国民民主の分裂騒ぎは、「維新消滅」の前触れ…野党政治家を引き付ける「第2自民党」は死に至る病である
プレジデントオンライン / 2023年12月11日 14時15分
■前原氏の離党を「予言」
11月21日に公開した「なぜ自民党候補の落選が相次ぐのか…岸田首相の失政だけではない、立憲民主党の存在感が増しつつある理由」について、文末の記述が「予言めいてみえる」とのご感想をいただいた。その記述をまず再掲したい。
「予言めいてみえた」ものとは、国民民主党の前原誠司代表代行が同月30日、同党を離党して新党「教育無償化を実現する会」を結党する方針を示したことを指している、ということだろう。前原氏離党の背景に、岸田政権との協力を模索する玉木雄一郎代表への不満があるのは間違いないし、今後は日本維新の会との連携もささやかれている。
筆者は今回の離党劇を事前に知っていたわけではないが、驚きは全くない。いずれこんな事態に発展することは、ずいぶん前から火を見るよりも明らかだったからだ。
■保守系第三極政党の分裂は定番の流れ
国民民主党に限ったことではない。衆院の小選挙区制を中心とした現在の選挙制度において、政権与党と野党第1党以外の中小政党、特に保守系の「第三極」と呼ばれる政党は、常に「与党と野党第1党のどちらにくみするか」を陰に陽に問われ続ける。やがて所属議員の間に「与党寄り」「野党寄り」の対立が生まれ、最後には党分裂に至る、というのは、もはや定番の流れであり、別に驚くに値しない。
自由党、保守党、みんなの党……。これまでいくつもの「保守系第三極」政党が、同様の党内抗争を経て分裂し、消えていった。もしかしたら国民民主党も、この過程に入りつつあるのかもしれない。
■非自民の前原氏、政策実現の玉木氏
筆者は昨年4月に公開した「やがて自民党に吸収されるだけ…国民民主党がまんまとハマった『提案型野党』という毒饅頭」という記事の中で、旧民主党系の議員には、世代によって政治に対する考え方に大きな違いがあることを指摘した。
前原氏は、30年前の細川政権誕生前夜から小選挙区制の導入の前後に国政入りした世代だ。大きな政変を若手議員として目の当たりにした経験から「自民党に選挙で勝って政権を奪い取る」意識が強い。「保守かリベラルか」といった違いに関係なく、彼らは総じて「非自民」志向である。ちなみに、立憲民主党の枝野幸男前代表や野田佳彦元首相も、このグループに入る。
一方の玉木氏は、民主党が政権を奪取した2009年に初当選した。自民党から政権を勝ち取る野党の長い戦いを経験せず、いきなり政権与党の一員となったのだ。
玉木氏のように、民主党政権発足前夜以降に政界入りした世代は、上の世代に比べ、政権を「戦って勝ち取る」感覚が薄い。野党的な批判的振る舞いを好まず「自民党政権と協調してでも政策の実現そのものを目指す」スタンスを取りがちだ。
■なぜ代表戦後に「ノーサイド」とならなかったか
民主党に勢いがあった間は、こうした所属議員の肌合いの違いも、一定程度吸収できた。しかし、2012年に同党が下野して以降、こうした違いはむき出しのものとなった。17年の「希望の党騒動」によって民進党(民主党から名称変更)が分裂すると、立憲に議席数で水をあけられ「保守系第三極」的な立場となった国民民主党は、代表の玉木氏が立憲への対抗心もあって「与党寄り」姿勢をさらに強めていった。
「非自民」志向の前原氏が、玉木氏の方向性に耐えられない思いを抱いたのも無理はない。今年9月の党代表選では、2人はまさに政治路線をめぐって真っ向から戦った。
政治路線をめぐり、ここまで互いに相容れない明確な対立構図ができてしまっては、もはや「ノーサイド」はあり得ない。記者会見で前原氏は「『自公国』と言われ『連立入り』とも目されている。私の政治信念とは違う」などと述べ、暗に玉木氏の姿勢を批判した。離党は必然だった。
■国民民主が野党内で求心力を取り戻すのはほぼ不可能
それにしても、前原氏の離党を経て、国民民主党は今後どうなるのだろうか。もしかしたら再度の分裂があるかもしれない、と筆者は危惧している。
少し歴史を振り返ってみたい。
もともと国民民主党は、2017年の「希望の党騒動」で粉々になった民進党の「正当な後継組織」という意識を強く持っていたと思う。失速した希望の党を離れた元民進党の衆院議員と、参院で存続していた民進党議員が合流する形で、2018年に結党した国民民主党。野党第1党の立憲民主党は、もともと民進党から「離党して出て行った存在」であり、いずれは国民民主党が主導して、立憲を「迎え入れる」形で民進党の再結集を図る。当然、その時の野党のリーダーは、玉木氏であるべきだと。
しかし、過去にもたびたび指摘してきたが「小選挙区制で野党第1党の立場にない」政党が、野党内で求心力を持ち続けるのは極めて難しい。
国民民主党は最初の結党の段階で、民進党と希望の党所属だった議員の約4割が参加せず、一部が立憲民主党に合流。翌19年の参院選でも立憲に水をあけられ、20年には事実上立憲への「合流」によって、現在の泉健太代表を含む多くの議員が党を去った。現在の国民民主党は、立憲への合流を拒んで残った議員で構成される政党であり、今さら同党が単独で野党内の求心力を取り戻すのは、ほぼ不可能な状態になっていた。
