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「最高裁の判決より重い」妻から下された絶望の審判…自宅敷地内全面禁煙になった私が興味を持ち始めた場所

プレジデントオンライン / 2023年10月10日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/juststock

■2択問題でポイ捨てがなくなる

私と同じ愛煙家の読者は、この夏をいかがお過ごしだろうか。喫煙に対する風当たりは過去最高に厳しくなっており、街中で喫煙所を見つけるのもひと苦労だ。この酷暑の中で喫煙所を探して歩き回っていては、熱中症の危険もある。やっと見つけた喫煙所が屋外にあると、さらに熱中症のリスクが高まる。この夏はたばこを吸うのも命がけの暑さである。

どこかに安全にたばこを吸える場所はないか……と思っていたら、実にユニークな取り組みが見つかった。

喫煙所ブランド「THE TOBACCO」を運営するコソドが展開している「投票型喫煙所ASK THE TOBACCO」という事業である。灰皿に「同じ値段で買うなら田舎の100坪と都会の1坪どちらがいいか」「永遠の愛を持った一文無しと、永遠に孤独な億万長者ならどちらがいいか」といった二者択一式の質問が書かれていて、たばこを吸ったあとの吸い殻をどちらかの答えの下の穴に入れて「投票」するというものだ。灰皿はガラス張りになっており、どちらの答えが優勢なのか、誰でも確認することができる。

実にうまい手だと思う。答えても自分の得にならないとわかっていても、こうした質問が設けられていると、ついつい興じてしまうのが人間の性(さが)だ。これは、行動経済学におけるナッジ効果を狙ったものだと思われる。

「nudge」は英語で「行動をそっと促す」という意味で、ナッジ効果とは、経済的なインセンティブや罰則などの強制力を使わずに、小さなきっかけで人の行動変容を促すことである。この理論を提唱したシカゴ大学のリチャード・セイラー教授が2017年にノーベル経済学賞を受賞したことで関心が高まり、ナッジ効果を応用した事例が激増した。

たとえば、コンビニでレジ前の床に足跡マークが貼られてあるのを見たことがある人は多いと思う。これもナッジ効果を狙ったもので、足跡マークがついていると、「お待ちのお客さまはここに並んでください」とはどこにも書かれていないのに、つい足跡マークのある場所に並んでしまう。店はこれによって、並ぶ人によって動線が塞がれないようにお客さんを誘導できる。

同様に、灰皿に質問をつけることで、吸い殻を道路にポイ捨てせずに、きちんと灰皿に入れる効果が期待できるのだ。この投票型喫煙所を渋谷センター街にある宇田川クランクストリートに設置したところ、設置前に比べてポイ捨てがなんと90%も減少したという。吸い殻だけでなく、ペットボトルや空き缶のゴミも減少したという。このほかにも、横浜駅西口商店街や松本駅周辺でも実証実験が行われ、同様にゴミの削減効果があったという。ポイ捨ての抑止と同時に、マーケティングのデータ集めまで一緒にできてしまうとは秀逸なアイデアだと言わざるをえない。

オーストリアの投票型喫煙所
写真=iStock.com/Elena Ivanova
人気ゲーム「スーパーマリオ」の生みの親として知られる任天堂の代表取締役 フェロー・宮本茂氏は「アイデアとは複数の問題を一気に解決するものである」と語っている。ポイ捨ての解決とマーケティングによる収益化を一挙に解決するこの喫煙所は、まさしく優れたアイデアといえる。(写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Elena Ivanova

そもそも、なぜ私が喫煙所に興味を持ちだしたのかといえば、私の自宅が禁煙になってしまったからだ。これまでベランダでのみ喫煙を許されていた、いわゆるホタル族だったのだが、このたび妻からベランダを含む自宅敷地内での全面禁煙を命じられてしまった。理不尽にも思ったが、妻の決定は最高裁の判決よりも重い。受け入れるしかないのである。妻を持つ読者諸兄には、わかってもらえると信じている。

