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医師の言うことをよく守る患者と、守らないわがままな患者。どちらが長生きするか

プレジデントオンライン / 2023年9月8日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

最新の研究によれば、怒りや不安、ストレスといった心の状態が、体の病気まで引き寄せてしまうという。負の感情をため込まないためにはどうすればいいのか。すぐにできる実践方法も合わせて紹介する。「プレジデント」(2023年9月29日号)の特集「我慢しない生き方」より、記事の一部をお届けします――。

■「人生を楽しむ」ことは長生きの秘訣

怒り、不安、ストレスといった「負の感情」が、その人の体に悪い影響を与える――。

私たちはこうした心と体の関係について、なんとなく理解をしていると思います。それが明確なデータとなってあらわれたのが、2011年3月11日に発生した東日本大震災によって避難を余儀なくされた、福島県民の健康調査です。

私は医師としてこの調査にかかわってきました。それでわかったのは、避難した人々は怒り、不安、ストレスの増加がみられたうえで、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病全般が増えたことです。

たとえば肥満。全国的にみると、肥満の割合はここ10年間変化がありません。ところが福島県の避難者では、震災前と震災後の肥満者の割合は、男性で32.8%から42.6%に、女性では30.5%から35.9%と大幅に増加しています。同じ福島県でも、非避難者は震災前と後では男女それぞれ2.9ポイント、1.8ポイント増加しているにすぎません。

こうした負の感情と生活習慣病全般との密接な関係は、福島の避難者に限った話ではありません。

私はこれまで主に怒りをテーマに研究を続けてきました。

私の医師としてのスタートは、心療内科でした。心療内科を訪れる患者さんと接するうちに、怒りを我慢している人が多いということに気づきました。そういう人たちは年齢が若くても血圧が高いという点も気になりました。

そこで文献を調べてみたところ、怒りと高血圧との関係については古くから実証データが発表されてきていました。怒りの感情は、すべての感情の中で最も血圧を上げるのです。

私たちが行った研究でも、同様の結果が出ました。怒りの強い人は、心筋梗塞や脳梗塞など血管が詰まる病気のリスクが、強くない人の2.9倍も高かったのです。

怒りの出し方についても研究が進んでいます。端的にいいますと、怒りを表に出す人よりも、怒りをため込む人のほうが、血圧が上がりやすいということもわかってきました。

怒りを表に出すと一時的には血圧が上がりますが、ストレスを発散したことで爽快感を得られます。それに対して怒りを出さずにため込んでいますと、ストレスを発散できないままで、怒りの感情を忘れることはありません。思い出してはまた怒りを感じる。それを繰り返すことで、ジワジワと血圧が上がるというのが問題です。

怒りは、そもそもは急性的な感情です。ところがうまく発散できずにため込んでしまうと、慢性化してしまうのです。怒りが慢性化すると脳が疲弊し、なにをしても無駄だという虚無感に襲われます。それが進むと、うつを引き起こしてしまいます。

■ストレス状況の高い職場にいると、脳卒中のリスクが2.73倍に

怒り以外でも、病気のリスクを高める感情があります。

たとえば敵意性。怒りに近い感情ではありますが、これは相手に対し敵意を持つという態度であり、相手を攻撃的にライバル視するイメージです。この感情が強い人は、循環器疾患、特に心筋梗塞になりやすい傾向があります。

加えて敵意性の強い人は、体内の抗酸化物質が減りやすいこともわかってきました。抗酸化物質は、活性酸素の働きを抑制したり活性酸素を取り除く役割を果たします。それが減ってしまうと病気にかかりやすく、老化が進みやすくなります。

不安も、健康にはよくありません。不安を感じた人は、それを解消させる作業が必要になります。人間というのは本能的に、食べると落ち着きます。お腹がいっぱいになると、不安な気持ちも解消されて落ち着いてくるのです。これが過食を引き起こしてしまうこともあります。

ストレスが免疫を下げることは知られてきましたが、それ以外にも大きな問題を引き起こします。ストレス状況の高い職場にいると、脳卒中のリスクが2.73倍になるというデータが発表されているのです(図1。Tsutsumi A,et al. Arch Intern Med. 2009)。またストレス状況の高い職場では、4.1倍も自殺しやすいというデータもあります(図2。Tsutsumi A,et al. Psychother Psychosom. 2007)。

【図表】職業性ストレスと脳卒中の関係
【図表】職業性ストレスと自殺の関係

このように体に悪影響を与える負の感情を少しでも取り除きたい。そのためには「我慢」をしないことが重要なのです。

■医師の言うことをよく守る患者と、守らないわがままな患者。どちらが長生きか

がん治療にあたっている医師が、面白いことを言っています。

がん患者には大きく分けて2種類のタイプがあるそうです。1つ目は、医師の言うことをよく守ってくれる患者さん。2つ目は、医師の言うことを守らないわがままな患者さん。

同じがん患者ですが、後者のほうが長生きをするというのです。これには明確なエビデンスはありませんが、どうも間違いないようです。

医師である私は、「医師の指示をまじめに聞く必要はない」とは言い難いのですが……。「○○はやってはいけません」という指示をまじめに聞いて自分の中でストレスをため込むよりは、やりたいことをやって発散させたほうがいいようです。

これまでの研究で、がんの発症と心理的要因とには直接的な関係がないことがわかっています。しかし、がんと宣告された予後に関していえば、心理的要因が影響をするようです。がんと言われた後、多くのソーシャルサポートを受ける人、前向きにとらえることのできる人、怒りをはじめとする負の感情を持たない人は、予後が良いケースが多いのです。がんと言われて不安になり日々を恐れて過ごすよりも、気分を切り替えてパッと楽しく暮らす人が、長生きできるのです。「人生を楽しむ」ことは、長生きの秘訣でもあるのです。

40歳から69歳の日本人男女8万8175人を対象にした調査があります(Shirai K, et al Circulation, 2009)。生活を楽しんでいるかどうかを尋ねたうえでの追跡調査で、「楽しんでいない」と回答した人は、「楽しんでいる」と回答した人に比べて、12年間に循環器疾患で亡くなるリスクが2倍近いということがわかったのです。

人生を楽しむことが大切だとはわかっていても、実際には、年齢を重ねていくにつれて、やりたいことを我慢することが増えていくでしょう。医師から指導を受けたり、あるいは健康常識にのっとって、食べるのを我慢したほうがいい物が増えたりします。また、「いい年をしてこんなことをやったらみっともない」という自制の気持ちが働いて、やりたいことを我慢することもあるでしょう。

好きな食べ物についての我慢ということでしたら、トレーディングという方法をとればいいと思います。

たとえば「塩分を減らしてください」と指導されても、塩気のあるものを食べたいという人がいることでしょう。そういう人はカリウムやカルシウムをたくさん摂取することで、塩分を体外に排出しましょう。野菜や海藻、豆腐などをたくさん食べるのです。体に良い物を摂ることで、悪い物を摂ったことを相殺するというやり方です。

カロリー摂取量を減らすよう指示されても、どうしても甘いものを食べたいという人もいるでしょう。そういう人は運動をしてカロリー消費量を上げて相殺するといいでしょう。

食べ物以外のやりたいことへの我慢はどうでしょうか。

深酒やヤケ酒は勧められませんが、適度な飲酒はむしろ循環器疾患を予防する効果も期待されます。

ただし、一人で飲むことはできるだけ避けたほうがいいです。一人で飲むのと皆でワイワイと盛り上がって飲むのとでは、脳卒中発症のリスクが異なるからです。一人で飲む場合は、皆で飲むときと比べ、少量のアルコールでも脳卒中リスクが高くなるのです。これは明るく人と話すことで、ストレスを健全に発散できるからだと考えられています。

公的なギャンブルや法律の範囲内の性風俗を楽しむことも、問題はありません。それでストレスをうまく発散すればいいのです。

とはいえギャンブルに関しては、依存症になりやすいタイプの人がいますので注意が必要です。飲酒について適切な量を守ることが大事なように、ギャンブルも適度に楽しんで終わることができるかどうかが大事です。

性風俗も、パートナーのいるいないで異なってくるでしょう。ただ「性」というものは、人間にとって大切な本能であることは間違いありません。

■阪神タイガースの熱狂的なファンと一緒に大声で応援するうちに、うつが治った

前述の福島県の被災地域での調査で、興味深い点がありました。被災地域の人は他の地域の人と比べ、笑いは少ない、ストレスは多い、過食気味、不眠に悩むなど多くの違いが見受けられました。しかし「異性への興味」だけは、他の地域の人と変わらなかったのです。それだけ「性」は、人間にとって大事な本能的欲求といえるでしょう。その本能が失われることは、よほどのこと。生命維持能力が落ちてきていることだと思います。

負の感情をため込まないためには、一時的に脳を“からっぽ”にしてリセットすることが大切です。そのための方法をいくつか紹介します。

まずは、大声で笑うこと。クスクス笑いではなく、大笑いです。

山形県の40歳以上の男女1万7152人を5年以上経過観察した調査によりますと、「月に1回未満しか声を出して笑わない人」は、「週に1回以上、声を出して笑っている人」と比べ、5年後に亡くなる確率が2倍近くにアップしたのです(図3。Sakurada k, et al. J Epidemiol. 2019)。

【図表】笑いの頻度と死亡との関係

反対に泣くことも、負の感情を発散させる効果があります。これも笑いと同じように、シクシクシクシクと考えながら泣くのではなく、頭をからっぽにさせるような大泣きがお勧めです。

カラオケで絶叫するように歌うことも、脳のリセットに役立ちます。

私が行っている方法は、運動です。1時間ほどかけて10キロメートルくらい走るのですが、ちょっと苦しくなってくると何も考えなくなるのですね。そうなると本当に気持ち良くなってくるのです。

スポーツ応援やいわゆる“推し活”も、脳のリセットに役立ちます。

2年間ほどうつで悩んでいた人が、あるときから阪神タイガースのファンになり甲子園球場に通うようになりました。熱狂的なファンと一緒になって大声で応援するようになったところ、うつが治ったというのです。応援に熱中する間、日常のことを忘れることができた効果でしょう。

同じように、韓国俳優のファンになって“推し活”をしたところ、うつが良くなったという女性もいます。

非日常空間に身を置くということが、日常生活を忘れ、負の感情のリセットに役立つわけです。

映画を観たいと思ったなら、映画館に行きましょう。自宅でDVDや配信動画を観ていてもリセットにつながりません。同じように、ちょっと高級なレストランでの食事も大切です。どんなに美味しい料理であっても、取り寄せたりテイクアウトをして自宅で食べたのでは、日常の延長にすぎません。おしゃれをして高級レストランのテーブルで食べてこそ、意味があるのです。旅行をするなら、日帰りではなく宿泊を伴うものにしましょう。

自分が日常を忘れてまで熱中できるものはなにか。それを見つけて、我慢することなく楽しむ。それこそが健康を招いてくれるのです。

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大平 哲也(おおひら・てつや)
福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授
専門は疫学、公衆衛生学、予防医学など。心理的健康と生活習慣病との関連、運動や笑いを使ったストレス解消法などの研究で知られる。日本笑い学会理事も務める。

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(福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授 大平 哲也 構成=菊地武顕 図版作成=大橋昭一)

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