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日本の法律は「政治家の裏金」を黙認している…「令和のリクルート事件」でも自民党議員が逮捕されない理由

プレジデントオンライン / 2023年12月7日 14時15分

衆院本会議場で自民党の茂木敏充幹事長(左)と話す自民党の高木毅国対委員長=2023年12月5日、国会内 - 写真=時事通信フォト

■パーティー券から裏金に回った額は数億円規模か

自民党の派閥が毎年開催している政治資金パーティーについて、20万円を超えるパーティー券収入の不記載が、5派閥合計で4000万円に上っていることが、「パーティー券収入過少記載問題」として報じられた。

それに関連して「裏金疑惑」が取り沙汰されていたが、ここへきて、その裏金の問題が現実のものとなった。

派閥所属の議員がノルマを超えて販売した分が、派閥に入金後、議員側にキックバックされたり、ノルマ以上の枚数を派閥から受け取った議員が、ノルマの金額を派閥に納めたあとは、販売して受領した代金をそのまま取得したりするなどして、その分が、派閥の収支報告書にも、議員の収支報告書にも記載されず“裏金”となっていると報じられている。

特に、安倍派(清和政策研究会)の裏金は、国会議員数十人にわたり、合計数億円に上るなどと報じられ、政界には激震が走っている。

検察当局の動きについても、「東京地検特捜部は、裏金化させた疑いのある議員や派閥運営に関わる幹部ら同党議員数十人からの事情聴取も検討し、全国から応援検事を集めて態勢を大幅に拡充している」(12月3日付読売新聞)などと報じられており、大規模捜査体制による本格的捜査が開始されようとしている。

連日の報道で国民の関心は日増しに高まっており、安倍派を中心に、自民党内の動揺・混乱が拡大している。

■政治資金規正法で裏金は処罰できない

政治資金パーティーを主催した派閥側については、議員側に裏金として渡した金額を収入から除外して政治資金収支報告書に記載した場合には、パーティー収入の過少記載は明らかだ。

しかし、ノルマを超えた販売をそのまま議員が取得するケースでは、派閥が実際のパーティー券収入を把握していない可能性もあり、政治資金パーティー収入の過少記載の具体的な認識の立証は困難も予想される。また、長年にわたって慣行的に行われていたとすると、派閥の幹部の関与についての具体的事実を明らかにすることは容易ではない。

それ以上に問題なのは、裏金を受領した議員側を、収支報告書の虚偽記入罪に問えるかどうかだ。

そこには、国会議員等の政治家個人が、裏献金を受領した場合、政治資金規正法違反での処罰が困難だという、私がかねてから指摘してきた政治資金規正法の重大な欠陥が立ちはだかる。

今年3月に公刊した『“歪んだ法”に壊される日本 事件・事故の裏側にある「闇」』(KADOKAWA)の《第2章 「日本の政治」がダメな本当の理由》の中でも、政治家が直接現金で受け取る「裏金」は、政治家個人宛てのお金か、どの団体宛てかなどを明確にしないでやりとりするので、どの政治資金収支報告書の問題かがが特定できず、刑事責任は問えないことについて解説している。

今回の問題で、パーティー券をノルマ以上に売って「裏金」を得た議員にも、同様のことが言える。

■「ザル法」の真ん中に“大穴”が空いている

「政治とカネ」の重大問題が発生するたびに、政治家が世の中の批判を受け、政治家や政党自身が「その場しのぎ」的に、議員立法で改正を繰り返してきたのが政治資金規正法だ。そのため、そこには、多くの「抜け穴」があり、政治家本人を処罰することは容易ではない。それが「ザル法」と言われてきた所以(ゆえん)である。

しかし、実は、政治資金規正法は、単に「ザル法」だというだけでなく、ザルの真ん中に「大穴」が空いているという「重大な欠陥」がある。

「政治とカネ」問題の典型例が、政治家が、業者等から直接「裏献金」を受け取る事例である。政治資金規正法という法律があるのだから、政治家が業者から直接現金で受領する「裏献金」こそ、政治資金規正法の罰則で重く処罰されるのが当然と思われているだろう。

