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気合を入れるだけでは「やる気」は高まらない…最新研究が明らかにした"脳"と"腸内環境"の知られざる関係

プレジデントオンライン / 2023年9月7日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baramee2554

やる気を高めるにはどうすればいいのか。脳神経内科医の田中伸明さんは「これまで人間関係、仕事の状況といった体の『外側の要因』で語られることが多かった。しかし、最新の医学によって、体の内側である腸内環境が安定して、初めてやる気が出る土台が整うことがわかってきた」という――。

※本稿は、田中伸明『自分のやる気が上がるのは、どっち?』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

■無意識の行動を起こさせる脳の仕組み

「やる気」と「腸内環境」は“超”関係しています。深く密接につながっています。

どのようにつながっているのかを説明するため、私たちの脳が無意識のうちに体の情報をモニタリングしている仕組みを解説します。

例えば、小さな会議室に何人も集まって話をしているとき、目の前に窓があると換気のために少し開けたくなります。

そこで、隣にいる人から「どうして窓を開けるの?」と聞かれたら、あなたは「息苦しいから」と答えるはずです。

ただこの息苦しさは、口に出して初めて強く意識したもので、むしろあなたは無意識のうちになんとなく居心地の悪さを感じ、窓を開けたいと思ったのではないでしょうか。

この無意識の行動を起こさせているのが、脳のモニタリングシステムです。

脳のモニタリングシステムは、自律神経を通して脳の「島」と呼ばれる部位に体の情報を集めます。先ほどの例で言えば、酸素量が足りないという情報が島に集まり、不快感を覚え、無意識のうちに状況を改善する行動を起こさせるのです。

■腸内環境の変化はメンタルに影響する

このモニタリングシステムが処理しているのは、酸素量だけではありません。

肌から感じる室温や湿度、靴の中に紛れ込んでいる小石の不快感、体を包み込むソファの快適な座り心地、遠くから香ってくる花の匂い、隣の人が立てる小さな物音など、あなたの五感が察知するありとあらゆる情報が島に集まります。

そのなかでも重要なのが、腸内環境の情報です。

じつは脳内にこうした仕組みがあるとがわかってきたのは最近のことです。

以前から臨床現場にいる医師たちは、うつ病の患者さんが下痢や便秘にも悩んでいることを経験的に知っていました。しかし、腸内環境の悪化が脳に強く影響しているとまでは考えていなかったのです。

ところが、腸内環境を改善する善玉菌のオリゴ糖などを摂ると、うつ病の症状が改善されていくことがデータとしてわかってきました。

私も当初は「なぜ?」と疑問を感じていましたが、腸内環境をモニタリングする迷走神経が脳とつながっていて、眼窩前頭前野という消化器の中枢が感情の動きを大きく左右していることがわかってきたことで、「なるほど」と腑に落ちました。

■「腹の虫が治まらない」は的確な表現

腸と脳は高速道路のような迷走神経でつながっていて、腸内環境の変化はダイレクトに私たちの脳、ひいてはメンタルに影響していたのです。

これを「脳腸連関」といいますが、ストレスや悪玉菌によって腸内に炎症が起きると、脳は不安定になります。また、下痢や便秘の症状に悩まされていると、無意識下の不快感が続き、メンタルの状態も悪化します。

疲労感が強い、やる気が出ない、ダルいといった症状を感じているとき、その原因は腸内環境にある場合が少なくありません。

そう考えると、「腹の虫が治まらない」といった昔ながらの言い回しは、じつに言い得て妙ですね。腹の虫を安定させると、疲労感も、やる気のなさも、ダルさも解消される可能性が高いといえるのです。

ちなみに、前述した迷走神経は自律神経に分類されますが、もともと迷走神経は脳から臓器へ情報を送るといわれていたのが、自律神経の研究者であるステフォン・ポージェス博士によって、自律神経の8割は身体情報を脳に送る神経であることが判明しました。脳腸連関が成立することがわかったというわけです。

■腸内に善玉菌を増やすとやる気が高まる

腸内環境を改善するとされる1000億個もの乳酸菌シロタ株が、生きたまま腸に届くという「ヤクルト1000」が大ヒットしていますが、脳腸連関の関係性からいうと、腸内に善玉菌を増やす試みは、やる気を高めてくれるはずです。

配達用の「ヤクルト1000」および店頭販売用の「ヤクルトY1000」
配達用の「ヤクルト1000」および店頭販売用の「ヤクルトY1000」(写真=Hanabishi/CC-Zero/Wikimedia Commons)