■次に国民民主を離党する議員の特徴
この小さな政党の中で、①「非立憲」の立場から「準与党化」に走る玉木氏、②維新との連携によって「改革保守の野党第1党づくり」を夢見る前原氏、③立憲との一本化によって「組織内候補の確実な当選」を目指す連合と組織内議員――という、3つの思惑が入り乱れた。
ここまでは「与党寄りの玉木氏vs野党寄りの前原氏」という①②の対立に焦点が当たっていたが、前原氏の離党によって、今度は①と③の対立が前面に出てきかねない。前原氏のくびきを逃れた玉木氏が「与党寄り」路線をさらに強める可能性がある一方、連合系は前原氏の離党で国民民主党の党勢がそがれたことに不安を感じているだろう。2025年の次期衆院選で比例代表の得票を大きく減らせば、組織内議員が議席を失う恐れがあるからだ。
連合はこれまで、共産党との関係の「近さ」を感じさせる立憲民主党より、国民民主党のほうに親しみを感じているフシがあった。しかし、両党の党勢の差が開くにつれ、不承不承かもしれないが、軸足をじわりと立憲に移しつつあるようにも見える。冒頭に引用した記事でも触れたが、連合の芳野友子会長は11月10日の記者会見で、立憲候補の演説に共産党関係者が応援に駆けつけることについて「現実問題として仕方ない」と述べた。
玉木氏と連合系の距離がさらに開く可能性がある。もし連合系が立憲寄りのスタンスを取り始めたら、玉木氏は耐えられるのだろうか。
すぐにさらなる党分裂の動きが起きるとは、さすがに筆者も考えてはいない。しかし、これまでの流れを見れば、国民民主党はもはや空中分解しかねない段階に足を踏み入れつつある、と思えてならない。国民民主党も結局は、過去の「保守系第三極」政党と、同じ運命を歩んでいると言えるのではないか。
■「第2自民党」の維新と非自民の前原氏は組めるのか
さて、前原氏の離党は、ある意味この状況に抗うものなのだろう。野党の立場を踏み越えて「準与党化」する玉木氏にいら立った前原氏は、野党第2党の日本維新の会と連携して改革保守の野党の「塊」をつくり、野党内の主導権を取り戻そうとしているのかもしれない。立憲内の保守系勢力までも糾合して野党を再編し、新たな野党第1党をつくることができれば、まさに自身が6年前に仕掛けた「希望の党騒動」のやり直しである。
メディアの一部にもそれを期待する向きがあるようだ。本当に懲りないものだ。
実は筆者には、前原氏がなぜ維新に執着するのかが分からない。
確固たる「非自民」路線を掲げる前原氏が、党のトップが「第2自民党でいい」と公言する維新と組めるのか。維新は安倍、菅義偉政権に比べれば、岸田政権とは距離を置いているようだが、大阪万博問題が行き詰まり、国費の増額が必要になれば、政権と戦うのは難しくなるだろう。現に臨時国会で、維新は政府の2023年度補正予算案に賛成している。
また「身を切る改革」をうたい、新自由主義的な性格の強い維新の政策は「All for All」(みんながみんなのために)を掲げる前原氏の目指す社会像とは真逆だ。かつて民進党代表選で前原氏と戦い、後に立憲民主党を結党した枝野氏が提唱した「お互いさまに支え合う社会」の方が、よほど親和性が高いのではないか。
■最後の保守系第三極政党はどう転ぶか
「政権交代可能な二大政党づくり」を目指す前原氏の思いは、同時代を生きた政治記者の一人として理解できないこともない。だが、そこに向けての政治行動が、どうみても自身の政治信条と合わないことを、前原氏はどう認識しているのだろうか。
さて、国民民主党が尻すぼみとなった今、維新は現状では最後の「保守系第三極」政党だ。メディアの世界では相変わらず「野党第1党へ!」と持ち上げられている維新だが、筆者はむしろ、維新が過去の「保守系第三極」と同じ道をたどるか否かの方が気にかかる。
10日投開票の東京都江東区長選では、維新が推した候補が立候補者5人のうち最下位に沈み、得票も供託金没収レベルだった。
自民党と立憲民主党という、国政で政権を争う2党が推す候補者がそろっている選挙では、第三極以降の政党は、どちらかと組まない限り、単独で勝つのは難しい。そのことを改めて示した選挙だったと思う。
果たして維新も「野党第1党化」という結果を出せないまま、いずれ国民民主党のように分裂の道を歩むことになるのだろうか。前原氏の離党は案外、それを占うカギになるのかもしれない。推移を見守りたい。
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ジャーナリスト
福岡県生まれ。1988年に毎日新聞に入社し、政治部で主に野党や国会を中心に取材。政治部副部長などを経て、現在はフリーで活動している。著書に『安倍晋三と菅直人 非常事態のリーダーシップ』(集英社新書)。新著『野党第1党 「保守2大政党」に抗した30年』(現代書館)9月上旬発売予定。
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(ジャーナリスト 尾中 香尚里)
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