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まともなヤクザなら人前では見せない…それでも多くのヤクザが「刺青」を入れている理由【2023上半期BEST5】

プレジデントオンライン / 2023年8月20日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Aleksandar Jankovic

2023年上半期(1月~6月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。教養・雑学部門の第3位は――。(初公開日:2023年2月6日)
なぜヤクザは刺青を彫るのか。2000人以上の暴力団員に取材したジャーナリストの鈴木智彦さんは「からだに彫り込んだ刺青は、カタギ社会へ戻る大きな障害となる。刺青は『もう二度とカタギには戻らない。死ぬまでヤクザとして生きる』という決意表明なのかもしれない」という――。

※本稿は、鈴木智彦『ヤクザ2000人に会いました!』(宝島社)の一部を再編集したものです。

■「ヤクザ=刺青」というイメージもあるが…

ヤクザたちは刺青(いれずみ)を「我慢」と呼ぶ。ようするにものすごく痛いのである。

彫り師の仕事を間近で観察していると、針を降ろしたとたん、肌はみるみる血液や体液で染まっていく。かなりグロい光景だ。また、刺青はただでさえ細かい作業の連続である。時間がかかるうえに、肌の自然治癒力を超えて彫ることができないため、完成までには根気も必要で、かなりの費用と時間がかかる。我慢という呼び方には直接的な痛み以外の意味を含有しているのだ。

刺青は今やヤクザの代名詞で、多くのヤクザが、思い思いの絵柄を背中に彫り込んでいる。ただし、ヤクザになるためには刺青が必須ということではなく、基本的には個人の趣味といっていい。土地柄の違いもあり、山陽道や九州一帯では刺青の愛好家が多いように思える。それも東京とは違い、足首までびっちり入れることが多い。こうした土地では「ヤクザの刺青がカタギ社会との決別を表している」(九州の某組長)という考えが根強いのだという。

忠誠心の表れから、親分の名前や組の代紋を彫る若い衆もいる。暴力社会の汚さにうんざりし、その理不尽さに嫌気がさしても、からだに彫り込んだ刺青は、カタギ社会へ戻る大きな障害となる。刺青は「もう二度とカタギには戻らない。死ぬまでヤクザとして生きる」という決意表明なのかもしれない。

ただ、刺青を入れないヤクザも少なからずいる。名のある親分には刺青に否定的な人も多いようだ。

■懲役に行きっぱなしで仕上げられないヤクザも

山口組三代目・田岡一雄組長も、背中は綺麗なままだったという。

「オヤジはいつも『刺青でめだたんでも、喧嘩でめだったらええわい。なんでヤクザが刺青なんてせなあかんのか分からん。自分が描いたならまだしもな、他人が描いたもんやろう』いうてました」(田岡組長の実子・田岡満氏の談)

写真中央が山口組三代目・田岡一雄組長(写真=田岡一雄『山口組三代目 田岡一雄自伝』より)
写真中央が山口組三代目・田岡一雄組長(写真=田岡一雄『山口組三代目 田岡一雄自伝』より/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)

また、襲名式などでの着替えの様子を陰から覗いてみると、刺青は入れていても、すじ彫り(輪郭線)だけだったり、完全に仕上がっていない幹部が目立つ。「懲役に行きっぱなしだったから、刺青など仕上げるヒマがなかった。若いときにぱーっと仕上げてしまうならともかく、今、改めて仕上げよういう気にはなかなかならん」(俠道会(きょうどうかい)の古参幹部・故人)

最近ではタトゥーの普及で、ヤクザも刺青を昔ほどは隠そうとはしなくなった。だが、刺青=ヤクザという通念は残っており、まともなヤクザなら、人前で刺青をひけらかすことはしない。ちなみに「入れ墨」と書かないのは、江戸時代、罪人に入れたそれと区別するため。混同すると、ものすごく怒るヤクザもいるので要注意。

■手の甲や脇腹は「死ぬほど痛い」

現代では、ヤクザの刺青(いれずみ)を彫る場合でも、古式ゆかしい手彫りをすることはほとんどなくなっており、電気針が使われる。彫り師の労力も雲泥(うんでい)の差で、電気針はかなり楽なようである。そのうえ、刺青の値段は、かかった時間の作業賃。時間がかかる分だけ金もかかるから、今や手彫りの需要はほとんどないそうだ。

「みんな、今は電気じゃろうね。ただ、手彫りは輪郭がボケるけど、深く色が入るんで、やっぱり味があるんよ。刺青いうんは二度と消えない作品じゃろう。本人がええいうときは、両方を使い分けちょる」(中国地方の彫り師)

この彫り師は、作業のざっと3分の1が手彫りだという。一日作業をすると、目がしょぼしょぼに、腕はくたくたになり、やはり効率は悪いそうだ。電気針の構造は非常に単純で、クランクによってモーターの回転運動を上下運動に変え、連続して、ぐさぐさと針を刺していく。手彫りに比べて痛みが少ないとはいっても、五十歩百歩の違いで、手の甲や脇腹、尻の割れ目などは、男伊達(おとこだて)を自認するヤクザたちも「死ぬほど痛い」と折り紙をつけるほどの激痛が走るらしい。

