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自民党は「家族の崩壊」という現実から目を背けている…枝野幸男が「昭和の政治を終わらせたい」と訴えるワケ

プレジデントオンライン / 2023年8月30日 7時15分

衆院議員の枝野幸男氏 - 撮影=門間新弥

岸田文雄内閣の支持率が低迷している。だが、野党第1党である立憲民主党の支持率も伸びていない。なぜ立憲は世論の受け皿になっていないのか。2017年に立憲を結党し、21年まで代表を務めた衆院議員の枝野幸男氏(59)に、ジャーナリストの尾中香尚里さんが聞いた――。(後編/全2回)

■社会は変わり続けているのに政治が「昭和」のまま

(前編から続く)

私が政治家として過ごしてきた30年は、平成の30年間とほぼ一致します。この時代は戦後復興から高度成長という「昭和の社会」が変質してしまったのに、政治がそれについて行けず右往左往した時代でした。その状況は現在、さらに深刻になっています。「昭和」を終わらせないといけません。

平成の時代に社会はどう変わったのでしょうか。

まず国内では、人口が急激に増えた時代から、急激な人口減少社会に転換しました。国際的には、急激な気候変動と権威主義の台頭によって、私たちが国際社会の安定に依存することができなくなりました。

自民党も問題は認識していると思いますが、人口減少には人口問題、気候変動には温暖化問題というように、個別の課題ととらえてパッチワークのような対応しかしていません。

■自民党は「見たくない現実」から目を背けている

これらに加えてあと2つ指摘したい。ひとつは高度経済成長が終わり、経済が成熟化していること。もうひとつは急速な核家族化と都市化です。これらについては、自民党は問題を自覚していないとしか思えません。「見たくない現実」なのかもしれませんが。

後者の2つについて、もう少し説明させてください。

経済が成熟化したということは「大量生産で大きく稼ぐ」のが困難になった、ということです。大量生産、大量消費を前提に、国際的な価格競争で稼ぐのは、古い「昭和」の途上国型モデルです。

にもかかわらず自民党は、相変わらず重厚長大、大量生産、大企業を中心に国が回ると勘違いしています。だから国内消費のウエートが高まっているにもかかわらず「人件費を下げなければ国際競争に勝てない」といって、労働者の賃金を抑制し、国民の購買力を失わせてきました。

世の中が変化したのに、打ち出す政策がその変化に合っていないから、よりひどい状況になる。だから少子化も加速するのです。

急速な核家族化と都市化についても、自民党は現実を見ようとしていません。

今や家族や親戚、隣近所といった「身近な支え合い」は、やりたくてもできない状態になっています。自民党は「家族が支え合うべきだ」と主張していますが、価値観の善しあし以前に、もはやそんなことは不可能です。

政治家の仕事とは、国民が「見たくない」と目を背けている現実に気づき、対応することです。「見たくない現実」だからといって、社会の変化から目を背けて、いまだに「東京五輪や大阪万博をやれば景気が良くなる」などと発想しているのは、政治家失格なのではないでしょうか。

■維新はなぜ台頭しているのか

日本維新の会が台頭していると言われるのは、「何をやりたいのか」がイメージしやすいからだと思います。「身を切る改革」「小さな政府」は、中曽根行革以来、日本の政治でずっと追い求められていて、特に中曽根行革は「成功」と受け止められました。「小さな政府は正しい政策」という刷り込みが、40年も続いているのです。

平成の政治とは、中曽根行革以来の「小さな政府」、民営化と自己責任、そして「身を切る改革」は正しいことだ、という昭和の終わりの成功体験を引きずったまま、対抗する選択肢を示しきれなかった政治です。

立憲民主党の方向性は真逆です。「まっとうな政治」を前提に公共サービスを充実させて「まっとうな社会」「まっとうな経済」をつくり、「まっとうな未来」につなげていきたいと考えています。

衆院議員の枝野幸男氏
撮影=門間新弥
衆院議員の枝野幸男氏 - 撮影=門間新弥

■公共サービスが「いつでも安価」に手に入る社会

「まっとうな社会」のイメージは「どんな人でも困った時に、すぐに必要なサービスを手に入れられる」ことです。保育を例に取れば「子供を預けたい」と思ったら、どんな人でも少ない負担ですぐに預けられる、ということです。

