝に銘じておかなくてはいけないのは、人間は変化することのリスクには想像以上に敏感だということです。とりわけ日本人にはそうした保守的傾向を持つ人が多く、改革による将来のメリットよりも、直近のデメリットのほうを大きく見積もってしまいがちです。そのため「これを進めたら個人情報が洩れるのでは」「私たちの権利が脅かされるのでは」など思いつく限りの不安要素を想像し、解決すべき本来の課題が見えなくなってしまうのです。

改革を志すリーダーは、人にはそのような性質があるということを前提にしたうえで、「そもそもの問題点」に人々の意識を戻し、改革することと現状維持の「どちらがマシか」の冷静な判断を促すべきです。

■従来の「紙の健康保険証」に問題はないのか

マイナンバーカードをめぐる問題点はたしかにいろいろあります。健康保険証との一体化といった部分で、進め方が拙速だったことも確かでしょう。ただ、それなら従来の「紙の健康保険証」に問題はないのか、その問題はマイナンバーカードの問題よりも大きいのか小さいのかを、きちんと比較しなくてはなりません。

また、今騒がれている問題の中には、昔から問題だったことがデジタル化によってようやく可視化されたといえるケースもあります。たとえばマイナンバーカード健康保険証が無効になる問題です。従来の紙の健康保険証では手続きに多少のミスがあっても手持ちの健康保険証を使うことができました。ところがデジタル化になると手続きミスがあると直ちに無効になってしまいます。

紙の制度では、どれだけ情報漏洩があるのか、情報の取り違えがあるのかも正確には知りえません。それがデジタル化されたマイナンバーカードでは、すべてが正確にあぶり出されてしまいます。

すなわち紙の健康保険証では見抜けなかった問題が、マイナンバーカードに移行する過程で判明してきたとも言えるのです。マイナンバーカードによって新しく噴き出した問題というよりも、もともと存在していた問題が明らかになっただけ。

だから国が本気でマイナンバーカードを定着させたいなら、政府が率先して、紙情報時代の不具合、紛失、消失、取り違え事例を一覧公表すればいいんです。そうすれば、いかにデジタル化したほうがマシかがわかるでしょう。僕がもし河野太郎デジタル相の立場なら、関係各省庁から紙の問題点を集めて「現状はこんなに問題があり、多くの無駄なコストがかかっているんですよ!」と大騒ぎしますね(笑)。

ただし、実際にそれができるかといえば、相当難しいと思います。もしデジタル庁が問題事例を集めようとしても、各省庁はそんな失態を自ら明かそうとはしないでしょうから。

今後のことを考えれば、政府はマイナンバー制度の設計思想を変えるべきです。現状起きているトラブルの多くは、情報を分散管理していることが原因です。「国民情報をマイナンバーで管理しますが、可能な限り使いません」という建て付けで、使用目的も社会保障と税と災害対策だけに限定してスタートしたため、新しい分野で使用するときには改めて個人情報を紐づけしていかなくてはなりません。その際はシステムが自動的にマッチングしてくれるわけではなく、現場の人たちが手作業で名寄せを行っているのです。

すると当然、ヒューマンエラーが起きやすくなります。この複雑怪奇な分散管理システムをやめ、情報を一元管理し、情報のマッチングは自動で行うような設計・思想に変えないと、根本的な解決にはならないでしょう。

■マイナンバー制度の本来の目的

これは社会全体の制度設計の話です。テレビなどで「俺はマイナンバーカードを返納する」と息巻いている人もいますし、実際にマイナンバーカードを返納した人もかなりの数に上るといわれています。もし彼らの言い分を飲んでマイナンバーカード以外の運用を認めるとしたら、システムは二重、三重のものとなり、人為的ミスの可能性も高まります。何のためのデジタル化かわからなくなってしまいます。

国民所得を把握し、きちんと納税してもらう代わりに、事故や失職、病気などの際は、素早く社会保障を提供できる、国民が不安なく生きやすい社会にするのがマイナンバー制度の本来の目的です。

福祉社会として有名な北欧各国も、マイナンバー制度が土台です。国民一人ひとりの情報を、誕生、教育、就職、結婚、離婚、離職、失職……と国が追跡把握できるからこそ、国民の誰かが困難のときは、いち早く察知し、きめ細かな行政サービスを一人ひとりに提供できるのです。この情報集約をするためにマイナンバーカードをフル活用する必要があるのです。我々日本人にとって、「なぜマイナンバーカードが必要なのか」、そもそもの「核心的問題点」を、僕ならば言葉を尽くして国民に説明していきますね。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著作は『折れない心 人間関係に悩まない生き方』(PHP新書)。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 構成=三浦愛美 撮影=的野弘路)

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