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日本のPTAとは雲泥の差…デンマークの父親たちの驚きの「保護者会」参加率と「クラス役員」立候補率

プレジデントオンライン / 2024年1月25日 16時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/studio-laska

デンマークはなぜ世界一のワークライフバランスを実現できているのか。50歳になりデンマークで駐在生活を送ることになったある日本人は、午後5時にもなれば会社に残っているのは日本人の駐在員だけだったため、ライフスタイルの切り替えを余儀なくされた。毎晩、妻と娘と一緒に食卓を囲みながらその日の報告をし合うようになり、今までとは違う景色がみえ人生感が変わったという。デンマーク文化研究家の針貝有佳さんが書いた『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHP研究所)より紹介しよう――。

※本稿は、針貝有佳『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

■ビジネスライクではない「幸せな国」

世界ナンバーワンの国際競争力と電子政府を誇るデジタル化先進国というと、いかにもテキパキとしたビジネスライクな国で、便利な暮らしをしていると想像するかもしれない。

だが、デンマーク暮らしは、東京の生活よりも、ずっと静かで落ち着いている。24時間開いているコンビニもスーパーもほとんどなく、そもそも店の数が少なくて不便である。

郊外の住宅の庭にはリスが出没するし、ほんのちょっとドライブするだけで、馬や牛、鹿に遭遇する。

首都コペンハーゲンも緑豊かで、大きな公園がいくつもあり、春夏には人びとが水着で(たまに女性も上半身裸で)寝転がって日光浴をしている。

快晴で暖かい平日の午後3時頃、運河沿いに並んで座っておしゃべりをしたり、寝そべったりしている人たちを眺めていると、どう見ても「ビジネスライク」には見えない。

こういった光景を眺めて思い浮かべるのは、むしろ、デンマークの「幸せな国」という側面である。

何かに追われる様子もなく、芝生やウォーターフロントにゴロンと寝そべっているデンマーク人の姿を目にすると、「あぁ、これが『幸せな国』なのだな。豊かだなぁ」とつくづく思う。

■「心地よさ」を大切に国際競争力ナンバーワン

フォーブスの調査によれば、2023年、コペンハーゲンは世界の主要な都市のなかで、ワークライフバランスを実現している都市ナンバーワンに選ばれた。フォーブスは、コペンハーゲンが1位に輝いた理由について以下のように述べている。

コペンハーゲンに暮らす人びとは「ヒュッゲ(心地良さ)」を大切にしている。自分や他人を大切にし、リラックスし、人生の喜びを感じることに時間を使っている。

また、職場もプライベートライフを尊重し、年間5週間の休暇とフレックスタイム制、夫婦合わせて52週間の育児休暇を提供している。

家で育児をする夫婦
写真=iStock.com/FlamingoImages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FlamingoImages

この記述は、現地に暮らしていると、まさにそのとおりだと感じる。誰もが、自分と他人のプライベートを尊重しているのがデンマークだ。「人生で一番大事なことは、仕事ではないよね」という前提がそこにはある。

それでいて、国際競争力ナンバーワンなのだから、不思議である。

どうやら、プライベートの「ライフ」を犠牲にしなくても、「ワーク」で成果を出すことはできるようだ。

むしろ、デンマーク人は「ライフ」を大切にしているからこそ、フルに充電したエネルギーを使って「ワーク」に取り組めている。

いや、それだけではない。

さらに言えば、「ワーク」の目的が「ライフ」を充実させることにあるから、プライベートの時間を侵さず、短時間で最大限の成果を出せるのだ。

■「ワーク」で得たリソースを「ライフ」に投入する

かつての私のように、プライベートを犠牲にして「こんなに頑張っているのに、なんで……」と思っている人がいたら、人生と仕事に対する根本的なアプローチの仕方が間違っているのかもしれない。

「ライフ」のために「ワーク」をするわけだから、「ワーク」のために「ライフ」が犠牲になっては本末転倒なのだ。それでは充電切れになって「ワーク」にも力が入らなくなってしまう。

「ワーク」はあくまでも「ライフ」を充実させるための手段であり、両者がトレードオフの関係になってはいけない。「ワーク」と「ライフ」はお互いをポジティブに補い合うような相互補完関係にしなければならないのだ。

「ライフ」を存分に楽しめるから、エネルギー満タンになって「ワーク」に取り組める。

「ワーク」の目的が、あくまでも「ライフ」の充実にあるから、短時間で最大限の成果を出せる。

そして、「ワーク」で得たリソース(お金・知識・スキル・人脈・休暇など)を、「ワーク」と「ライフ」をさらに充実させるために投入していくから、嬉しい好循環を生み出せる。

このポジティブなサイクルこそが、本当の意味での「ワークライフバランス」なのではないだろうか。

では、実際、夫婦共働きでワークライフバランスを実現しているデンマークの人びとはどんな暮らしを送っているのだろうか。ひとつ、エピソードをご紹介する。

■保護者会にはパパも参加して、積極的に発言

デンマークで保護者会に参加すると、ハッとする。

小学校や保育園・幼稚園の保護者会は夕方に開催されることが多いのだが、当たり前のように「パパ」が出席しているのだ。見渡すと、ジェンダー比率的には、五分五分の印象だ。

夫婦揃って出席する家庭もあれば、パパあるいはママが代表で出席している場合もある。

たまに、いかにも対外的な仕事帰りという感じで、ちょっと派手なステキな格好をしているパパやママの姿も見かけるが、大半は完全に普段着である。スポーツウェアやジャージ姿、短パンにビーチサンダル。どう見ても、部屋着でそのまま出てきました、というような格好だ。

しかも、先生の話を、腕組みしながら、肘をつきながら、足を組みながら、それぞれの姿勢で聞いている。

一見やる気がなさそうに見えるのだが、保護者会ではパパもママも積極的に発言する。

手を挙げて(正確には、人差し指を上に挙げて)質問があれば質問し、意見があれば意見を言い、みんなに役に立つ情報があればシェアしてくれる。

日本のPTAとは少々異なるが、デンマークでもクラスの役員を選んで「委員会」を結成する。イベントの企画や保護者・子ども同士の交流を通じて、クラスの円滑な運営を促進する。この委員会に、パパも積極的に参加する。

「委員会のメンバーになってもいいという方は挙手をお願いします」
「はい。僕、なるよ」
「私も」

という感じで、メンバーはサクッと決まっていく。

ちなみに、男性が参加したからといって、ちやほや持ち上げられて「代表」のような役割を当てがわれることもない。パパもママも対等で、女性だからとか、男性だからといった役割の相違もない。

■仕事も家事育児も「夫婦の共同プロジェクト」

ある意味、デンマークは厳しい国だ。

「家事育児は女性が担うもの」といった考え方が通用しないのだから。男性は仕事を言い訳に家事育児を放棄できないし、女性は家事育児を言い訳に仕事を放棄できない。

女性も、男性からは稼ぐことを期待されるし、国からは納税者になることを期待される。

だから、「結婚して専業主婦になりたい」「ちょっと社会人を経験してから寿退社したい」という女性や、「一家の大黒柱として稼いでるのだから、家事育児は妻がすべき」「仕事が忙しいから、子どもの世話はできない」という男性には、かなり厳しい社会である。

その意味で、正直、デンマーク社会とは、相性がいい人とそうでない人がいると思う。

きょうだいと一緒に台所でパスタを詰める父親
写真=iStock.com/Nomad
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Nomad

そのあたりをデンマーク人はどう思っているのだろうと思って色んな人にインタビューして聞いてみたところ、大半のデンマーク人は、夫婦共働きのフルタイムで、家事育児も夫婦で分担した方がいいと思っているようだった。仕事ができることも、子育てに参加できることも、「権利」として捉えているのだ。

2人ともフルタイムで働いて、午後4時以降は夫婦揃ってファミリータイムを持つ。そして、2人分の財布を合わせ、快適な暮らしづくりや、長いバケーションを楽しむ。それがデンマークの一般的な夫婦の形だ。

そのためデンマークでは、仕事漬けの男性は、経済的に自立している女性からあっさりと別れを告げられてしまう。夫婦共働きの「ワークライフバランス先進国」は、そんな危険とも隣り合わせである。

■日本とデンマークの合弁会社で働いてみて気づいたこと

では、デンマーク人の働き方やライフスタイルは、日本人のビジネスマンの目にはどのように映るのだろうか。

日本でビジネスマンとして猛烈に仕事をしていた山田正人さんは、50歳になって初めての海外駐在生活を送ることになった。

三菱重工と世界の風力発電をリードするベスタス・ウィンド・システムズ社が合弁で設立した洋上風力タービン製造会社の最高戦略責任者として、2014年から6年間デンマークで生活することになったのだ。

