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「ラーメン餃子定食」には衝撃を受けた…早大政経に通う中国人留学生が日本に来ていちばん驚いたこと

プレジデントオンライン / 2024年1月26日 14時15分

日本語学校の授業が終わり、各国の留学生が駅の構内になだれ込む(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/icenando

日本の一流大学に通う中国人留学生が増えている。ノンフィクション作家の中原一歩さんは「日本の良好な治安やカルチャーなどソフト面に惹かれる中国人は多い。他方で、私が取材した中国人留学生は『日本は自由なのに、中国以上に政治に無関心な若者が多い。そのことに驚いた』と話していた」という――。

※本稿は、中原一歩『寄せ場のグルメ』(潮出版社)の一部を再編集したものです。

■日本語が全く聞こえない高田馬場駅前

夕方5時。JR高田馬場の駅前は騒然となる。早稲田大学をはじめ、駅周辺にある日本語学校、専門学校の授業が終わり、そこに通う各国の留学生が、一気に駅の構内になだれ込むのだ。

風貌やファッションこそ日本人と変わらないように見えるが、日本語は全く聞こえてこない。

飛び交うのは韓国語、ベトナム語、タイ語、台湾語、そして、圧倒的に多いのが中国語だ。朝夕の2回、高田馬場駅の周囲が、日本語以外の言語の洪水に飲まれてゆく風景は、ここ数年、この街の日常となりつつある。

■「日本人には分からない感覚かもしれませんが」

早稲田大学に通う中国人留学生・徐博さんは、この駅前の雑踏に立ち、自らの故郷である浙江省の訛(なまり)を探すのが日課だと語る。

「日本人からすると中国語は1つかも知れませんが、日本語にも方言があるのと同じように、地方によって言葉が異なります。故郷の方言が聞こえてくると懐かしくて、嬉しくなりますね。それに、言葉だけでなく、実はファッションも国や地域によって個性があるんです。それを観察するのが楽しくて。日本人には分からない感覚かもしれませんが、同じ同胞といっても中国は広大です。私は中国の南の出身なのですが、日本に来て初めて西安など北の出身の人に出会いました」

高田馬場の名物と言えば、駅前の雑居ビルに掲げられた巨大看板。

かつては、日本人学生を意識した「学生ローン」や「予備校」の広告が並んだが、今では中文で書かれた中国人向けの看板ばかりが目立つ。その多くが「日本語塾」や難関大学を意識した「進学塾」「予備校」の看板だ。

■かつてはラーメン街道だった早稲田通り

高田馬場を東西に貫く目ぬき通りが早稲田通りだ。並行して走る新目白通りが、交通量の多い幹線道路だとすれば、早稲田通りは飲食店が軒を連ねる生活道路。

2000年代の当初、早稲田通りは“ラーメン街道”の異名をとった。人気店が競って出店し激戦区を形成。安くて、早くて、旨いの三拍子揃ったラーメンは、腹を空かせた学生の胃袋を掴んで離さなかった。

2000年代の当初、早稲田通りは“ラーメン街道”の異名をとった
写真=iStock.com/Artit_Wongpradu
2000年代の当初、早稲田通りは“ラーメン街道”の異名をとった(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Artit_Wongpradu

しかし、都心部の地価の上昇とともにブームは去り、ラーメン店は減少する。

代わって存在感を増しているのが、中国人が経営する食堂だ。

「麻辣湯」「火鍋串串」「祖房四楼」「蒙古肉餅」「蘇茶」「沙県小吃」……。

中文で書かれた店名からは、中国料理店であることはわかっても、どんな料理が出てくるか想像がつかない。

全国の飲食店を網羅する食べログなどのグルメサイトにも掲載されていない店も多い。

■2017年ごろから「ガチ中華」が進出

驚くのは雑居ビルの最上階。表通りには看板がないのに、連日、満員御礼の店もある。

客のほとんどが中国人。料理は経営者の出身地の地域性が色濃く反映され、日本人に馴染みのある“町中華”とは別物だ。

JR高田馬場駅周辺の表通りだけでも、中国人が経営するこうした食堂が25軒ほどある。裏通りや雑居ビルにも店舗はあるが数が多すぎて把握することは難しい。流動も激しく、半年で撤退する店もある。

こうした食堂が進出し始めたのは、2017〜18年の出来事だ。中国福建省に本店を構え、中国本土で6万店を展開する「沙県小吃(サーシェンシャオチー)」というチェーン店が、海外進出第1号店の場所に選んだのも高田馬場だった。

