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カップ焼きそばの業界1位は「日清U.F.O.」なのに、東日本では「ペヤング」が最強ブランドである歴史的背景

プレジデントオンライン / 2023年10月31日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wako Megumi

カップ焼きそばの業界1位は「日清焼そばU.F.O.」だ。ところが東日本では「ペヤング」(まるか食品)が最も人気のブランドになっている。なぜ地域差があるのか。経済ジャーナリストの高井尚之さんがリポートする――。

■なぜカップ焼きそばの好みが分かれるのか

お昼時や小腹がすいた時に気軽に食べる「カップ焼きそば」。無性に食べたくなり買いに行ったり、常に買い置きしたりする人も多い。

カップ焼きそばが食生活に入り込んでから半世紀近くたつが、「東日本と西日本では好みが違う」といわれ、SNSでも時々話題になる。

日本の麺文化の違いとしてはご当地ラーメンが有名だ。カップ麺と袋麺が中心の即席麺(インスタントラーメン)市場でも、九州地区の袋麺ではとんこつ味のハウス食品「うまかっちゃん」が首位。定番商品以外に、九州各県のご当地味にちなんだ派生商品も展開する。

焼きそばの好みは、どう違うのだろうか。

今回は、関東風と関西風の味を同時に楽しめる限定商品(後述)を発売した「ペヤング」ブランドを持つ、まるか食品(本社:群馬県伊勢崎市)と日本コナモン協会(事務局:大阪府大阪市)に取材しながら考えた。

■ペヤングの焼きそばの特徴

まずは、まるか食品の最近の業績を聞いてみた。

「2020年から始まったコロナ禍でも好調で、安定した売り上げとなっています。2023年3月期の当社業績は、過去最高となる売上高163億円を記録しました。

また、この間に好調だったペヤングの商品は、『オムそば風やきそば』『豚バラ入り 旨い辛さの油そば』『からしマヨネーズ黒胡椒やきそば魔王』などがあります」(同社)

新型コロナウイルスの影響で在宅勤務などの巣ごもり消費が起き、即席麺の需要が高まった。同市場は「カップ麺」と「袋麺」が大きく、カップ麺は袋麺の2倍以上の規模。「ペヤング」はカップ麺に属する。

最初に巣ごもり需要となった2020年度(1月~12月)は「カップ麺よりも袋麺の伸長が大きく、袋麺は小売額ベースで対前年比20.0%増、数量ベースで17.4%増となった」(「日本即席食品工業協会」調べ)が、やがてカップ麺が伸びた。

コロナ特需が一段落した後もカップ麺は堅調。一方、手軽に調理しやすくコストパフォーマンスが高い袋麺は、外食機会が増えた影響もあり、伸び悩んだ。

前述のように“オムそば”“豚バラ入り油そば”など、切り口を変えたカップ焼きそばを市場に送り出したペヤングは、固定ファンを中心に支持されたのだろう。

■東西でソースの好みが分かれる

焼きそばの味は、ソースの違いが最も大きい。まるか食品、製品開発課の五十嵐美海さんは、「東日本では、“甘みが薄いウスターソース系”の味付けを好む傾向があり、西日本では、“甘みが強くコッテリとしたお好みソース系”が好まれる傾向があります」と話す。

うどんやそばの汁は、東日本=濃い味、西日本=薄味という印象が強いが、焼きそばソースの好みは逆なのだ。この違いを同時に楽しんでもらおうと、2023年春に「ペヤング 超大盛やきそばハーフ&ハーフ東西」(希望小売価格250円、税別)を限定発売した。

「まろやかながらも酸味のある“ペヤングソースやきそば”を東日本、“コク深い甘めのソース”を西日本と分け、東西のやきそばを表現したのです。おかげさまで売れゆきは好調でした」(同)

東日本は、「ペヤングソースやきそば」でおなじみの通常ソースだ。実際に湯切りした後の麺にかけてみると、色の濃さもまったく違う。

筆者撮影
カップ焼きそば界で屈指の人気を誇る2ブランド - 筆者撮影

■東日本はペヤング、西日本がU.F.O

ところで、カップ焼きそばの売り上げ(※)首位は、「日清焼そばU.F.O」(日清食品)だ。今は東京本社と大阪本社があるが、もともとは関西発祥の会社。即席麺市場を創った「チキンラーメン」は大阪府池田市で開発された。

(※)インテージSRI+カップインスタント麺市場 「焼きそば」カテゴリー 2022年1月~12月、U.F.Oブランド累計販売金額(全国、全業態)による

そうした地盤もあるのだろう。カップ焼きそばの売れゆきも「東日本はペヤング、西日本がU.F.O」という勢力図だ。中部地方を境に変わるが、境界線ははっきりしない。

ソフトブレーン・フィールド(現mitoriz)が2015年に行った、カップ焼きそばに関する5300人アンケート調査で興味深い内容があったので、この機会に紹介したい。

それによれば「カップ焼きそばを食べるシーン」は圧倒的に「昼」が多く、他は「間食」「夕食」「夜食」だった。また、「仕事場・オフィスで食べる人」も未婚女性が20.2%、未婚男性と既婚男性がともに17.0%だった。

出典=「カップ焼きそばを買って食べる5356名(女性2974名、男性2382名、20代~80代)に実施した『カップ焼きそば』に関するアンケート」より。提供=mitoriz

