異様にひとり暮らし高齢者が多い謎県・鹿児島…若い世代は家族同居も60代以上の独居率右上がりの歴史的背景
プレジデントオンライン / 2024年1月11日 11時15分
■ひとりぼっちがフツー:20代は約30%、85歳以上は22%
最新2022年の国民生活基礎調査では、単身世帯(ひとり暮らし世帯)の数が32.9%と、はじめて3割を超え、2人世帯の数を上回って世帯の中で最も多くなった。
単身世帯化の動きは、青・壮年層からは未婚化にともなう動きや少子化問題として関心をもたれ、高齢層からは、ひとり暮らし老人の孤独死や福祉・介護の問題として、あるいは防犯や防災、救急医療の課題として関心を持たれている。
ところが、こうした高い関心にもかかわらず、意外なことに基礎的指標であるのに「年齢別のひとり暮らし比率」は公式に集計されていない。そこで時系列変化の実態、および地域別のひとり暮らし状況を概観してみよう(※)。
※公的統計からよく引用される世帯数構成比では、各年齢層のひとり暮らし比率が分からない。これを知るためには、世帯主の年齢別の単独世帯数を年齢別のひとり暮らし人口と捉え、これを別集計の年齢別人口で除して求める必要がある。1種類の集計で求められず、官庁統計の調査結果の概要版でも公表されないので、マスコミも報じない状況となっている。
筆者は1985年以降の5年おき(90年、95年、00年、05年、10年、15年、20年)の国勢調査結果から求めたひとり暮らし比率を算出しグラフにして示した(図表1)。
現在のひとり暮らし比率はどうなっているのか。
最新の2020年の値を追うと、10代では5%程度と低いが、20代には30%近くに上昇し、結婚が進む30代ではいったん10%台に低下するものの、40代前半で最低の12.4%と再び上昇に転じる。最近は生涯未婚率が上昇しているので最低でも10%以上とかつて(85年は50代までは5%前後)と比べると底上げとなっている。
40代後半についてみていくと、離婚、別居や単身赴任などで徐々に上昇をはじめ、その後、子どもの独立も加わって60代後半には16%を超える。65歳以上の高齢期に入っても、配偶者との死別や子どもの独立でさらに上昇を続け、85歳以上では22.2%にまで達する。
■ひとり暮らし、20代後半は2.2倍、85歳以上は3.8倍
次に、1985年から2020年にかけての35年間の推移を見てみよう。全体として、各年代、各年齢層でひとり暮らし比率が右肩上がりに大きく上昇した。
85年から20年にかけての35年間の中で、年齢計の「総数」で6.5%→14.9%、もっとも高い水準の20代後半では13.7%→29.6%へと2.2倍に上昇。85歳以上では5.9%→22.2%へと3.8倍とさらに大きく上昇している。
唯一の例外は10代後半であり、しばらく上昇したが2005年の6.6%→5.1%へとむしろ低下している。これは高学歴化にともなう就職年齢の上昇により、親元を離れるのが遅くなってきているためである。
20代前半はバブル期(90年)ぐらいまでは横ばいであり、まだ働き始めてもまだ親と同居していたが、その後、上昇しているのは、高卒就職でも、大学進学でも親から独立するようになったためと思われる。
20代後半の急速な上昇は、20代前半と同じひとり暮らし志向に加えて、晩婚化で、結婚し2人世帯に移るのが遅れていったからであろう。
結婚すると親元を離れ独立するのでひとり暮らしは減るが、晩婚化の影響があって、30代前半までのひとり暮らし比率の上昇の加速、他方では、30代後半と40代のひとり暮らし比率上昇の鈍化にむすびついている。
中年層のひとり暮らし比率上昇は、高齢期のように死別によるものではなく、未婚、単身赴任、離婚の増大の影響によると思われる。
高齢層のひとり暮らし上昇とそのテンポには、本人の健康度の上昇や以前は多かった3世代が同居する世帯の減少のほか、配偶者との死別、子どもの独立、子どもからの独立、在宅福祉・介護制度の充実などの要因が複合的に働いていると考えられる。
例えば、寿命が延びたことで高齢2人世帯が増加し、70代後半~80代前半のひとり暮らし比率の伸びを鈍化させるとともに、女性の死亡年齢の上昇は死別後の女性を増やし、85歳以上のひとり暮らし比率の上昇の大きさの大きな要因となっていよう。
■地域によって大きく異なるひとり暮らし比率
では、どの地域でひとり暮らしが多いか、またどの地域でひとり暮らしが少ないか(家族同居が多いか)を見てみよう。同じように国勢調査の結果を使う。