日本で働いていた頃は、毎晩、残業や付き合いで外食をしていた。周囲も当たり前のように外食をしていて、それが当たり前だと思っていた。週末だけ家で食事していたが、今度は子どもたちが外出していて、家族みんなでゆっくり食卓を囲む時間はほとんどなかった。

食卓で食事をする4人家族
写真=iStock.com/TATSUSHI TAKADA
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TATSUSHI TAKADA

けれど、駐在で暮らし始めたデンマークには、仕事帰りに同僚と飲みに行く習慣も、お客さんを接待する習慣もなかった。

勤勉で責任感が強く、プロとしての高い向上心を持つデンマーク人が、家庭を最優先にして、毎日午後4時に帰宅する。午後5時にもなれば、会社に残っているのは、山田さんをはじめ、日本人の駐在員だけだった。

戸惑いながらも、山田さんは、現地の風習に合わせてライフスタイルを切り替えた。

残業をできるだけ減らし、一緒に駐在していた妻と、当時は高校生だった娘と一緒に、家で夕食を食べることにしたのだ。

毎晩、日本のテレビもない環境で、食卓を囲みながら、お互いにその日の報告をし合った。家族で今日1日の大変だったことや新しい発見などを盛りだくさんに話すなかで、今までとは違う景色が見えてきた。

「家族と一緒に夕食を食べるなんて、ささいなことに思えるかもしれません。でも、それで本当に人生観が変わりました。お互いのことを知れて、家族の絆がものすごく深まりました」

当時を振り返って、山田さんはしみじみと語る。

■「家族と一緒に夕食を食べる」ことから始める

現在、山田さんは日本に戻り、新たな合弁会社、MHIベスタスジャパン株式会社で代表取締役社長を務めている。だが、夕食はできるだけ家族と一緒に食べるようにしている。

午後8時半過ぎにはなるが、夜には家族と一緒に食卓を囲む。食後には、煎茶を飲みながら、妻と成人した3人の子どもの話に耳を傾ける。話題は、お互いの推しの話から芸能ネタ、スポーツなどたわいのない話が多いが、ときには熱心に子どもたちの相談に乗る。

山田さんは、子どもたちとのやりとりを本当に楽しそうに話してくれる。そして、こう言う。

「『仕事がひと段落して時間ができたら、子どもと過ごす時間もつくろう』なんて思っているうちに、子どもはあっという間に成長して、家族はバラバラになり、お互いのことがわからなくなってしまいます。あのスティーブ・ジョブズですら、死ぬ前に唯一後悔していたのは、家族との時間を優先できなかったことだと言っているのです。

日本でもワークライフバランスとは言われていますが、労働環境や組織のあり方をヨーロッパのように変えるのは、なかなか難しいものです。

でも、自分が、一番大切な家族と一緒に夕食を食べる、と決めて実行することならできるのではないでしょうか。とくに、管理職の人たちが率先して家で夕食を食べるようにする。騙されたと思って続けてみたら、人生が大きく変わると思います」

デンマークと日本、両方のビジネスシーンを経験した山田さんの言葉には、体感を通じた説得力がある。

■働き方は、人生の優先順位で変わる

働き方についてインタビューを重ねて、気がついたことがある。

「働き方」とは、すなわち、どんなライフスタイルを送りたいか、によって変わってくる。

針貝有佳『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHP研究所)
針貝有佳『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHP研究所)

どんな暮らしを送りたいのか。人生で何を大切にするのか。誰とどんな時間を過ごしたいのか。働き方を決めるのは「仕事の仕方」ではなく、「人生の優先順位」なのだ。

なぜデンマークは「ワークライフバランス先進国」なのか。

「デンマークは、制度が整っていて、ワークライフバランスのカルチャーがあるから」と言うのは簡単だ。だが、制度をつくっているのも、カルチャーをつくっているのも、じつは私たち自身である。

デンマーク人は自分や他人の心の声に耳を傾け、一歩先にワークライフバランスの制度やカルチャーを「つくって」きただけなのだ。

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針貝 有佳(はりかい・ゆか)
デンマーク文化研究家
東京・高円寺生まれ。早稲田大学大学院・社会科学研究科でデンマークの労働市場政策「フレキシキュリティ・モデル」について研究し、修士号取得。同大学・第二文学部卒。2009年12月に北欧のデンマークへ移住して、デンマーク情報の発信をスタート。首都コペンハーゲンに5年暮らした後、現在はコペンハーゲン郊外のロスキレ在住。

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(デンマーク文化研究家 針貝 有佳)

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