また、「最も好きな焼きそばのブランド」は、東日本では「ペヤング」だが中部以西では「U.F.O」と勢力図通りの結果となった。

出典=「カップ焼きそばを買って食べる5356名(女性2974名、男性2382名、20代~80代)に実施した『カップ焼きそば』に関するアンケート」より。提供=mitoriz

もちろん、地域だけではなく人による。別のブランドを一切食べないというわけでもない。たとえば「ふだんはU.F.Oだが、時々ペヤングを食べる」「若い頃に比べて好みの味が変わった」という人もいる。

■業界初だった「液体ソース」

なお、カップ焼きそばでは「一平ちゃん」(明星食品)や「マルちゃん ごつ盛り」(東洋水産)なども人気だ。即席ラーメンで知られるメーカーが手がける商品が強い。

また、北海道はエリア限定で販売される「やきそば弁当」(東洋水産)、東北では「焼そばバゴォーン」(同)の人気が高く、同調査でも裏づけられた。現地での知名度は高く、前者は通称「やき弁」で親しまれている。

九州における袋麺「うまかっちゃん」のような現象が、カップ焼きそばでも起きていた。

東西の雄「ペヤング」と「U.F.O」の横顔も簡単に紹介しよう。

「ペヤングソースやきそば」は、1975(昭和50)年の発売。まもなく誕生半世紀だが、「発売当初から一度も味付けを変えていない」(まるか食品)というロングセラー商品だ。

「屋台のやきそばをイメージして作られたため、業界初の『四角い容器』が採用されました。また、今では一般的な液体ソースも、美味しさとコク・混ぜやすさを追求し、業界で初めて採用されました」(まるか食品・五十嵐さん)

筆者撮影
「ペヤング」と「U.F.O.」のソース - 筆者撮影

一方、「日清焼そばU.F.O」は1976年の発売。カップ焼きそばでは後発だが、容器は業界初の「丸い皿型容器」。味だけでなく、さまざまな仕掛けで売り上げを伸ばした。当時話題となった「UFO」(未確認飛行物体、昔は空飛ぶ円盤といわれた)を思い起こすネーミング。人気絶頂だったピンク・レディー(1977年発売の大ヒット曲は「UFO」)を起用したテレビCMを覚えている人もいるだろう。

■西日本の濃厚ソースはお好み焼き由来

カップ焼きそば以外では、焼きそばの麺には「ゆで麺」「むし麺」「生麺」もあり、各地に焼きそば専門店もある。

「ゆで麺・むし麺・生麺は、それぞれ食べた時に食感が変わりますが、焼きそばソースは東日本がウスター系、西日本はお好み焼き文化の影響を受けた、こってり系です。ただ、ソース焼きそばがすべてではなく、北海道ではあんかけ焼きそばが多いのも特徴です」

こう話すのは、食文化研究家としてメディア出演も多い、熊谷真菜さん(日本コナモン協会会長)だ。今年20年を迎えた同協会の設立者で、たこ焼きやお好み焼きへの造詣も深い。

「2006年から始まったB-1グランプリでは第1回、第2回と富士宮やきそば(静岡県)が連覇。第4回では横手やきそば(秋田県)がグランプリに輝くなど、注目を集めました。ソース焼きそばの始まりは戦後といわれていましたが、戦前から東京・浅草のデンキヤホールが提供していたといわれます。具材は豚肉とキャベツ、中でもキャベツが中心でした」(同)

筆者は東日本大震災後の2012年以降、何度も被災地を訪れて復興企業を取材した。その際に知ったのが「石巻焼きそば」(宮城県)で、二度蒸しした麺の茶色さ、飲食店では目玉焼きをのせて提供するスタイルも興味深かった。

筆者撮影
石巻市内にある「八鶏飯蔵」の「石巻焼きそば」 - 筆者撮影

「日本コナモン協会が行う『鉄板会議2023』のテーマは『やきそば』で、各地のやきそばの会にもご協力いただきました。焼きそばは東日本に専門店が多い特徴があります」(同)

10月19日に大阪で行われた鉄板会議では、石巻茶色い焼きそばアカデミーの木村均さんも登壇した。北関東には「太田焼きそば」(群馬県太田市)、東北地方には「なみえ焼そば」(福島県浪江町)もある。前述の富士宮や横手など、東日本勢の存在が目立つ。

■なぜ東日本は、ウスターソースなのか

ところで、なぜ「東日本では、“甘みが薄いウスターソース系”の味付けを好む」のか。

オタフクソース(本社:広島県広島市)の公式サイトによれば、

「ソースの歴史は、(中略)19世紀中ごろに、英国・ウスター市でウスターソースが誕生したことに始まります」と説明されていた。戦後にウスターソースづくりを始めた同社が「お多福ウスターソース」を発売し、お好み焼き店を訪問するうちに「サラサラとしたウスターソースは鉄板に流れ落ちる」との悩みを聞き、試行錯誤を重ねて1952年に、とろりとした「お好みソース」を開発した。

この商品の大ヒットもあり、西日本では“甘みが強くコッテリとしたお好みソース系”が好まれるようになった。たこ焼きもウスターソースとの相性はよくないだろう。

一方、これらの粉もん文化が広島・大阪ほど強くない東日本では、そこまでのこだわりはなく、ウスターソースや(濃厚までいかない)中濃ソースが浸透していったと考えられる。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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