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平安時代にも「半グレ」「暴走族」はたくさんいた…NHK大河「光る君へ」と過去作との決定的な違い

プレジデントオンライン / 2024年1月22日 16時15分

松村邦洋さん - 写真=大沢尚芳

2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」はどのような作品なのか。芸能界きっての歴史通で『松村邦洋まさかの「光る君へ」を語る』(プレジデント社)の著者でもある松村邦洋さんは「これまでの時代劇ドラマでは、平安時代は『オシロイを塗った貴族がオホホと笑う』ような華やかな描写がなされてきたが、『光る君へ』は違う。セックスとバイオレンスにまみれたドロドロな権力闘争が描かれる作品だ」という――。

■「韓流時代劇みたいな大河を」

いよいよですね、NHKの大河ドラマ「光る君へ」。主人公は吉高由里子さん演じる紫式部。今から1000年も前、平安時代に書き上げた大長編小説『源氏物語』1本で、世界の文学の歴史に名を残した大作家です。大河ドラマで女性の主人公といえば、もっぱら武将や偉い人の妻やきょうだい、娘でしたから、貴族の女性というのは初めてですね。

原作・脚本は大石静さん。「セカンドバージン」(2010年、NHK)をはじめとした大ヒット作を持つラブストーリーの第一人者です。大河ドラマでは、過去に「功名が辻」(2006年)を手がけてますね。今回、NHKは大石さんに「平安時代を韓流時代劇みたいに料理できないか」と持ち掛けたそうですから、「光る君へ」は平安貴族の豪華絢爛(けんらん)な恋愛絵巻というところでしょうか。

1963(昭和38)年に始まった大河ドラマの中で、一番古い時代を扱ったのは平将門が主人公の「風と雲と虹と」(1976年)。小学3年の時に初めて見たボクは、主演の加藤剛さんのカッコよさにすっかりハマって、それ以降のほぼすべての大河ドラマを観ています。今、ボクがやっているNHKラジオ「DJ日本史」やYouTube「松村邦洋のタメにならないチャンネル」の原点です。

その将門が関東で天慶の乱を起こし、新皇を名乗ったのが西暦939年。「光る君へ」はそれから60年か70年くらい後、西暦1000年前後のお話なんです。大河ドラマ史上2番目に古い、しかもこれまでに取り上げたことのない時代の作品ですね。源氏と平家が争う時代は、そこからまた200年近く後の平安末期です。

■なぜ紫式部の『源氏物語』は評価されたのか

紫式部は『源氏物語』を書いて歴史に名を遺しました。念のためですが、光源氏という超絶イケメンの恋愛遍歴ストーリーであることは、もうご存じですよね? 『平家物語』は滅びゆく平家のお話ですけど、『源氏物語』は源頼朝や義経のお話ではないですよ(笑)。

ただ、いくら面白い小説でも、好きで書いただけでは世には出ません。あの頃は本屋さんもアマゾンもないし、文字を紙に大量印刷する技術もないから、書かれたものはいちいち筆写して貴族たちの間で回し読みしていたんです。そもそも紙自体が高くて貴重だったから、今みたいに誰でも好き勝手に文章を書き残せたわけではありません。

それでも紫式部が『源氏物語』のストーリーを構想して書き続け、それが貴族の間で読まれて、後世にも残ることになった大きな理由、それは地位とお金を持った人が紫式部という才能を“見つけた”からなんです。

芸術作品には時間とお金がかかります。材料や作業場を用意したり、出来た作品を買い上げたり。ですからパトロン、つまり「こいつはすごい」とその才能にほれてお金を惜しまず出してくれる人が必要なんです。

■時の権力者「藤原道長」がパトロンだった

紫式部にもパトロンがいました。それが何と何と時のナンバーワン権力者、あの藤原道長だったんですよ。

道長くらいの著名人なら誰もがご存じでしょう。4人の娘を全員天皇と結婚させて、摂政・関白のポジションを一族で独り占めする摂関政治を行い、「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」という有名な歌を詠んだ人です。紫式部と藤原道長。同じ平安時代でも歴史の教科書だと別々のページに出ているこの2人は、こういう形でつながっていたんです。

「紫式部日記絵巻 藤田家本第5段絵」の藤原道長(部分)
「紫式部日記絵巻 藤田家本第5段絵」の藤原道長(部分)(画像=東京国立博物館/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)

実際は10歳くらい年齢が違う2人ですが、「光る君へ」ではおさななじみの“ソウルメイト”という設定でいくようです。紫式部を「道長妾」と紹介する文献もあるし、本人が書いた『紫式部日記』の中でも際どいシーンがあるので、大石さんがどんなふうにストーリーを膨らませていくか、すごく楽しみですね。

■ドラマには光源氏は登場しない

気になっていたのは、1年間のストーリーの中で『源氏物語』をどう使うのか、ということでした。タイトルからして光源氏に寄せてますから、劇中劇やリアルと虚構の1人2役、アニメやイラスト等々、登場の仕方はいろいろ考えられました。

