上司は「幕の内弁当」を頼み、部下は「唐揚げ弁当」を買ってきた…このとき悪いのは「上司である」といえるワケ
プレジデントオンライン / 2023年8月31日 13時15分
※本稿は、吉田幸弘『部下も上司も動かす 武器としての伝え方』(自由国民社)の一部を再編集したものです。
■「〜できない」と言われたら、自分はどう感じるか
辛辣(しんらつ)な意見を言ってただ嫌われるのは意味がありません。
相手が肝心な時に動いてくれなかったり、やっつけ仕事になってしまう可能性があるからです。どうせなら気持ちよく動いてもらいたいものです。
ですから、「~できない」の否定形ではなく、「~すればできる」という言い方をしましょう。
仮に自分が言われたらどう思うかと考えれば、ポジティブに変換しようと思えてくるのではないでしょうか。
×「購入から2週間経ったら返品はできません」
○「購入から2週間まででしたら返品は受け付けています」
×「君の話し方は主語がないからわかりづらい」
○「主語を必ずつけることを意識すれば、もっと話がわかりやすいって言われるよ」
×「さっきの会議のプレゼン完全な準備不足だね」
○「前日までに話す内容を3点だけ決めておこう。10分間シミュレーションするだけでかなり伝わりやすくなるから」
×「誰でもできる仕事だから」
○「単純作業だけど、ミスしたら大変な大切な仕事だから」
×「君には難しいかもしれないけど」
〇「初めて触れる内容もあるかもしれないけど」
■意識的に長所を見るくらいでちょうどいい
もう1点、人は無意識にしていると短所に目が行きがちです。
実際、私が上司向けの研修をしている際、「5分で部下の長所をあげてください」というワークをすると、平均で3個くらいしか挙がってきませんが、「短所をあげてください」と言うと、10個以上あげる人も少なくありません。
ですから、意識的に長所を見るようにしたいものです。実は短所は簡単に長所にシフトできます。
表裏一体だからです。
例をあげていきましょう。
・細かい→よく気がつく
・暗い→落ち着いている
・挑戦できない→慎重な
・思いつきでものを言う→アイデア豊富
・心配性→備えがしっかりしている
・経験がない→柔軟な発想ができる
・はっきりものを言いすぎる→裏表がない
■「無駄を削ろう」と言われて、何を削るか
日本語は言葉の性質上、曖昧なものが少なくありません。
特にあなたが上司や先輩の立場で、部下や後輩に何かを伝えようとする際、次のような言葉を使ってしまっているかもしれません。
「強い意識を持って進めていこう」
「仕事の効率化を図ろう」
「無駄をどんどん削ろう」
「メール対応の時間を減らそう」
「丁寧に対応しよう」
「説得力のある言葉で話そう」
これらの言葉を伝えられて実際に行動に移すことができるでしょうか。
あるいは仮に行動に移せたとしても、指示された側の意図と合った行動ができるでしょうか。
おそらく相違が生じるでしょう。
たとえば、「無駄を削ろう」と言われて、何を削りますか。
Aさんは、カラー印刷を止めて白黒印刷に変えようとするかもしれません。
Bさんは、日報などの提出資料をやめよう、会議を減らそうと言うかもしれません。
Aさんは費用を意識し、Bさんは時間を意識しているのかもしれません。
無駄という言葉は非常に抽象的ですが、その下に多くの事象が詰まっています。
仮にコスト削減だって、手段は考えられないほどあるでしょう。
伝えた側の意図と聞いた側の意図が100%合うのは、正確に1通りの解釈で伝えないと、もしかすると宝くじに当たるくらいの厳しい確率かもしれません。
■相手を動かす明確な設定法
「メール対応の頻度を減らそう」と言われた場合も同様です。
相手に自由な裁量を与えることはいいことですが、人それぞれ解釈は違うものです。
人によっては1日に3回メールチェックしようと考える人もいれば、一方で、1時間に1回のメールチェックをしようと考える人もいるでしょう。
前者の人からすると後者の1時間に1回のチェックは多すぎるように感じるかもしれません。とはいっても、仮に後者の人が今まで常にメール受信がわかるようにポップアップなどの反応をさせていて、即レスしていたのならだいぶ少なくなったといえるでしょう。
この場合、どちらの人もメールの頻度を減らしたことにはなります。しかし、後者の人は、まだまだメール対応の頻度は高いといえるでしょう。
裁量の余地を作ることはいいことですが、相手に動いてほしい場合は明確に設定しましょう。
この場合でいえば、1日3回(朝9時30分まで、昼の13時まで、夕方退勤時間の18時までに3回のチェックにしよう)と伝えればいいわけです。