しかし、実際には、そういう「裏献金」のほとんどは、政治資金規正法の罰則の適用対象とはならない。「ザル法」と言われる政治資金規正法の真ん中に「大穴」が空いているのである。

政治資金規正法は、政治団体や政党の会計責任者等に、政治資金収支報告書の作成・提出を義務付けている。それに違反して、収入や支出を記載しなかったり、虚偽の記載をしたりすることが罰則の対象となる。

■裏献金のやりとり自体が犯罪ではない

「裏献金」の授受が行われた場合は、その裏献金受領の事実を記載しない収支報告書を作成・提出する行為が不記載罪・虚偽記入罪等となるのであり、裏献金の授受自体が犯罪ではない。

国会議員の場合、個人の資金管理団体のほかに、代表を務める政党支部があり、そのほかにも複数の関連政治団体があるのが一般的だ。このような政治家が、企業側から献金を受け取った場合、それらの団体のどこに帰属させるかは、その年の分の政治資金収支報告書を、翌年3月に提出する時に「振り分け」をするのが実情だ。

政治家が直接、現金で政治献金を受け取ったのに、領収書も渡さず、いずれの政治資金収支報告書にもまったく記載しないというのが「裏献金」だが、この場合に、政治資金規正法の罰則を適用するためには、どの団体宛ての献金かが特定されないと、どの「政治資金収支報告書」に記載すべきなのかがわからない。

仮に、その献金が政治家「個人」に宛てた「寄附」だとすれば、「公職の候補者」本人に対する寄附は政治資金規正法で禁止されているので(21条の2)、その規定に違反して寄附をした側も、寄附を受け取った政治家本人も処罰の対象となる。

しかし、裏献金というのは、それを「表」に出すことなく、裏金として使うために受け取るのであるから、政治家個人宛てのお金か、どの団体宛てかなどということは、あえて明確にはしない。結局、どれだけ多額の現金を受け取っていても、それが裏献金である限り、政治資金規正法違反の犯罪事実が特定できず、刑事責任が問えないことになるのだ。

賄賂
写真=iStock.com/Atstock Productions
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Atstock Productions

■佐川急便と政界の汚職が取り沙汰された「金丸5億円闇献金問題」

平成に入って間もない1990年代初頭、検察に対する世の中の不満が爆発したのが、92年の東京佐川急便事件だった。この事件では、東京佐川急便から多数の政治家に巨額の金が流れたことが報道され、同社の社長が特別背任罪で逮捕されたことで大規模な疑獄事件に発展するものとの期待が高まった。

しかし、いくら巨額の資金が政治家に流れていても、国会議員の職務権限に関連する金銭の授受は明らかにならず、結局、政治家の贈収賄事件の摘発はまったくなかった。

そして、佐川側から5億円の闇献金を受領したことが報道され、衆議院議員辞職に追い込まれた自民党経世会会長の金丸信氏が政治資金規正法違反に問われたが、東京地検特捜部は、その容疑に関して金丸氏に上申書を提出させ、事情聴取すらせずに罰金20万円の略式命令で決着させた。

検察庁合同庁舎前で背広姿の中年の男が、突然、「検察庁に正義はあるのか」などと叫んで、ペンキの入った小瓶を建物に投げ、検察庁の表札が黄色く染まるという事件があったが、それは多くの国民の声を代表するものだった。東京佐川急便事件における金丸氏の事件の決着は、国民から多くの批判を浴び、「検察の危機」と言われる事態にまで発展した。

■上申書を書かせて決着するのが精一杯だった

しかし、政治家本人が巨額の「闇献金」を受領したという金丸氏の事件も、政治資金規正法の罰則を適用して重く処罰すること自体が、もともと困難だった。

当時は、政治家本人に対する政治資金の寄附自体が禁止されているのではなく、政治家個人への寄附の量的制限が設けられているだけだった。しかも、その法定刑は「罰金20万円以下」という極めて低いものであった。しかも、その闇献金が「政治家本人に対する寄附」であることを、本人が認めないと、その罰金20万円以下の罰則すら適用できない。

そのような微罪で政治家を逮捕することは到底無理であり、任意で呼び出しても出頭を拒否されたら打つ手がない。そこで、弁護人と話をつけて、金丸氏本人に、自分個人への寄附であることを認める上申書を提出させて、略式命令で法定刑の上限の罰金20万円という処分に持ち込んだのであった。

■政治家本人への寄附は禁止されたが…

検察の行ったことは何も間違ってはいなかった。政治資金収支報告書の作成の義務がない政治家本人への献金の問題について極めて軽い罰則しか定められていなかった以上、検察が当時、法律上行えることは、その程度のものでしかなかった。しかも、それを行うことについて、本人の上申書が不可欠だったのである。

金丸闇献金事件の後、政治資金規正法が改正されて、「政治家本人への寄附」が禁止され、「1年以下の禁錮」の罰則の対象となった。

しかし、政治家本人が直接受領した「裏献金」については、違法な個人宛ての献金か、あるいは団体・政党支部宛ての献金かが特定できないと、政治資金規正法違反としての犯罪事実も特定できず、適用する罰則も特定できないという、「政治資金規正法の大穴」は解消されておらず、その後も、政治家個人が「裏献金」で処罰された例はほとんどない。

■長崎地検次席検事時代に立件した裏献金事件

一方、裏献金が刑事事件として立件され処罰された事例もある。

その初の事例となったのが、私が長崎地検次席検事として捜査を指揮した2003年の「自民党長崎県連事件」[拙著『検察の正義』(ちくま新書)の「最終章 長崎の奇跡」]である。

スケールと小槌
写真=iStock.com/BrianAJackson
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BrianAJackson

この事件では、自民党長崎県連の幹事長と事務局長が、ゼネコン各社から、県の公共工事の受注額に応じた金額の寄附を受け取っていた。そして、幹事長の判断で、一部の寄附については、領収書を交付して「表の献金」として収支報告書に記載して処理し、一部は「裏の献金」として、領収書を交付せず、政治資金収支報告書にも記載しなかった(この「裏の献金」が、幹事長が自由に使える「裏金」に回されていた)。

この事件では、正規に処理される「表の献金」と同じような形態で「裏の献金」が授受されていたので、「自民党長崎県連宛ての寄附」として収支報告書に記載すべき寄附であるのに、その記載をしなかったことの立証が容易だった。「裏献金」事件を、初めて政治資金収支報告書の虚偽記入罪(裏献金分、収入が過少記載されていた事実)で正式起訴することができた事件だった。

■今回の問題も政治資金規正法では歯が立たない

2004年7月には、日本歯科医師連盟から平成研究会(橋本派)に対する1億円の政治献金が行われたことについて、派閥の幹部の会合で、領収書を出さず収支報告書に記載しないことを決めた事実があったので、それについて、虚偽記入罪が適用され、村岡兼造元官房長官と事務局長が起訴された。

この事件も、平成研という政治団体に対する寄附であることが外形上明白で、それについて領収書を交付するかどうかが検討された末に、領収書を交付しないで「裏の献金」で処理することが決定されたからこそ、政治資金規正法違反の罰則適用が可能だったのである。

「裏献金」を政治資金規正法違反で処罰できる事例というのは、上記のような「外形上帰属先が明白な事例」に限られ、政治家本人が、「裏金」として直接現金を受け取るような事例には、政治資金規正法の罰則は歯が立たないというのが現実なのだ。

■現金でやりとりされていれば、どの政治団体宛か特定できない

今回の自民党派閥の政治資金パーティー裏金問題でも、議員がノルマを超えて販売した分が、キックバックや議員側への留保等によって、「裏金」として議員側に入ったとされている。「裏金」である以上、銀行口座ではなく現金でやりとりされているはずだ。この場合も、何の政治資金処理も行われていないのであれば、その「裏金」が、当該議員に関連するどの政治団体の「収入」とされるべきものなのかを特定することができない。

そうなると、どの政治団体、あるいは政党支部の収支報告書に記載すべきだったのかが特定できないので、(特定の政治団体等の収支報告書の記載についての)虚偽記入罪は成立しない。派閥のパーティー券収入から議員個人が得た裏金が、仮に何年かで数千万円に上っていたとしても、政治資金規正法上は不可罰、ということになる。

検察側が考えるとすれば、議員側に、裏金を本来帰属させるべきであった団体を特定し、その団体の政治資金収支報告書の訂正を行わせることぐらいであろう。

しかし、「裏金」として授受されたものである以上、事後の訂正によって、当初の収支報告書を作成・提出した時点の認識としての「裏金」の帰属先が遡って特定されるわけではない。議員側と話をつけて、そのような対応に応じさせるとしても、金丸事件での「上申書決着」と似たようなものであり、本来の刑事処罰の在り方ではない。

■「令和のリクルート事件」に国民の怒りの爆発は必至

その裏金を私的用途に使えば個人の所得となり、所得税の脱税の問題が生じる可能性はある。しかしここでも、「政治の金」と「個人の金」の境目が曖昧という、もう一つの政治資金に関する根本問題が立ちはだかる。将来、個人の用途で使うことを考えて、裏金を別口座にため込んでいたとしても、「次回選挙のための資金」などと弁解されると、それを崩すことは困難だ。

結局、まとまった金額の「裏金」を明らかに私的な用途に使っている事実があり、それが、国税と検察で取り決めている「逋脱犯の告発基準」に該当する金額に達するという、極めて例外的な事例でなければ脱税で処罰することも困難だ。

しかし、自民党幹部側が、「令和のリクルート事件だ」とまで言っている「派閥パーティー券“裏金”疑惑」が、合計で数億円という裏金として議員個人にわたっていることが判明したのに、ほとんど処罰されなかった場合、これまでの「政治とカネ」問題のように特定の議員のスキャンダルではなく、多くの議員が、多額の裏金を得て、それを領収書もなく自由に使える状況が恒常化しているという現実に、国民の怒りが爆発することは必至だ。

■収支すべてを記載する「総括政治資金収支報告書」を提出すべき

佐川急便から金丸信自民党副総裁への5億円のヤミ献金が発覚したのに、上申書・罰金20万円で決着した際には、国民の怒りが検察に向かい、「黄色いペンキ投擲事件」に発展した。それは、国会議員が作った政治資金規正法の罰則の欠陥であり、検察を批判するのは筋違いだった。

郷原信郎“歪んだ法”に壊される日本 事件・事故の裏側にある「闇」』(KADOKAWA)
郷原信郎『“歪んだ法”に壊される日本 事件・事故の裏側にある「闇」』(KADOKAWA)

今回の問題も、政治資金の透明化という法目的に著しく反する「政治家個人が現金で受領する裏金」に対して政治資金規正法による罰則適用ができないというのは、現行法自体の構造的な欠陥によるものだ。

前記拙著では、このような「政治資金規正法の大穴」を塞ぐ方法として、国会議員について、個別の団体・政党支部ごとの会計帳簿とは別に、当該国会議員に関連する政治資金の収支すべてを記載する「総括政治資金収支報告書」の作成・提出を義務付けることを提案している。

今回の事件を機に、政治資金制度の抜本改革を行うこと以外に、極限まで高まりつつある国民の政治への不信を払拭する手立てはない。

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郷原 信郎(ごうはら・のぶお)
郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士
1955年、島根県生まれ。77年東京大学理学部を卒業後、三井鉱山に入社。80年に司法試験に合格、検事に任官する。2006年に検事を退官し、08年には郷原総合法律事務所を開設。09年名城大学教授に就任、同年10月には総務省顧問に就任した。11年のオリンパスの損失隠し問題では、新日本監査法人が設置した監査検証委員会の委員も務めた。16年4月「組織罰を実現する会」顧問に就任。「両罰規定による組織罰」を提唱する。『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)、『検察の正義』(ちくま新書)、『思考停止社会 「遵守」に蝕まれる日本』(講談社現代新書)、『「深層」カルロス・ゴーンとの対話 起訴されれば99%超が有罪になる国で』(小学館)など、著書多数。近著に『“歪んだ法”に壊される日本』(KADOKAWA)がある。

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(郷原総合コンプライアンス法律事務所 代表弁護士 郷原 信郎)

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