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なぜ日本企業には「担当部長」「担当課長」が山ほどいるのか…「働かないオジサン」が量産された根本原因

プレジデントオンライン / 2023年10月30日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/THEPALMER

なぜ日本企業には「担当部長」「担当課長」という人が多いのか。経営コンサルタンタントの新井健一さんは「組織の成長鈍化にあわせて、管理職ポストが不足するようになった。ライン長を増やすことはできないが、専門職であればいくらでも増やせる。その結果、担当部長や担当課長というあいまいな存在が増えていった」という――。(第2回)

※本稿は、新井健一『それでも、「普通の会社員」はいちばん強い 40歳からのキャリアをどう生きるか』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。

■会社員にとって「昭和」とはどういう時代だったか

ここでは、いまどきの若手社員に嫌われる「昭和だよね」のなにが「昭和」なのかについて考えてみたい。先ずは「会社員にとって『昭和』とはどういう時代だったのか?」について概観する。

年表でみれば、大正最後の年となる大正15(1926)年の年末、大正天皇が崩御され改元、「昭和」という時代が始まった。そして、昭和20(1945)年に第二次世界大戦は終結し、日本は敗戦国となる。以降、日本は経済活動において躍進を遂げ、昭和64(1989)年の年明けに昭和天皇が崩御し、「昭和」という時代は終わった。

我々は時代の移り変わりを目撃する者である。そして、やはり昭和の分岐点は昭和20年、第二次世界大戦の終結だろう。

そして会社員、いわゆるサラリーマン(あえてこの言葉を使う)の働き方は、昭和20年以降に作られたものだ。それ以前には、職工制度という江戸時代の差別ではないが、学歴により働き手の人事労務管理全般を「区別」していた。職員と工員では、労働環境に雲泥の差があり、特に工員は低賃金で過酷な労働を強いられ、そして職員に比べてはるかに貧しかった。

だが、くしくも戦争というものが、職員と工員の区別を国民に一括りし、貧しさと飢えの渦中に放り込んだのである。そして昭和20年を迎えた。戦後、日本が復興するために、先ずは基幹産業から多くの人手が必要となったのだが、では当の働き手が求めたものは何か。

■「失われた30年」で会社員はどう変わったか

それは、司馬遼太郎著『坂の上の雲』ではないが、当時の経営者、労働者、組合執行部は「青空の見える労務管理」という、「誰もが日本人の勤勉さ、真面目さを頼りに一生懸命働けば豊かになれる、豊かになろう」というこの言葉に収斂される。日本人は、この言葉に共感し、励みにし、団結した。

そして、見上げればそこに希望や期待が見いだせるような、どこまでも広く澄みわたる青空など、到底望むべくもない状況において、日本企業は「終身雇用制度」「年功序列型賃金」「企業内組合」という人事労務管理を考え、選択したのである。

これらの制度は、「とにかく共に貧しさや飢えから脱したい」「相応の暮らしを立てられるようにしたい」という願いから企業と労働組合、そしてそこで働く社員が「協調」して導入、定着させたものだ。そして、日本と日本企業は、高度経済成長という後にも先にもないような上昇気流に乗った。だが、膨張した風船はいつか萎む。

1991年にバブルがはじけて以降、日本経済は長きにわたり低迷し、失われた30年と言われてきた。そして、その30年と並走するように、ゆとり教育が導入され、就職氷河期世代がうまれ、企業はそれまでの年功序列型賃金を捨てて、成果主義型賃金を導入した。

日本旗の前に落ちるグラフ
写真=iStock.com/NatanaelGinting
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/NatanaelGinting

この企業が定義した成果に応じて処遇するシステムは、それまでの生活給や賃金カーブなどを過去の産物とし、たとえば40歳前後で課長になれなければ、以後定年退職するまで給料が上がらなくなったのである。また、企業によっては、高止まった総額人件費を乱暴に、強引に引き下げる狙いで、この制度を導入した。この制度が多くの企業で導入された2000年前後を振り返れば、たとえば新制度説明会において、憤り、不満、不安にかられた社員から、罵声を浴びせられたことがあった。

■そもそも「成果」とはなにか

またその一方で、一部に成果主義をとり入れながらも、やはり年功型の処遇を維持した企業も数多くあった。これには、制度設計の中心にあるコンセプト、たとえば成果や能力というものに対する誤解も、どうやら介在したようだ。

