「日本人では難しい」という発想では何もできない…大谷翔平をメジャー本塁打王に導いた鉄メンタル
プレジデントオンライン / 2023年10月29日 15時15分
※本稿は、斎藤庸裕『大谷翔平語録』(宝島社)の一部を再編集したものです。
■日本人初の大リーグ本塁打王
大谷翔平はメジャーで数々の歴史を塗り替えてきた。周囲の予想や偏見を覆し、見ている者を驚かせるのは、もはや日常茶飯事だ。時にそれは、「日本人選手」という文脈で注目されることもある。メジャーで日本人初の3年連続30本塁打、2度の40本塁打以上。2023年のレギュラーシーズンでは、体格やパワーでは劣るとされてきた日本人選手として、はじめて本塁打王のタイトルを獲得した。
大谷の数々の偉業は、自分の能力を信じて一心に前に進み続ければ、夢のようなことでも実現できる、そんなメッセージのようにも思えた。
先述のように、2021年6月には、オールスターの前夜祭で行われるホームランダービー出場を一番乗りで表明している。
■野球選手としての好奇心が勝った
「依頼が来たので、考えて、出てみたいなというか、そういう気持ちが強かったのかなと思います」
「日本人でホームランダービーに出るっていうのは見てないので、単純に僕が出てなくてもこれから先、出る人がもしかしたらいるかもしれないですし、単純に見てみたいな、と。野球選手としてそういう気持ちのほうが強かったので、出ようかなと思いました」
初めてのことに挑戦する、挑戦できるワクワク感――。大谷自身、メジャーリーグの本塁打競争で優勝を目指すとは、子どもの頃に思い描いてはいなかった。
「高校の時はピッチャーのほうで(メジャーに)行くと思っていたので、こうなるとは思ってなかったですし、予想外ではあるかなと」
ホームランダービーに出場した選手たちは、シーズン後半戦で調子を崩すことも多い。しかし、その後の影響を考えるよりも、「やってみないことには。何事も経験してみないとわからないので」と、野球選手としての好奇心が勝った。打者・大谷としてメジャー屈指のパワー自慢たちと勝負する。まさに夢舞台だった。
■日本球界にとって大事なこと
ホームランダービーに出場する意義は他にもあった。大谷はメジャー1年目から、怪力のスラッガーにも負けないパワーを見せつけてきた。2年目、打者に専念していた2019年シーズンもホームランダービー参戦への期待は高まっていたが、オールスター出場が叶わなかった。その当時から、大谷はホームランダービー出場へ意欲を見せていたのだ。なぜなのか。
「僕というよりは、日本の野球界にとって大事なことじゃないかなと。そこを出るかどうかも、勝つか勝たないかも大事だと思うので、いろんな選手がいるなかで(日本人として)出場するのは大事かなと思います」
剛速球で三振を奪い、本塁打で魅了する、豪快なパワー野球のメジャーリーグ。投手力や堅実な守備、小技を生かして1点を取りにいくスモール・ベースボールが主流の日本野球――。大谷がメジャーでホームランアーチストとして活躍する今でも、このイメージは残る。だが、お家芸の投手力や走力にパワーが加われば、日本の野球はさらに強くなる。それは、2023年3月のWBCで証明された。
■手応えを感じたのは、精神面の強さでありパワー
米国との決勝戦を制し、3大会ぶりの世界一を決めた試合後のインタビュー。FOXスポーツの解説者で野球殿堂入りしているデービッド・オルティス氏から「真面目な話だが、どこの惑星から来た?」と大谷は問われた。
「日本の田舎というか、本当、チームも少ないようなところで(野球を)やっていたので。日本の人たちからしても、頑張ればこういうところで(優勝)できるんだっていうのは、本当によかったかなと思います」
初のWBC出場を通じ、日本野球のレベルアップも体感した。手応えを感じたのは、技術やスピードだけでなく、精神面の強さでありパワーだった。
「誰も諦めなかったので、技術うんぬんではなく、そこが一番かなと。実際に(侍ジャパンに)来てみて思ったのは若い選手たちの投手力、とくにスピードに関しては確実に上がっている。いい傾向だなって思ったので、そこは本当に僕が日本にいた時よりも、ワンステップもツーステップも上がっているなと思いました」
■「憧れてしまったら超えられない」
大谷がホームランダービーに出場することで、日本人はメジャーリーガーのパワーには敵わないだろうというマイナスの固定観念を、前向きなマインドに変えたかもしれない。最強の米国代表には太刀打ちできないかもしれないという弱気を、強気なマインドに変えたかもしれない。
勝負を挑む前、まずはメンタルの偏見を打ち破る必要がある。WBC決勝、試合前の声出しで伝えたメッセージは、今後も語り継がれる名言だ。
「僕からは1個だけ。憧れるのをやめましょう。(相手の米国代表には)ファーストにゴールドシュミットがいたり、センターを見たらマイク・トラウトがいるし、外野にムーキー・ベッツがいたり、野球やっていれば誰しもが聞いたことがあるような選手たちがやっぱりいると思うんですけど、今日一日だけは、憧れてしまったら超えられないんで。僕らは今日超えるために、トップになるために来たので。今日一日だけは彼らへの憧れを捨てて、勝つことだけ考えていきましょう。さあ行こう!」
試合後、改めて真意を語った。
「僕らは知らず知らずのうちに、アメリカの野球にリスペクトを持ってますし、ただでさえ素晴らしい選手たちのラインアップを見るだけで、尊敬のまなざしが弱気な気持ちに変わることが多々あるなかで、今日一日だけはそういう気持ちを忘れて、対等な立場で、必ず勝つんだという気持ちをみんなで出したいと思っていました」
何事も戦う前に、挑戦する前に諦めない――。ホームランダービー出場も、WBC優勝も、二刀流の挑戦も、屈しない強い気持ちがあってこそ。そんなメッセージが伝わってくる。
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スポーツライター
慶應義塾大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。編集局整理部を経て、ロッテ、巨人、楽天の3球団を担当。ロッテでは下克上日本一、楽天では球団初の日本一を取材。退社後、2014年に単身で渡米。17年にサンディエゴ州立大学で「スポーツMBAプログラム」の修士課程を修了し、MBAを取得。18年、大谷翔平のエンゼルス移籍と同時にフリーランスの記者としてMLBの取材を始める。日刊スポーツにも記事を寄稿。著書に『大谷翔平偉業への軌跡【永久保存版】歴史を動かした真の二刀流』(あさ出版)がある。
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(スポーツライター 斎藤 庸裕)
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