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岸田首相の「派閥との決別」は明白なウソ…自民党が派閥政治を絶対にやめられない根本原因

プレジデントオンライン / 2024年2月6日 7時15分

記者団の質問に答える岸田文雄首相=2024年2月2日午後、首相官邸 - 写真=時事通信フォト

自民党派閥の裏金問題をめぐり、岸田首相は、自身が会長を務めていた岸田派(宏池会)の解散を表明した。続いて最大派閥の安倍派(清和会)、二階派、森山派も解散を決めた。ジャーナリストの鮫島浩さんは「自民党に総裁選がある限り、派閥は決してなくならない。派閥解消は派閥再編のはじまりにすぎない」という――。

■要するに政局とは「多数派工作」

学者や有識者は「政局はいらない。政策を報道すべきだ」と言うけれど、私が政治ジャーナリストとして講演する時は「政策より政局」が決まって評判がいい。多くの人々にとって「政策より政局」のほうがはるかに身近なものなのだ。

ヒトが3人以上集めれば、政局はどこにでも発生する。会社のオフィスでも、自治会やPTAの集会でも、そして家庭内でも。お父さん、お母さん、子どもの3人家族なら、2人が結託したほうが大概は勝つ。要するに政局とは「多数派工作」だ。

ぜひ政治家の仁義なき権力闘争を参考にして、皆さんの身近な政局に勝利してほしい――そんな前触れで永田町の権力闘争についてあけすけに講演すると、ほとんどの人が笑いながら興味津々に耳を傾けてくれる。

自民党の政治家が総理総裁になるには、党内の過半数の支持を得て、総裁選に勝利しなければならない。そこで多数派をつくるために仲間を集める過程で生まれたのが「派閥」である。

総理総裁を目指す派閥の「親分」は、お金と選挙と人事を後押しすることで派閥の「子分」を集める。その代わりに「子分」たちは「親分」を総裁選に担いで懸命に応援する。鎌倉武士の「御恩と奉公」の関係に近い。現代流に言えば、ギブ・アンド・テイクだ。

■負ければ賊軍、徹底的に干し上げられる

各派閥は多数派工作を繰り広げて総裁候補を絞り込み、最後に過半数の支持を得た政治家が総理総裁になる。勝てば官軍。子分たちは多くの分け前(人事ポスト)にありつける。負ければ賊軍。徹底的に干し上げられる。

一般社会では「負け組」にも憲法で基本的人権が保障され、不十分ながら社会保障制度というセーフティーネットが用意されている。しかし永田町は負け組に容赦がない。弱い親分に付き従えば、自分自身がやせ細る弱肉強食の世界なのだ。

岸田文雄首相は老舗派閥・宏池会(岸田派)の解散を表明し、最大派閥・安倍派(清和会)、二階派、森山派が続いて解散を決めた。

自民党は「派閥解散」花盛りで、派閥存続を表明した麻生派と茂木派へ寒風が吹きつけている。派閥の政治資金パーティーを舞台とした裏金事件で高まる自民党批判を「派閥解散」でかわす岸田首相の狙いは、今のところ的中したといっていい。

しかし、自民党に総裁選がある限り、党内の権力闘争がある限り、派閥は決してなくならない。総理総裁になるためには、党内の仲間をライバルより多く集めなければならず、「お金と選挙と人事」の面倒をみることで子分を付き従わせる「派閥」が自然発生するからだ。

そもそも派閥は、法律に基づいて設置される政党と違って、個人が勝手に徒党を組む非公式集団である。強引に禁止することなどハナから無理だ。

門が閉まっている国会議事堂
写真=iStock.com/kawamura_lucy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kawamura_lucy

■30年前にも掲げられた「派閥解消」は空文化した

自民党内で連鎖している「派閥解散」は、派閥解消を演出する「偽装解散」とみて間違いない。今年9月の総裁選に向けて「親分」のもとに「子分」たちが水面化でじわじわと再結集していくだろう。これら新しい派閥は当面「地下活動」に徹するが、解散総選挙が終わり、派閥批判が下火になると、再び表舞台に登場してくるに違いない。

