1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

国内組織に睨みが利く人物が必要だった…ニトリの「創業社長返り咲き」をアナリストたちが大歓迎するワケ

プレジデントオンライン / 2024年1月23日 7時15分

家具やインテリア用品小売業大手「ニトリ」の看板=2023年8月25日、札幌市北区 - 写真=時事通信フォト

ニトリが社長を交代することを発表した。ニトリホールディングスの似鳥昭雄社長が10年ぶりに返り咲くことになる。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「一般的に創業社長の返り咲きは悪いニュースだとされるが、アナリストの間ではプラスのニュースとして捉えられている」という――。

■アナリストたちが歓迎した「創業社長の返り咲き」

ニトリが社長交代のニュースを発表しました。ニトリホールディングス会長である創業社長の似鳥昭雄氏が新たに株式会社ニトリの社長に就任し、武田政則社長はニトリホールディングスの副社長として海外事業に力を入れるという人事です。

一般的に創業社長の返り咲きは悪いニュースだとされます。オーナー企業に多いのですが、後継社長に抜擢した人物に満足できず創業社長が返り咲くケースが多く、それは人材育成の失敗のニュースとして捉えられるからです。

ところが今回のニトリの社長交代は、逆にアナリストの間ではプラスのニュースとして捉えられています。むしろ武田社長の力量を買って、もっと重要な局面にあたらせることで、ニトリグループ全体が大きく躍進することが期待される人事だと捉えられているのです。今、ニトリに何が起きていて、これからどのような戦略を取ろうとしているのかについて解説したいと思います。

■ウォルマートを抜いて連続増収増益の世界記録を持つ

ニトリホールディングスの上場後の増収経常増益は33期連続で、アメリカのウォルマートを超えて上場企業が持つ連続増収増益の世界記録を持っています。昨年も数字としては増収増益なのですが決算期を3月に変更した13カ月の変則決算になっているので連続記録としては取り上げられてはいないようです。

さて問題は11月に発表した今年度の上期決算なのですが、前年比で売上高▲1.5%減、経常利益▲19.2%減という状況でした。下期の経済環境が大きく変わらないとすれば、今年度、ニトリは実質減益、場合によっては減収減益に陥る可能性があります。

この状況に陥った原因となる問題はふたつあります。ひとつは国内の売上成長余地がもうほぼ飽和状態になっていること、もうひとつが円安で、海外で開発した高品質で安価な家具やホーム用品を日本で販売するというビジネスモデルの利点が崩れたことです。

国内ではホームセンター大手の島忠を買収したことでニトリのシェアはむしろ高まっているのですが、国内796店舗と新規の出店余地はかなり飽和してきている状況です。少子高齢化の日本ですから長期的に見てももう国内での増収の余地はないと考えるべき転換点に来ているわけです。

■アジアで成長させる以外に道はない

一方で2022年に始まった円安は、2022年の段階ではまだ米ドルだけが高い傾向だったのですが、2023年はアジアの大半の通貨に対して円が安いという円安独歩の傾向に変わりました。アジアで商品を開発して輸入するニトリのビジネスモデルにとっては大きな逆風です。

実際、ニトリの2024年3月期の上期決算の減益要因分析を見ると、粗利改善の営業努力の116億円が、為替影響の▲247億円で帳消しどころか倍返しの規模で収益の足を引っ張っている状況です。今のビジネスモデルで頑張れるところはすべて頑張った結果、それでも増収増益記録は円安で実質的に終焉(しゅうえん)してしまうというのが今のニトリのおかれた状況です。

ではニトリはどうすればいいのか? ファーストリテイリングやセブンアンドアイなど、他の決算好調な小売業を見れば、戦略の方向性は明確です。アジアで成長させる以外に道はありません。

ファーストリテイリングが運営するユニクロは、今ではアジアが売上の過半を超えているのですが、その結果として高利益率のアジア事業が円安による日本事業の利益減の穴埋めをしてくれています。

地球儀のアジア付近
写真=iStock.com/Anson_iStock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Anson_iStock

■海外の店舗数がどんどん増えている

それと比べるとニトリの海外展開はまだまだ発展の余地が大きい状況です。国内796店舗と比較して海外は148店舗。ここをいかに早く、国内と同じ規模に持っていけるかがこれから先の大勝負になるわけです。

ちなみにニトリの海外店舗は中国が79店舗、台湾が58店舗で、このふたつの国と地域でほぼ大半を占めています。他にはマレーシアが8店舗あるのですが、それ以外の国々ではまだプレゼンスが大きくはない。ここがアジアの幅広い国々に一定の橋頭堡(ほ)を築いているユニクロとニトリの現在地の違いです。

そこで注目するのはニトリホールディングスの下期の海外の出店計画です。すでに進出に成功している中国・台湾・マレーシアで29店舗を新規出店するのは手堅い投資だとして、特筆すべきはこれまで店舗のなかった韓国に新規に4店舗出店し、これまで1店舗だったタイにも4店舗出店することです。4カ国目、5カ国目に戦線を拡大するわけです。

■「日本のIKEAが韓国に上陸した」と現地報道

実は韓国では先ごろ、ニトリの1号店が開店したのですが、現地での評判が興味深かったのです。現地報道では「日本のIKEAが韓国に上陸した」と伝えられていたのです。

これはニトリがない他のアジア各国でも似た状況のようです。それらの国々では家具にしてもホーム用品にしても、地場の小売店に対してIKEAが黒船として進出してきて、その安さと洗練されたデザインで一定数の消費者を奪っているというのが基本的な競争環境のようなのです。

そこに新たにニトリがやってくると、現地の視点では「別の黒船が来た」ように感じられるようです。というのもIKEAは洗練はされているのですが、サイズ感が欧州志向というか、ありていに言えば小さなアジアの家屋にはやや手が余るのです。

実際、すでにニトリが進出に成功している地域の消費者の反応としては、体格が似ていて生活環境も似ている日本向けに開発されたニトリ商品の方がIKEAよりも受け入れやすいと言われているようです。

色が統一されたインテリア
写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz

■アジアがニトリにとっての主戦場になった

アジアでのグローバル化と言うのは経営の観点では手間がかかります。ひとつひとつの国でニトリというブランドを「お値段以上」の価値のあるブランドであることを浸透させていくために、ひとつひとつの国でマーケティング投資が必要であり、ひとつひとつの国で物流網の構築が必要であり、ひとつひとつの国で店舗人材の育成投資が必要なのです。

とはいえ円の通貨安によって、経営環境はアジアの売上が増えなければ増収増益基調には戻ることができない。つまりアジアがニトリにとっての最大の主戦場になったのです。

さて、そこで今回の社長人事です。実はニトリの武田政則社長は正確には国内のニトリのトップであると同時に、グローバルのニトリ商品の本部長であり、かつ海外販売事業管掌が担当でした。持ち株会社のニトリホールディングスでは実はこれまでナンバー5に相当する取締役のポジションにありました。

■「実質ナンバー3」に抜擢されたと言っても過言ではない

それを副社長に昇格させて本格的に海外事業に専念させるというのが今回の人事の本当の中身です。誤解を恐れずに申し上げれば、そのことで武田新副社長はニトリグループの実質ナンバー3に抜擢されたと言ってもいいかもしれません。

ちなみにニトリホールディングスの役員体制は、創業会長の似鳥会長がナンバー1、その11歳年下の白井社長がナンバー2と目されます。今回、3人体制になった副社長の顔触れは、須藤副社長が島忠のトップ、松元副社長が中国事業立ち上げの功労者です。そこに武田新副社長が加わってグローバルの成長のかじ取りを行うというのが今回の人事です。

そこで頭に浮かぶ疑問は「なぜ創業経営者の似鳥会長が、国内ニトリのトップに返り咲くのか?」という話ですが、これも外部のアナリストの視点で考えると実に適材適所かもしれません。

人の手が、人形が描かれた木製のブロックをピラミッド型に配置している
写真=iStock.com/Ong-ad Nuseewor
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ong-ad Nuseewor

■苦境を打破するだけのパワフルな可能性を感じさせる

というのはこれから先、国内ニトリ事業に必要なことは成長よりも洗練なのです。国内のビジネスの細かいところまで目を光らせながら、無駄を減らし、DX化や売れ筋死に筋管理などを通じて、乾いたぞうきんをさらに絞って水を出すように利益を絞り出す仕事が求められます。

これは国内のニトリ事業について熟知しているうえに、国内組織に大いに睨みが利く人物が就任する人事が最適です。

つまり成長が必要な海外のトップと、逆風での収益化が必要な日本国内のトップをどう選び直すかという視点で人事戦略を考えた結果、国内の社長をグローバルの副社長に昇格させ、かつ全体のトップを国内のトップにコンバートするという奇策のような人事が最適解だったということなのです。

ニトリのおかれた経営環境は、日本企業として実に苦しい状況だと思われます。しかし今回の人事はその苦境を打破できるだけのパワフルな可能性を感じさせる人事だということで、それがアナリストから「良いニュースだ」と評価された。それが事の「深層」です。

----------

鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AIクソ上司」の脅威』など。

----------

(経営コンサルタント 鈴木 貴博)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください