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早めのウインカーは格好悪い…岡山県を「人口当たりの死亡事故が全国最悪」としている岡山ルールの恐怖

プレジデントオンライン / 2023年9月14日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide

岡山県は人口10万人当たりの交通事故死者数が3.94人(2022年)と全国最悪となっている。どこに問題があるのか。岡山出身のライター、昼間たかしさんは「岡山県では、ウインカーを出さずに車線変更や右左折する車が多い。こうした危険な運転が後を絶たないのは、岡山人の気質が関係しているのではないか」という――。

■なぜ「岡山ルール」は広まったのか

「岡山ルール」という言葉がある。全国各地で運転マナーの悪さが目立つ地域では、それぞれ地名を用いた呼称がある。

もっともよく知られるのは「名古屋走り」だろう。交差点で信号機が黄信号になっても、止まることなく進入、時には赤でも侵入する行為がその典型として知られている。

「岡山ルール」も、同じく運転マナーの悪さを示す言葉だが内容が異なる。

典型的な「岡山ルール」とされるのが、交差点で曲がる時にウインカー(方向指示器)を出さない。あるいは、曲がる直前に一瞬だけ出す行為のことである。もちろんクルマが曲がる時にウインカーを出さないのは、明確な道路交通法違反(合図不履行違反)である。

ウインカーの使用方法
右左折……交差点などで右左折しようとするときは、右左折する地点の30メートル手前からウインカーを点滅させ、右左折が終わるまで点滅させる。
車線変更(進路変更)
車線変更(進路変更)をする3秒前にウインカーを点滅させ、車線変更(進路変更)が終わるまで点滅させる。
※このほか、転回、徐行、停止、後退においても行為開始から終了まで点滅させる。

免許を取得する際に自動車学校で教わる基本中の基本、にもかかわらず岡山人はウインカーを出すことを拒むのだ。

■日本でいちばん「ウインカーを出さない県」と言われるワケ

JAF(日本自動車連盟)が、2016年に実施したアンケート調査(全国6万4677人が回答、うち岡山県内在住者970人)で「方向指示器(ウインカー)を出さずに車線変更や右左折する車が多い」という設問に、岡山県では53.2%が「とても思う」と回答している。全国平均は29.4%で、岡山県が全国で最も割合が高かった。

さらに「あなたのお住まいの都道府県の全般的な交通マナーについて、どう思いますか?」という設問で「悪いと思う」と回答したのは44.1%、「とても悪いと思う」は14.5%。いずれも、全国平均をはるかに超えた。

2020年にJAFが実施した「信号機のない横断歩道」での一時停止率は、岡山県が7.1%だった。宮城県の5.1%、東京都の6.6%に次ぐワースト3位だ。全国平均の21.3%の約3分の1である。

ちなみに、一時停止率はもっとも高い長野県は、72.4%。信号のない横断歩道で歩行者がいたらクルマの方が止まるのが当たり前。この差を知らずに長野県民が岡山に来たら、危険極まりない。

しかし、岡山の問題はこれだけではない。交通マナーが悪いことを自覚しながらも、他人事なのである。2016年に岡山県警が実施したアンケート調査では、ルール違反が目立つ行為として、72%の人がクルマが「合図(ウインカー)をしない、合図が遅い」と答えている。ところがその一方で76%が「毎回出している」と回答しているのである。

おそらくは普段はウインカーを出さない、直前に出しているにもかかわらず、涼しい顔で「毎回出している」と答えている人が多いのではあるまいか。

岡山駅前
筆者撮影

■岡山県警の頭を悩ませてきた運転マナーの悪さ

岡山人の運転マナーの悪さは、いつから始まったのか。そもそも、日本の国産自動車は岡山県発祥である。1904年5月に、当時の岡山市にいた山羽虎夫という発明好きの技術者が、蒸気動力で動くクルマを製作したのがはじまりだ。

これは試作だけで終わったが、1914年には岡山でも輸入自動車を用いて乗合自動車(バス)事業が始まっている。さらに、1916年には初めてハイヤー(タクシー)が現れた。

使われたクルマは中古のフォード、米一升が50銭の時代に、1時間70円の料金で大いにはやった。が、その運転手は飲酒運転をして事故死したという記録が残っている。なるほど、岡山では黎明(れいめい)期から既にドライバーにルールやマナーを遵守する風潮が欠けていたのかもしれない。

ともあれ、過去30年あまりに限っても、岡山の交通マナーは「悪い」ことで一貫している。1998年に岡山県警がおこなった調査では、県民の37%が「交通マナーは悪い、非常に悪い」と回答している。この時期、岡山の交通事情はさらに悪かった。

1997年当時で岡山県では人口10万人あたりの死者数は11.6人もいたのである。そこで、岡山県警では毎日1000人の警察官(当時の県内の警察官の3分の1)を動員し、連続100時間にわたって街頭で検問と監視を行い事故を防止する施策をおこなっている。

しかし、これはまったく実を結ばず施策を実施していた100時間の間にも事故で4人が死亡する惨憺(さんたん)たる結果に終わっている。

路面電車も走る岡山の道路
筆者撮影

■「★合図」の路面標示を独自に作ったが…

それでもなお、事故を減らすための対策は次々と打ち出された。

2005年には岡山国体を控え、交差点の手前約30メートルの地点に、ウインカーを出すポイントを示す路面表示【★合図】を県内約30カ所に設けた。横断歩道の停止線を従来の2メートルから5メートルまで後退させる【愛ライン】も岡山県独自の取り組みである。

また、横断歩道がないのに道路を横断する人が多い地点では「横断注意」を対処した看板を設置している。最近は各地で見るようになった、信号無視しようとすると警告音声が流れる信号機も、2012年に岡山で初めて設置されている。

岡山県「道路標識と道路標示」より
出典=岡山県警 交通部交通規制課「道路標識と道路標示」

その結果が2022年の人口10万人当たりの交通事故死亡者数は3.94人となったのである。前述のように1997年は11.6人だったのだから激減ともいえるが、依然として47都道府県で最悪であることは間違いない。

やはり、全国ワーストの原因は岡山人の気質に拠る部分が多いのではあるまいか。

【図表】2022年の人口10万人当たりの交通事故死亡者数 都道府県別ランキング 警察庁「令和4年中の交通事故死者数について」より
出典=警察庁「令和4年中の交通事故死者について」の「3都道府県別交通事故死者数」より作成 

■県警本部長「取り組みはまだ道半ば」

運転マナーの悪さは、岡山県議会でも度々取り上げられている。2020年2月の県議会では県議が、前述のJAFが実施したアンケートを採り上げ「メディアでも,岡山走りと紹介されるほどであります」と指摘した。

これを受けて、桐原弘毅・県警本部長(当時)は「岡山県に限ったことではありませんが、自動車等の運転はちょっとした不注意やささいなルール違反が重大な結果を招く危険があるにもかかわらず、その意識が足りないドライバー等が少なくないと感じており、交通マナーアップの取り組みはまだまだ道半ばであると考えております」と、まだ対策が不十分であることを認めている。

実にこうした答弁は、過去県議会で幾度も繰り返されているのだが、岡山人の運転マナーが改善する気配はいっこうにない。

むしろ「昔に比べると、だいぶマシになった」とすら思っている。

これはある意味事実である。昭和後期から平成初期にかけては、岡山では飲酒運転も大きな問題として取り上げられている。この頃は全国的に飲酒運転への意識が低かったことを記憶している人も多いだろうが、岡山はかなり意識が低い。1991年12月の岡山市議会の会議録には、最近の不祥事の例として「職員が飲酒運転で検問から逃走」という発言が記されている。しかも処分は停職5カ月である。ウインカーどころではない、危険な運転がはびこっていたのは容易に想像ができる(しかし、それが当たり前だったためか筆者には危険だったという記憶はない)。

なぜ、メディアで恥が報じられ、啓発活動がおこなわれても岡山人の運転マナーは改善しないのか。岡山人に運転マナーの話題を振ると、ウインカーを出さないことなど、よく知られる問題点を語った上で、こういうのだ。

「でも○○ナンバーのクルマは、もっと酷い」

■背景にあるねじくれた個人主義

○○に入るのは、自分たちとは別の地域名である。岡山ナンバーのドライバーなら、倉敷ナンバーを批判するという具合に、相互に批判し合う。そのノリはマンガに出てくるヤンキー同士が学校ごとに対抗心を燃やしているのに近い。挙げ句には手に姫路ナンバーなど隣接する他県のドライバーに対しては、お互いにわが意を得たりと共感するのである。

これはもう、理屈ではなく気質の問題と断じるしかない。

岡山人の特徴として個人主義的な傾向は、よく指摘されるところだ。個人主義的な気質を持つ地域はほかにもあるが、岡山人が特徴的なのは、自分以外の他者を愚かな存在としてみる傾向だ。その県民性を現す象徴的な言葉が、ジャーナリストの大宅壮一が1958年に『文藝春秋』で連載した「日本の人物鉱脈」で記した「日本のユダヤ」という指摘である。

ユダヤの人々には失礼な話だが『ヴェニスの商人』に登場する悪徳商人・シャイロックに岡山人をイメージしているのである。だが、これは大宅の造語ではない。大宅が取材のために出身者を招いたところ、この言葉を発して同県民の悪口に終始したのだという。

■「ウインカーはちゃんと出してますよ」

この精神性が運転に反映されている。多くの岡山人は、自分自身はマナーを守っているのに、周囲のクルマがそうしていないと頭から信じ切っているのである。ならば、ウインカーもきちんと出せばいいと思うのだが、これはどういうことか。

岡山人に聞いてみると、こんな話が。

「ウインカーはちゃんと出してますよ。でも、何十メートルも前から出すことはないです。曲がる直前にサッと触るくらいですね」

どうも、ウインカーを交差点の直前で出すイコール運転が巧みという思考がある人もいるようだ。さらに別の人に聞いてみると

「ウインカーに指が触れただけでドライバー本人は出した気になっている例も多いんじゃないですか」

それでも、事故にならない限り問題はないというのが、岡山人の標準的な思考のようだ。

こうした元来の思考に輪を掛けて、ルールの改善を阻んでいるのは、岡山人特有の反権力性だ。岡山人には、長いものに巻かれたり、大樹に拠ることを拒否し、わが道をゆくことを賞讃する風土が連綿と続いている。決まったルールに反した横紙破りにロマンを感じるのである。

つまり、インターネットなどで「岡山ルール」と揶揄され、批判されるほどに交通ルールを遵守する気を失っていくのである。

岡山市中心街の道
写真=iStock.com/stevegeer
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stevegeer

■クルマだけではない、マナー無用の道路事情

最後に言及しておきたいのは、「岡山ルール」で指摘される運転マナーの悪さ以外にも、岡山には多くの問題があることだ。ドライバーのみならず、自転車、歩行者、おおよそ道路を利用しているすべての人々のマナーが悪いのである。

とりわけ平坦な地形で自転車の利用が盛んな岡山市では、交通マナーといえばクルマよりも自転車の問題のほうが取りざたされていた。無灯火や信号無視、歩道を猛スピードで走行することはたびたび問題視されていた。

中でももっとも問題とされていたのは、駐輪である。2023年の現代では自転車は駐輪場に止めることが常識だ。しかし、岡山に限っては、この意識が定着してまだ10年ほどだろう。

それまで岡山人は、自転車は歩道に止めるのが常識だった。おおよそ繁華街の歩道は道幅の半分以上が駐輪場となっているのが当たり前、商店も「自分の店前の道はうちの駐輪場」として扱っていた。デパートなどの商業施設では駐輪場を整備するところもあったが、店先までの乗り付ける快適さをやめる人は少なかった。

当然、警備員がやんわりと注意することもある。しかし、大抵の岡山人は「わしゃ、ずっとここに止めとるんじゃ‼」と逆ギレしていた。40代以上の岡山人なら、天満屋・高島屋・トポス周辺のこの光景をよく覚えているはずだ。

■岡山出身としてこれだけは言わせてほしい

歩行者も交通マナーの意識は弱かった。今でも桃太郎大通り(岡山駅前から続く目抜き通り)には、横断禁止の標識が立っている。こんな片側2車線で交通量の多い道路で、横断歩道のないところを無理矢理横断しようとする人はにわかには想像し難い。

だが、筆者が小学生の頃(1980年代)には、よくみられた。危険を避けるために歩行者用横断歩道を廃して歩道橋や地下道を整備していた通り(自動車、自転車用の信号機だけ残る)では「あんな面倒くさいもの使えるか」と、マナーを守って利用する人を嘲笑する風潮もみられた。

小学校では「歩道橋を使いましょう」といった指導はされるのだが、そもそも親が使わないのだから、子供が使うはずもなかった。こうした意識で育ってきた人々が長じて、ハンドルを握っているのである。交通マナーが悪いのは、当然だ。

だから、岡山では、いくらドライバーにマナー遵守を呼びかけたところで対策には限界がある。自転車や歩行者も含めて、ゼロベースでマナーを教えていくのが肝要だろう。

岡山の交通マナーの改善は一朝一夕には進まないのは間違いない。他県から岡山に来た人には、十分に注意してもらいたい。

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昼間 たかし(ひるま・たかし)
ルポライター
1975年岡山県生まれ。岡山県立金川高等学校・立正大学文学部史学科卒業。東京大学大学院情報学環教育部修了。知られざる文化や市井の人々の姿を描くため各地を旅しながら取材を続けている。著書に『コミックばかり読まないで』(イースト・プレス)『おもしろ県民論 岡山はすごいんじゃ!』(マイクロマガジン社)などがある。

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(ルポライター 昼間 たかし)

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