自民党の歴史がそれを証明している。

戦後史に刻まれるリクルート事件で自民党批判が高まった1989年、自民党は政治改革大綱をまとめて「派閥の弊害除去と解消への決意」を打ち出した。閣僚や派閥によるパーティー自粛の徹底などを盛り込んだが、ほとんどが実現しなかった。

自民党が野党に転落している最中の94年には、当時の5派閥すべてが解消を発表して事務所を閉鎖し、新聞表記も宏池会は「旧宮沢派」、清和会は「旧三塚派」と改められた。けれども「勉強会」や「政策集団」と名乗りながら、派閥幹部の個人事務所などを拠点とし、「地下活動」を続けた。

そして自民党が与党に復帰した後、派閥は五月雨式に表舞台に復帰した。首相に直結する党総裁選は、誰が総理総裁になるかで所属議員の将来が決まる。激化する党内抗争によって「派閥解消」は完全に有名無実化していった。

岸田首相は「派閥からカネと人事を切り離す」とし、派閥による政治資金パーティーの開催と派閥による人事の推薦名簿提出を禁止する意向を表明したが、政治資金パーティーは派閥幹部が代わりに主催すればよく、人事の派閥推薦も口頭で伝えれば記録に残らない。

■「派閥解消」は「派閥政治」の一断面である

1月26日から始まった通常国会では、岸田首相自身の「闇パーティー疑惑」が野党の追及を受けている。

これは、地元・広島の政財界が任意団体をつくって「首相就任を祝う会」を開催し、会費1千万円以上を集めたが、受付や経理は岸田事務所が担当し、会費の一部は首相が代表を務める政党支部に寄付されたという内容だ。野党は「実質的には岸田首相の政治資金パーティーなのに、収支報告書に記載されていない」と批判している。

この手法が認められるなら、派閥の政治資金パーティーを禁じても抜け道はいくらでもあることになる。自民党が打ち出した派閥解消策に実効性はほとんどなく、ほとぼりがさめたころに派閥が復活するのは間違いない。

とはいえ、これまでの「親分」が再びその座に返り咲くかどうかはわからない。むしろこれまでの「親分」はこれを機に追い落とされ、次世代がその座を奪い取り「親分」の顔ぶれが一新される可能性がある。いわば「代替わり」だ。

岸田首相が仕掛けた「派閥解散」の連鎖は、派閥を消滅させるのではなく、「親分」たちの世代交代を促し、あるいは派閥の再編を進め、自民党内の派閥勢力図を塗り替える効果をもたらすと理解したほうがよい。

自由民主党本部
自由民主党本部(写真=Junpei Abe/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

新しく「親分」の座を目指す者たちは、今の「親分」を蹴落とす「派閥解消」に大賛成だ。これは「政局」の一断面なのである。

■新しい「親分」の顔ぶれ

今年9月の総裁選に向けて、各派閥の「親分」の顔ぶれはどう変わっていくのか、党内の派閥勢力図はどうなるのか。具体的にみていこう。

まずは裏金事件の中心だった最大派閥・安倍派(清和会)。解散が正式に決定して45年の歴史に幕を閉じ、四分五裂していく様相だ。

清和会は2001年に小泉政権が誕生した後、自民党の最大派閥として君臨し、安倍晋三総裁のもとで政権復帰した12年以降、全盛期を迎えた。安倍氏が21年参院選の遊説中に銃撃され急逝した後、岸田政権で要職を占めていた5人衆(萩生田光一前政調会長、西村康稔前経産相、松野博一前官房長官、世耕弘成前参院幹事長、高木毅前国対委員長)の集団指導体制となり、政界引退後も影響力を振るってきた森喜朗元首相が「大親分」として控えていた。