針の種類は絵柄の部分によって変えられ、オリジナルの針を自分で作る彫り師もいる。最近では、感染症に対する知識が普及したので、針は使い捨てで、かつてのように刺青によって肝炎などをうつされる危険はなくなった。彫り師によっては、塗料も自分専用のものを使うようで、衛生面に不安があれば、たいていのリクエストには応えてもらえるだろう。

■どんなに下手な刺青でも馬鹿にするのはマナー違反

絵柄は彫り師のもとにある原画のリストから選ばれる。戦後は幽霊や女の生首などゲテモノ系が流行したが、今はほとんど需要がないらしい。オリジナルの絵を頼むこともできるが、作画能力の低い彫り師もいるから、充分チェックしたほうがいい。

ただし、どんな下手な刺青でも、当人の目の前で馬鹿にするのはマナー違反。内心、「俺の刺青のほうがかっこいい」と思っても、ヤクザたちはそれを決して口にしない。当人に罪はないし、二度と消せないものだからだ。

刺青を入れている手元
写真=iStock.com/zamrznutitonovi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/zamrznutitonovi

下手な駆け出しの彫り師に肌を貸すのも男伊達である。原画をコピー機で拡大し、からだに当てながらそれをトレースする。墨を磨(す)り、それを使うと、あの刺青特有の藍色になるのだが、最近では専用の塗料があって、発色もかなり鮮やかだ。彫る面積にもよるが、完成までには数カ月から数年かかる。合計数百万円の費用がかかることもあり、親分や組織が代金を援助してくれるところもあるらしい。

最近では、組内に“お抱え彫り師”を置くところが増えている。刺青に興味のある若い衆に道具を買い与え、他の若い衆の刺青を彫らせるわけである。多少絵柄は下手でも、かなりの費用削減になる。なかには、プロに匹敵する画力のある若い衆もいて、「タダで彫ってやる」といわれたことは一度や二度ではない。

余談だが、彫り師になるのは元ヤクザが多い。それだけ現代では、刺青がヤクザの代名詞になっているということだろう。また、彫り師ほどヤクザ社会の事情通はいないという。あまりの痛さに泣きを入れた親分の話などは抱腹絶倒(ほうふくぜっとう)だ。

■刺青の“実験”を受けて失神した若い衆

とある関東の若手組長は、自分で若い衆の刺青を彫るようになった。

もともと絵心があって、墨絵や書、水彩画では飽きたらず、ついに刺青を趣味にしたのだ。今ではかなりの腕前で、他団体の若い衆からの依頼もあるらしいが、最初に現場を見せてもらったときは、若い衆に心から同情した。なにせ針の加減が分からないから、若い衆の肌で実験をするのだ。

「てめぇこの野郎、じっとしてやがれ」
「は……はい、でもオヤジ……なんか変じゃないですか。先生のときより、ずいぶん痛いような」
「ガタガタいうんじゃねぇよ。おとなしくしねぇと、ドラえもん彫るぞ!」
「いや、それは……すいません!」

組長は電気針の回転数、針先の出具合や角度、スピードなどをさまざまに変えて実験した。ついに失神してしまったが、それでも、ピクリともしない若い衆の綺麗な肌に、どんどん針をぶっ刺していった。

■地獄の時間はまったくの無駄に終わった

鈴木智彦『ヤクザ2000人に会いました!』(宝島社)
鈴木智彦『ヤクザ2000人に会いました!』(宝島社)

あとで分かったことだが、このとき、組長は針先の調節を間違えていたうえに、回転数は規定の2倍以上のスピードだった。これでは皮膚をガリガリ削りとってしまい、墨などまったく入らない。

実際、その場所は2週間経(た)っても化膿(かのう)したままで、染料が定着せず、まったく白いままだった。若い衆が想像を絶する痛みに耐え忍んだ地獄の時間は、まったくの無駄に終わったわけだ。

この若い衆は辛抱強く耐えたため、ドラえもんを彫られることはなかったが、その1カ月後、組長は悪戯心(いたずらごころ)から別の若い衆にケムンパスとあくびちゃんを彫ってしまった。俯(うつぶ)せに寝ているときは何を彫られているか確認できず、仕上がりを見た若い衆は、男泣きしたそうだ。

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鈴木 智彦(すずき・ともひこ)
ジャーナリスト
1966年生まれ。北海道出身。日本大学芸術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めた後、フリーに。著書に『ヤクザと原発』(文藝春秋)、『サカナとヤクザ』(小学館)『ヤクザときどきピアノ』(CCCメディアハウス)、『ヤクザ2000人に会いました!』(宝島社)などがある。

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(ジャーナリスト 鈴木 智彦)

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