そのためには保育所や、保育に携わる人材を増やす必要があります。でも、利用料金が高ければ、サービスの恩恵を受ける人は限られてしまいます。

立憲民主党は今年取りまとめた「もっと良い『子ども・子育てビジョン』」の中間報告で、「幼児教育・保育から高等教育までの教育の無償化」「公立小中学校の給食の無償化」を打ち出しています。

公共サービスとしてイメージしやすいのは保育、医療、介護などですが、私はさらに「教育」「交通」「住宅」も加えたい。生きていくのに不可欠なものだからです。

例えば教育。大学に行くのに多額の借金(奨学金)が必要なのは、教育が公共サービスとして提供されていないからです。高等教育を公共サービスと位置づけます。

それから交通。高齢化が進み、自分で運転できなくなった人が増えた時、こういう人たちの移動の自由を守るのは、公共サービスであるべきです。高齢者がバスに乗る時に無料パスを発行している自治体がありますが、ほかに「病院に通うタクシーの無料券を発行する」という考えもあります。

さらに住宅です。中曽根行革以来、公共住宅はどんどん減らされています。新たに公共住宅を建てなくても、行政が既存の住宅を借り上げて、生活保護の人などに安価または無償で提供すればいい。

実は災害対策も公共サービスです。例えば、首都直下型地震が起きた時、首都圏の何千万人もの人たちが1週間程度は生活できる「備え」を用意する。これは公共サービスです。

「公共」の概念は広がっています。「小さな政府」では、災害の時に自己責任を求められ、とても生きていけません。このことを国民の皆さんに知ってほしいです。

■食料自給や再生可能エネルギー普及は「未来との支え合い」

保育所や大学や公共交通や住宅を公共サービスとして提供するのは、つまり「今を生きる人同士の支え合い」と言えます。

でも「支え合い」が意味するものはそれだけではありません。地球環境と国際情勢の変化によって、将来、戦争や気候変動で食料やエネルギーを調達できなくなるかもしれません。

こうした事態に備え、持続可能な暮らしを守るための営みを「新しい公共サービス」と位置づけて国が支援する必要があります。食料自給率を高める一次産業の下支えや分散型再生可能エネルギーの普及促進などです。これは「未来との支え合い」と言えます。

食料危機は起きないかもしれません。でも備えておかないと、いざという時に間に合いません。「火事は起きないかもしれない」からといって、消防のシステムを用意しない、なんてことはありませんよね。それと同じことです。

こういう施策は市場に任せると採算が合いません。採算が合わなくても必要なことは、政府が公共サービスとして行うべきなのです。

消防車に乗る消防士
写真=iStock.com/THEPALMER
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/THEPALMER

■消費が伸びれば増税せずとも税収は伸びる

「まっとうな経済」についてお話しします。

経済を伸ばすためには、国民の購買力を高める必要があります。最低賃金の引き上げなどは欠かせませんが、その前に企業の売り上げ、収益が伸びていないと、民間企業は簡単に賃金を上げることはできません。先に経済を成長させないといけないのです。「ニワトリと卵」のようなものですね。

ではどうしたらいいのか。公的なサービスを担う人たちの賃金を上げるのです。

保育士や介護職員、看護師の人件費の大半は税金などの公的資金。この人たちの賃金は、政治が決めれば上げることができます。ここに税金を使うのです。

市役所の多くや公立の小・中学校の先生まで非正規職員化が進んでいます。この人たちの正規化を進めて待遇を上げることも、政治の判断でできます。こうした賃金の上昇分は間違いなく消費を増やすことにつながり、経済が回っていくきっかけになります。

先ほど「公共サービスの充実によって支え合いの社会を目指す」と言いました。そのためにはもちろん、一定の税収が必要になります。

でも、国内で消費が伸びれば、消費税の税率を上げなくても、税収は伸びます。国民の所得が上がっているのだから、所得税の税収も増えるでしょう。

その意味で、安倍晋三元首相が「増税の前に景気を良くする」と言ったことは正しい。ただ「アベノミクスでは結局、景気は良くならなかった」ということです。

われわれは消費を伸ばすために、国民の購買力、可処分所得を増やすことを重視します。そのために、公共サービスの担い手である非正規雇用の人や低賃金の人の賃金を上げることを訴えているのです。