都道府県別のひとり暮らし比率(15歳以上)を図表2に掲げた。比率が最も高いのは東京の26.7%であり、4人に1人を超えている。
東京に次いでひとり暮らし比率が高い地域は、北海道の20.6%、大阪の20.1%、京都の19.0%と続いている。東京が2位以下の地域を大きく引き離している点が印象的である。下に見るように若年層も高齢層もひとり暮らし比率が他の都道府県を断然引き離して高くなっている東京の地域性のためである。
逆に、ひとり暮らし比率が最も低いのは山形の11.1%であり、10人に1人の水準である。山形に次いでは、福井の11.8%、岐阜の11.9%がいずれも11%台で続いている。東京との差は極めて大きい。
■ひとり暮らし比率:最高は東京、最低は山形
次に、3つの地域で15歳以上の5歳階級別のひとり暮らし比率を見てみよう。図表3には、ひとり暮らし比率トップの東京と最低の山形、およびその中間の鹿児島を全国平均と比較したデータを掲げた。
図を見ると、東京はすべての年齢層(親元にいる15~19歳を除く)でひとり暮らし比率が全国平均と比較して非常に高くなっており、まさに「ひとり暮らし都市」と言ってもよい状態である。
逆に、山形は、ほぼすべての年齢層でひとり暮らし比率が低く、「家族同居都市」とでも呼ぶべき状況だということが分かる。
面白いのは鹿児島だ。40代前半までの人生の前半では、全国と比較してひとり暮らしが少ないが、40代後半以降、歳を重ねるに連れてひとり暮らしが多くなり、全国の上昇傾向と比較しても上昇率が一層高いという特異なパターンを示している。鹿児島がこうした特徴的な姿を示している理由については後段でふれる。
鹿児島の例からも地域パターンを見るときは若年層のひとり暮らしと高齢層のひとり暮らしを区別して観察すべきであることが分かる。そこで、図表4には、X軸に若年層(20代)のひとり暮らし比率、Y軸に高齢層(75歳以上)のひとり暮らし比率を取った散布図を描いた。
この散布図で都道府県の分布状況を概観すると、X軸とY軸の指標は平行して増減する傾向がある(すなわち、若年層と高齢層のひとり暮らし比率は両方とも高かったり、低かったりする傾向がある)ことが分かる。東京や山形はこのパターンである。
しかし、若年層のひとり暮らし比率があまり高くないにもかかわらず、高齢層のひとり暮らしは高いという方向に片寄った地域が少なからず見受けられる点が見て取れる。鹿児島はこちらのケースである。
この散布図から、特徴的な地域をグルーピングしてみると、
② 高齢者ひとり暮らし地域
③ 高齢者同居地域
④ 若者同居地域
が認められる。
① 若者ひとり暮らし地域 例:X軸の値の大きい東京、北海道、京都、福岡、広島、宮城といった都市部。旧帝大の国立大学が存在しているような学園都市的な性格が相まって、地方圏から出て来た若者のひとり暮らしが多いエリアとなっている。
② 高齢者ひとり暮らし地域 例:Y軸の値の大きい東京、鹿児島、大阪、高知といった地域。若い頃から未婚のひとり暮らしが多く、また、商業や交通機関の発達などから高齢者のひとり暮らしがしやすい環境のある東京、大阪といった大都市的地域、および地方の中でも一定の年齢まで家族と同居していても高齢になるとひとり暮らしをする社会的気風が残っている西日本の縁辺地域がこのエリアに属している。
東京や北海道、京都のように①と②がダブっている地域もあれば、①あるいは②のいずれかにしか属さない地域もある。
③ 高齢者同居地域 例:山形、新潟、富山、福井といった日本海側や北陸の地域や佐賀。ただし、北陸の中でも金沢市を有する石川は地方中枢都市的性格をあわせもっているためか、仙台を有する①の宮城に近く、③には属していない。
④ 若者同居地域 例:和歌山や奈良といった近畿周辺地域。
ひとり暮らしの年齢パターンは地域によって多様であることが理解されよう。
■多くの高齢者がひとり暮らしする「謎」の鹿児島県
こうした多様な地域パターンの中でも、非常に謎めいているのは鹿児島である。
地方圏では、東京のような大都市圏とは異なって年齢を問わず家族同居が多いと見るのが常識的である。山形がその典型例だろう。
ところが、図表3でも見たように、鹿児島では40代前半までの人生の前半ではひとり暮らしが少なく、家族同居が多いのに、40代後半以降、歳を重ねるに連れてひとり暮らしが多くなるという特異なパターンとなっている。
鹿児島では、高齢になると夫婦の離別や死別が増えてひとり暮らし老人が急に増えるのであろうか。それとも高齢になると子どもとの同居を解消する何らかの事情があるのであろうか。
