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日本人だけが知らない事実…世界三大古戦場に「関ヶ原」がランクインしている納得の理由

プレジデントオンライン / 2023年9月13日 10時15分

「関ヶ原合戦屏風」、江戸時代後期(画像=岐阜市歴史博物館蔵収蔵/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)

関ヶ原は、ワーテルロー(ナポレオン戦争)、ゲティスバーグ(アメリカ南北戦争)と並んで「世界三大古戦場」に選ばれている。なぜなのか。直木賞作家の今村翔吾さんは「あれだけ狭い場所に約17万の軍勢が集まったのは世界史的に稀有な出来事であり、海外では軍関係者を中心に関ヶ原の戦いを学んでいる人が少なくない」という――。

※本稿は、今村翔吾『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

■ロシアのウクライナ侵攻の根はチンギス・ハンが作った

2022年2月、ロシアがウクライナに軍事侵攻して、世界に大きな衝撃を与えました。日本でもこの戦争への関心は高く、報道に心を痛めている人はたくさんいます。ニュースでは街頭インタビューなどで、「早く戦争が終わってほしい」と願う人の姿がたびたび報じられています。

では、同じ街頭インタビューで、「なぜロシアはウクライナに軍事侵攻したのですか?」と聞いたとしたらどうなるでしょうか。70〜80点レベルの回答ができる人は、非常に限られるのではないかと思います。

日本人は知的レベルが高いとされてきたはずなのに、情報があふれすぎているせいなのか、物事を深く知ろうとする意欲が薄れてきているように感じます。大切なのは「どうしてこうなっているのか」に関心を持って調べること。まずは知識を持つことが、深い議論につながります。

私の解釈では、ウクライナ戦争に関わる発端の重要人物の1人は、チンギス・ハンです。「究極のところ、チンギス・ハンのせいで今、戦争していると思ってくれたらいいわ」というと、若い世代の人たちは、けっこう興味を持ってくれます。

■モンゴル帝国に叩きのめされた西洋の騎士

チンギス・ハンは13世紀に騎馬民族同士の争いに終止符を打ち、民族を統一してモンゴル帝国を建設しました。モンゴル帝国は中国全土を支配しただけでなく、さらに遠方へと遠征を行い、北はモスクワ、南はベトナム、そして西はポーランドまで版図(はんと)を拡大。一時はドイツとフランスに攻め込み、これを領土にしかねない勢いで世界地図を塗り替えていきます。

セルゲイ・イワノフ画「バスカク」(1902)
セルゲイ・イワノフ画「バスカク」(1902)。ロシアがモンゴルの支配下にあった「タタールの軛(くびき)」時代、バスカクと呼ばれたモンゴルの徴税官がロシアの市場を訪れた様子が描かれている。(画像=CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)

このときにロシアもウクライナもモンゴル帝国の支配下に置かれていたのです。資料を見ると、西洋の騎士たちが団結してモンゴル帝国に立ち向かうものの、完膚なきまでに叩きのめされていることがわかります。

■240年間もの従属が生んだ歪み

一方で、モンゴル帝国の後裔(こうえい)の一国である元は、東側にも侵略を試み、海を渡って日本に上陸します。これが「元寇」の始まりです。日本は文永の役(1274年)と弘安の役(1281年)と二度にわたって元の侵略を受けますが、いずれも退けることに成功しています。元寇について教科書で学んで知っている人は多いのですが、西側はポーランドまで侵攻していたと知ると、モンゴル帝国の巨大さがイメージできます。

また、ヨーロッパがモンゴル帝国に蹴散らされていたのと比べて、日本がモンゴル帝国に勝利していたというのも見逃せないポイントです。「神風」といわれる大暴風が吹き荒れたなどの理由もありますが、結果的に見ると、当時の日本の軍事力が世界的に見て高い水準にあったことがわかります。

ロシアがモンゴル帝国に征服されてから独立を回復するまでの、約240年にわたる時代を「タタールの軛(くびき)」といいます。これはモンゴル帝国に税金や貢租(こうそ)を納めさえすれば、ロシア人に一定の自立性を認める間接支配のことです。

乱暴にまとめていえば、もともと別の国、別の文化圏であり、別の宗教であった場所を、モンゴル帝国が一緒くたに統一してしまったことが、ある種の歪みを生んだのではないかと思います。

■ロシアの行動の背景にあるトラウマ

私たち日本人は、欧米人から中国・韓国人とほぼ一緒のように見られがちですが、実際には日本人も中国人も韓国人も、それぞれ別の文化を持つ独立した存在であると自覚しています。同じように、私たちは何となく「ヨーロッパの人たち」というイメージで一括りにしがちですが、ヨーロッパの人たちもそれぞれのアイデンティティを持っているわけです。

そういったアイデンティティはたとえ他国に征服されたとしても、消えずに残っていて、どこかのタイミングで沸々と発芽するのかもしれません。

ロシアにとって「タタールの軛」は大きなトラウマであり、これが周囲からの包囲を極端に恐れる臆病さや、攻撃的な姿勢を生み出しているともいえます。モンゴル帝国による支配の歴史を学ぶには『蒼き狼』(井上靖著)や『チンギス紀』(北方謙三著)のシリーズがおすすめです。特に『チンギス紀』ほど、チンギス・ハンという人物を掘り下げた作品を私は知りません。

こうした作品を読んで知識を身につけておけば、さまざまな角度から議論ができます。戦争の問題については、ただ非難するだけでなく、歴史を学んで語ることも重要でしょう。

■グローバル時代だからこそ自国の歴史を学ぼう

「もはや海外に出て働く時代だから、日本の歴史を学んでも仕方がない」。グローバル化が進んだ現在、日本国内でもそう考える人が増えているようです。

今村翔吾『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)
今村翔吾『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)

