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実力が下回る企業に支配されていた…屈辱的な「ルノー傘下」を脱した日産がこれからやるべきこと

プレジデントオンライン / 2023年8月7日 8時15分

3社連合の提携関係見直しについて共同記者会見した(左から)日産自動車の内田誠社長、仏ルノーのジャンドミニク・スナール会長、三菱自動車の加藤隆雄社長、ルノーのルカ・デメオ最高経営責任者(CEO)=2023年2月6日、イギリス・ロンドン - 写真=時事通信フォト

■ついに対等な資本関係に

7月26日、日産自動車はルノーとの最終契約を締結したと発表した。主な内容は3つある。まず、両社は資本関係を対等にする。ルノーの出資比率は43%から15%に低下する。次に、日産はルノーが設立するEV会社、“アンペア”に出資する。日産にとって、EVなど電動車分野の事業運営体制を強化するためにルノーとの連携強化は欠かせない。3点目としてインド、中南米、欧州で協業を強化する。

2023年2月、日産は以上の内容を三菱自動車を含むアライアンスの新しい取り組みとして発表した。ただ、日産の内部で電動車関連の製造技術の流出などを懸念する声が上がった。その解消のため、最終契約の締結は4カ月ほど遅れた。

その間、世界の自動車市場の環境変化は激化した。日産の最重要市場である中国では、EVなどの値下げ競争が激化した。一方、米国ではインフレ抑制法などを追い風に、各国の主要自動車メーカーやバッテリーメーカーが相次いで投資を積み増した。

今後、米国など世界経済の不安定感は徐々に高まるだろう。それに伴い、主要先進国の自動車需要にも下押し圧力がかかりやすくなる。日産にとってルノーとの対等な資本関係の実現は重要だ。ただ、それだけでEVシフトの加速などグローバルな競争に勝ち残れるわけではない。同社がどのように今後の収益力を高めるか、先行きは依然として不透明だ。

■「小が大を支配する」構図が24年続いた

ルノーとの対等な資本関係の実現は、日産にとって悲願の達成だ。1990年初頭にわが国のバブルが崩壊した後、日産は国内の需要減少、過去に実行した投資負担を背景に経営体力を失った。1999年、日産は自力での再建が難しくなり、ルノーに出資を求めた。ルノーは日産株の37%(当初)を取得した。

ルノーは日産にカルロス・ゴーンを送り込んだ。ゴーンの指揮のもと、日産は大胆なコストカットを進めた。また、グローバル市場でのシェア拡大にも取り組んだ。その後、ルノーは出資比率を43%まで引き上げ日産に対する影響力を強めた。実力が下回る企業による支配の強化に、日産内部での不平や不満が高まったことは想像に難くない。

一方、ルノー、その筆頭株主であるフランス政府にとって、内燃機関のすり合わせ技術などを吸収するために日産への支配を強める必要性は高まった。EV関連の製造技術の移転を推進するために一時、ゴーン主導による日産、三菱自動車との経営統合も企図した。想定外だったのはゴーンの逮捕だ。日産とルノーの関係は不安定化し、経営統合計画は行き詰まった。

■来年前半にもアンペアの上場を目指す

その後、世界の自動車業界は急激に構造変化が進んだ。ネットとの接続、自動運転技術の実用化、シェアリング、電動化(CASE)に関する取り組みが世界全体で勢いづいた。ネットとの接続に関しては、IT先端企業に比較優位性がある。電動化によって自動車の生産様式はすり合わせからデジタル家電のようなユニット組み立て型に移行する。

日独など自動車メーカーが磨いてきた内燃機関のすり合わせ技術という参入障壁は低下し始めた。国境を越えた自動車メーカーの経営統合や資本業務提携、異業種とのアライアンスも急増した。ルノーにとっても、日産にとっても、協力できる部分を残しつつ、より多くの選択肢を手に入れることの重要性は高まった。

その結果として、日産とルノーは15%ずつ、対等に株式を保有する関係を実現することで合意した。2024年前半にもルノーはアンペアの上場を目指す模様だ。

■最も重要な中国市場の販売台数が大幅減

ルノーに比べ、現時点で日産は国内外の大手自動車メーカー、バッテリーメーカー、IT先端企業との新たな提携を発表するにはいたっていない。アンペアへの出資金額は2月の発表時点より小さくなるとの見方もある。今後の発表を確認しなければならない部分はあるが、ひとまず日産は自力で事業を運営しようとしているように見える。

