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3位はパルム、2位はジャンボモナカ、1位は…人気アイス10種の平均販売年数が38.9年と超長寿であるワケ

プレジデントオンライン / 2023年8月24日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/flyingv43

家庭用アイスクリームの市場規模が過去最高を更新している。そんな成長市場を引っ張っているのは、意外にもロングセラー商品だ。毎年、多くの新商品が発売される中で、なぜ定番がさらに売れているのか。経済ジャーナリストの高井尚之さんがリポートする――。

■過去最高を記録した2022年度のアイス市場

今年の夏は猛暑日が多かった。長雨や冷夏だと売れゆきが厳しくなるビールや清涼飲料水、アイスクリームなどは、さぞ売れたことだろう。

このうち、アイス市場は近年の伸びが著しい。業界団体の日本アイスクリーム協会の発表数字では、2022年度(2022年4月1日~2023年3月31日)は「5534億円」(前年比105.2%)と過去最高を記録。ちなみに2013年度は「4330億円」だった。

【図表1】アイスクリーム類及び氷菓販売金額の推移

好みの商品は人それぞれだが、全国各地の小売店で購入できる「家庭用アイス」の上位には圧倒的にロングセラーが多い。これもアイス市場の特徴だ。

なぜ変化が激しく、多彩な味が楽しめる現代に、消費者は昔からあるブランドを支持するのか。各社の取り組みに加えて、主に20代30代の声を紹介しながら考えた。

■なぜロングセラー商品ばかり売れるのか

まずは次の表をご覧いただきたい。アイスクリーム業界の専門メディア「アイスクリームプレス」による2022年度の売れゆきランキングだ。

【図表2】2022年度の売れ筋アイスTOP14と発売年

上位14ブランドの平均販売年数は単純計算して約36.8年。うち7ブランドが発売40年超で、発売20年以上を含めると12ブランドもある。これ以外に別枠1位で「ハーゲンダッツ」(1984年に日本1号店)がある。毎年さまざまなアイスが登場するが、新規ブランドが定番化して上位に食い込むのは難しい。アイス業界はベテラン勢が気を吐く市場だ。

こうした人気の秘密には、次の理由が考えられる。

・手頃な価格と、どこでも買える利便性
・メーカーの創意工夫と、流通の販売戦略
・ブランドへの安心感

近年の値上げで少し高くなったが、多くの商品はまだ100~200円程度だ。その手軽さは大きい。各メーカーの創意工夫、小売店など流通の販売戦略も毎年話題となる。

アイス売り場
筆者撮影

■60億個超を売った「エッセルスーパーカップ」

同ランキング首位の「エッセルスーパーカップ」(明治)は1994年誕生。カップアイスでレギュラーは200mlの大容量だ。種類はラクトアイスだが「バニラの王道」を掲げる。

「当初から『でかい・うまい・やすい』の3拍子を掲げ、主に中学生・高校生向けに訴求しました。現在は購買層も広がっており、レギュラーサイズは累計販売個数60億個以上を記録。2022年度も前年比105%と好調でした」

ブランドを担当する明治の吉岡征史さん(グローバルフードソリューション事業本部 フローズン・食品事業部 フローズンデザートグループ)はこう説明する。

エッセルに対しては、「うまい、やすい、でかい。種類たくさん」(30代男性)、「おなかを満たしたい時にうれしいボリューム。限定品も買う」(30代女性)という声を聞いた。訴求ポイントは消費者に届いているようだ。定番フレーバーの一番人気が「超バニラ」。

「超バニラについては、定期的なリニューアルやパッケージ変更を実施しているほか、さまざまなターゲットに対するコミュニケーションで、『身近なブランド』を訴求しつつ、トライアルの獲得を図っています。特に、近年ではアレンジレシピの発信を強化し、食事シーンでの活用やアレンジする楽しみなど、新たな価値の提供に努めています」(吉岡さん)

SNSでも「久しぶりに食べるとおいしかった」と、リピート購買につながるシーンがあるという。「新規ユーザーはもちろん離反ユーザーへの訴求も大切」と、吉岡さんは話す。