実際、オーストラリアでは2023年から腸内細菌を悪玉菌から善玉菌に置き換えていく「腸内細菌移植」の治療法が保険適用となりました。

これまでやる気のある・なしの議論は、体の“外側の要因”で語られることがほとんどでした。人間関係、仕事の状況、報酬のあるなしなどです。

最新の医学によって、じつは体の内側である腸内環境が安定して、初めてやる気が出る土台が整うことがわかってきたのです。

乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌をとることができるヨーグルトや、善玉菌のエサとなる水溶性食物繊維を多く含んだ海藻類、乳酸菌が豊富で食物繊維も多い漬物やキムチなどの発酵食品、オリゴ糖を豊富に含む豆腐、豆乳、きなこといった大豆製品などを積極的に摂るようにしましょう。

やる気は腸から整える! ぜひ実践してみてください。

■お酒を飲んでもストレスの原因は解消されない

お酒を飲むと脳内にドーパミンが分泌され、興奮したり、楽しくなります。

仕事でストレスを抱えて気持ちが沈んでいるときなどは、お酒の力を借りて気分転換し、気持ちを高めていくといいでしょう。

しかしお酒も飲み過ぎると、逆効果になることがあります。ドーパミン受容体が増えるため、もっとドーパミンがほしいと脳が反応して、アルコール依存症に発展しかねないのです。

飲み方次第では、お酒はやる気を上げるのに役立ちます。しかし、ストレスの原因である職場の人間関係や、仕事でのミスなどは、飲んだからといって帳消しになるわけではありません。

短期的にお酒の力を借りるのはいいですが、憂さを晴らすためにお酒に頼り続けていると、長期的には自分の将来を見失うことになるので注意してください。

乾杯
写真=iStock.com/JohnnyGreig
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JohnnyGreig

■1日3食の食事は食べ過ぎかもしれない

「腹が減っては戦ができぬ」というように、たくさん食べたほうがやる気が上がると思っている人も多いかもしれません。

しかし、1日3食きっちり食べているのに、「なんだかやる気が出ない」と感じている人は、むしろ食事の回数を減らしてみてください。

とくにコロナ禍以降、自宅でリモートワークをする機会が増えた人にとって、1日3食の食事は食べ過ぎともいえます。

胃腸は食べ物を摂取して消化・吸収している限り、休むヒマがありません。「腸内環境」と「やる気」の関係は前述した通りです。

胃腸をメンテナンスする時間がないと、腸内環境は悪化しやすくなります。

食事の回数を減らして、空腹の時間をつくることは胃腸をいたわることにつながるのです。

理論的には、10時間食べ物を口にしなければ、肝臓に蓄えられた糖がなくなり、脂肪が分解されてエネルギーとして使われます。

摂取カロリーが減ってダイエット効果も期待できるため、この時間を目安に食事の回数を減らしてみるのもいいでしょう。

■やる気が出ないときは「プチ断食」もお勧め

例えば、昼食を食べた後に眠くなってやる気が落ちる……という人は、一度昼飯を抜いてみてください。

田中伸明『自分のやる気が上がるのは、どっち?』(クロスメディア・パブリッシング)
田中伸明『自分のやる気が上がるのは、どっち?』(クロスメディア・パブリッシング)

夕方頃に空腹を感じると思いますが、腸が整っている分、頭がすっきりしていることに気がつくはずです。

1食抜いた方が自分は集中できると感じたら、1週間に1度や2度、1日1食とか2食の「プチ断食」を試してみるのもいいでしょう。

腸内細菌の活動が活性化されて、やる気が高まり、集中して仕事に取り組めるのではないでしょうか。

もちろん、1日3食摂っているけれどやる気は十分あるという状態なら、無理に断食を試す必要はありません。

あくまでやる気が出ないときに、「モノは試し」くらいの感覚で取り組んでみることをお勧めします。

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田中 伸明(たなか・のぶあき)
脳神経内科医
ベスリ会総院長、日本神経学会認定医、医師会認定産業医、東洋医学会専門医。鹿児島大学医学部卒業後、諏訪中央病院で地域医療に従事。その後、厚生労働省でマネジメントを、マッキンゼー・アンド・カンパニージャパンで経営を学ぶ。その経験を生かして会津大学理工学部、日本大学工学部、京都産業大学経営学部の教授として大学教育に従事。ビジネスパーソンのメンタル障害を解決することが重要と考え、ベスリクリニックを開設。著書に『マッキンゼー×最新脳科学 究極の集中術』などがある。

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(脳神経内科医 田中 伸明)

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