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絶命しているはずの死体の頰がピクリと動いた…アメリカの伝説の科学捜査官が「悪夢だった」と話す事件の真相

プレジデントオンライン / 2024年1月18日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kali9

アメリカで最も有名な科学捜査官、ポール・ホールズ氏は、キャリアの中で最も忘れがたい悪夢のような殺人事件があったと話す。いったいどんな事件だったのか。ポール氏の著書『異常殺人 科学捜査官が追い詰めたシリアルキラーたち』(新潮社)より、一部を紹介する――。

■ガレージに停まるピカピカの黒いベントレー

当初の情報はあいまいだった。家主の名前はエモン・ボッドフィッシュ。シカゴの有名な銀行一家出身の56歳の隠遁者だった。その日、ボッドフィッシュは精神科医との約束に姿を現わさなかった。医師から連絡を受けた親戚が朝9時に家に行き、彼が室内で死んでいるのを見つけた。最初に臨場した警察官は、被害者の財布内にあった身分証明書を確認し、それがボッドフィッシュの遺体だと断定して報告した。

事件が起きた616番地は、サンフランシスコ郊外のオリンダ、マイナー・ロードを5キロ弱進んだ丘の上にあった。林によって建物は視界から完全に遮られており、あやうく通り過ぎるところだった。敷地内には数エーカーの林が広がり、急な傾斜のドライブウェイの終わりに、老朽化したランチハウス様式の家が建っていた。ガレージに停まるピカピカの黒いベントレーは、これが典型的な事件ではないという警告だった。

チームの面々はさっそく作業に取りかかり、家の外側の様子を記録し、侵入された形跡がないかドアや窓を調べ、靴跡や指紋を採取する準備を進めた。一方の私は、キャリアのなかでいちばん奇妙な事件に向かって歩き出していた。それは、20年以上たったいまもなお、悪夢のなかで私を追いかけまわす事件だった。

■遺体のある部屋から聞こえる妙な音

主任刑事から説明を受けたあと、シャッターが開いたままのガレージに行った。高級車のことはあまりくわしくなかったものの、ベントレーは超富裕層のみが手にできる贅沢品だと知っていた。

ガレージからキッチンに通じる扉が少し開いており、ブーンという妙な音が聞こえてきた。電気系統の故障か何かだろうと考え、扉を開けて室内に入った。キッチンは小ぎれいで整理整頓されていた。棚に置かれたスキャパのスコッチウイスキーの瓶にメモが貼られ、手書きで「ドルイド教の所有物、手を触れるな。神からの盗みは、不運をもたらす!」と書かれていた。なんておかしなメモだ。

キッチンから中世風の大きな居間に行くと、ブーンという音がさらに大きくなった。壁は暗色の羽目板張りで、暖炉の上には聖杯が並び、窓には重厚な赤いベルベットのカーテンがかかっている。天井の照明具は、怪しげな仄暗い光しか与えてくれない。強烈な悪臭がただよっていたが、腐敗臭だとすぐにわかった。鼻を衝く、不快なほど甘いにおい。死臭だ。

死臭が充満した場所に行くと、そのあと何日ものあいだ服、髪、さらには車内にもにおいが染みついてしまう。死体と同じ空間で過ごしたあとに誰かと接するとき、自分のにおいのせいで相手に不快な思いをさせているのではないかと心配になることがある。

■死んでいるはずの遺体が動いた

右側を見ると、乱雑に広がるペルシャ絨毯の上に死体が仰向けに横たわっていた。そのまわりに、無数のハエが集っている。なるほど、これが音の正体か。額のほうにハエが飛んでくると、私は手で振り払った。

死体の横の本棚と床に血が飛び散り、乾いてこびりついていた。被害者の服装に眼を引かれた。白いボタンダウンのワイシャツが、茶色のコーデュロイのズボンのなかにたくし込まれていた。茶色の編み革ベルト、古い革のハイキング・ブーツ。顔と手が青黒く変色していたため、37℃以上の暑さのなか死体が数日にわたって放置されていたことがわかった。

血を流して地面に倒れる被害者
写真=iStock.com/Motortion
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Motortion

エモン・ボッドフィッシュだと思われる男性は、過剰なほど棍棒で殴られていた。鈍器による頭部の外傷は苛烈で、歯の一部が折れてシャツの上に散らばっていた。

観察記録を書こうとしていたときだった――ちょっと待て! 遺体をまたいだとき、顔が引きつっているのが見えたのだ。横たわった体は微動だにしないものの、頬が動いていた。私は思わず体をうしろに引いた。ありえない! 生きているはずがない。