そもそもの話になるが、「成果」とは「結果」ではない。しかしながら、成果主義導入の黎明期には、成果を結果と捉えてしまうことで「では、結果さえ出しておけば、他はどうでもいいのだな」というメッセージを、(図らずも)制度が組織や社員に発信してしまった。その結果、社員の協業や連携、挑戦やチャレンジ、そしてコンプライアンスなどの観点から躓いた企業もあった。

ちなみに成果とは、「能力+結果」のことを指す。つまり、成果とは企業が求める能力を用いて結果を出すことなのである。

■成果主義がうまく機能しなかった理由

そして能力についても、成果主義導入の一環として、それまで多くの企業が採用してきた保有能力(職能資格等級制度における職務遂行能力、いわゆる職能)を否定し、発揮能力(結果につながり、かつ再現性のある行動や思考。人事用語ではコンピテンシーという)に当時、多くの企業が飛びついた。

だが、そもそも能力とは、なすべき仕事と厳密に結びついたときにはじめて適正に評価し得るものである。実際、成果主義の導入に際して否定された職能の開発者も、「厳密な職務分析を通じて抽出された能力のことを職能という」と言っている。

しかしながら、日本企業において定義する能力の多くは、社内の資格等級を区分するための、なすべき職務とは厳密には対応しない、あくまでも社内における認定資格である。つまり、その認定能力資格等級は、組織構造やなすべき仕事のかたまりと一致していないのだ。

たとえば社内に部長、課長、係長、主任に対応する社内等級があるとして、このくらいシンプルであれば、それぞれが成すべき仕事の違いとこれに対応する能力の違いを明確にすることができる。しかしながら、部長と課長の間に次長というポストがあり、課長と係長の間に課長補佐というポストがあって……と等級の数が増えていくと、一体そのポストはどんなかたまりやまとまりの仕事をするのだろう、課長補佐と係長の違いはなんだろう、ということになる。

そして、そのように曖昧なポストに対応する能力を、資格等級として定義するのであるから、仕事で結果を出すための能力要件からますます乖離(かいり)していくことは否めない。

自宅からの投資
写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PonyWang

■本来なら職種ごとに待遇を分けるべきだったが…

また日本企業は長く、職種によって処遇に差を設けてこなかった。本来であれば、どの職種も労働市場における需給関係によって、価値や報酬が変わるはずである。だが、日本企業でそれをやってしまうと、新卒一括採用後の配属決定や職種間の人事異動を、企業側の裁量で行うことができなくなってしまう。それでは日本企業特有のメンバーシップ型雇用は成立もしないし、維持もできない。

そして、そうなると、人事はどの職種にも共通して求められる能力を重視するようになり、結果ますます仕事で結果を出すための能力要件を定義し、認定することから遠ざかっていくのだ。社内の昇格試験などで「認定」された能力というものは(仕事で結果を出すこととは、あまり関係がないとしても)、急に発揮できなくなったり、無くなってしまったりということは先ず考えられない。

だから、能力というものを昇降格の要件とした場合、一度昇格した人材を降格させることは、感情ではなく論理として難しいのだ。それがたとえば書籍のタイトルになるような、「働かないオジサン」を多く輩出する結果になったとしても――。

■苦肉の策で生み出された「複線型人事」

そしてもう一つ。これも多くの日本企業が採用する複線型人事についても触れておこう。

高度経済成長を経て、日本と多くの日本企業は低成長時代に突入した。成長が鈍化するということは、企業の売上が伸びない、既存の組織が大きくならない、新規の組織も立ち上がらない、社員数も増えないということを指す。そうすると組織を管理する、いわゆるライン長という役職の数は、当然ながらせいぜい現状維持か、もしくは減っていく基調になった。

そこに来てさらに、能力という認定基準によりライン長になった管理職が、能力に置いてその職を解かれることもない。その一方で、毎年昇格要件を満たした人材がポストの空きを今か今かと待ちわびている。ポストもないのに、「そろそろうちの人材を、上にあげてくれないか」と人事部が部門長などから、突き上げられることを昇格圧力というが、このような状況に対応すべく考え出されたのが役職定年制度と複線型人事だ。

役職定年は年齢によりバッサリ役職を解くという制度であり、複線型人事は、昇格して部長や課長などライン長になる出世コースと、専門職として活躍するコースを分ける仕組みだ。