派閥はそもそも「この人を総理総裁に」という政治家を軸に結集するものだから集団指導体制が長続きするはずはない。森氏は「早く会長を決めろ」と催促していたが、5人衆は譲らず、リーダーをひとりに絞り込めなかった。そこへ5人衆全員が裏金を受け取っていたことが発覚し、一斉に更迭されて失脚したのである。派内からは5人衆の責任を追及する声が噴出し、収拾不能に陥った。

森氏も捜査線上に浮かび、事件発覚後は高齢者施設に入って「雲隠れ」することに。5人衆に自発的離党を迫る動きが強まると麻生太郎副総裁に「直談判」に訪れる一幕もあったが、森氏の威光は大きく陰り、影響力は急速に失われていくだろう。森氏を後ろ盾にしてきた5人衆の政治的復権もかなり険しい。

■「安倍派5人衆」の失脚で注目される2人

リーダーを失った有象無象の約100人はこれからどうなるのか。「新しい集団をつくっていく」と明言しているのは、清和会創始者の福田赳夫元首相の孫である福田達夫衆院議員である。

福田氏は当選4回ながら岸田政権発足直後に自民党総務会長に起用された。岸田首相には安倍派の次世代ホープである福田氏を引き込んで5人衆を牽制する狙いがあったとみられる。

福田達夫氏
福田達夫氏(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0)

5人衆は自分たちを飛び越える抜擢人事に不満で、福田氏を遠ざけた。今回の裏金事件で5人衆が一斉に失脚し、福田氏としては「口うるさい先輩諸氏」が一斉に消えた格好だ。創始者の孫としてそのうちに「清和会復興」を掲げ、「福田派」を旗揚げする可能性は極めて高い。

とはいえ、福田氏は父親の福田康夫元首相と同様、安倍派内ではリベラル色が強いとみられ、右寄りの安倍チルドレンとは距離がある。安倍チルドレンたちはむしろ、安倍氏が前回総裁選に無派閥ながら担ぎ出した高市早苗経済安保担当相にシンパシーがある。

高市早苗氏
高市早苗氏(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0)

5人衆は高市氏を警戒し、安倍氏急逝後は露骨に遠ざけてきた。高市氏は孤立感を深め、今年9月の総裁選に向けて推薦人20人を確保するための勉強会を立ち上げたものの、初回参加者は13人にとどまった。5人衆が安倍派内ににらみを利かせ、安倍チルドレンの高市接近を阻んできたのだ。

5人衆の重しがなくなったことで、安倍チルドレンが総裁選を機に高市氏のもとへ駆け寄り、「高市派」結成に発展する可能性は十分にある。安倍派は福田派と高市派に次第に色分けされ、5人衆らベテラン勢を中心にどちらにも抵抗がある面々はさらに枝分かれしていくと私はみている。

■主流派閥・茂木派の溶解

派閥存続を決めながら離脱者が続出して溶解しつつあるのは、茂木敏充幹事長が率いる第三派閥・茂木派(平成研究会)だ。

真っ先に離脱を表明したのは、次世代ホープの小渕優子選対委員長だった。父の小渕恵三元首相は平成研の元会長。「平成研」の名は、小渕氏が官房長官時代に元号「平成」を発表したことにちなんだものである。

小渕優子氏
小渕優子氏(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

小渕内閣で官房長官を務め参院のドンとして君臨した故青木幹雄氏と、首相在任中に病に倒れた小渕氏から政権を受け継いだ森氏はともに小渕優子氏を寵愛し、麻生太郎副総裁を後ろ盾とする茂木氏を毛嫌いしてきた。今回の派閥解散ドミノを機に青木氏の長男である青木一彦氏ら参院茂木派の主力が相次いで離脱したのは、これを機に茂木氏に反旗を翻して小渕氏を軸に「小渕派」を再興する布石とみられている。

茂木氏は麻生氏の後押しを受けてポスト岸田に名乗りをあげるつもりだったが、派閥の足元が大きくぐらつき、総裁選出馬自体が危うくなってきた。

■麻生派はかろうじて結束を維持しているが…

第二派閥の麻生派はどうか。

麻生氏は派閥存続の意向を真っ先に岸田首相に伝えた。麻生・茂木・岸田の主流3派体制に君臨し、安倍氏急逝後は唯一のキングメーカーとして権勢を誇ってきただけに、自らの権力基盤である派閥を手放すわけにはいかない。今のところ離脱者は長年行動をともにしてきた岩屋毅元防衛相にとどまり、麻生派はかろうじて結束を維持している。

しかし世論の風当たりは強い。茂木氏に代わって麻生派幹部で義弟の鈴木俊一財務相や岸田派に所属していた上川陽子外相を擁立する構想もあるが、「派閥の権化の麻生氏に担がれたというだけでマイナスイメージが強い」(閣僚経験者)という政治状況が生まれ、麻生氏はキングメーカーの座から滑り落ちそうな気配だ。麻生氏も83歳。いったん求心力を失うと挽回は容易ではない。

麻生派で鍵を握るのは、河野太郎デジタル担当相である。麻生氏は世代交代を恐れ、河野氏を抑え込んできた。河野氏は前回総裁選に麻生氏の政敵である菅義偉前首相に担がれて出馬したが、その後も麻生派にとどまった。茂木派の小渕氏に続いて麻生派を離脱し「河野派」結成に動く好機のはずだが、今のところ慎重だ。このまま出遅れれば埋没する可能性もある。

■岸田派解散を歓迎するナンバー2

第四派閥・岸田派(宏池会)で実は派閥解散を歓迎しているのは、ナンバー2の林芳正官房長官だろう。林氏は宏池会では岸田首相以上に将来の首相候補と目されてきた。米中に人脈を持ち、英語も堪能で、外相として存在感を増していたところ岸田首相に警戒され、昨年9月の内閣改造人事で交代させられた経緯がある。

岸田首相が退任した後も宏池会会長にとどまれば、林氏が宏池会を代表して総裁選に出馬しにくくなる可能性があった。岸田首相が自ら宏池会を解散した結果、宏池会再興は林氏を軸に進むことは確実とみられ、岸田首相という「目の上のたんこぶ」が自ら消えてくれたともいえる。逆に「林派」への道筋が見えてきた。

第五派閥の二階派は84歳の二階俊博元幹事長の求心力で結束を維持してきたため、今後は草刈り場となりそうだ。

国会議事堂周辺
写真=iStock.com/fotoVoyager
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fotoVoyager

■派閥解消は「新しい派閥」を生み出すだけ

派閥解消は派閥再編のはじまりである。派閥を舞台とした裏金事件を機に、今年の総裁選に向け、自民党内の派閥勢力図は激変するだろう。自民党の新旧世代による政局の攻防をウオッチしていくのは確かに面白い。

もっとも、派閥を舞台とする裏金事件を招いた政治腐敗は、派閥の「偽装解散」では浄化されない。自民党が30年前に掲げた「派閥解消」が空文化したまま今日まで脈々と続いていたことからも明らかだ。

政治資金規正法の改正による「政治資金の透明化」こそ政治改革の核心であることは、決して忘れてはならない。

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鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト
1994年京都大学を卒業し朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝らを担当。政治部や特別報道部でデスクを歴任。数多くの調査報道を指揮し、福島原発の「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。2021年5月に49歳で新聞社を退社し、ウェブメディア『SAMEJIMA TIMES』創刊。2022年5月、福島原発事故「吉田調書報道」取り消し事件で巨大新聞社中枢が崩壊する過程を克明に描いた『朝日新聞政治部』(講談社)を上梓。YouTubeで政治解説も配信している。

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(ジャーナリスト 鮫島 浩)

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