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「学校の先生は不人気職業」は真っ赤な嘘…大企業並の退職金をもらえる"教員ブランド"を貶める"犯人"は誰か

プレジデントオンライン / 2023年10月9日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/eggeeggjiew

最近「先生は不人気職業」という声を聞くようになった。現役の小学校教員の松尾英明さんは「教員採用試験の倍率はピーク時に比べれば下がっているが、試験の受験者数は減っていない。文科省は教員の“不人気説”を打ち破るためにすぐに対策を立てるべきだ」という――。

■本当に「先生は不人気職業」になったのか

「教員不足問題」が大きな話題になっている。

確かに筆者(小学校教員)の周辺も含め、教員の数が不足しているのは否めない。ただそれを踏まえ、教員=不人気という言説をよく耳にするが、そういうわけではない。

文部科学省の公立学校教員採用試験に関するデータで採用試験の倍率をチェックしてみよう。直近までを20年ごとに見ると、1979年3.2倍→2000年12.5倍→2022年2.5倍となっている。

2000年が12.5倍と倍率が異常なほどに高いのは、就職氷河期で採用数が極端に少ない年だったことが大きい。倍率が極端に高まる主な理由は、採用人数が少ないタイミングである。

高倍率が次年度以降も保つ傾向もあるが、それは不合格者が予備軍(講師)として次年度も受験することが多いからである。その結果、高倍率を保てる。

逆に、倍率が落ちるのは、前年度に大量採用して受験予備軍(講師)が減った場合だ。この場合、次年もさらに倍率が落ちる。こちらはボディブローのように、長期にわたりじわじわとその効果が大きくなっていく。理論上、年を重ねるにつれてどんどん有力な受験予備軍である講師人員が減っていくからである。

教員の人気度は倍率だけで見ることはできない。さらに大きな母数である「人口全体」に対して占める受験者層の割合の問題が絡むからである。

今度は、総務省統計局のもつ別のデータと照らし合わせて、新成人の人口推移を見てみる。

新成人の数は、その後で採用試験を受けるであろう人数と相関があるためである。

1979年 162万人
2000年 164万人
2022年 120万人

1979年と2000年は同じ160万人台だが、実は教員採用試験の受験者数は2万7000人減っている。割合で言うと、成人人口として1%程度の増加に対し、受験者数は何と40%近く減った。どんなに倍率が高かろうが、これはさすがに「人気低下」といえるかもしれない。

「かもしれない」というのは、職業の選択肢が増えれば、当然、異なる職種に進む人も多いからだ。また、採用数が極端に少ないと見れば、高倍率の教職を避ける傾向も出てくる。

■公立校教員の退職金は大企業並みの2417万円

目立つのは2000年の164万人から2022年の120万人への27%を超す大幅減である。

では、この2年の小学校教員採用試験の希望者数はどうか。下記の通りだ。

2000年 4万6156人
2022年 4万636人

新成人の総数自体はマイナス44万人であり、20年で3割近くも減っている。これに対して、小学校教員採用試験の受験者総数はマイナス約5500人で1割弱しか減っていない。

つまり母数である新成人全体に対して占める割合で言うと、元の2.8%程度から3.3%程度への上昇である。つまり、新成人の人口に対する割合で考えれば、以前に比べて「小学校教員の人気が落ちている」という分析は正しくない。

以上のような客観的な事実はもっと世間に大いにアピールしていいところである。倍率が下がったから小学校教員が不人気になったという単純な話ではない。単に労働人口総数に対しての、募集人数の割合が大きすぎるだけなのである。

笑顔で学校の廊下を歩く教師と生徒
写真=iStock.com/paylessimages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/paylessimages

現在の学校は、以前にも増して人手がかかるようになった。

まず、特別な支援を必要とする子どもへの対応などにより、支援員の増配置や特別支援学級数の増加ということに対応している。少人数指導の必要性も叫ばれる中、算数のTT(ティームティーチング)などの定数増員もある。つまり、以前よりも子どもの人数は減ったが、1校あたりに最低限必要な職員の数はどんどん増えているのである。

さらにいえば、団塊世代の一斉退職により人員にぽっかり穴があいてしまい、そこへの補塡(ほてん)も急務である。

繰り返しになるが、人気がなくなったという単純な問題ではなく、単に急にたくさんの教職員が必要な状況に陥り、慢性的に大量採用に至っているというのが実情である。

採用試験の受験者人数を見れば、現状でもかなり多くの人が希望してくれているともいえる。厚生労働省によれば、小・中学校教員の平均年収は約698万円で、2021年における民間の給与所得者の平均年収443万円よりも多い。また、公立校教員の定年退職金は大企業並みの2417万円で、中小企業平均の約2倍。もちろんお金に関しては上を見ればキリがないが、確かに安定した職業であり、多くの優秀な学生の進路先の選択肢になっている。

※出典
厚生労働省 職業情報提供サイト「job tag」小学校教員
厚生労働省 職業情報提供サイト「job tag」中学校教員
総務省「令和3年 地方公務員給与の実態」

問題は、文科省や自治体も含めた募集する側が、世間に対して「足りない」アピールが強すぎて、教員不人気というイメージキャンペーンに余計な拍車をかけていることである。

この点で、日本中で最も働き手を必要とする上に職業選択の幅の最も広い東京都においては、今年度ついに小学校教員採用試験で1.1倍という超低倍率を叩き出してしまった。情報に最も敏感で、若者の数の増減の影響を直に受ける大都市ならではの現象である。キャンペーンの影響が悪い方向で直撃しているように思われる。

個人的な思いを言えば、「今こそ教員を目指すチャンス」である。はっきり言って、このご時世で「将来なくならない」と確定されている上に、身分と給与が約束されていて、人を育てるという大きなやり甲斐もあり、必要とされている仕事というのはかなり希少だ。

教員が「足りない」のは事実だが、とにかく「不人気」は強く否定したい。確かに倍率が落ちてはいるがこれも構造上避けがたいことであり、「不人気」とは直結しないのである。

■どくれい忙しいのか、今どきの教員の仕事とは

確かに、教員の仕事は楽とはいえない。業務時間が長いことも周知の通りである。子どもだけでなく保護者への対応を求められる教員の難しさは否定すべくもない事実である。

業務の時間が長くなりがちなのは、そういった対応に費やす面もあるが、特に若手の教員の場合、「より良い授業をしたい」というための授業準備や、部活動指導などへの情熱による積極的な長時間勤務も決して少なくない。

それが問題だと言われたら立つ瀬はないが、少なくとも嫌々残らざるをえない場合とそうでない場合が混在していることは間違いない。こうした点は恐らく、一般企業でも同じではないだろうか。

どんな仕事であっても、真剣にやれば大変さと楽しみの両面がある。「でも学校の先生は楽しいぞ」ということを実感として伝えるのは、現役教員の大切な役割といえる。

現場教員の筆者から、教員志望者を今以上に増やすために文部科学省や教育委員会などに強く要望したいことは次の2点である(→は理由)。

1 学習指導要領の内容の精選及び時数の全面的見直し
→人件費ゼロで全国の全ての教員の全業務の大幅削減につながる
→空き時間ができて残業が減り、現場に必要な人数を減らせる
→新規採用数を減らせる
→倍率の向上を担保できる

2 給与や待遇面を優遇してでも再雇用を増やす
→新規採用数を減らせる
→最低限の倍率を担保できる

要は、たとえ現場の教員数は増やしても新規採用数は極力減らすというのが、教員の「不人気説」を打ち破り、倍率をキープする最も効果的な道となる。それが無理なら現在の業務量を大幅に減らすしかない。

そして再雇用を増やすためには、今働いている人たちが「もう無理」「懲り懲り」と思うような現状は打破し、給与面でも優遇措置をとる必要がある。でなければ、せっかく教員免許を持っていても学校に戻ろうと思わないだろう。

国家100年の計である教育の改革は、低迷する日本を救う最も有効な手立てである。その崇高な使命を果たす尊い職業であることを鑑みて、新生の文科省には大胆な改革を切に望む。

教室で授業を受ける生徒の後ろ姿
写真=iStock.com/hxdbzxy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hxdbzxy

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松尾 英明(まつお・ひであき)
公立小学校教員
「自治的学級づくり」を中心テーマに千葉大附属小等を経て研究し、現職。単行本や雑誌の執筆の他、全国で教員や保護者に向けたセミナーや研修会講師、講話等を行っている。学級づくり修養会「HOPE」主宰。『プレジデントオンライン』『みんなの教育技術』『こどもまなびラボ』等でも執筆。メルマガ「二十代で身に付けたい!教育観と仕事術」は「2014まぐまぐ大賞」教育部門大賞受賞。2021年まで部門連続受賞。ブログ「教師の寺子屋」主催。

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(公立小学校教員 松尾 英明)

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