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習近平はハマスの奇襲攻撃でニヤニヤしている…「ハマス・イスラエル戦争」が日本に及ぼす4つの影響

プレジデントオンライン / 2023年10月21日 9時15分

2023年10月17日、中国の首都北京で開催された第3回「一帯一路」国際協力フォーラムに出席する賓客に対し、中国政府・人民を代表して歓迎の宴を開く習近平国家主席。 - 写真=XINHUA NEWS AGENCY/EPA/時事通信フォト

パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスが、イスラエルに奇襲攻撃を仕掛け、イスラエルが報復を開始した。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「日本人にとって、けっして対岸の火事ではない。国民生活を苦しめている原油高、円安の加速に加え、テロの拡大、そして中国による台湾侵攻が早まる恐れがある」という――。

■「日本は平和だから」と安心していられない

「近くで起きていることは意外と私たちの暮らしに直結せず、遠くで起きていることが、案外、日々の生活を直撃することが多いものです」

筆者は、教壇に立っている首都圏2つの大学で、学生たちにそう教えてきた。

たとえば、日本大学アメフト部や近畿大学剣道部での不祥事、旧ジャニーズ事務所を舞台にした性加害や政治家の問題発言の数々は、いずれも由々しき問題で、関心を向けるべき出来事ではあるが、日常生活にはほとんど関係がない。

ただ、最近で言えば、イスラム組織ハマスとイスラエルとの戦闘激化、そして、それを受けたアメリカや中国の動きなどは、「上がる物価、上がらない賃金」で家計のやり繰りに悩みながらも、「まあ、日本は平和だからいいよね」などと考えている国民の生活を大きく変えてしまうリスクをはらんでいる。

詳しくは後述するが、そのリスクとは、原油高、円安、テロの拡大、そして中国の台湾侵攻が早まる可能性がある、といったリスクである。

■アメリカがイスラエルを支持する理由

リスクを生む理由の1つは、アメリカのバイデン大統領が、10月18日、イスラエル中部のテルアビブを訪問し、ネタニヤフ首相に全面支援を約束したことだ。

この日、ニューヨークでは、国連安全保障理事会の緊急会合が開かれ、大規模な戦闘の「一時停止を求める決議案」を採決したが、アメリカが拒否権を行使し否決されている。

アメリカ国内には、ユダヤ系住民が全人口の2%あまり住んでいる。また、旧約聖書をよりどころに「ユダヤ人が作った国家・イスラエル」を支持してきたキリスト教福音派の住民も25%近くに上る。これは無視できない数字だ。

アメリカでは、来年11月、大統領選挙のほかに上下両院選挙も実施されるため、バイデン大統領をはじめ再選を目指す人々が、こうした人々の票を得ようとイスラエルに加担するのは当然だ。

バイデン大統領が、いち早く、戦闘地域に近いテルアビブまで出向いたのは、国際社会に向けてという以上に、国内での支持率を上げる狙いも多分にあったはずだ。

しかし、この動きはおそらく裏目に出る。

■反アメリカ感情が「第二の9・11」を生む

アメリカが国連安保理で拒否権を行使したのは過去に83回。そのうち45回がイスラエル絡みだ。今回の拒否権行使も、「アメリカはイスラエルの地上侵攻を容認した」と受け止められ、それがトリガーとなって、戦火の拡大を招くことになる。

1つの台にたてられた星条旗とイスラエル国旗
写真=iStock.com/MicroStockHub
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MicroStockHub

イスラエル軍による報復が本格化し、ハマスが支配するガザの病院が空爆されたように(イスラエルは否定しているが)、一般市民が犠牲となるといった出来事が続けば、アラブの人々の中にくすぶる「反イスラエル・反アメリカ感情」に火がつく。

そこにハマス側の「蜂起しよう」という呼びかけが加われば、デモにとどまらずテロへと発展してしまう。そうなると、アメリカと共同歩調をとる全ての国々で、あの忌まわしい「9・11テロ」が再現される危険性も捨てきれなくなる。

いずれにしても、緊張が中東全域に拡がることは間違いない。すでに、イスラエルとサウジアラビアとの間で醸成されつつあった関係正常化の動きは頓挫し、サウジアラビアによる原油減産の規模縮小への期待も遠のいている。