■3分でイライラする人もいる
他にもよく出てくるのが形容詞や副詞です。
たとえば、よくあるのがカスタマーサービスセンターなどで電話が混みあっている場合の「しばらくお待ちください」というアナウンスです。
「しばらくってどのくらい待たせるんだ」とイライラした経験がある人は少なくないかと思います。
確かに「少々」と言っておいて10分以上待たされるとイライラする人もいます。
いや、3分でイライラする人もいるかもしれません。
このように解釈の違いはいくらでも生じるでしょう。
美容師さんに髪の毛のカラーを頼んだ際、「やや明るめで」と頼んだのに、仕上がった髪の色を見て「これでは明るすぎる、会社で何か言われるよ」とクレームを出す人もいるかもしれません。
このように解釈が複数以上ある、曖昧な表現は伝える時は避けるべきです。
もし正確に動いてほしいなら1通りの解釈しかできないものにしましょう。
「新規開拓を徹底しよう」→「毎日アポメールを5件出そう」
「強い意識を持って進めていこう」→「進捗状況を毎朝確認し合おう」
「仕事の効率化を図ろう」→「打ち合わせは目的を明確にしよう」
「無駄をどんどん削ろう」→「基本、公共交通機関で移動しよう」
「メール対応の時間を減らそう」→「メールチェックは2時間に1回にしよう」
「丁寧に」→「誤字・脱字かないかしっかり確認して」
「説得力のある言葉で」→「お客様への資料には弊社の実績をしっかり明示しよう」
ただ、人材育成のためにわざと曖昧にして自分で考えるように仕向けている場合もあるでしょう。
その場合は正解は問わないことです。
正解を問うなら解釈は1つ、実際に動けるような伝え方にしましょう。
■「何度も聞いてくる人」の責任の多くは上司に
こういった例は良くないかもしれませんが、部下が弁当を買いにいくついでに「自分のも買ってきてくれ」と頼んだとします。
しかし、上司が「幕の内弁当を買ってきて」と頼んだのに部下が「唐揚げ弁当」を買ってきたとしましょう。
上司「鳥が苦手なんだよ。幕の内弁当って言ったじゃない……」
部下「幕の内弁当売り切れてたんですよ」
上司「でも何でよりによって唐揚げ弁当にするんだよ」
この場合、責任はどちらにあるのでしょうか。
もちろん上司でしょう。
部下が第2候補、第3候補、絶対食べられないものを聞いておくべきだったという意見もありますが、お店の全メニューを把握していない限り、嫌いな弁当をあててくる可能性はなくせません。
ビジネスシーンに当てはめてみましょう。
かつて業務スタッフの方にホテルの手配を頼んだことがあります。
その時のやり取りです。
お願いしていたエリアのホテルが満室でした。
すると、「梅田が取れません。心斎橋でいいですか?」
心斎橋のホテルも空きがなく、1時間経過してから「天王寺でいいですか?」と質問されました。
外回りをしているのに、何度も何度も携帯にメッセージが入っています。
このように「言ったことと違う」と言われることを恐れる人は何度も電話してきます。
「勝手に判断する人」「何度も聞いてくる人」に対しては100%とは言えませんが、責任の多くは上司にあります。
■条件分岐を意識する
実はこれまで出社していた頃は、小さなことでもその場で聞けました。
しかし、リモートワークの浸透により、質問を受けたり、確認をしながら仕事を進めていくことが難しくなりました。
部下や後輩からも質問しづらくなりました。
こんな時こそ「○○ならばA案で」「△△ならばB案で」と示す「条件分岐」が必要になります。
「12日までに納品してくれるならいつも通りにA社で」「今回は急ぎなので13日以降になってしまうなら価格は高いけどB社に発注して」とイレギュラーが起きた時を想定して頼むようにするのです。
あらかじめ条件分岐をしておくことでトラブルも回避できますし、気配り上手ということで相手からも信頼されるようになります。また予定の組み直しややり直しなどに振り回されることも減ります。
そして何より何度も聞き返されるといったことも回避されます。時短効果にもなるし、不用なストレスの回避にもなります。
■固有名詞を使う3つのメリット
固有名詞を使うことで次の3つのメリットがあります。
①説得しやすい
たとえば上司にインスタグラムの企業アカウントの開設を申請したい場合、「最近あるバッグメーカーがインスタ広告で売上が3倍になった」というより、「ABCデザイン(仮名)がインスタ広告で売上が3倍になった」という方が上司の心も動くでしょう。
信憑性があるからです。
②印象が良くなる
誰しも人は名前を呼ばれたいものです。
