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「失われた30年」はついに終わるのか…日経平均が「33年ぶりの高値」を更新した3つの理由

プレジデントオンライン / 2024年1月22日 9時15分

約34年ぶりに3万6000円を付けた日経平均株価を示すモニター=2024年1月15日午後、東京都中央区 - 写真=時事通信フォト

■割安感に“稼ぐ力”+NISAへの期待が加わった

1月15日、日経平均株価は6日続伸し3万5901円79銭で引けた。この水準は、1990年2月以来、実に約33年11カ月ぶりの高値だ。長く低迷してきたわが国の株価にも、ようやく先行きの明るさがみえ始めてきた。

これまで株価上昇を支えてきたのは、わが国企業の“稼ぐ力”が復活しつつあることだ。主力の自動車など輸出型企業、国内の飲食や小売りなど、幅広い業種で過去最高益を更新している。円安による収益かさ上げもあるが、インフレが進んだことで、企業の値上げの動きが浸透しやすくなっていることが重要だ。

そうした日本企業の変化に着目して、海外の投資家も日本株を見る目が変わってきた。元々、日本株は、長期間、低位に放置されていたこともあり割安感があった。そこに、“稼ぐ力”の変化が加わった。さらに、2024年から“新しいNISA(少額投資非課税制度)”が始まり、国内の個人投資家の資金が流入するとの期待も高まった。それだけ、日本株が注目される要素が整ったといえる。

■世界経済が不透明な中、日本には上昇余地がある

今後のわが国の株価動向を占う上で、最も注目されるのは、わが国企業の“稼ぐ力”の向上が見込めるか否かだ。

今年後半以降、世界経済の展開はあまり楽観できないとの見方が多い。米国経済は徐々に減速するだろう。米大統領選という不確定要素もある。不動産バブル崩壊によって中国経済の厳しさは増した。さらに、中東情勢の展開によっては、エネルギー価格の上昇でインフレ圧力が上昇することも考えられる。

そうした不透明要因の中で、わが国企業が新しいモノやサービスを作り出していくことが重要だ。それができれば、少し長い目で見ると上昇余地はあるはずだ。わが国経済の復活で、株価が1989年末の最高値を超える日が来ることを期待したい。

■円安基調で製薬、小売、インバウンド需要も回復

2024年3月期、国内の上場企業の純利益は前年度から増加し3年度連続で過去最高を更新する可能性は高い。

主力の自動車産業では、円安の追い風もありハイブリッド車の販売増加などで業績が拡大した。車載用半導体の供給が正常化したことや、円安基調が続いたことは大きい。産業の裾野の広い自動車メーカーの業績拡大は、国内の部品メーカーや機械、素材、半導体などにも増収効果をもたらす。

製薬分野では、ワクチンや認知症治療薬で世界的に高い成果を上げる企業が出始めた。これまでの研究開発や、海外での大型買収の成果が徐々に成果に表れ始めた。非製造業や食品などの分野でも収益力は高まった。

また、一時、インフレ圧力が高まったこともあり、多くの企業がコスト増加分を販売価格に転嫁する動きが出てきた。食品、小売など多くの分野で、消費者の満足度向上と値上げが同時に進んだ。消費者の声に耳を傾け、必要とされるモノやサービスを供給する企業が増えたことも確認できる。インバウンド需要の回復も飲食、宿泊、交通などの分野で企業の収益を支えた。

■東証の“異例の声明”もあった

企業を取り巻く環境も変化した。2023年3月、東京証券取引所が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」を出し、企業の経営体質の転換の促進を図ったことも見逃せない。東証は、PBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業に対して、どのように収益性を高めるか方策を提示、説明、実行するよう求めた。

PBRが1倍を下回る企業の株価は、一株当たりの企業の解散価値を下回っていることを意味する。ファイナンス理論で考えると、当該企業は即刻、業務を止めて解散するほうが有利ということになる。

東証の要請をきっかけに、政策保有株の売却、賃上げや人材への投資を強化し、成長戦略を強化する企業は増えた。それは企業の事業運営の効率性向上に寄与したといえる。

■「日本株は年末のバーゲンセールのよう」

わが国の企業の“稼ぐ力”の向上に目を付けた海外投資家は、昨年春先以降、積極的に日本株を買ってきた。今年1月第1週の投資部門別株式売買動向によると、海外投資家による東証プライム市場での売買金額は、2週ぶりに買い越しに転じた。

海外投資家が、日本株を買ってきた背景の一つは円安がある。ドルやユーロなどの外貨資金を運用する会議投資家にとって、円建てのわが国の株価はかなり安く見える。それでなくとも、過去、長期間にわたって安値に放置されてきた日本株は、PER(株価収益率)で見ても魅力的といえただろう。

ロンドン在住のファンドマネジャーによると、「安値で、しかも円安の追い風もあり、日本株は年末のバーゲンセールのように見えた」といっていた。彼は、かなり前から少しずつ日本株を買っていたようだが、昨年の春先から本格的に日本株投資を積極化したという。すでに、彼が保有する日本株はかなりの含み益を抱える状況だ。

オフィス街を駆け出す人たち
写真=iStock.com/chachamal
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chachamal

■海外投資家の注目を集める国内の環境要因

もう一つ国内の要因がある。新NISAの開始は投資家、特に、個人のリスクテイクが期待できることだ。新NISAでは投資可能枠(非課税保有限度額)が1800万円に拡大する。制度は恒久化され、個人投資家は自分のペースで株式などに資金を配分しやすくなる。

賃上げと労働市場の流動性の上昇などの変化も、投資環境の追い風となっている。近年、企業経営者は事業運営体制の維持・強化のため、賃金を引き上げることが必要になった。成長戦略の強化のためにより高い賃金を支払い、プロ人材を確保する重要性が高まったのである。

“新卒一括採用・年功序列・終身雇用”からなるわが国の雇用慣行は崩れはじめた。学びなおしや自己研鑽に励み実力を高めることができれば、高い賃金を手に入れることが可能であることに気づく人は増えた。

転職をして業績拡大に合わせてより多くの報酬を手に入れる。新NISA制度などを活用し、その一部を無理のない範囲で株式投資に再配分し、企業の成長をよりよく享受する。そうした考え方の増加も日本株の上昇を支えた。

■稼ぐ力を高めるために早急なEVシフトは欠かせない

今後の日本株の展開を予想する上で注目すべきは、企業が“稼ぐ力”の向上を維持できるか否かだ。これまで世界経済を牽引してきた米国は、利上げなどによって徐々に労働市場の改善ペースが鈍化しつつある。中国経済は、不動産バブル崩壊で成長率が一段と低下する恐れが高まった。

米大統領選挙や中東情勢も、先行き不透明感を高める。短期間で世界経済が大きく後退することは想定しづらいが、投資家がリスク回避的な行動をとりやすい環境になるリスクは上昇している。

そうした中でも、わが国の株式市場が安定した展開になるためには、わが国企業は“稼ぐ力”をこれまで以上に高めることが必要になる。その点に関して楽観は禁物だ。

わが国が得意とする世界の自動車産業では、BYDなど中国勢の台頭が鮮明化した。2023年、中国に抜かれて、わが国は世界最大の自動車輸出国の地位から滑り落ちた。EVシフトへの遅れの深刻化は、他の産業にも負の影響を与える。

■完全復活を目指す日本に必要なものとは

わが国企業は、EV、半導体、バイオ医薬品など需要拡大期待の高い分野で研究開発、生産体制を強化できるか否かが問われる。わが国企業は新しい需要創出に向けて事業展開の効率性をこれまで以上に高める必要がある。そのためには、なんといっても優秀な人材の育成・確保が必須の条件となる。

企業が新しいモノやサービスを創造し、より高い収益を獲得できるか否かは人材にかかっている。既存の従業員の学びなおしのための投資も欠かせない。成長戦略の立案と実行を支える専門家人材の確保の重要性も増す。

足許、わが国企業の中にも、そうした取り組みを強化して、業績拡大を目指そうとする企業は徐々に出始めている。日本製鉄によるUSスチール買収や、ホンダによるカナダなどでのEV工場建設の表明はその嚆矢(こうし)に見える。長期的な視点で収益力の向上に取り組み、その成果を着実に実現する企業が増えれば、少し長い目で見ると、日本株の上昇余地はあるはずだ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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