一呼吸置いてから、ひざまずいて近くで見てみた。私が見た動きは、顔に湧いたうじ虫だった。殴られてできた頭の裂け目に、大きな青いハエが卵を産みつけていた。そのタイミングで私は、「心を決めて、やるべきことをやるしかない」と自分に言って聞かせた。

■テレビドラマでは絶対に描かれない光景

昆虫の幼虫の成長段階は死亡時期を推定する手がかりとなるため、昆虫学者による分析用に提出する試料が必要になる。私は遺体にまたがって片膝をついた不安定な姿勢になり、被害者の顔に自分の顔を近づけた。粘着シートを使って体の露出部から証拠の痕跡を採取し、それから幼虫と生きたハエをつかみ取り、異なる種の虫をべつべつの小さなガラス容器に入れた。

それらは一般にはけっして公開されることのない不快な詳細であり、この仕事の輝きをくすませるものだ。テレビドラマには、LL・クール・Jやクリス・オドネルが腐敗した死体から昆虫の幼虫を拾い上げる場面など出てこない。

捜査官として働くあいだ私は、それを残酷な作業というよりも、研究所の実験のようなものだと考えていた。しかし、私の潜在意識のなかでは話はちがった。

いまでも繰り返し見る夢がある。ボッドフィッシュの家にいる私は室内を見まわし、絨毯を持ち上げ、床に跳ね上げ戸があるのを見つける。戸を引っぱり上げ、身を乗り出し、地下に何があるのかたしかめようとする。

焦点が定まらないうちに、かち割れて虫が湧いたボッドフィッシュの顔が階段をこちらに駆け上がってくるのが見える。そして、自分のあえぎ声に私は眼を覚ます。

■裸になった被害者にあった意外なモノ

ボッドフィッシュ殺害事件の捜査は、最初から最後まで頭を悩ませるものだった。

死体が遺体安置所に搬送されるまえに私は、服を切り落とす許可を検視局に求めた。通常は遺体をそのままの状態で搬送するのが決まりであり、それは異例の要求だった。しかし今回のケースでは死体の腐敗が進んでいたため、いわゆる「遺体袋効果」が起きるおそれがあった。どろどろとした雑多な液体が遺体袋に流れ込み、衣服についた血液の証拠が汚染されるのを防ぎたかった。

ポール・ホールズ『異常殺人 科学捜査官が追い詰めたシリアルキラーたち』(新潮社)
ポール・ホールズ 『異常殺人 科学捜査官が追い詰めたシリアルキラーたち』(新潮社)

O・J・シンプソン事件では、殺されたニコール・ブラウンの服の背中についた(犯人のものかもしれない)血液が、遺体袋内での出血のせいで証拠能力を失った。真犯人を確実に特定できた可能性のある血痕が、鑑定不能になってしまったということだ。今回は、そのような事態をどうしても避けたかった。

同僚たちが証拠を記録するためにカメラを構えてまわりで待機するなか、私は服を切りはじめた。切断作業は、多くの点において遺体解剖の手順と似たものだった。

病理医が体を切り開いて臓器を調べるように、両脚のズボンの前面、革のベルト、ワイシャツ、肌着を順に切り、服を開いた。それから一歩下がり、裸になった被害者の全身をたしかめた。「ちょっと待て」と私は言った。その体には膣にくわえ、乳房縮小手術か両乳房切除手術を施したような傷跡があった。

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ポール・ホールズ 元科学捜査官
カリフォルニア州ベイエリアに位置するコントラコスタ郡保安官事務所と地方検事局に27年間勤務。科学捜査と事件現場捜査の両方の経験を持ち、キャリアを通じて未解決事件と連続凶悪事件を専門とする。地方検事局在職中に、FBIとサクラメント郡地方検事局とタッグを組んで革新的な捜査技術を応用、アメリカ史上最大の被害を出した連続強姦殺人犯「黄金州の殺人鬼」の正体を突き止めた。逮捕以来、数々のテレビ番組に出演。また退職後も、世間の注目を集める難事件において現場の捜査官たちの相談役を務めるほか、未解決事件の被害者家族の支援を続けている。撮影=Steve Babuljak

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(元科学捜査官 ポール・ホールズ)

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