ユニクロとは「真逆の戦略」で大成功…機能性を売りにしない女性アパレル「ハニーズ」が絶好調な安さ以外の理由
プレジデントオンライン / 2024年2月21日 14時15分
■アパレルは「高機能性」がトレンド
国内の衣料品販売で核となる要素はいくつかありますが、現在その最も重要なものの1つに「高機能性」が挙げられると個人的には考えています。冬用の保温発熱、夏用の吸水速乾、軽量化、防シワ、撥水、防水透湿などが「高機能性」の代表例です。
ワークマンやユニクロ、さらに各種アウトドアブランドの好調もここに大きな要因があるでしょう。長らく衣料品の不振が続いていた無印良品も機能性衣料品を強化することで復活の兆しが見え始めています。
■「機能性」なしでも好調なハニーズ
私自身も機能性衣料と普通の衣料品が同じ値段で売られているならほぼ機能性衣料を買うようになりました。理由は便利だし、何となく「お得感」があるからです。単に「風合いが良い素材で作りました」とか「高級な生地が使われています」という衣料品は昔に比べると売れにくくなっているように感じます。特に大衆向けとされる中価格から低価格ゾーンではその傾向が強いと感じられます。
そんな中にあって特に目立った機能性もない衣料品を主力に扱いながら好調を維持しているのが、低価格レディースのHoneys(ハニーズ、本社:福島県いわき市)です。あまり注目されませんがこれは結構特異なことではないかと思います。
ハニーズの23年5月期連結は売上高548億8800万円(対前期比15.1%増)、営業利益76億7000万円(同53.6%増)、経常利益80億2100万円(同58.6%増)、当期利益53億3600万円(同64.0%増)と大幅増収増益を記録しました。
また24年5月期第1四半期連結(23年6~8月)も売上高130億1700万円(同10.3%増)、営業利益16億700万円(同66.2%増)、経常利益16億3500万円(同54.2%増)、当期利益10億5000万円(同52.8%増)と好調さを維持しており、24年5月期連結は3.8%増の売上高570億円を見込んでいます。
■売り上げの大部分は実店舗、EC化率はわずか10%
特筆すべきは、影響を大きく受けたであろうコロナ禍の21年5月期、22年5月期に大幅増収増益を続けているところです。コロナ禍の21年度、22年度は一部を除いて多くのアパレル企業が業績を落としていることは広く知られていますが、その中にあって増収増益を続けているのですから世間的にもっと評価されてもよいでしょう。
コロナ禍中の業績アップの要因としてEC(ネット通販)の好調さが挙げられるブランドが多い中で、ハニーズの23年5月期連結のEC売上高は55億600万円しかありません。伸び率こそ21%増と好調ですが、EC化率は10%しかありません。
となると、コロナ禍にあっても実店舗販売が評価されていたということになり、コロナ禍明けはさらに実店舗販売が支持を高めたといえます。コロナ禍にあってEC化率もそれほど高くなくても増収増益が続けられたことももっと世間的に評価されるべきでしょう。
■「安くて女性らしい女性服」の最大公約数
ではハニーズがなぜ好調なのかについて考えてみたいと思います。自分が知る範囲内でのハニーズ好調に言及した記事で納得できる解説を見たことがありません。おそらく、ハニーズが売れている理由がわかりにくいからだと思われます。
売り場に何かヒントが落ちていないかと実際に売り場を見に行きました。冒頭でも述べたようにほとんど機能性服はありません。辛うじて「あったかインナー」はありますが、それほど大量に売り場に並べているわけではありません。
また暖かそうな衣料品をまとめて「ハニぽか」として打ち出していましたが、それぞれの商品を見ると、起毛素材が使われて暖かそうな物や暖かそうな触感の生地が使われている物ばかりで、他社がPRするような「○○℃暖かい」といった具体的な機能性の表示は一切ありませんでした。
一部に機能性繊維を使用しているものもあるようですが、普通の冬用衣料を「ハニぽか」と総称しているに過ぎないといえます。低価格が評価されていることは言うまでもありませんが、同時に商品デザインやファッションテイストなどが評価されていて売れていると考えられます。
店内に並んでいる商品は結構多品番ですが、一見したところかなりフェミニンな印象を受けます。女性らしいテイストといえば伝わるでしょうか。ジーユーに見られるようなストリートカジュアル色が強い商品群はありません。またユニクロほどトラッドでもなく、ワークマンのようなスポーツ・アウトドアテイストもなく、本当に「女性服らしい女性服」という印象です。
また無印良品ほどのナチュラル感もありません。強いて挙げれば今シーズンのアースミュージック&エコロジーは近しいテイストがあると感じますが、価格はアースよりも500~1500円くらい安めです。安くて女性らしい女性服というところが女性に評価されているのではないでしょうか。商品デザインやテイスト、コーディネートに際立った個性がなく女性が好みそうな最大公約数の商品というふうに感じます。
■小さいロゴを好むトレンドとマッチ
ちなみにハニーズは屋号で、店内には3つの独自ブランドの商品を展開しています。大人向けの「グラシア」、ノンエイジレディースの「シネマクラブ」、ヤングレディースの「コルザ」というラインアップですが、男性目線で売り場を見た限りにおいてはほとんど区別ができません。そして、3ブランドともにこれと言ったデザイン的な特徴のない服だと感じます。
デザインの特徴がないということは、ともすると競合ブランドに埋没してしまう可能性が多々ありますが、逆にどんなブランドの服とも合わせやすいという利点もあります。さらにいうと何のブランドか他人からわかりにくいという「匿名性」があるといえます。一昔前の「ユニ被り」のように、着ている服が他人と被ることを嫌う消費者は多くいますが、ハニーズの商品は匿名性が高いためバレにくいのではないかと考えられます。