■「チョコモナカジャンボ」のパリパリの秘密

2位の「チョコモナカジャンボ」(森永製菓。2ページの表ではバニラモナカと合わせてジャンボモナカ)は、昨年で発売50年。「チョコレートメーカーならではのアイス」のコンセプトのもと、板チョコをイメージしたモナカにチョコをスプレーして1972年に売り出した。パキッとしたチョコが入っている現在の形は1995年からで、この形となって28年たつ。

細かい改良も続けてきた。今年3月にはモナカの吸湿を防ぐ「チョコの壁」を作りだし、パリパリ感の持続時間を増やした。森永製菓の中村望さん(冷菓マーケティング部)がこう話す。

「研究開発と製造ラインの検討で苦節5年かかり、ようやく実現しました。お客さまからも『もっと好きになった』『パリパリがおいしい』という声を多くいただいています」

実は姉妹品「バニラモナカジャンボ」では2021年に開発した技術だが、チョコモナカジャンボは商品設計が違うため、試行錯誤した末に実現させたという。

思い出と結びつく人も多いようだ。「子どもの頃から、ずっとこれを食べている記憶。包装紙以外のゴミも出ないし、手が汚れない。シェアできるのも◎」(20代女性)。「父が好きで食べていたのでファミリーアイスという印象。個人的にはクルマでのお出掛けやプールの帰りなどに紐づく。何かをしながら食べられるのもいい」(30代女性)という声も。

■隠れ1位のハーゲンダッツ

3位の「パルム」(森永乳業)は、バーアイスとしての評価を高め、同社の先輩「ピノ」(一口アイス)を上回るブランドに成長した。発売18年だが、消費者からは「もう少し最近のブランドだと思っていた」という声をよく聞く。発売以来、一貫して上質感を訴求しており、アイスとチョコが同時に溶ける商品性も特徴だ。同社は「日本人の舌は繊細で、年々それをご評価いただいていると思います」と話していた。

前掲の表に入っていない“別枠1位”がある。「ハーゲンダッツ」(ハーゲンダッツ ジャパン)だ。2022年度のブランド全体売上高は505億円。米国発祥で、日本に上陸して東京・青山に1号店を開いたのは1984年で、当時は店の外まで行列ができるほど人気を呼んだ。

その後、2013年まで「ショップ」と呼ぶ専門店を展開していた。現在はスーパーやコンビニを中心に販路を広げたが、高級アイスクリームの代名詞の存在は変わらない。

【図表3】別枠1位のハーゲンダッツ

■日本人が最も好きなアイスの味

最近の状況を広報担当の田村苑子さん(経営戦略部 広報チーム)に聞いた。

「2023年1月~7月の売り上げ状況は、前年比103%です。4月に新シリーズとして、アイスクリームの天面に載せたチョコをスプーンでパリパリッと割ると、じゅわっとソースがあふれるSPOON CRUSH(スプーン クラッシュ)を発売。5月には豆乳を主原料とした植物性ミルクアイスGREEN CRAFT(グリーンクラフト)シリーズを発売し、6月にはジェラートシリーズのCREAMY GELATO(クリーミージェラート)を発売しました。ミニカップ、クリスピーサンド、バーともに売り上げは大変好調です」

消費者からも予想通り、「ご褒美」「ごちそう」の時に買う、という声が多かった。「自分が何のフレーバーを選ぶかで、その時の気持ちの確認になる」(30代女性)という人も。日本人が圧倒的に好きなフレーバーはバニラだが、ハーゲンダッツの定番一番人気もバニラ。8月には限定品「熟成バニラ芳醇な香り」も発売した。「高級なものほど定番のバニラで腕を確かめたくなる」(40代女性)という人もいた。