■イラン制裁によって原油高、円安が加速

この先、アメリカが、ハマスの背後にいるとみられるイランの原油生産と輸出に制裁を科すようであれば、原油高に一段と拍車がかかることになる。

原油高が進めば、当然ながら為替相場にも影響が及ぶ。かつては、原油高とドルは真逆の相関関係(原油高ならドル安、原油安ならドル高)だったのが、近ごろでは、連動する現象が続いているため、原油高になればドルも高くなって、円はますます弱くなっていくことになるだろう。

その意味では、アメリカの動きは日本にとって好ましくない要素が多いのだが、リスクは他にもある。それは中国の動きである。

10月7日、ハマスがイスラエルに奇襲攻撃をかけたことを、中国の習近平総書記は「これは面白いことになった」ととらえているのではないだろうか。

表面的には、ロシアとウクライナの戦争と同様、中立を貫いているものの、元はと言えば、ハマスとイスラエルとの戦いの火種を作ったのは中国だからである。

■奇襲攻撃でアメリカの思惑は一瞬で打ち砕かれた

思い起こせば、3月10日、習近平総書記が国家主席として3選を果たした日、北京では中国を仲介としてサウジアラビアとイランとの関係正常化が発表された。

親アメリカのサウジアラビア(イスラム教スンニ派)と反アメリカのイラン(イスラム教シーア派)が中国の仲立ちで関係を回復させたことは、中東におけるアメリカの権威失墜を意味する。

そこで、「これままずい」と考えたバイデン政権が対抗軸として編み出したのが、サウジアラビアとイスラエルを手打ちさせて、「アメリカ―サウジアラビア―イスラエル」の協力体制を構築することであった。

そして、習近平総書記による巨大な経済圏構想、「一帯一路」に対抗し、インドと中東、それにヨーロッパを結ぶ広域経済圏構想を打ち出すことであった。

そうした中、実行されたハマスの奇襲攻撃は、アメリカの思惑を一瞬で打ち砕いてしまった。

■中国にとってウクライナ侵攻以上に参考になる

そればかりか、ここ数日、顕著になっている戦争のエスカレーションは、中国が国際社会に向け、「ほら、アメリカが介入するとろくなことにならないでしょ?」とアピールするには十分な材料になってしまっている。

アメリカと覇権を競う中、習近平総書記からすれば、思わぬ形でアドバンテージとなる材料が転がり込んできたことになる。

事実、ハマスによる奇襲攻撃以降、中国メディアの報道ぶりは異様だ。CCTV(中国中央電視台)は、「これはCNN?」と見まがうほど、1時間ごとに速報や中継を入れ、中国共産党系の新聞「環球時報」も数多くの論評を掲載してきた。

先に筆者は、習近平総書記が「これは面白いことになった」と考えていると個人的な推察を述べたが、これらのメディアの報道ぶりが、習近平指導部がいかに事態の展開を注視しているかを物語っているのだ。

それは、習近平総書記が目論む台湾統一の戦術面に関しても同じである。取材した自衛隊関係者は語る。

「ハマスのイスラエル侵攻は、ロシアのウクライナ侵攻以上に、中国にとっては参考になると思いますよ。台湾侵攻があるとすれば、サイバー戦など侵攻前の数年間の準備に関してはロシア、侵攻直前、あるいは侵攻時の動きはハマスから学べるからです」

■「イスラエルvsハマス」が「中国vs台湾」に

その取材メモから要点を付記しておく。

○ハマスが、奇襲開始時に、大量のミサイル、ロケット弾を一気に発射した点

ハマスとイスラエルとでは、ハマスが軍事力でははるかに劣る。しかし、いきなり3000発のミサイルを撃ち込んだ。この数はイスラエルの想定にはなかったもので、イスラエルが誇る「アイアンドーム」と命名された鉄壁のミサイル防御網でも迎撃漏れが生じ、多くの犠牲者を出した。

