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「リニア着工には山を愛する人たちの納得がいる」事実無根の難癖をつける川勝知事に県政を託していいのか

プレジデントオンライン / 2023年10月27日 7時15分

10月10日の会見で持論を述べた川勝知事(静岡県庁) - 筆者撮影

リニア妨害を続ける静岡県の川勝平太知事が、南アルプスを掘り進めるトンネル計画について「山を愛する内外の人たちの納得がいる」などと発言した。ジャーナリストの小林一哉さんは「事実関係を無視した発言だ。リニアに難癖をつけることで県行政の信頼を失い続けている」という――。

■記者会見で川勝知事から飛び出した「トンデモ発言」

JR東海のリニア中央新幹線南アルプストンネル静岡工区工事に関して、静岡県の川勝平太知事は「南アルプスの自然環境や生態系に影響がある」などと反発している。これに関して、10月10日の定例会見で、県がホームページ(HP)で公表している工事着工への手続きを根本から覆すあり得ない発言が川勝知事から飛び出した。

会見で、日経新聞記者が「リニアの話で自然環境に関して関係者の納得が必要だという話があった。水問題の場合だと、利水関係者、いわゆる(大井川の)流域自治体などでわかるが、自然環境問題に関して、県以外の具体的に納得させないといけない利害関係者を想定しているのか」と質問した。

これに対して、川勝知事は「南アルプスを愛する内外の人たちだ」などととんでもない回答をした。

自然環境問題で、県以外に納得させなければならない利害関係者がいることなど初めて聞いた。この回答はどう考えてもおかしいと、筆者は考えた。

この質疑に関しては後に訂正が県政記者クラブに配布されたので、てっきり利害関係者の部分が削除されたのかと思いきや、なんと「南アルプスを愛する内外の方」の部分がそのまま残っているから驚きだ。

しかも県はこの内容を肝心のJR東海、国交省にも伝えていないのだ。

この回答はあまりにも的外れで、川勝知事の発言を一時的に取り繕っただけであり、日経記者の質問を正確に理解した上で、訂正したわけではないことがはっきりとわかった。

■川勝知事はあまりに「行政手続き」を理解していない

今回の訂正は、自然環境保全で不特定多数の利害関係者を想定している。

これでは、JR東海などに説明していたリニア着工への手続きを県が勝手に変えてしまったことになる。

このことは現在でも国交省、JR東海は全く承知していない。

県HPの「リニア中央新幹線工事着工までの主な流れ」では、法律、条例等の行政権限に基づいて、リニア問題の課題解決に向けて利害関係者の合意手続きを踏むと説明している。

水問題では、流域市町、利水関係団体の利害関係者の合意が必要である。そのために、県が2018年夏に「大井川利水関係協議会」をつくった。

しかし、生態系への影響については、そのような合意形成を求めていないし、県以外の利害関係者の団体など存在しない。

本稿では、「行政音痴」の川勝知事による自然環境保全に関するとんちんかんな発言を紹介するとともに、このような間違いを平気で追認するのは、水環境だけでなく、自然環境の問題でも、リニア妨害を続ける県全体の姿勢にあることをわかりやすく伝える。

■「県以外の自然環境の利害関係者」を問うた日経記者

10月10日の会見で、日経記者が「自然環境問題の利害関係者」を問いただした場面に戻る。

リニア問題で質問が飛び交わされた10月10日の知事会見(静岡県庁)
筆者撮影
リニア問題で質問が飛び交った10月10日の知事会見(静岡県庁) - 筆者撮影

川勝知事は、自然環境問題の利害関係者に当初「南アルプスを未来につなぐ会」を挙げた上で、「顧問には県立大学学長の尾池(和夫)先生、全体の会長は山極壽一さん(元京都大学総長)です」と回答した。

同会は南アルプスが2014年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)のエコパークに登録された後、リニア問題で自然環境保護の話が出たことから、登録から7年も経った21年7月に静岡県が設立したもので、事務局は静岡県自然保護課である。

これに対して、日経記者は「その納得を得る上で、JR東海に説明責任があるという発言があった。民間事業者のJR東海が環境保全に責任を負うというのは一般論でわかるが、(南アルプスを未来につなぐ会を納得させる)法的な責任、環境保全に関する法的な責任はないように思う。その上で、県として何かやっていることがあるのか」と突っ込んだ。

川勝知事が「南アルプスの自然を保全することは、環境行政の使命というか、責務ということは、かなり力の入ったことばが言われた」などと訳のわからない説明を繰り返した。

このため、記者は「環境行政の使命という流れで、いま県が取り組んでいることがあるのならば、JR東海との交渉で筋が通るが、特にやっていないのであれば、これはちょっと違うのでは」と県の姿勢に疑問を投げ掛けた。

■利害関係者に「南アルプスを愛する内外の人たち」と回答

川勝知事は、県職員が、県内高校の生物クラブに関与して、若い世代に、南アルプスの自然の厳しさと同時に希少性を教えていると説明した後、「やっぱり『南アルプスを未来につなぐ会』も大きいでしょう。山岳会の関心も非常に高い。そういう方たちが納得しないと不具合がある。利水団体のような明確な形で団体を言えないが、南アルプスを愛する内外の人たちと言ってもいい」などと質問の趣旨とは全く違う回答ではぐらかした。

その上、川勝知事は「利害関係者」を、南アルプスを未来につなぐ会だけでなく、南アルプスを愛する内外の人たちとさらに範囲を広げてしまったのだ。

日経記者の質問の主旨は、JR東海が「利害関係者」への説明責任等があるのならば、当然、県も具体的に自然環境保全をきちんとやっているのか、というものだ。

その追及に、川勝知事は、訳の分からない説明で逃げた。

■「自然環境の利害関係者」は県以外いるはずがない

行政は法律などの権限に基づいて、事業者への指導等を行うことができる。

大井川の水問題であれば、リニア工事で静岡県が権限を有する河川法の審査基準に、「治水上、又は利水上の支障を生じないものでなければならない」とあり、大井川流域の利水団体が「利害関係者」となるから、JR東海は流域自治体、利水団体への説明責任がある。

大井川本流と支流の分岐点、県はこの沢に生息するすべての水生生物への影響予測を求めている
筆者撮影
大井川本流と支流の分岐点、県はこの沢に生息するすべての水生生物への影響予測を求めている - 筆者撮影

県HPでは、流域自治体、流域自治体を利害関係者としてJR東海との合意形成が必要としている。

ところが、南アルプスエコパークの動植物保全を担保する根拠は、県自然環境保護条例しかない。この条例が求めているのは、県と事業者の間で自然環境保全協定を結ぶだけであり、県以外に利害関係者は存在しない。

そもそも「南アルプスを愛する人たち」などという漠然とした利害関係者があったら、JR東海はリニア工事を行うことなどできなくなる。

JR東海は、南アルプスエコパーク登録に尽力し、南アルプスの動植物調査などに取り組む地元の静岡市には、同市環境影響評価条例に基づいて、さまざまな説明を行ってきた。ただ、自然環境保全協定の締結で、県は利害関係者として静岡市の合意を求めていない。

どう考えても、自然環境保全で県以外の利害関係者など存在しないのだ。

■県の訂正理由もどうも腑に落ちない

「南アルプスを未来につなぐ会」は、県が予算を使って、これまで南アルプスの自然環境保全で何もやってこなかったことを取り繕うようにつくった団体であり、「利害関係者」とした川勝知事の回答は論外である。役員も大学教授や県の関係者らで構成されており、実際に南アルプスの生態系が変化することで直接的な利害を被る人はいない。

ところが、事務方が作成した「正しい知事発言」として出された訂正文は、「どの団体とは言えないが、南アルプスを愛する方々、山岳会も関心が高いので納得しないとまずい、利水団体のような明確な形では言えないが南アルプスを愛する内外の方」となっていた。「南アルプスを未来につなぐ会」の関係箇所を削除しただけで、そのまま知事発言にある不特定多数を指すとしてしまった。

県の担当者に「南アルプスを未来につなぐ会」を削除した理由を聞くと、「県がこの団体を創設したこととリニア問題とは関係ないから」だという。

この回答にも首をかしげてしまった。

もしこの説明がまかり通るのなら、山岳会など「南アルプスを愛する内外の人たち」もリニア問題に全く無関係の存在である。どうして、「南アルプスを愛する人たち」も削除しなかったのか、説明がつかない。

実際には、県リニア担当部局の予算でつくった団体だから、「南アルプスを未来につなぐ会」関係を削除したのが、本当の理由なのだろう。

「この団体がリニア問題と関係ない」という県庁内部の理由では、誰も理解できない。

おわかりのように、知事発言を訂正するならば、「県以外に利害関係者はいない」としなければならない。

■プライドが傷つかないよう川勝知事に忖度したのでは

「利害関係者はいない」と訂正してしまえば、川勝知事の発言はほぼすべてデタラメだったことを認めてしまうことになる。

それでは、川勝知事のプライドをいたく傷つけることを忖度(そんたく)したのだろうか。

というよりも、知事発言を勝手に切ってしまえば、川勝知事の逆鱗(げきりん)に触れると考え、最小限の訂正で済ませてしまったのだ。こちらが正解だろう。

県庁内では、すべて川勝知事の発言に逆らえない。特に、リニア問題では、川勝知事の決めたことがすべて正しいことになってしまうのだ。

■県行政への信頼が失われ続けている

10月20日に開催された県生物多様性専門部会も全く、そのシナリオに沿った茶番劇だった。

10月20日の県生物多様性専門部会(静岡県庁)
筆者撮影
10月20日の県生物多様性専門部会(静岡県庁) - 筆者撮影

今回のテーマは、生態系への影響を議論する国の有識者会議が報告書をまとめるに当たって、県がどのような言い掛かりをつけるかである。

過去に「沢の水生生物への影響予測が行われていない」などと国へ提出した意見書だけでは飽き足らず、県専門部会の同意を得た上で、新たな言い掛かりとなる意見書を国へ送りたいのだ。

会議の途中で、森貴志副知事が「国の結論では不十分だという意見でよろしいか」と強引にまとめようとした。

幸いなことに、出席した7委員の中に「国の有識者会議の報告書を建設的にとらえるべきだ」とする意見もあり、当日の結論は先送りされた。

川勝知事は南アルプスすべての生態系への影響予測評価を行うことを求めている。事業者のJR東海に求めるのには全く不可能な話なのだ。

知事は南アルプスの自然環境を保全、生態系を保全するなどの空論を述べ続けている。逆らえない事務方は、知事のシナリオに沿った意見書を何としても国に送らなければならないのだ。

今回の自然環境問題の利害関係者を不特定多数の人としてしまうのも、その延長線上にある。

ただ、このような知事会見の訂正内容が、県の公式見解となれば、県行政への信頼性が完全に失われることを川勝知事は理解しなければならない。

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小林 一哉(こばやし・かずや)
ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。

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(ジャーナリスト 小林 一哉)

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