アイス売り場
筆者撮影

■「ガリガリ君」がほぼ毎月新商品を出すワケ

「ガリガリ君」(赤城乳業)は、今年で発売42年。中年以上の人には、「アイスは子ども時代に駄菓子屋で買った」思い出があるかもしれない。主力商品のソーダ味は、最も郷愁を感じる商品のひとつだ。赤城乳業の岡本秀幸さん(開発マーケティング本部 マーケティング部 課長)はこう話す。

「一番人気『ガリガリ君ソーダ』の味は、大きく変わっていません。大人になって、いったん商品と離れたお客さまでも、仕事帰りや飲み会帰り、お祭りなどで買われる機会も多いです。食べてみると、懐かしさと変わらないおいしさ、という声も寄せられます。今年3月には約20年ぶりにガリガリ君ソーダのリニューアルを実施しました。

また、7月に『大人なガリガリ君 ゴールデンパイン』を、8月に『ガリガリ君 梨』を発売するなど、ほぼ毎月新商品を出し、売り場で商品を探す楽しさを提供しています」

高カロリーを気にする人にも支持される。「ガリガリ君、ストックして毎日食べています。カロリーが低いから。ハーゲンダッツはカロリーいけそうな日のご褒美に食べます」(30代女性)。「家庭でかき氷にしても最高だから、家では夏の定番ストック」(30代男性)という声があった。

■「あずきバー」は1本に約100粒の小豆入り

「あずきバー」(井村屋)は発売50年。龍田健介さん(商品営業企画部 課長)はこう話す。

「3月には13年ぶりに、『あずきバー』の全面リニューアルを実施し、抹茶・ミルクは『金時』のネーミングを外し、『あずきバーミルク』『あずきバー抹茶』に名前を変更しました。また、今年7 月 1 日の『あずきバーの日』には4年ぶりに対面でのあずきバーサンプリングイベントを開催。“あずきバーの夏祭り”と題して、東京・大阪・名古屋で合計1万5000本のサンプルを配布しました」

井村屋の前身は明治時代に創業された和菓子屋。戦後の高度成長期にアイスクリーム事業にも進出し、自社の得意技術だった「あずき」をもとに、「ぜんざいを凍らせたようなアイスができないか?」の視点で商品を開発した。それ以来、基本スタンスは変えていない。

「1本に約100粒の小豆量。発売以来、どれだけ小豆が不作でも、原料価格が暴騰しても、ずっと守り続けてきました。余計なものを一切加えていない、自然な小豆のおいしさが愛されていると思います」(商品開発部 部長代理 嶋田孝弘さん)

支持する層は中高年女性が多いと聞いていたが、若い世代も支持する。「小豆が好きだしカロリー高くないから、あずきバー見つけたら選んじゃう」(30代女性)、「小豆の甘さがさっぱりで、冷たい和菓子が食べたい時にぴったり」(別の30代女性)の声も聞いた。

■アイスに対して保守的な日本人

ロングセラー商品の強さには、消費者の安定志向も大きいようだ。メーカー側も「バニラ」や「チョコ」「抹茶」などの定番を大切にしつつ、期間限定品の発売などで鮮度を打ち出す。

過去の取材では「新商品開発時のフレーバー調査でも、斬新な味は支持されず、イメージできる味が支持される傾向が強い」(複数のメーカーの声)という話を聞いてきた。

「甘くておいしい」という基本性能を踏まえつつ、変化球の味をつけても定着しにくい。

たとえば、野菜味を打ち出したアイスは、これまでいくつかのメーカーから発売されたが、定番化しなかった。息抜きやご褒美で選ぶ消費者心理と、野菜味はミスマッチなのか。

“永遠の小学生”を打ち出し、少しやんちゃさも持ち味の「ガリガリ君」は、過去にコーンポタージュ味、シチュー味を出してヒットさせた。その勢いで、ナポリタン味も発売したが、まったく売れなかった。

同社に限らず、だから無難な味で……という関係者はいないだろう。メーカーの開発現場には「絶えざる革新」という共通認識があり、過去のフレーバーでは「きなこ」や「桃」「マンゴー」をヒット作にしてきた歴史もある。新たな取り組みの成果も期待したい。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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