また2000年代後半からブランド市場の消費を牽引してきた中国人の好みを反映してか、ブランドロゴがどんどん大きくなり目立ちやすくなりましたが、コロナ禍以降の中国経済の失速も手伝ってロゴは小さく、もしくはなくなるという「クワイエット・ラグジュアリー」が現在の最新トレンドとなっており、この風潮とハニーズの商品がマッチする部分もあるのではないかと思われます。
■ジーユー、無印よりも豊富な靴の種類
もう一つ、店内を見渡して気が付くのが靴の種類の豊富さです。もちろん靴専門店ほどには品揃えはありませんが、型数の多さからしてもジーユーや無印良品よりは多いでしょう。今秋冬は男女ともにスニーカーの過熱ブームがおさまり、合皮素材も含めてレザー使いのブーツ類人気が復活していますが、ハニーズには女性向けのロングブーツが多数並んでいます。
ウェブ上でもハニーズのロングブーツ類の豊富さは礼賛する記事が少なからずアップされています。だいたい5000円弱で揃うようですからかなり割安感があります。値ごろ感のある女性らしいロングブーツはユニクロにもジーユーにもワークマンにも並んでいませんので、こういう女性向けの最新マストレンド商品を厚く揃えるところが支持を集めているといえるでしょう。
■自社工場を持つことで「価格競争」ができる
国内外にSPA型ブランドは多々ありますが、ハニーズが他SPAブランドと大きく異なる点が商品面以外に2つあります。1つは自社縫製工場を持っているということ、もう1つが積極的な脱中国の姿勢を鮮明にしている点です。
業界外ではあまり知られていないと感じますが、ハニーズは昔から自社縫製工場を持っています。大手SPA型ブランドで自社縫製工場を所有しているのはZARAを展開するインディテックスくらいでしょう。ユニクロでさえ持っていません。海外ではミャンマーに縫製工場を持っており、22年8月にはミャンマー第3工場の新設を発表しており、23年からの稼働が予定されていました。
自社工場を持つということは在庫リスクが増えるという反面、圧倒的に価格競争力が高まるという利点もあります。例えば、ハニーズのスリムスキニージーンズは定価2280円ですが、ジーユーのレディーススキニージーンズの定価は2990円となっています。
後述する「積極的な脱中国」とも関係しますが、ミャンマーの自社工場生産も含めてハニーズの商品は中国からの調達比率を年々減らしており、23年5月期では2.3ポイント減少してわずか7.1%しかありません。自社工場生産分も含めてミャンマーからの調達比率が45.4%とほぼ半数に迫る勢いとなっており、次いでバングラデシュ27.4%、カンボジア10.2%、ベトナム9.0%という比率になっています。おそらく、24年5月期以降も中国からの調達比率は下がり続けると考えられます。
■赤字続きだった中国から撤退する英断
また、販売においても「脱中国」が鮮明で、ピーク時には600店舗弱あった中国店舗を徐々に減らしていき、2018年9月末で全店閉店しました。中国販売からの完全撤退です。理由は2014年以降中国での営業赤字が続いたことによります。
2006年に中国に進出してから12年間で撤退となりましたが、2018年にハニーズホールディングスの江尻義久社長(現会長)は日経ビジネスのインタビュー記事で「赤字続きの中国から撤退できてせいせいした」とコメントしており、それに対比して日本国内の好調さを強調しておられました。
20年春のコロナ禍以降、政治的リスクの高まりも含めて日本企業の中国撤退の動きが顕在化していますが、ハニーズはその先駆けだったといえるでしょう。
■「ユニクロに飽きた」層を射止める「隙間ブランド」
企業の売上高から見ると540億円のハニーズは大手とはいえ、ファーストリテイリング(国内売上高8904億円)、しまむら(6161億円)の足元にも及ばないどころか、ワークマンの3分の1程度に過ぎません。自分も含めて多くの日本人がユニクロ、しまむら、ジーユーの衣料品を多数持っており、全身ユニクロの服、全身しまむらの服、全身ジーユーの服という日も珍しくないでしょう。
ただ、衣料品は必需品であると同時に嗜好(しこう)品でもありますから、同じブランドばかりでも飽きてしまって「たまには違うブランドの服も着てみたい」という気持ちに人間はなります。そんな際に匿名性があり割安感でトレンド感の高いハニーズの服や靴は女性にとってはなくてはならない「隙間ブランド」の1つになっているのではないかと感じます。
■男性ブランドにはない立ち位置
同じような匿名性のあるトレンドブランドは他にも多々ありますが、圧倒的な価格競争力を持つハニーズは選ばれやすいでしょう。今後も過度にメディアで目立つことなく、ジワジワと売り上げ規模を拡大し続けるのではないかとみていますがどうでしょうか。
男性向けではちょっと見かけない立ち位置のブランドですが、個人的には全身ユニクロ、全身ジーユーに飽きている部分もあるので、安くて匿名性が高くてトレンド対応が速いハニーズのようなブランドがメンズにも欲しいと思ってしまいます。
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ライター
繊維業界新聞記者として、ジーンズ業界を担当。紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下までを取材してきた。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。
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(ライター 南 充浩)
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