しかし、海外の人と実際に交流してみると、みんな自分たちのルーツを大切にしていることに気づきます。自国の歴史を大切にしているからこそ、独自のアイデンティティを活かしながら世界に価値を発揮していけるわけです。

私も海外の人と話をするときに、自然とお互いの国の歴史について意見交換をすることがあります。以前、アメリカの留学生から「なぜ日本に武士はいなくなったの? てっきり今もいると思っていたんだけど……」と聞かれ、説明に往生した経験があります。

「武士は今から150年近く前にいなくなったんだよ」
「じゃあ、いったい誰が武士を倒したの?」
「明治という政府を作った人たちだよ」
「その明治政府の人たちは、どこからやってきたの?」
「彼らも武士だったんだよ」
「えっ? 武士が武士を倒したってこと? 武士を倒した武士は、いつから武士をやめたの?」

■自国の歴史を知らなすぎる日本人

そもそも明治維新は、世界でもかなり稀有な革命です。海外の革命によくあるような時の権力者の命を奪うという形ではなく、強烈な自浄作用というか、自分で自分を食べて生まれ変わるような形で政治体制の変革がなされたわけです。海外の人にはイメージがつきにくく、わかりやすく説明するのは至難の業です。

「箱館大戦争之図」
新政府軍と旧幕府軍との最後の戦闘となった箱館戦争を描いた錦絵、「箱館大戦争之図」。永嶌孟斎画、1880年ごろ。(画像=『筆と刀、日本の中のもうひとつのフランス1872-1960』/PD-Art/Wikimedia Commons)

そう考えると、最低限の知識を学んでおかないと、海外で日本について教えることもできず、「自分の国のことも知らないの?」と軽蔑される可能性が高いです。

日本ではよく、外国の人に対して「歴史認識の違い」という言葉を使うことがあります。もちろん歴史を十分に知った上で指摘している人もいるのでしょうが、他国と比較して日本人が歴史に詳しいかというと、そんなことはありません。

むしろ日本人が自国の歴史に疎すぎるせいで、海外の人のほうが日本の歴史を知っているという逆転現象も起きているくらいです。

世界ではいろいろなことが「3大○○」という括りで紹介されていますが、「世界三大古戦場」には、関ヶ原の戦いの「関ヶ原」がランクインしています。あれだけ狭い場所に約17万の軍勢が集まったのは世界史的に稀有な出来事であり、海外では軍関係者を中心に関ヶ原の戦いを学んでいる人が少なくないのです。

「関ヶ原の戦いは特異な戦いだと思うけれど、君はどう考えているの?」。海外の人からこんな質問をされたとしたら、あなたはどう答えるでしょうか。「答えられないのは日本人として恥ずかしい」とまでは言いませんが、歴史小説をある程度読んでいれば、それなりに自説を主張できるはずです。

■最低でも読んでおきたい歴史小説10冊

海外に出る人こそ、日本の歴史を学んでおくべきだと思います。そこで外国の人と歴史の会話になったときに恥をかかないために、最低でも読んでおきたい歴史小説を10冊挙げてみました。

1『国盗り物語』(司馬遼太郎著) 斎藤道三と織田信長を扱った作品です。アメリカやカナダなどでは織田信長の人気が高いのですが、これを読んでおけば信長について自信を持って語ることができるはずです。

2『徳川家康』(山岡荘八著) アジア圏、特に中国や韓国では家康への関心が高いので、この作品を押さえておけば間違いないでしょう。

3『翔ぶが如く』(司馬遼太郎著) 視点は薩摩に傾いていますが、幕末から明治期を通史的に知る上でぜひおすすめしたい作品です。

4『沈黙』(遠藤周作著) 海外にもよく知られている日本の歴史小説の筆頭です。日本人のキリスト教観をよく伝えており、読んでおいて損はありません。

5『炎環』(永井路子著) 日本初の女性リーダーともいえる北条政子の生涯を描いています。

6『平将門』(海音寺潮五郎著) 平安時代の中央主権を目指す朝廷と、日本の地方の実態を描いているという意味で、当時の日本という国をよく知ることができると思います。

7『白村江』(荒山徹著) 「白村江の戦い」について、名前だけは聞いたことがあっても、詳しく知らない人が意外と多いはずです。この作品から古代の日本と中国の関わりが見えてきます。

8『聖徳太子』(黒岩重吾著) 日本の国の成り立ちを知ることができる入門書ともよぶべき物語です。政治家として成長していく聖徳太子の姿を少年期から描いており、感情移入することができます。

9『大義の末』(城山三郎著) 主人公は第二次大戦期の軍国青年。近現代史に触れるならこの作品です。城山三郎は、この作品を通じて天皇制についても考察しています。

10『樅ノ木は残った』(山本周五郎著) 江戸前期の仙台藩伊達家で起こったお家騒動を題材にした物語です。江戸時代の「藩」というものがどういうものであったかをつかむにはよい作品です。

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今村 翔吾(いまむら・しょうご)
小説家
1984年京都府加茂町(現・木津川市)生まれ。関西大学文学部卒。小学5年生のときに読んだ池波正太郎著『真田太平記』をきっかけに歴史小説に没頭。32歳のとき『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』でデビュー。2022年『塞王の楯』で第166回直木三十五賞受賞。著書に『イクサガミ 天』『イクサガミ 地』(いずれも講談社文庫)、『八本目の槍』(新潮文庫)、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)など。

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(小説家 今村 翔吾)

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