そういうわけで、以前より街中にある喫煙所が気になる体になってしまった。そして、毎朝早めに官邸に出勤し、建物内のたった1カ所の喫煙所に直行してたばこに火をつけたときが、私が真の意味で目覚める瞬間だ。

■疑問視される宣言の中身

そして、禁煙関連でもうひとつ気になったニュースがあった。日本郵政グループの「禁煙宣言」というニュースだ。この宣言は非常に短いので、全文を見てもらおうと思う。

私たち日本郵政グループは、「お客さまと社員の幸せ」を目指す企業理念の実現に向けて、「日本郵政グループ健康宣言」を定め、健康経営を推進しています。その一つとして、受動喫煙を含む喫煙の健康被害を低減するため、禁煙施策を推進します。日本郵政グループの喫煙率は、国の調査結果と比べて非常に高くなっていることから、禁煙意識の醸成や禁煙にチャレンジする社員へのサポートなど各種禁煙施策に取り組み、社員一人ひとりが能力を存分に発揮し活き活きと働くことができる職場環境づくりを推進していきます。

……とのことだが、具体的な取り組みを見てみると拍子抜けしてしまった。

1.本社を含む一部事業所で毎月22日を「禁煙デー」に設定し、社内喫煙所を閉鎖
2.一部の事業場で「始業から2時間の禁煙」
3.22年度の健康診断結果で血圧や血糖の判定結果が「医療上の措置や精密検査を必要とするもの」に該当した社員のうち、23年度の健康診断で「ハイリスク者」に該当する可能性が高い社員をAIで予測。医療機関への早期受診を促すリーフレットを配付する

この3つだけなのだ。禁煙が行われるのは「一部の事業所・事業場」となっており、具体的に事業所のうち何%がこの施策を行うのか、将来的にどれだけの事業所で禁煙を行う予定なのかという情報は、一切明らかにされていないし、この施策によって、どれだけ健康状態の改善が見込めるか……ということについても触れられていない。これでは、単に「イメージづくりのためにとりあえず禁煙宣言を出した」ともとれてしまう。

■職員のストレスに対処できているか

日本郵政グループのかんぽ生命保険では、営業目標のために顧客に対して保険の二重契約や、無保険期間が生じるような保険や、契約者の支払い能力を超えるくらい大量の保険を契約させるなどした不適切販売問題が19年に表面化した。ひどい例では、1人に対して54件の契約を結ばせていた例もあったようだ。朝日新聞の取材によれば、契約を結びやすい高齢者を「ゆるキャラ」「半ぼけ」「甘い客」などと裏で呼んでいたということも明らかになっている。

この問題は調査報告書の提出と、幹部らの処分によって鎮静化したように見えたが、22年には営業目標を達成するため、「インナー」と社内で呼ばれる自爆営業を促進するような施策が行われていることも報道されている。自分で自社の商品を買わなければいけないほど、プレッシャーをかけられている職員もいるということだ。これでは喫煙だけでなく、飲酒や過食でストレスを紛らわそうとする職員が出てくるのも無理はない。健康診断の結果にも悪影響が出ている可能性がある。

禁煙の前に、こうした職員へのプレッシャーのない組織づくりをする必要があるのではないか。そのうえで、禁煙を希望する社員が出てきたら手を差し伸べるのが、企業としてのあるべき姿といえるだろう。小泉純一郎元首相のもとで私もかかわった郵政民営化とともに誕生した日本郵政グループの動向については注目している。中身の薄い「禁煙宣言」などでごまかさず、経営の健全化に努めてもらいたい。

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飯島 勲(いいじま・いさお)
内閣参与(特命担当)
1945年、長野県辰野町生まれ。小泉純一郎元総理首席秘書官。現在、内閣参与(特命担当)、松本歯科大学特命教授、ウガンダ共和国政府顧問、シエラレオネ共和国名誉総領事、コソボ共和国名誉総領事。

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(内閣参与(特命担当) 飯島 勲)

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