が、年末近くになっても光源氏のキャスティングが発表されないので、これはないな、と思いました。結局、NHKの制作統括の人が会見で「劇中で『源氏物語』は扱わない」と明言しましたね。

もっとも光源氏というキャラクターが、もしかしたらストーリー中の何かのキーになるかもしれません。というのも、複数いたと言われている光源氏の実在のモデルの1人が、何を隠そう道長なんです。『あぶさん』や『ドカベン』に出てきた実在のプロ野球選手みたいに、『源氏物語』に道長が堂々と主役で出ていると考えたら面白いですね。

時の最高権力者ですから、光源氏とまではいかずとも道長はモテたでしょうし。実は実際に会ったことが、わからないように物語の中に織り込まれてるのかもしれません。

ともあれ、「光る君へ」を楽しむに当たっては、『源氏物語』の登場人物やあらすじはひとまず置いて、この時代の歴史をまず頭に入れておけばいいのではないかと思います。ボクが勝手に出した3冊目の大河ドラマ解説本『松村邦洋 まさかの「光る君へ」を語る』は、そこに焦点を絞りました。大変でしたけど(笑)、ものすごく勉強になりましたよ。

写真=大沢尚芳
松村邦洋さん - 写真=大沢尚芳

■平安時代は「争いのない平安な時代」だったのか

「平安時代の西暦1000年前後とはどんな時代か?」と聞かれてすぐに答えられる人は多くはないでしょう。一言で言えば、藤原氏の全盛期です。藤原氏の元祖は645年の乙巳の変(と大化の改新)で、中大兄皇子と一緒に蘇我氏を滅ぼした中臣鎌足。そこから飛鳥、奈良、平安時代にかけて他のライバルたちを得意の謀略でどんどんつぶしていきます。やられた面々には長屋王や弓削道鏡、菅原道真がいますね。

そして「光る君へ」の時代には、藤原氏のライバルはもうほとんどいなくなっていました。だから登場人物には、姓は省略されていても「藤原さん」が山ほどいます。では、争いのない平穏な時代だったのかというと、そうではなかったんです。

■実際はドロドロの権力闘争であふれかえっていた

藤原氏には南家、北家、式家、京家の4つがあったんですが、この時代に力を持つのは北家。道長は言うまでもなく、紫式部もその北家の家系の1人ですが、この北家の中でドロドロの権力闘争が展開されるんです。武士が割り込んでこないから戦はありませんが、やり口は陰険になります。ウラから手を回してハメたり、ぬれぎぬを着せたり、当時は信じられていた呪いをかけたり……。

「鎌倉殿の13人」(2022年)で、平家を滅ぼした後に仲間だった御家人同士が殺し合いを始めたのとよく似ていて、親兄弟や親戚同士が関白や摂政の座を争い、道長も紫式部もそこに巻き込まれていくんです。

■「セックスとバイオレンスの大河ドラマ」

過去の時代劇ドラマでは、貴族は男らしくてカッコいい武士たちとは正反対で、なよっとしてオシロイ塗った顔に歯は真っ黒、丸い眉毛が2つあってオホホホと笑う、という描写が多かったですね。

松村邦洋『松村邦洋まさかの「光る君へ」を語る』(プレジデント社)
松村邦洋『松村邦洋まさかの「光る君へ」を語る』(プレジデント社)

けれども、実際はかなりの乱暴者ぞろいだったそうです。「セックスとバイオレンスの大河ドラマ」というNHKの触れ込み通り、いいとこのボンボンたちが徒党を組んでの暴力沙汰、刃傷沙汰がしょっちゅうあった。昔々の太陽族とか暴走族、平成ならチーマー、今で言えば半グレみたいなヤカラのイメージでしょうか。権力闘争に絡んでいきなり人の生首がゴロンと出てくるようなシーンもあるはずです。

ボクは大河ドラマが好きで好きで、日本の歴史はすべて大河ドラマのストーリーで記憶しています。今まで扱ったことのない時代の新しい大河ドラマを、今年1年の間じっくり楽しみたいですね。

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松村 邦洋(まつむら・くにひろ)
タレント
大学生の頃、バイト先のTV局で片岡鶴太郎に認められ芸能界入りし、斬新な生体模写で一躍有名に。ビートたけし、半沢直樹、“1人アウトレイジ”、阪神・掛布雅之、故野村克也監督など多彩なレパートリーを誇り、バラエティ、ドラマ、ラジオなどで活躍中。筋金入りの阪神タイガースファン。芸能界きっての歴史通であり、YouTubeで日本史全般を網羅する『松村邦洋のタメにならないチャンネル』を開設。特にNHKの歴代「大河ドラマ」とそれにまつわる知識が豊富。著書に『松村邦洋まさかの「光る君へ」を語る』『松村邦洋今度は「どうする家康」を語る』『松村邦洋「鎌倉殿の13人」を語る』がある。

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(タレント 松村 邦洋)

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