「消しゴムのカスを缶いっぱい集める息子は頭がおかしい」不安顔の母親に教育者が「むしろ有望」と太鼓判のワケ
プレジデントオンライン / 2023年10月30日 11時15分
※本稿は、『プレジデントFamily2023秋号』の一部を再編集したものです。
■ワクワクするから深めていける
【高濱】花まる学習会では、「メシが食える大人」=「自立・自活ができる大人」の育成を目指して、特に野外体験に力を入れてきました。知識や技能の詰め込みだけではこれからの社会に太刀打ちできません。僕はもともと算数屋なんですが、かれこれ40年、教科の学びだけではなく、体験が大切だと言い続けています。
【岡田】僕は教育の素人ですが、来年4月に愛媛県の今治市で開校するFC今治高等学校の学園長に就任しました。基本、全寮制で探究を中心に据えたカリキュラムの学校です。
【高濱】寮制、いいですねぇ。
【岡田】ちょうど対話型AI(人工知能)のチャットGPTが話題になり始めた1カ月後ぐらいに開校の記者会見をやったのですが、ものすごく反響があって、オープンスクールもすぐ満杯になってしまいました。いくら知識を詰め込んだってしょせんAIには勝てないという時代に、じゃあいったい何をすればいいのかってことを、保護者のみなさんが真剣に考え始めたのだと思うんです。だからこれだけ大きな反響があった。今までは、「一流大学に進学できるかが大事」だと考えていた親御さんたちのマインドが、変わり始めた気がします。
【高濱】親御さんの意識は、確実に変わってきていますよね。
■子供自らのワクワクする「探求」が人を成長させる
【岡田】これまでは、前例や習慣に従っていればなんとかなった。でも、新型コロナウイルスにしても異常気象にしても、今までに経験したことがない問題が出てきているんです。だったら、自分でなんとかしなきゃいけない。これが、僕の時代認識の根っこにある考え方なんです。
【高濱】今、自分が何をやりたいかがわからなくなってしまった大人がたくさんいて、転職サイト隆盛の根っこにあるともいわれている。自分の心を見失っている大人が多いわけです。
ところが、小学生40人をバスに乗せて川へ連れていって、「自由に遊ぼう」って言ったらどうなるか。1年生はオタマジャクシを捕まえたり、石ころを集め始めたりする、3年生はみんなで魚を捕まえる工夫をし始める、6年生は高いところから飛び込みを始めるというように、各自が自分のできることをぱっぱと瞬間的に見いだして、やりたいことを一日中やり抜くわけです。そして夕方になると、全員が「ああ、楽しかった」って言いながら帰っていく。外遊びには危険も伴いますが、それを感じながら必死に遊ぶ。僕は、これが人間の生き方の基本だと思うんです。
実は、大人たちも子供時代にはワクワクすることを夢中でやっていたわけで、本来、その延長線上に人生はあるんですよ。なのに、周囲の余計な干渉のせいで、人目や評価を気にするようになり、自分がワクワクするものを見失ってしまうんです。
【岡田】いやもう、ワクワクするって本当に大切なことで、うち(FC今治)のフィロソフィーも一番が「エンジョイ」なんです。プロだろうが日本代表だろうが、サッカーを始めた時の喜び、初めてゴールした時の感動を絶対に忘れちゃいけない。義務でサッカーをやるようになったら絶対にうまくなりません。
【高濱】来ましたねー。
【岡田】僕は小学校までは野球少年で、中学の部活でサッカーを始めたんです。もちろん初心者。でも、昨日2回しかできなかったリフティングが今日は3回できる、明日は4回に挑戦するんだ、と。時間はかかるけれどちょっとずつうまくなっていく感じに、たまらなくワクワクしていました。手を使うスポーツと比べて脚を使うスポーツは少しずつしかうまくならない。その感じが自分には合っていたんでしょうね。
早朝に学校へ行ってボールを蹴り、昼休みにもボールを蹴って、部活が終わると近所の公園でボールを蹴る。夕飯を食べたら家の前の電柱に向かってボールを蹴る。
【高濱】無我夢中ですね。
【岡田】『巨人の星』が流行っていたんで、自分で工夫してタイヤチューブをボールに巻き付けてペンデルボール(ヘディング練習用のボール)を作ったりしましたね。やっぱり、楽しいと工夫をするんですよ。
【高濱】創意工夫されていたわけですよね。それこそ、ザ・探究です。
【岡田】今思えば、ですけどね。
■「消しゴムのカスを缶いっぱい集める子は頭がおかしい」
【高濱】僕は「深めていく心の構え」という言葉を使っているのですが、たとえば、こんなことがありました。あるお母さんが、「うちの子、頭がおかしくなってしまいました」と言って、僕のところに缶を三つ持ってこられた。ふたを開けてみると、消しゴムのカスがびっしり詰まっている。お母さんはそれを僕に見せながら、「こんなものを集めるなんて、正気じゃない証拠です」と訴えるのですが、缶の中の消しゴムのカスをよく見ると、長さ別とか色別とか、丁寧に分類されているわけです。つまりその子は今、消しゴムのカスに夢中で、集めたくて仕方ないわけですよ。しかも、集めているうちにいろいろな違いに気がついて、それをきっちりと分類して整理している。僕は、これこそ探究だと思うんです。子供は、遊びの中で常に探究をしているんですよ。
だから、頭がおかしくなったなんて心配しないで、子供が夢中になっていることをとことんやらせてあげれば、自然に「深めていく心の構え」ができていく。その味を一度知ってしまうと、探究せずにはいられなくなるんです。
だから、遊び込んだ子供は強いんです。消しゴムのカスの分類と整理をやり切った子は、岩石や昆虫の採集に移行していくかもしれないし、星の世界に進んでいくかもしれません。自分がやりたいことを満喫して、すごく楽しかったという感覚を一度味わった子は、「やらされ感」を拒否するようになると同時に、自分の頭で考えるようになっていくんです。(以下、後編へ続く)
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花まる学習会代表
東京大学卒、同大学院修士課程修了後、1993年、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。1995年には、小学校4年生から中学3年生を対象とした進学塾「スクールFC」を設立。全国に生徒数は増え続け、近年は音楽教室「アノネ音楽教室」、スポーツ教室「はなスポ」、囲碁教室や英語教室など全国で多岐にわたる教室を展開している。算数オリンピック委員会の作問委員や日本棋院理事も務める。
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今治.夢スポーツ代表取締役会長、FC今治高等学校学園長
1956年、大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、古河電気工業(日本サッカーリーグ)で活躍。ユース代表、ユニバーシアード代表、日本代表にも選抜される。現役引退後は、ドイツへのコーチ留学を経てクラブチームのコーチ、コンサドーレ札幌、横浜F・マリノス、日本代表の監督を歴任し、現在に至る。
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(花まる学習会代表 高濱 正伸、今治.夢スポーツ代表取締役会長、FC今治高等学校学園長 岡田 武史 構成=山田清機)
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