■「株価が経済の先行指数」は過去の話

「支え合いの社会」の実現に向け、私は以前から、富裕層や超大企業に応分の負担をお願いして、再分配機能を強化することを主張してきました。具体的には金融所得課税の強化や、税を納めるのを回避している人たちへの取り締まりの強化です。この考えは今も変わっていません。

私たちが「金融所得課税の強化」を言った時、岸田文雄首相がこれをまねようとして、結果として株価が大きく下落しました。岸田さんはそれ以来、金融所得課税の強化をすっかり言わなくなってしまいました。

われわれが金融所得課税を言っても同じことが起きるかもしれませんが、私は「株価が下がっても仕方がない」と考えます。「株価が高い社会を選ぶのか、病気になっても生きていけるような誰もが安心して暮らせる社会を選ぶのか」ということです。

「株価が経済の先行指数」という話は、完全に終わっています。今はすごい株高ですが、経済状況がいいとは全く言えません。それに今の株高の原因は、日銀が株を買い支えていること。株価が高い分、円が安くなっているのです。

大部分の国民にとっては、株価が下がっても円が高くなった方が幸せなはずです。海外からの輸入品の価格が下がるんですから。何より、原油価格が下がります。もし1ドルが100円になったら、物価は大きく下がりますよ。

衆院議員の枝野幸男氏
撮影=門間新弥
衆院議員の枝野幸男氏 - 撮影=門間新弥

■「消費減税」は富裕層から目を背けるためのワナ

私はこのことを堂々と言いたい。「株価を取るか、為替を取るか」です。私は為替を取ります。金融政策を駆使することで、もっと円を高くします。

公的資金を使って株価を買い支えるのは、富裕層への優遇策です。その結果円が安くなり、輸入品の多い生活必需品の値段が上がり、所得の低い人たちに負担がかかっているのです。株価が下がっても円を高くして、物価を下げなければなりません。

経済政策というとすぐに「消費減税」が注目されますが、これは富裕層が、自分たちにとって不都合なことに焦点が当たらないようにするために、消費税に注目が集まるようにしている、と私は考えています。

減税を言う前に、まず「税金を適正に払っていない人たちに応分の負担をしてもらう」べきです。「取る」話から逃げてはいけません。どうしても消費減税にこだわるなら、どうぞ維新や、共産党やれいわ新選組に投票してください。

……代表の時にはなかなかこういう発言ができないんですよね(笑)。

■公的な仕事を委託された民間企業は「公務員並み」に

最後に「まっとうな政治」です。政治への信頼がなければ、ここまで説明してきたような「支え合う社会」や経済のシステムを機能させることはできません。

最近5年から10年で明確になったことは「民営化」とか「民間委託」はもう時代遅れだ、ということです。行政がやるべきことを民間に委託しているため、議会のチェックが働かなくなり、無駄や利権が生じています。コロナ禍の時の持続化給付金事業が電通に丸投げされ、再委託や外注が繰り返された話は、その典型です。

情報公開と公文書管理を抜本的に強化する必要があります。給付金を配るような公的な仕事を民間企業に委託するなら、その企業は公文書管理法と情報公開法の対象にして、担当幹部は役所の局長と同様、政府参考人として国会に出席する義務を課すべきです。

■「令和の鈴木貫太郎」になりたい

立憲民主党の代表を辞任して約2年。この間、自分なりに新たな学びがありました。党運営については今の執行部には口を出さない考えでいますが、結党の経緯を考えれば、党の理念やビジョンを発信する役割は、私にもあると思います。そのことへのニーズもあるようですし。

今後は積極的に、立憲民主党の理念と、目指す社会の姿について発信する責任があると、強く思っています。

政治家として30周年を迎え、今後の自分の役割を考えることがあります。それは、高度成長を前提とした時代の政治を終わらせて、次の時代の扉を開くことです。よく「総理大臣になる気はあるのか」と聞かれるのですが、その意味で私は「令和の鈴木貫太郎」になりたいと思っています。

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尾中 香尚里(おなか・かおり)
ジャーナリスト
福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)。新著『野党第1党 「保守2大政党」に抗した30年』(現代書館)9月上旬発売予定。

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(ジャーナリスト 尾中 香尚里)

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