ただ、最重要市場である中国での新車販売台数の減少を見る限り、先行きは楽観できない。6月、中国における日産の販売実績は前年同月比28%減(1~6月期は同24.4%減)だった。

足許、不動産市況の悪化などによって、中国は高度経済成長期の終焉(しゅうえん)を迎えつつあると考えられる。若年層を中心に、雇用、所得環境は悪化した。景気の停滞懸念の高まりに影響され、支出を可能な限り抑えて貯蓄(および債務の返済)を優先する消費者は急速に増え始めた。

■“一台購入すると一台無料”の値下げ競争

その結果、中国の新車販売市場では共産党政権が普及を支援してきたEV、PHVの値下げ競争が熾烈(しれつ)化している。競合相手よりも先に値引きを行い、“一台購入すると一台無料”のキャンペーンまで打ち出されている。産業用補助金や工場用地の提供によって固定費の割合が低い中国メーカーは値下げ攻勢を仕掛けやすい。

対照的に、コスト負担、価格帯も高い日米欧のメーカーにとって値下げ競争は業績悪化の要因になる恐れが高い。その懸念から、中国事業のリストラに着手する企業もある。それは日産にとってひとごとではない。ゴーン時代の日産は、高価格帯ブランドの新モデル開発、リーフに代表されるEVの生産体制強化よりも、中国など新興国でのシェア拡大を優先した。

ゴーンの逮捕後、日産は事業運営体制を立て直すためにインドネシアの工場閉鎖など痛みを伴う改革を進めなければならなかった。リストラ費用の増加により業績は悪化した。今後、中国で生産能力が過剰になれば、再度、日産はリストラ費用を負担しなければならなくなるだろう。その結果、業績の回復に時間がかかる恐れもある。

■主要メーカーは北米市場へシフトしつつある

中国の需要減少に対応するために、日産は北米を中心にEVなどの生産体制を迅速に強化しなければならない。昨年8月、米国ではインフレ抑制法(IRA)が成立した。IRAはEVなどの購入に最大7500ドル(1ドル=140円換算で105万円)の税控除を認める。条件は、EVバッテリーに用いられる重要鉱物の一定割合を米国、あるいは米国と自由貿易協定(FTA)を結ぶ国から調達することなどだ。

駐車場に設置された電気自動車充電ステーション
写真=iStock.com/Marcus Lindstrom
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Marcus Lindstrom

IRAの恩恵を享受するために、世界の主要自動車メーカーは北米地域での事業運営体制を急速に強化し始めた。日産にとって米国、カナダ、メキシコなどの企業と連携を進め、バッテリー、EV生産、さらには自動運転など先端技術(ソフトウエア)の開発を強化することは喫緊の課題と化している。

米国などでEVなど電動車の需要を喚起するために、新しいモデルの開発も強化しなければならない。インドネシアなどで韓国企業が進めているように、鉱山資源の開発、バッテリー生産、そのリサイクルや廃棄などを安心、安全に行う体制の整備も欠かせない。そうした基礎資材を各国の政策変更に合わせて、円滑に最終需要地に供給する体制の確立も必要だ。

■日産の不確定要素はむしろ増えている

懸念されるのは、ここから先、世界経済の不安定感が高まりやすくなることである。今のところ米国経済は家計の過剰貯蓄などに支えられているが、貯蓄は徐々に減少する。米国の金融引き締めも長期化する公算が大きい。米国の個人消費は徐々に減少し、労働市場の改善ペースも鈍化するだろう。それに伴い自動車の需要も伸び悩む。

中国の本格的な景気回復には時間がかかりそうだ。自動車市場で低価格競争は熾烈化するだろう。中国の需要を取り込んできた欧州やわが国の景気は周回遅れ気味で減速に向かいそうだ。

そうした展開が予想される中、日産が新しい供給網を確立し、迅速に収益の得られる領域を拡充することは口で言うほど容易なことではない。ルノーとの対等な関係が実現したことは日産にとって重要な一歩だが、先行きの不確定要素はむしろ増えていると考えられる。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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