■「中国人のほうが金払いがいい」不動産業者が語る

高田馬場駅前で地域密着型の不動産業を営む男性は、中国人が経営する店舗は今後も増えると予想する。

「表通りに面した元飲食店の居抜き物件でさえ、家賃は70万円〜80万円。契約時には敷金、礼金とは別に家賃10カ月の保証金が必要ですが、ほとんどの場合、即日、日本円の現金払いです。身元もはっきりしているし、家賃を値切ったり、支払いが滞ることもない」

そう言った上で、男性は私の耳元でこうささやいた。

「競合したら中国人経営者を選びます。金払いがいいんです」

「競合したら中国人経営者を選びます。金払いがいいんです」
写真=iStock.com/Zhang Rong
「競合したら中国人経営者を選びます。金払いがいいんです」(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Zhang Rong

■早稲田大学の留学生が急増

なぜ中国人は高田馬場を目指すのか――。

高田馬場は中国人に人気の高い名門・早稲田大学に隣接するターミナル駅で、中国人留学生のための日本語学校、有名大学を目指す進学塾がひしめいている。

今や“早稲田ブランド”は超難関の東京大学や京都大学を凌ぐ人気だ。

早稲田大学は、2000年代初頭の早い段階から中国に狙いを定め、留学生獲得に動いた。日本は長期的にみると少子化のあおりを受け受験生が減少することが目に見えていたからだ。

そこで、目をつけたのが好景気の影響で富裕層が急増し、日本とも距離が近い中国だった。2008年、文科省が発表した「留学生30万人計画(2020年を目標)」も追い風となった。

その結果、最新の18年の留学生総数は約29万8000人にまで到達。

その4割を中国人が占める。

しかも、その留学生像は、従来の日本人の先入観とはかけ離れていて驚くばかりだ。

「中国人留学生は改革開放の恩恵を受け、同時に『独生子女(一人っ子政策)』で生まれた子どもたちです。だから、中流以上の家庭であれば、子どもを国外の私立大学に留学させ、毎月、家賃と生活費程度の仕送りをする経済的余裕があります。一人っ子なので、両親以外に祖父母、親戚からも援助が期待できる。中には、学生の身分でありながら、学費とは別に、親のお金で東京の一等地に投資用のタワマンを購入する超富裕層もいます。上を見たらきりがありません」

■「コールセンターのアルバイト」で日本語を磨く

そう語るのは、早稲田大学法学研究科・民事法学専攻博士課程に在籍している魯潔さん。

上海出身の魯さんも、大学の最寄り駅である東西線・早稲田駅徒歩1分の場所に両親に購入してもらったワンルームを所有。今は同じ境遇の同胞に貸し出している。

魯さんの父親は、中国の国営企業に勤めるサラリーマン。中国国内では中流階級の家柄で生活に困った経験はない。

来日当初、受験のために日本語の「読み・書き」は猛勉強したものの、大学の授業の3割は聞き取れず、コミュニケーションもままならなかった。

生活費を稼ぐためにアルバイトを始めるも、業種は居酒屋やコンビニばかり。日本語能力を飛躍的に上達させようと魯さんが飛び込んだのは、高度なコミュニケーション能力が求められるクレジット会社のコールセンター。

「日本人の上司が守ってくれました」
写真=iStock.com/PeopleImages
「日本人の上司が守ってくれました」(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/PeopleImages

督促状を出したにもかかわらず、逆上して電話をかけてくるクレーマーなど、一癖も二癖もある顧客に無我夢中で対応した。

「日本語を磨くために電話が鳴ると積極的にとりました。日本人じゃないと分かると、怒って責任者を出せと、すごむクレーマーがいたのですが、私を採用してくれた日本人の上司が、彼女は他の日本人の社員と全く同じ採用です、と言って守ってくれました」

■「高度外国人材」は引く手あまた

こうした努力が実り、来日から4年目には読み書きだけでなく会話も不自由しなくなった。

大学卒業後は、大学院に進学。今では難解な法律の専門用語や言い回しも日本語で楽々とこなす。

魯さんは日本語を母国語としない人の日本語能力を検定する「日本語能力試験」で、完全に日本語をマスターした証である「N1」ランクを有する。魯さんのような高度な知識と技能を持ちあわせている人材は「高度外国人材」と呼ばれ、外資系コンサル・投資銀行、国内総合商社、国内自動車メーカーなどから引く手あまただ。

職歴を磨けば、日本の永住許可に要する在留期間が、最大で1年に短縮されるなどの優遇措置を受けることができる。

■中国人留学生がダイエットしているワケ

上海に近い中国・浙江省出身の鄒涛さんは、2015年、中国の国立大学を中退し来日。日本語学校を経て、18年に早稲田大学政経学部に入学した。

「今、ダイエットしているから、食べているのはエネルギーバーとコンビニで買ったペットボトルの水なんです」

そう言って、照れる鄒さんは、爽やかな笑顔が印象的な好青年。中国の中流家庭に育ち、やはり一人っ子。子どもの頃から親に否定された経験はない。その育ちの良さに好感をもてる。

現在、大学近くの家賃23万円のマンションで、友人3人と共同生活をしている。

なぜ、ダイエットしているのかと聞くと、来日してから15キロも太ったからだという。日本での外食が原因だそうだ。

■中国人は餃子と白米を一緒に食べない

「日本の食事は脂っぽく、炭水化物が多い。餃子の王将で、初めてラーメン餃子定食の存在を知った時は衝撃でした。中国人の感覚では、餃子もラーメンも白米も、どれも同じ炭水化物で主食だからです。それが中国料理と思われているのですから」

「ラーメン餃子定食」には衝撃を受けた
写真=iStock.com/ahirao_photo
「ラーメン餃子定食」には衝撃を受けた(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/ahirao_photo

来日3年目とは思えない流暢な日本語を話す鄒さんは、日本語が難しいと思ったことは一度もないと話す。

鄒さんの日本語能力は、魯さんと同じ「N1」レベル。中国にいる頃から独学で日本語を勉強した。

自身は違うが、同世代の留学生には、例えば「火影忍者(NARUTO)」や「海賊王(ワンピース)」などのアニメがきっかけで日本語に興味を持った人も多いと話す。

■中国人から見ると「日本人は集団行動が好き」

鄒さんによると、受験や大学の単位を取得するために日本語は勉強するものの、実際には授業以外で日本語を話す機会はほとんどない。

「日本人は集団行動が好き。いわゆる『飲みサー』に参加しないと友だちはできない。お酒はあまり好きではないので、どうしても同胞と話をすることのほうが多いですね。日本語のインプットはあるけどアウトプットする機会が本当にない。それでも、日本語を話さなくても生活できてしまうのが不思議ですね」

鄒さんは東京・市ヶ谷に本校を構え、高田馬場にも実習室がある「唯新学院」という中国人のための進学予備校で日本語教師のアルバイトをしている。学校の創立者も、運営スタッフも、学生も全て中国人だ。学校の壁には、今年合格した日本の有名国立、私立の名前がズラリと張り出されている。

■「中国だったら暴動が起きる」

代表は来日8年目の史昊さん(29)。中国でも有数の超エリート。米国の一流大学に留学している時、ニュースで東日本大震災を知り、その時の日本人の行動に感銘を受けたことが、来日するきっかけだったと語る。

「中国だったら暴動が起きる状況でも、日本人は沈着冷静で秩序を保っていました。その姿を見た時に日本に行きたいと思い、米国の大学を中退。慶應義塾大学の在学中に、中国人向けの日本語予備校を起業したのです」

儲けを優先するならば、日本ではなく米国でも母国でもいい。それでも鄒さんのように、日本の良好な治安やカルチャーなどソフト面に惹かれる中国人は多い。

現在、唯新学院には、およそ2000人の留学生が在籍している。鄒さんにとって、この予備校はバイト先である以上に、同じ境遇の先輩、後輩に囲まれ、母国語で自由に会話ができる貴重な場所だ。

折しも、民主化を求める人々が香港の中心地を占拠し、大規模なデモを繰り返すニュースが、連日、報道を騒がせていた。

中原一歩『寄せ場のグルメ』(潮出版社)
中原一歩『寄せ場のグルメ』(潮出版社)

中国では日常の生活と政治はかけ離れていて、家族や友人の間でも、政治のことを話す機会はほとんどない。それに、日本と中国では歴史教育の内容が全く異なり、日本と中国の火種にもなっていることを、鄒さんは理解していた。

「年配の男性に突然、道端でぶつかられたことはありました。中国語で友人と話していたときのことです。歴史や政治をめぐって、日本で嫌な思いをしたことはありません。ただ、日本は自由なのに、中国以上に政治に無関心な若者が多い。むしろ、そのことに驚きました」

魯さんも、鄒さんも、普段は自炊が多いという。それでも、故郷の味が恋しくなると駅前の食堂に行く。

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中原 一歩(なかはら・いっぽ)
ノンフィクション作家
1977年佐賀県生まれ。青春時代、博多の屋台で働きながら執筆活動を開始。人物ノンフィクションや食をテーマに取材を続ける。著書に『小林カツ代伝 私が死んでもレシピは残る』(文藝春秋)『最後の職人 池波正太郎が愛した近藤文夫』(講談社)『マグロの最高峰』(NHK出版新書)『「㐂寿司」のすべて。――本当の江戸前鮨を食べたことがありますか?』(プレジデント社)など。

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(ノンフィクション作家 中原 一歩)

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