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川勝知事の「リニアのウソ」に私もまんまと騙された…静岡県民から「知事への不満」がなぜか聞こえないワケ

プレジデントオンライン / 2024年1月22日 5時15分

ことし1月15日の川勝知事の会見(静岡県庁) - 筆者撮影

リニア妨害を続ける川勝知事を静岡県民はどう見ているのだろうか。ジャーナリストの小林一哉さんは「地元メディアは川勝知事の『イメージ戦略』に一役買ってしまっている。これでは川勝知事のウソにだまされるのも無理はない」という――。

■無責任な「リニア問題は2037年までに解決すればいい」発言

静岡県の川勝平太知事は1月4日の新年会見に続いて、15日の定例会見で、JR東海がリニア中央新幹線の開業時期を「2027年」から「2027年“以降”」としたことに触れ、「(リニア開業は)2027年のくびき(縛り)がなくなった。2037年がデッドライン(最終期限)」だから、「南アルプス保全は、2037年のリニア全線開通までに解決すればいい」と論理を飛躍させるお得意の無責任な発言を繰り返した。

知事の任期中(2025年7月まで)はリニア静岡問題を解決しないと宣言したようなものである。

来年6月の県知事選で5期目当選を果たせば、さらに2029年7月まで静岡工区の着工は棚上げされる可能性が高くなってしまった。

こんな話を聞けば、早期の開業を待ち望むリニア沿線の人たちの胸の内は、憤懣やるかたないだろう。

■川勝知事のウソをそのまま掲載する地元メディア

ところが、県政トップによるこのとんでもない発言は、1月1日付静岡新聞をはじめ、新春恒例の各メディアによる知事インタビュー記事でそのままに取り上げられていた。

『全線開業から見たら名古屋までも部分開業。27年以降で期限が示されているのは37年の全線開通。南アルプスの問題は37年までに解決すれば目的は達成できる』(1月1日付静岡新聞)

『リニアの東京・品川―名古屋間の開業が「2027年以降」に変更された。革命だと思っている。27年以降というのは、それより延ばしてはいけないのが37年。言ってみれば、37年まで南アルプスは救われた。南アルプスはほっとしている』(1月1日付中日新聞)

『12月に(JR東海が開業時期を修正して)計画を変えたじゃないですか。南アルプス(を巡る環境問題)を27年までに解決しなければいけなかったわけですが、それが27年以降になった。だから、JR東海が南アルプスの問題を解決できないと気がついたことが非常に大きな節目(成果)だ。(知事として仕事をして)JR東海の方針が変わったんです。南アルプスさんの言葉を借りると「ここで一息つけたなあ」』
『完成目標は37年だから、そこまでに南アルプスの問題を解決すればいい』(1月3日付毎日新聞)

「部分開業」「2037年がデッドライン」などの発言はJR東海からすれば、正確ではないどころか、全く間違った情報がそのまま各紙の読者に届けられたことになる。

それどころか、「2037年まで南アルプスは救われた」「南アルプスはほっとしている」などあたかも南アルプスの環境保全を最優先に、「知事として仕事をした」などと持ち上げたかっこうとなり、リニア工事にストップを掛ける川勝知事のイメージ戦略に各紙はひと役買ったことになる。

実際は、すべて川勝知事の勝手な解釈を基に「嘘」で塗り固められている。新聞各社は、まんまと川勝知事の思うつぼにはまってしまったのである。

インタビュー記事だからか、川勝知事の「嘘」を判別して、発言のどこがおかしいのかをチェックする機能が全く働いていない。

「真実」を追求するはずの新聞記者たちが、川勝知事の「嘘」には手も足も出ないようだ。

■苦し紛れの発言が次の「トンデモ発言」を呼ぶ

今回の発言のきっかけをつくった、昨年10月10日の記者会見に戻ってみる。

川勝知事は「もしわたしが、JR東海の意思決定者であれば、現在の川勝と膝を突き合わせて話して、その場で解決策を出せるという自信がある」と発言した。これにより昨年12月の静岡県議会で「解決策は何か」を厳しく追及された。

「具体的な解決策」を問われた川勝知事は「わたしの発言は、JR東海との対話を進めるために、意思決定者である丹羽(俊介)社長に強いリーダーシップを持って取り組んでほしいという思いを述べた」と直接的な回答をはぐらかして逃げた。

