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ガソリンが高いのは「税金の塊」だから…高騰対策で「トリガー条項」より優先順位が高い"2つの根本問題"

プレジデントオンライン / 2024年3月1日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gremlin

ガソリン代はどこまで高くなるのか。経営コンサルタントの石原尚幸さんは「高騰対策としてガソリン税の上乗せ分を外すトリガー条項の発動がよく指摘されるが、これでは根本解決にはならない。それよりも道理に合わない『多重課税』を、このタイミングで見直すべきではないか」という――。

■ガソリン代を25円安くする方法がある?

ガソリンが25円/リットル安くなると聞いたらあなたはどう思いますか?

「え、そんなお得になるなら今すぐ給油したい」

きっとそう思いますよね。

実は今のガソリン価格には通常のガソリン税や消費税とは別に、「税率の特例」と呼ばれる上乗せ分の税金が加算されています。

2月の衆議院予算委員会でも、この「上乗せ分」が話題となりました。

原油高に伴うガソリンの高騰が続く中、この「上乗せ分」の税金を外す条項、いわゆる「トリガー条項を発動すべき(正確には、トリガー条項の発動が凍結されているためトリガー条項凍結を解除せよ)」と、国民民主党の玉木雄一郎代表が岸田首相に迫る場面がありました。

■ガソリンにはどのくらい税金がかかっているのか

私たちの生活に欠かせないガソリンの話なのに、トリガーだの凍結だの解除だの、何やら物騒な言葉が飛び交い、一般の消費者にとってはいったい何を話し合っているのかよくわからないのではないでしょうか。

そこで、石油業界出身で、ガソリン流通に詳しい筆者が、話題のトリガー条項につき、そもそもトリガー条項とは何の条項なのか、なぜ凍結だの解除だのと揉めているのか、ガソリン高騰の時代でどうすれば私たちは賢くガソリンを買うことができるのか、を解説します。

トリガー条項を説明するために、まずはガソリンにかかる税金の全体像を知っておく必要があります。これがわからないと国会で盛り上がっている「トリガー条項」はわかりませんので、まずはここを理解してしまいましょう。

全国のレギュラーガソリン平均価格は、昨年8月に15年ぶりに180円台を突破し、10月以降は170円台で推移しています。この価格は1リットル当たり、消費税込みの価格です。

では、あの価格にどれくらいの税金がかかっているかをご存じでしょうか。

■流通段階で積み重なる「4つのコスト」

図表1は、ガソリンのコストを図解したものです。

【図表1】ガソリンにかかるコスト

ガソリンのコストは4つの流通段階でコストがかかっています。

1.産油国から日本の製油所まで

日本のガソリンは主にアラブ諸国産油国から輸入された原油を精製して作られています。産油国から買う原油代、そして日本へタンカーで運ぶ船賃、これに石油石炭税がかかります。

2.精製コスト

日本に到着した原油は石油元売会社の製油所で加工され、ガソリンとなります。ここでは石油会社の精製コストがかかります。

3.物流コスト

製油所で完成したガソリンは油槽所を経て、タンクローリーにてガソリンスタンドへ運ばれて行きます。街で石油会社のロゴ入りのタンクローリーが走っているのを見かけると思います。あれがガソリンを運んでいるローリーです。運ぶためのコストがここで加算されます。

4.ガソリンスタンドから消費者へ

ローリーからガソリンスタンドへ運ばれたガソリンはようやく消費者へ届けられます。ここで、ガソリンスタンドの運営コストとガソリン税、さらに消費税がかかった価格が、私たちが購入するガソリン価格となります。