○休日に攻撃をはじめ、虚を突いた点

奇襲攻撃をかけた日は、ユダヤ教の祝日シーズンの最後の土曜日(安息日)だったため、軍の兵士を含む国民の多くが休日を楽しんでおり、完全に不意を突かれた。

○陸海空の3面から同時に侵攻した点

ハマスの兵士は、イスラエルが境界に張りめぐらせていたコンクリート壁や鉄条網をブルドーザーなどで破壊し領内に侵入した。その速さは、イスラエル側が設置していた高性能センサーをも凌駕するものであった。

同時に、空からはエンジン付きのパラグライダーとドローン、海上からはジェットスキーで侵入し、陸海空からの一斉攻撃で優位に立った。

○イスラエル軍が地上侵攻に出た後、ハマスの守りが注目される点

イスラエルの全面侵攻が始まれば、今度は反対にイスラエルを中国、ハマスを台湾に見立て、戦力で劣るハマス側が地下壕(ごう)などを駆使していかに防御するかが参考になる。

■アメリカの兵力が中東に割かれるのも好都合

習近平総書記が「中国の夢」と位置づける台湾統一だが、上陸作戦を行う場合、幅が約130キロの台湾海峡、そして台湾本島には急峻(きゅうしゅん)な崖が多いという「天然の要害」が待ち構えている。台湾も国防力を増強させ、10万カ所ものシェルターを建設して防衛準備を進めている。

今回のハマスとイスラエルとの戦闘は、中国にとって、台湾の防衛網を打ち破るうえで、ロシアとウクライナの戦争とはまた別の面で格好の教材になるということだ。

重ねて言えば、アメリカ軍が、事態が鎮静化するまで、一定の兵力を中東に割かなければならなくなったという事実も、中国にとっては好ましいことだろう。

中国語の地図・台湾付近のクローズアップ
写真=iStock.com/Sean824
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sean824

■習金平による独裁政治はさらに進んでいる

「中国は今、国内経済が低迷し、若者の失業者も多く大変な状況。台湾侵攻よりも国内の引き締めが先。2027年の中国軍建軍100周年と自身の総書記4選がかかる党大会を控え、勝てると断言できない戦争に踏み切るとは考えにくい」

中国に関する取材をしていると、このような見方をする識者に出会うことがある。確かに、今夏以降、秦剛氏が外相を解任され、李尚福国防相も失踪し、国内経済では、恒大集団に続いて碧桂園と中国不動産大手が相次いで苦境にあえいでいる現状を思えば、「政治と経済の立て直しが優先」との見方も一理ある。

ただ、ロシアやハマスの動きからヒントは出揃った。国内的にも、9月28日、国慶節=建国記念日の祝賀式典で、通常であれば、李強首相が演説するところを習近平総書記自身が行ったり、10月18日、北京での「一帯一路」国際会議で、構想の成功を高らかに主張したりしたあたりからは、体制の揺らぎは見えない。むしろ、習近平総書記を皇帝とする「宮廷政治」が進んでいるかのような印象も受ける。

■「台湾有事は2024~25年に起こり得る」

こうした中、トランプ前政権下で国家安全保障担当大統領補佐官を務めたロバート・オブライエン氏は、「台湾有事は1~2年以内に起こり得る」との見方を示している。

10月4日、訪米した木原防衛相が、オースティン国防相との間で、新型のトマホーク「ブロック5」ではなく、やや性能が劣る旧型の「ブロック4」でいいからと同意を取り付けてきたこと、あるいは、松野官房長官が10月17日、熊本県を訪問し、蒲島知事に、台湾有事を想定して沖縄県の住民らの避難先確保を要請したことなども、中国の台湾侵攻が早まる可能性を示唆するものと言えるだろう。

このように考えると、ハマスとイスラエルの戦闘は対岸の火事とは言えなくなる。筆者は近く、学生たちにこんな話をしようと思う。読者の皆さんにも、身に降りかかってくるかもしれない問題として理解していただけたらありがたい。

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清水 克彦(しみず・かつひこ)
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師
愛媛県今治市生まれ。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。在京ラジオ局入社後、政治・外信記者。米国留学を経てニュースキャスター、報道ワイド番組プロデューサーを歴任。著書は『日本有事』(集英社インターナショナル新書)『台湾有事』、『安倍政権の罠』(いずれも平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『中学受験』(朝日新書)、ほか多数。

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(政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師 清水 克彦)

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