昨年10月10日の川勝知事の会見(静岡県庁)
筆者撮影
昨年10月10日の川勝知事の会見(静岡県庁) - 筆者撮影

県議会は、そのような曖昧な回答を許さなかった。

再質問が続き、結局、4度目の答弁を求められた川勝知事は「現行ルートを前提にした上で、できるところから、つまり開通できる状況になった区間から開通させることが解決策となる。実験線の延伸、完成が1つの例示となる。これは社長にしかできない」と、「部分開業」論をぶち上げた。

この「部分開業」論から始まって、ついには年始の新聞各紙のインタビューで「2037年までに南アルプスの問題を解決すればいい」と唱えることになったのだ。

■厳しい追及には得意のウソで逃げ回る

「膝を突き合わせる」発言を引き出した記者のもともとの質問は「知事の任期中に、静岡工区の問題を解決するのは不可能という認識か」だった。

この質問に、川勝知事は全く関係のない話を続けてはぐらかしたため、あらためて記者は「残りの2年弱の任期中で、(解決の)道筋を立てるのか、それとも不可能か」とただした。

つまり、「静岡工区の解決の道筋」を聞かれて、川勝知事は「もしわたしが、JR東海の意思決定者であれば、現在の川勝と膝を突き合わせて話して、その場で解決策を出せるという自信がある」と回答したのである。

それが、静岡県とは何ら関係もない「部分開業」論となってしまったのだ。県議会の厳しい追及に、得意の「嘘」で何とか逃げたというのが実情だろう。

■物議を醸した川勝知事の「腹案」発言

川勝知事の「嘘」に翻弄されたと言えば、もうひとつびっくりするようなインタビュー記事があり、こちらはもっと具体的である。

2019年7月9日付中日新聞インタビュー記事で、川勝知事は「リニア開業と南アルプス保全を両立させる腹案がある」と自信たっぷりに明かしたのだ。

同年7月26日の記者会見で、このインタビュー記事が問題となり、幹事社が「リニア開業と南アルプス保全を両立させる腹案について具体的に何か教えてほしい」と質問している。

これに対して、川勝知事は「工事をするのはわたしではない。工事する側が南アルプスに傷をつける。中下流域まで影響を及ぼす。こうしたことに対して、JR東海からしっかりと説明される義務がある。まず、それを聞いてからだ」と逃げた。

さらに、川勝知事は、作業道となる静岡市管理の「東俣林道」整備とともに、当初、JR東海が提案した静岡市道閑蔵線トンネル整備を進めることに言及した。

このため、「知事の『腹案』と道路整備の関連はあるのか」と問われたが、これも「関連はない」と素っ気なく否定しただけだった。

■政治家の力量を見せつけるためにウソをつく

このあとも、記者たちは知事の腹案が「地域貢献という補償ではないか」などと聞いているが、川勝知事はことごとく否定した。

中日新聞インタビューでの思わせぶりな「腹案」発言は、いったい何だったのか、わからずじまいで、会見を終えると、「腹案」発言そのものがうやむやになって消えた。

どう考えても、約4年前の「腹案」と昨年10月の「解決策」の発言は全く同じように見える。

静岡工区着工の権限を握る知事が、政治家としての力量を見せつける意図で、「腹案」や「解決策」という重要なキーワードを使ったのである。

筆者自身、2019年7月当時、川勝知事の「リニア開業と南アルプス保全を両立させる腹案がある」発言を信じて疑わなかった。

南アルプス保全にそれほど川勝知事は強い関心を示しているのか、と驚いた記憶がある。

■筆者も「川勝知事のウソ」をうのみにしてしまった

リニア南アルプストンネル静岡工区は、ユネスコエコパークの移行地域(自然と調和した地域発展を目指す地域)に当たり、県自然環境保全条例で担保されている。県条例は、工事届出の要件が整っていれば、地域の発展に寄与するリニア工事を何ら規制することはない。

だから、南アルプス保全を唱える知事の「腹案」とは、「JR東海が南アルプスの世界遺産登録推進に全面的に協力すること」と推測した。

それであれば、「リニア開業と南アルプス保全の両立」につながるからだ。

もともと2007年2月、静岡市、川根本町はじめ静岡県、山梨県、長野県の10市町村が「南アルプス世界自然遺産登録推進協議会」を設立した。

当時、地元は「世界遺産」ブランドによって、南アルプスの魅力を高め、地域振興を図りたいという意向が強かった。

それだけに、南アルプスをどのように保全していくのかというコンセプトには欠けていた。2014年のユネスコエコパーク登録で、世界遺産運動そのものが消滅してしまった。

「南アルプス保全」にこだわる川勝知事だから、世界遺産レベルの保存管理を必要としているのでは、と推測した。

■リニア工事は南アルプスの世界遺産登録に影響しない

南アルプスの中心となる赤石山脈は1億年から3億年前の古い岩石でつくられ、2つのプレートの作用で現在も毎年約4ミリずつ隆起している。

赤石山脈と隣接する「フォッサマグナ」を発見・命名したドイツの地質学者ナウマンは「この地形は世界でここしかないまれな構造」と驚いている。

「世界唯一の大地溝帯」で日本列島の東西の地質を分断させ、3000m以上の数多くの山々が連なる赤石山脈は、フォッサマグナに乗り上げる逆断層の運動によって隆起したとされる。

いずれも「重要な進行中の地質学的・地形形成過程の特徴を持つ顕著な見本」「重要な地形的自然地理学的特徴を含む、地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な見本」として、世界遺産の登録基準に当てはまるのだ。

世界遺産にふさわしい光岳周辺の自然
写真=川根本町提供
世界遺産にふさわしい光岳周辺の自然 - 写真=川根本町提供

また川根本町の光岳(てかりだけ)周辺地域は、環境省の原生自然環境保全地域に指定され、立入禁止区域には貴重な自然環境が残されている。

当然、リニアが南アルプスの地下を貫通しても、南アルプス本体の価値を損なわなければ世界遺産登録に何ら支障はない。

■「知事は頑張っている」と誤認する新聞各紙のインタビュー

2019年当時、川勝知事の立場は、リニア建設は「県民の生死に関わる」影響をもたらし、「静岡県の6人に1人が塗炭の苦しみを味わうことになる」として、「ルート変更を考えたほうがいい」と提案するなど、真っ向からリニア建設に反対していた。

つまり、「県民62万人の命の水を守る」立場を優先していた。

筆者も、川勝知事の「命の水を守る」立場を頭から信じ込んでいた。

静岡県庁2階に掲げられた書「命の水」
筆者撮影
静岡県庁2階に掲げられた書「命の水」 - 筆者撮影

ところが、リニア問題を追っていくと、さまざまな疑問が生じて、川勝知事の「嘘」が次から次へと明らかになった。

2022年夏、「62万人の命の水を守る」が真っ赤な嘘であることを調べて、『知事失格』(飛鳥新社)を上梓した。

それでも、川勝知事はいまでも「命の水を守る」を使っている。県民の多くは、川勝知事の「嘘」をそのまま信じ切っている。

正月の新聞各紙で、リニア工事から「南アルプスは救われた」「南アルプスはほっとしている」などの発言を読めば、県民の多くは、南アルプス保全に川勝知事が真剣に取り組んでいると誤解してしまうだろう。

■川勝知事は「自然保護」など頭の片隅にもない

実際は、川勝知事はリニア問題の言い掛かりに南アルプスを使うだけで、南アルプス保全で何らの取り組みを行う意欲さえない。

川勝知事が自信たっぷりに述べた「解決策」や「腹案」同様に、「南アルプス保全」に実際の中身は何もない。「嘘」を平気でついているに過ぎない。

当事者であるJR東海がちゃんと対応できなければ、リニア開業などいつになるのか全くわからない。

ことしも反リニアに徹する「川勝劇場」の幕が開いた。

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小林 一哉(こばやし・かずや)
ジャーナリスト
ウェブ静岡経済新聞、雑誌静岡人編集長。リニアなど主に静岡県の問題を追っている。著書に『食考 浜名湖の恵み』『静岡県で大往生しよう』『ふじの国の修行僧』(いずれも静岡新聞社)、『世界でいちばん良い医者で出会う「患者学」』(河出書房新社)、『家康、真骨頂 狸おやじのすすめ』(平凡社)、『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太「命の水」の嘘』(飛鳥新社)などがある。

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(ジャーナリスト 小林 一哉)

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