■石油石炭税にガソリン税、消費税…

では、実際に、各段階でどれくらいのコストがかかっているかシミュレーションしてみましょう。

原油が1バレル80ドル、為替が150円/ドルの場合で想定してみます。

【図表2】ガソリンコストのシミュレーション

1バレル80ドルの原油は日本円にすると75.5円/リットル。これにタンカーの船賃3円/リットル(約2ドル/バレル)と石油石炭税2.8円が加算されます。

ここまでで、81.3円。

これに製油所での精製コスト約10円/リットル、製油所からガソリンスタンドに運ぶまでの物流コスト約3円/リットルが加算されます(いずれも筆者推定値)。

ここまでが81.3円+10円+3円=94.3円/リットル。

ガソリンスタンドでは、ガソリンスタンドのコスト(ガソリンスタンド特約店の利益。筆者推定値)約10円に、ガソリン税53.8円/リットルが加算されます。

ここまでで、158.1円/リットル。

■「税金の塊」のうち25.1円は上乗せ分

さらに、この158.1円に10%の消費税がかかるため、私たち消費者が購入する価格は173.9円/リットルとなります。

このうち、税金は石油石炭税2.8円+ガソリン税53.8円+消費税15.8円=72.4円となり、実にガソリン価格の41%が税金となります。

いかにガソリン価格が税金の塊であるかお分かりいただけると思います。

図表3はガソリン税の変遷を時系列にまとめたものです。

【図表3】ガソリン税の歴史
出典=石油連盟「今日の石油産業2023」

1949年に28.7円で定められたガソリン税は、1974年に道路特定財源として暫定税率が上乗せされるようになりました。以降、モータリゼーションやオイルショックを背景に暫定税率は引き上げられ、1974年に34.5円、1976年に43.1円となり、1979年には25.1円が加算された53.8円になりました。

その後、2010年には民主党政権下で暫定税率は一旦廃止されましたが、翌11年3月に起きた東日本大震災を受けて、復興財源としての使途を理由に暫定税率は維持されることになります(以降、「当分の間税率」と名称変更)。

つまり、ガソリンのコストの大きな比重を占めるガソリン税のおよそ半分の28.7円/リットルが本来の税金で、残りの25.1円は「税率の特例」と呼ばれる上乗せ分なのです。

■「トリガー条項」が発動されていない理由

では、「トリガー条項」とは何なのでしょう?

トリガー条項とはガソリンの平均小売価格が1リットル160円を3カ月連続で超えた場合に、自動的に本来のガソリン税に上乗せされている25.1円を停止し、28.7円に引き下げられる法律です。

つまり、この条項が発動すると、ガソリン価格が1リットルあたり25.1円安くなります。

【図表4】トリガー条項発動の効果

しかし、このトリガー条項は現在発動していません。その理由は、東日本大震災により、復興財源を確保する必要が生じたため、「東日本大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律」によってこの条項が凍結されたからです。

■ガソリン代が乱高下し、大混乱が起きる

ウクライナ、イスラエルにおける紛争による原油の高騰が続く中、野党や各種団体から「トリガー条項」を発動すべきとの要望が政府に出されています。

確かに、トリガー条項を発動すればガソリンは25円/リットル以上も安くなるため、消費者にとってはメリットが大きな要望と言えます。

しかし、筆者はトリガー条項の発動には反対です。その理由は3点あります。

1.ガソリン価格が再び下がると大幅な値上げになる

トリガー条項はあくまで「160円/リットルが3カ月続いた場合に発動する」という条例です。そのため、160円を下回った場合には再度25円加算されたガソリン価格に戻ります。ガソリンは日常的に使用する燃料であり、消費者は安定的に落ち着いた価格で購入したいはずです。今月は25円安かったけど、来月は25円高いとなると家計のやりくりが大変となります。

2.混乱を招く

トリガー条項が発動された場合、将来的にガソリンが安くなることがわかるため、高い確率で消費者の「買い控え」が発生します。また、トリガー条項の発動が解除された場合はこの逆に「買いだめ」が発生します。

実際、2008年4月の1カ月間、一時的に暫定税率が安くなった時があります。5月1日に再度暫定税率が復活することになったため、安いガソリンを求める行列が全国のガソリンスタンドで発生し大混乱となりました、

■小手先の対策ではなく、「多重課税」の解決を

3.根本的な解決にならない

ガソリンが高い要因は、原油が高騰しているからだけではなく、税金にあります。

本来28.7円であるガソリン税に上乗せされている25.1円分、そして、原油のコストにガソリン税を足したものに掛け算される消費税5.3円。単純に計算しても30円の税金は本来かかるべきものではないはずです。

この根本的な問題を解決せずして、一時的な値下げをするだけの「トリガー条項」の発動は消費者の目先をごまかす「小手先の対策」と言わざるを得ません。

ガソリンを安定的に消費者が購入できるようにするためには、次のような対策が求められます。

■ガソリン車だけに課税するのは不公平ではないか

1.暫定税率の廃止

暫定税率は現在「当分の間税率」と名称を変えていますが、「当分の間」とはいつまでなのでしょうか? あいまいな政治的表現はやめ、そろそろ決着をつける時ではないでしょうか。25.1円の上乗せを廃止し、本来の28.7円に戻すべきです。

ガソリン税の税収は約2兆円。暫定税率を廃止すれば約1兆円の税収減となります。このためにたびたび起こってきた暫定税率の廃止の議論はうやむやとなってきました。

しかし、脱炭素時代を目前に、ガソリンだけに課税するのは無理があります。電気自動車は現在、ガソリン税を負担せずに走行しています。

これは税の公平性をクリアしているのでしょうか? 疑問が残ります。

とはいえ、税制度の変更は数カ月程度の議論で決着できるものではありません。民主党政権下のように数カ月で税制を変更しようとすれば、現場の混乱を招き、消費者はかえって不利益を被ることになります。

数年かけてでも、走行する車に平等に税負担を求める税制を作っていく必要があります。

「TAX」と書かれた木製のキューブとおもちゃの車
写真=iStock.com/dontree_m
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dontree_m

■今こそ、消費者は怒りの声を上げるべき

2.消費税のタックス・オン・タックスの解消

ガソリン税が入った商品価格に消費税10%がかけられているため、消費者は53.8円×10%=5.3円/リットルの税金を余計に払っています。税金に税金がかけられるため、これを「タックス・オン・タックス」問題として、石油業界は政府にこの問題の解消を訴えています。

同様の事象が、お酒、タバコでも起きていますが、いずれの商品についても政府は「問題ない(税の二重取りではない)」との見解を出しています。

果たして、問題ないでしょうか?

ガソリンに関して政府は、「メーカーとしてガソリン税は負担すべきコストであり、これに消費税をかけても税の二重課税とはならない」とわかったようなわからないようなあいまいな見解です。

メーカーが負担すべきコストだとしても、最終的には消費者が高いガソリンを買わされていることには変わりありません。消費者は怒りの声を上げてもよい時期ではないでしょうか?

消費税の財源も相当額になるため、暫定税率同様に、今日言って明日変えられる問題ではありません。あいまいな見解でごまかすのではなく、テーブルに議論を上げ、数年単位で議論し解消していくべき問題点と考えます。

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石原 尚幸(いしはら・なおゆき)
経営コンサルタント、プレジデンツビジョン社長
1973年、愛知県生まれ。上智大学経済学部経営学科卒業後、出光興産に入社。2008年、34歳の時に独立起業。2012年法人化し、プレジデンツビジョンを設立。経営者・士業、120社のコミュニティ「五つ星★メンバーシップ」を主宰。「東洋経済ONLINE」、『月刊ガソリンスタンド』などメディア出演多数。著書に『社長! お金は「ここだけ」押さえれば会社は潰れない 2枚のシートで利益とキャッシュを確実に残す!』(ダイヤモンド社)、『父が子に伝える 13歳からのお金に一生困らないたった3つの考え方』(三笠書房)がある。

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(経営コンサルタント、プレジデンツビジョン社長 石原 尚幸)

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