高齢層のひとり暮らしの要因としては、そもそも未婚などで子どもがいなかったというケースも含まれるが、基本は子どもとの別居が大きい。そこで、国民生活基礎調査の3年ごとの大規模調査年に得られる都道府県別の高齢者の子どもとの別居率の推移を図表5に示した。ここで母数となっているのは子どもがいる65歳以上の者であり、ひとり暮らしだけでなく高齢夫婦も含まれている。
全国的に別居率は上昇する傾向にあり、各都道府県も全体として同じ傾向にあるが、ここでは、地域別の差に着目しよう。
子どもがいても子どもと同居していない(すなわち別居している)高齢者の割合は1986年の29.5%から上昇を続け、2022年には51.8%と半数を越えるに至っている。2022年値の高い地域のうち上位5地域は、割合の高い順に鹿児島(66.9%)、北海道(64.5%)、宮崎(61.6%)、山口(59.8%)、大阪(59.7%)である。
過去の推移を見ても上位を占めているのは、北海道を除くと西日本の各地域である点が目立っている。とくに鹿児島は、以前は2位以下を大きく引き離していて、子どもとの別居率の特に高い県だったことが分かる。
その理由として考えられるのは何だろうか。
江戸時代の17世紀後半以降、新規開拓農地の急減と並行して、日本全国でそれまでの分割相続から単独相続への移行がおこり、いわゆる「家」制度が成立していったが、鹿児島地方だけその転換が起こらなかったためと考えられる。なお、鹿児島では「家」制度と相補的なムラ制度も未成立だったという(坂根嘉弘『日本伝統社会と経済発展』農文協、2011年、p.44~45)。
分割相続では、長男・次男が結婚すると世帯とその財産が次々と分離され、老夫婦は独立の生活をするが、老夫婦が自力で生活するのが難しくなると、末子がこの老夫婦の面倒をみる。老夫婦がなくなったあとはその財産を最後に面倒を見た末子が引き継ぐのである(いわゆる末子相続)。分割相続が基本の中国では、「輪流管飯」といって独立して生活する老親の食事を子どもたちが順番で提供する習慣が成立していたというが、似たような状況が鹿児島にはあったのである。
こうした制度の名残りで、高齢者の子どもとの別居率が鹿児島で特に高くなっていると考えられるのである。日本は戦後、長男が財産を単独相続し、同居して親の面倒も見るという戦前の家督相続を廃止し、女性を含めた均分相続が制度化された。このためもあって、生活条件が許せば高齢層のひとり暮らしが促される状況となった。いわば、戦前の家族相続の旧慣をだんだんと脱して、日本の多くの地域が鹿児島に近づくことになったのであり、図表5はそうした動きを表していると読むことができる。
一方、鹿児島とは正反対なのが山形だ。高齢者の子どもとの別居率が一貫して低い地域として推移しており、戦前の家族制度をなおもっとも保っている地域と解されるのである。
都道府県別のひとり暮らし比率では東京と山形が両極だったが(図表2~3)、ここで見た子どもがいる高齢者の別居率では、むしろ、鹿児島と山形が両極となっている。
後者の指標で東京は上位5位までに入っていないことから、東京のひとり暮らし比率が非常に高いのは、子どもとの同居率が低いからというより、むしろ、未婚者や子どもを設けない夫婦が多く、そもそも子どもがいない高齢者が多いためであることが分かる。
家族制度の地域性の違いから生まれたひとり暮らし比率の東西の違いがもっと注目されていいのではなかろうか。鹿児島はひとり暮らし老人の歴史が長いだけに、高齢者の福祉、介護、医療、防災などにかかわる社会慣習として他県が学べる点がある可能性が高いのである。
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統計探偵/統計データ分析家
東京大学農学部卒。国民経済研究協会研究部長、常務理事を経て現在、アルファ社会科学主席研究員。暮らしから国際問題まで幅広いデータ満載のサイト「社会実情データ図録」を運営しながらネット連載や書籍を執筆。近著は『なぜ、男子は突然、草食化したのか』(日本経済新聞出版社)。
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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)
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