名前を呼ばれた人は相手に好印象を抱きやすいものです。
ある成績のいい営業マンの方とお話をした際、何度も相手の名前を呼ぶことは記憶の定着にもつながると言ってましたが、まさにそうだなと思いました。
③フックになる
私は講演で自己紹介する際や、新たに人と話す時、次のように伝えています。
「北海道から沖縄まで全国講演をしております。47都道府県のうち39カ所回っています。残り8県です」
以前は「全国を講演で回っています」と伝えていました。
その頃に比べて相手の食いつきがよくなりました。
次のような質問をいただきました。
「私沖縄出身なんです。沖縄も来ましたか?」
「北海道のどこに来たんですか?」
「残り8県ってどこ? その中に佐賀県は入ってないよね」
固有名詞には相手も食いつきやすいのです。
これは普段の社内の会話でもそうです。
今、個人情報保護法で雑談が難しいなんていう人がいますが、いくらでもこの固有名詞を使えば、食いつきは生まれます。
「そこの○○弁当の生姜焼き弁当美味しかったです」
「川豊のうなぎ最高でした」
「先日念願だった京都の龍安寺の石庭に行けました」
そして何より固有名詞は複数の解釈がないのでしっかり伝わります。
固有名詞を使えば間違った伝わり方も防ぐことができます。
一方で、集合名詞は使い方に注意が必要です。
ネガティブなことを伝えようとする際に、「今年の新人は」「外国人は」「営業部は」と一括りにしてしまうと偏見になってしまう可能性があります。
----------
人材育成コンサルタント・コミュニケーションデザイナー
1970年生まれ。大学卒業後、大手旅行会社、有名学校法人を経て外資系企業へ転職。そこで周囲のメンバーとうまくコミュニケーションが取れず、降格人事を経験する。その後、異動先で出会った上司より「伝え方」の大切さを教わり、「ポイントを絞ってわかりやすく伝える方法」を駆使して、劇的に営業成績を改善。社外でも営業コンサルタント・人材育成コンサルタント・コーチとして活動し、2011年1月より独立。現在はさまざまな業種のビジネスパーソン向けに、人材育成、チームビルディング、生産性向上、コミュニケーション術の方法を中心としたコンサルティング活動及び1on1コーチング、講演、研修等を実施している。累計の受講者数は3万人を超えている。
----------
(人材育成コンサルタント・コミュニケーションデザイナー 吉田 幸弘)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
“若造”の指示なのに「バブル世代」がホイホイ聞いて必死に働く必殺フレーズ…正直メンドい「年上部下」の取説
プレジデントオンライン / 2024年5月9日 17時15分
-
社員マネジメントは「国語」ではなく「数学・物理」…4000社が導入し毎年10社が上場する"公式"理論を特別公開
プレジデントオンライン / 2024年5月8日 16時15分
-
経験豊富な「ベテラン部下」が一目置く上司の条件は 殻に閉じこもらず...トレンドを学び続けていますか?
J-CASTニュース / 2024年5月6日 12時0分
-
扉をバンッと閉めて怒りをぶつけてくる…精神科医が教える「不機嫌がダダ漏れの人」に対抗する簡単な方法
プレジデントオンライン / 2024年5月4日 15時15分
-
「年下の上司や先輩」には敬語で話す? タメ口で話す? 接し方・態度・考え方の正解は
オールアバウト / 2024年5月1日 21時50分
ランキング
-
1「ポテトを食べ電車を待った」…ヨーカドー福島店、39年の歴史に幕
読売新聞 / 2024年5月21日 17時19分
-
2一度乗ったら普通乗用車には戻れない?軽自動車ユーザーの88%が「軽自動車にしてよかった」という理由とは
ファイナンシャルフィールド / 2024年5月20日 9時40分
-
3東海道線「107年ぶり新駅」いよいよ着工へ!駅周辺も大化け?工事の施行協定を締結 JR東日本
乗りものニュース / 2024年5月21日 14時34分
-
4食べ放題の「残してしまう」問題、どう解決? 「しゃぶ葉」が始めたユニークな方法
ITmedia ビジネスオンライン / 2024年5月21日 6時30分
-
5定額減税、給与明細に所得税の減税額を明記するよう義務付ける方針 狙いは“実感”
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年5月21日 18時36分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください