ダメな社長ほど「パーパス経営」と言いたがる…イノベーションを起こせない企業に共通する「5つの"ない"」
プレジデントオンライン / 2023年8月9日 10時15分
※本稿は、沢渡あまね『コミュニケーションの問題地図』(技術評論社)の一部を再編集したものです。
■ビジョンを掲げるのは同じゴールを目指すうえで不可欠
ビジョン、ミッション、バリュー、パーパス……これらを掲げる企業や組織が増えてきました。経営理念や経営方針ととらえてもいいと思います。えっ、「そんなものは当社にはない!」ですって。それ自体が大問題ですので、そのようなみなさんもこの先を読み進めてください。
話を戻しましょう。最近では、パーパス経営なる考え方も重要視されつつあります。人材や働き方の多様化が進む時代、他者とのフラットな協業(コラボレーション)が求められる時代。組織や立場や専門性や価値観が異なる人たちとつながり、同じゴールに向かって走っていくためには、ビジョン、ミッション、バリュー、パーパスなどの「目指す姿」を示して、共感形成をしていく、共感してくれる人たちを巻き込んでコトを起こしていく取り組みは不可欠でしょう。
■ビジョンを「作っただけ」の残念な例
一方で世の中を見回してみると、次のようなトホホな状況も散見されます。
・キレイなビジョン、ミッション、バリュー、パーパスの文章を作って、はいオシマイ。社長室の額縁に飾られているだけ、毎朝ただ唱和させられるだけ、経営陣の行動も社員の行動も何も変わらない
・「ITで世界を変える」なるビジョンを掲げているIT企業。なのに、仕事のやり方は恐ろしいほどアナログかつ重厚長大(いきなり営業電話かけてきたり、見積りや契約手続きなど紙の書類の提出を取引先に強要したり。「テレワーク⁉ なにそれオイシイの?」)
・「新規事業の創出」を事業部のバリューとしているにもかかわらず、みんな既存事業の目先の仕事で手いっぱい
・「共創」を掲げる大手製造業の購買部門の課長。お取引先とのミーティングに平気で遅刻し、さらに開き直ってタメ語で一方的な値引き交渉をする(まるで共創の姿勢が見られない。あるいは共創=なれなれしくすることと勘違いしている⁉)
・「MaaS(Mobility as a Service)へのビジネスシフト」を中長期の目標に掲げる自動車会社。社員は、事業所の出社勤務と、自宅でのテレワーク以外の働き方しか認められない(移動しながらさまざまな場所で仕事や生活をする体験をせずに、利用者目線でMaaSを考えることができるのでしょうか?)
・「ワーケーションによる関係人口の創出」を掲げる地方自治体。ところが、行政職員がワーケーションを体験したことがない
■そのビジョンは社長室の額縁の中で埃をかぶっていないか
モヤモヤが募った担当者。組織や部門が掲げている理想と、やっていることが食い違っている。これでいいのかと、ある日部長や課長に問うてみたところ……。
「それはそれ、これはこれ! 余計なことを考えなくていいから、キミたちは目先の仕事だけに集中しなさい」
元も子もない回答。階層間の景色もまるで合わない。こうして、キレイに創られたビジョン、ミッション、バリュー、パーパスの文章だけが、今日も誇り高く社長室の額縁の中で躍り続けます。埃をまといながら。
「ううむ、当社はこのままでほんとうにいいのだろうか、大丈夫なのだろうか……」
さすがにこの状況を問題視した経営陣。
「当社のビジョン、ミッションにそぐわない仕事のやり方や慣習を挙げてくれ! 社員のみなさんの忌憚(きたん)のない意見を聞きたい」
覚悟を決めて社員にヒアリングすることに。
と、ここまではいいものの、そのやり方が……これまたなかなか味わい深い。
・社員の意見は、各部の部長が事前に取りまとめおよび承認のうえ、所定のExcelファイルに記入し、暗号化したうえで、経営企画室に提出すること
・経営陣との意見交換会に先立ち、経営企画室による事前ヒアリングを実施します
レガシー大企業風味たっぷり!
でもって、次の瞬間、部長に手招きされる若手メンバー一同。
「経営企画室向けの、事前ヒアリング用の資料を作ってもらえる? 作ったら、僕に報告してください」
部長の他人ごと感と言ったらもうね。こうして、細々とした資料作成や報告作業が若手に降ってくる。
「あの……そういう仕事のやり方や慣習がヤバいのではないでしょうか?」
■ビジョンが宙に浮いてしまう5つの「ない」
まるでキレイごとの羅列だけで、社長や役員にとっても、中間管理職にとっても、社員にとっても他人ごと。ビジョン、ミッション、バリュー、パーパスが宙に浮いてしまうのはなぜでしょうか? 5つの「ない」でひも解いてみましょう。
①魂がこもっていない
まずもって、ビジョン・ミッション・バリュー・パーパスの文章に魂がこもっていない。
一部の経営陣の思いだけで創られた、あるいは経営企画や広報担当者と外部コンサルタントや広告代理店だけで創っている。社員など、メンバーの声がまるで反映されていない。
あるいは、「顧客第一主義」「イノベーションを起こす」など、こう言ってはナンですが、どこの企業でも言っていそうな、ありきたりのキーワードやメッセージが綴られているだけ。それでは、組織のメンバーが(あるいは創った当事者でさえも)腹落ちせず、他人ごとになってしまっても無理はありません。
■社員が「従う義理はない」と思っている
②自分ごと化できていない
文章化しただけで、はいオシマイ! さらにその文章に魂がこもっていないものだから、みんなそれらを自分ごと化しにくい。ほかにも、自分ごと化しにくい要因はいくつか考えられます。
日頃、意識する機会がない
みんな目先の仕事で手いっぱい。日々の仕事で忙しければ忙しいほど、ビジョン、ミッション、バリュー、パーパスなんて意識している余裕もタイミングもない。だって、忙しいんだもの。
長すぎて覚えられない
ビジョン、ミッション、バリュー、パーパス……似たような概念が4つもあり、なおかつそれぞれ重厚長大かつ高尚な文章が記されている。覚えられるわけがない!
あるいは、なんとなく存在は認知しているものの(どうやら広報部門ががんばって作ったようだ)、どこにその文章が示されているのか、どこを見ればいいのかわからない。
③従う義理がない
①や②の延長線上とも言えますが、ビジョン、ミッション、バリュー、パーパスに沿って行動する義理がない、あるいはその動機づけが起こりにくい。
「そこまで給料もらってないのに、わざわざビジョン、ミッション、バリュー、パーパスなんかを意識して尽くす義理などない」
「それは、管理職以上の責任でしょう。イチ担当者には関係ない」
端的に言えば、メンバーがこう思っている。
■そもそもビジョンにメンバーの関心がない
④組織やメンバーに対して関心がない
そもそも、ビジョン、ミッション、バリュー、パーパスどころか、その組織やメンバーに対してだれも関心がない。あるいは、関心の薄い人が多い。日々自分だけ、あるいは限られた仲間だけの「スタンドアロン」で、決められた仕事だけを淡々としている職場であればなおのこと、お互いの人となりや考え方も知らないし、興味がない。そうなると、ビジョン、ミッション、バリュー、パーパスのような目指す姿を意識しようと思わないし、それらに沿ってだれかと協力して仕事をしようなど発想すらできません。
⑤行動に移す手間が半端ない
ビジョン、ミッション、バリュー、パーパスに沿った意見や提案をしようにも、前述のとおりの面倒な部内調整、資料作成、報告業務などを求められ、控えめに言って面倒くさい。だったら、決められた目先の仕事だけを、今までのやり方で淡々と進めているほうが評価されるし、波風も立てないしで、よっぽどヘルシー。
さあ、いかがでしょう。いずれか心当たりがあるのではないでしょうか?
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作家/ワークスタイル&組織開発専門家
1975年生まれ。あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/浜松ワークスタイルLab所長/国内大手企業人事部門顧問ほか。「組織変革Lab」主宰、DX白書2023有識者委員など。日産自動車、NTTデータなどを経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。『問題地図』シリーズ(技術評論社)をはじめ、『新時代を生き抜く越境思考』(同社)、『職場の科学』(文藝春秋)、『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『仕事は職場が9割 働くことがラクになる20のヒント』(扶桑社)など著書多数。
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(作家/ワークスタイル&組織開発専門家 沢渡 あまね)
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