ライン長というポストは企業の組織に対応するものであり、勝手にポストを増やすことはできないが、専門職は専門性というものの定義次第で、いくらでも内部昇格させることができる。ちなみに、そのような専門職人材は、対外的にはライン部長と同格の担当部長や、ライン課長と同格の担当課長などと呼ばれることが多い。

■なぜ「働かないオジサン」は量産されたのか

そして、このような複線型人事にも変遷がある。複線型人事が考え出された当初、専門職とは率直に言えば「ライン長にはなれなかった人材」という位置づけであり、ライン長と概ね同じように処遇される専門性というものを、厳密に求められることはなかった。ただ、給料は上がるため、それが働かないオジサン、オバサンのうま味となり、役職(重要なポスト)が与えられない彼ら、彼女らのプライドをも満たしてきた。

だが、現在に至るまでに、単に「ライン長にはなれなかった人材」を専門職として処遇し続けることが、当該企業のグローバル市場競争力という観点からも、また総額人件費を適正に管理して配分するという観点からもできなくなった。

このような背に腹は変えられぬ問題を解決すべく、企業は厳格に再定義した「専門性」というものを満たさない人材を、管理職(相当)にはしないと決め、それを制度で担保したのである。これは、たとえば野球というスポーツ競技において、「ベンチを温めるだけの高額報酬選手はいらない」というメッセージに他ならない。

仕事で疲れたアジアのビジネスマン
写真=iStock.com/mapo
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■若手社員に嫌われる「昭和だよね」の本質

このように、昭和20年以降の時代を、主に人事労務管理の観点から描いて分かることは、日本企業に勤める会社員のこれまで当たり前だった働き方は、ある意味で国策や会社内の事情とともに形成されてきたものだということである。

そして、日本人がその性質として保持する集団主義的発想や行動と、国策などが結びついたときに、それはある種の抗しがたいムードへと変わり、個人への強要へと変わる。これこそがいまどきの若手社員に嫌われる「昭和だよね」の本質なのではないだろうか。

新井健一『それでも、「普通の会社員」はいちばん強い 40歳からのキャリアをどう生きるか』(日本経済新聞出版)
新井健一『それでも、「普通の会社員」はいちばん強い 40歳からのキャリアをどう生きるか』(日本経済新聞出版)

しかしながら、だからと言って、集団主義と「昭和だよね」がそのまま結びつくわけではないし、ましてや「和を以て貴しとなす」と「昭和だよね」が結びつくわけでもない。また本来であれば、たとえば経済を立て直し、発展させるために実行された国の政策などは、時限立法のように有効期間を定め、期間を過ぎたら見直す、もしくは改廃して然るべきものなのだ。

たとえば戦後、国に金がなければ国民に貯金を奨励するし、金を借りて家を買う「いつかはマイホーム」というような、それまで日本人になじみのなかった消費や暮らしが奨励されてきた。そんな日本も2040年頃には3軒に1軒が空き家になる。また、生活の自立を謳うべく、それまでの預貯金から投資を奨励したりもしている。要はそもそも当たり前など、どこにも存在してこなかったということだ。

他にも、コロナの最中に起こった様々な事件は、マスメディアの怖さ、メディアが誘発する同調圧力の怖さ、どこかで言われていることを鵜呑みにすることの怖さなど、様々な恐怖を我々に突き付けた。そして、これらは我々に2つの教訓を残した。幻想や恐怖と闘うすべと言ってもよいかもしれない。

我々一人ひとりが、先ずは国家や企業から自律し、自助の精神をもって生きていくこと
多元社会の中で、信頼できる、自分の生きがいにかなった仲間や共同体を見つけること

我々は、この教訓を頭の片隅におきながら、副業や兼業の解禁および奨励、週休3日制の導入、テレワークなど自由な働き方の推進、リスキリングなどを受け止め、自身のキャリア形成に活かしていく必要があるのだ

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新井 健一(あらい・けんいち)
経営コンサルタント
アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役。1972年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大手重機械メーカー人事部、アーサーアンダーセン(現KPMG)、ビジネススクールの責任者・専任講師を経て独立。人事分野において、経営戦略から経営管理、人事制度から社員の能力開発/行動変容に至るまでを一貫してデザインすることのできる専門家。著書に『働かない技術』『いらない課長、すごい課長』『それでも、「普通の会社員」はいちばん強い 40歳からのキャリアをどう生きるか』(いずれも日本経済新聞出版)、『事業部長になるための「経営の基礎」』(生産性出版)など。

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(経営コンサルタント 新井 健一)

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