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能力不足なのに自己評価は高い「ローパフォーマー社員」をどう変えるか…パワハラにならない「叱り方」のコツ

プレジデントオンライン / 2024年3月15日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/andrei_r

能力不足なのに自己評価が高い「ローパフォーマー社員」を変えるには、どうすればいいのか。人事コンサルタントの難波猛さんは「問題の根本は、上司と部下の認識のズレにある。これを解決するには、ネガティブフィードバックという方法が有効だ」という――。(第1回/全2回)

※本稿は、難波猛『ネガティブフィードバック 「言いにくいこと」を相手にきちんと伝える技術』(アスコム)の一部を再編集したものです。

■「耳の痛い話」をどう伝えればいいのか

「上司が部下に厳しいことを言えるようにしていただけませんか?」「うちの社員に、厳しいことを言ってもらえませんか?」という相談が、人事コンサルタントをしている中で急増しています。以前は、「上司が部下に厳しく言い過ぎないように」「うちの社員のやる気をあげてもらえませんか?」という相談が多かったので、真逆の依頼です。

昔は、多くの職場で「熱すぎる上(行き過ぎるとパワハラ上司)」が多かったですが、現在はパワハラ防止や離職防止などを気にして「優しすぎる上司(行き過ぎると何も言えない上司)」が増えていて、企業の経営者や人事は問題意識を持っているケースが相談に繋がっています。

厳しいこととは、部下にとっては耳の痛い話であり、いくら上司の言葉とはいえ「はい、わかりました」とは簡単に受け止められないことも多いです。下記は、クライアントから相談を受ける具体的な耳が痛い話です。

「会社が期待している成果と、本人の出している成果に大きな開きがあることを認識してもらいたい」

「時代の変化に応じて業務の進め方も自律的に変えていく必要があるが、ベテランが今までのやり方に固執して変化対応しようとしない。今後はそれでは困りますと伝えたい」

「会社の期待と若手の価値観がズレているが、それを強く伝えると辞めてしまう可能性があり伝えにくい」

「会社の方向性に基づいた能力を獲得していかないと、組織の中で活躍できる場所がなくなることを伝えないといけない」

「事業構造改革により部署がなくなることに伴い、慣れ親しんだ職場や職務から配置転換になることを伝えないといけない」

「従来のように会社が適材適所を考えて配置するメンバーシップ型から、本人が自分の適所を獲得して成果貢献するジョブ型に切り替えていく中で、キャリアを自律的に考えてもらう必要性がなかなか伝わらない」

「人事制度が改訂されてメリハリ重視になる中、今のポジションには見合わない能力と成果が続くと、ポジションが降格することもあるし、給料が下がることもあると伝えないといけない」……

■双方にプラスになるフィードバックの方法

どれもこれも、部下としては聞かずに済むなら聞きたくない話でしょう。上司としても、言わなくて済むなら言いたくないのが正直なところでしょう。この「部下は聞きたくない、上司は言いたくない」葛藤状態を解決し、「上司が部下に厳しいことを伝える」「部下も上司と納得できるまで話し合う」双方向のコミュニケーションが、ネガティブフィードバックです。

テニスでラリーをするイメージ
写真=iStock.com/valentinrussanov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/valentinrussanov

上司が単に厳しいことを言うだけでは、部下側の反発を呼びパワハラやメンタルダウンなどのトラブルの原因になりかねません。また、部下側も納得していない上司の叱責(しっせき)を適当にやり過ごすだけでは、自身の成長も阻害され、組織内でのキャリアにマイナスの影響が出ます。

精神論で「厳しいことを言おう」というつもりはありません。『ネガティブフィードバック「言いにくいこと」を相手にきちんと伝える技術』では、コミュニケーション理論・リーダーシップ理論・キャリア理論・心理学・脳科学などをベースに具体例も交えて解説しています。

■なぜ部下を「叱る」だけでは効果がないのか

厳しいことを伝えるネガティブフィードバックと対照的な方法が、部下マネジメントのトレンドになっている、「温かいアプローチ」です。相手に寄り添う、相手の話をちゃんと聞いてあげる、相手の言い分を受け止めてあげる、答えは相手の中にある、出来なかった事より出来た事に目を向ける、その人らしさを認める、否定せず勇気づける、ありのままを受け入れる……。

コーチング・カウンセリング・心理的安全性・自己肯定感・マインドフルネス・ポジティブ心理学・サーバントリーダーシップなど、肯定的で温かいアプローチのほうが部下にとっても上司にとっても受け入れやすいため、素直に耳を傾けてくれますし、その効果や価値を否定する気はありません。私自身も、人事コンサルティングや研修の現場でこうした肯定的なアプローチを使う場面は多いです。

■「温かいアプローチ」だけでは効かないケース

しかし、温かいアプローチだけですべての部下の意識や行動や成果が「求められる水準まで、求められる期間内に」変わるかというと、難しいと言わざるを得ないでしょう。特に、1年間ずっと、または2期連続や数年間も成果が上がらない状態(ローパフォーマンス)が続いている「ローパフォーマー」と言われる部下を、「温かいアプローチ」一辺倒で変えるのは簡単ではありません。

荒涼とした岩と大地のイメージ
写真=iStock.com/ChrisHepburn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ChrisHepburn

企業の状況や業績がひっ迫し、一定期間で結果を求められ、改善しない場合は降格、降給、退職勧奨などの危険が迫っているときは、温かいアプローチでは間に合わないケースも往々にしてあります。

ローパフォーマーの意識や行動に改善を促すには、温かい太陽だけでなく、ときには厳しい北風を吹かせることも必要です。ただし、問題は北風の吹かせ方。北風の吹かせ方として多いのは、改善が必要な意識や行動を指摘する、わかりやすく言えば「叱る」という方法です。上司の感情をぶつけるだけの「怒る」よりは効果的です。

■感情的な反発を招いては台無しに

しかし、上司が一方的に叱ってすぐに変わるのはミスや事故につながる顕在行動くらいで、ローパフォーマンスの根本原因となっている意識や行動の変化はあまり期待できません。なぜなら、叱るという行為は、ほとんどのケースで「心理的リアクタンス」と呼ばれる自由の制約に伴う感情的な反発を招くためです。

「その進め方は間違っている」「言ったとおりにしなさい」「もっと仕事に責任感を持って欲しい」……。上司としては業務を上手く遂行してもらうための指摘のつもりでも、部下の立場から見れば「一方的に押し付けられた」「自由を制限された」と感じてしまいます。結果として、一方通行のコミュニケーションになってしまい、耳が痛い話をされた部下は、表面では異を唱えなかったとしても、内心では反発します。反発した状態で働いても継続的なパフォーマンス発揮は困難です。

■叱れば叱るほど部下はダメになる

「北風と太陽」という寓話(ぐうわ)で北風が強くなると服をさらに着込んでしまうように、叱れば叱るほど、その反発(心理的リアクタンス)は大きくなり、部下は頑なに自分の意識や行動を変えようとしなくなります。

または、何度も叱られたローパフォーマーのなかには反発する気力自体も失い、意欲が減退してしまっていて、叱っても暖簾に腕押し状態の人もいます。これは「学習性無力感」という状態です。

「どうせ自分はいつも叱られる」「この上司には何を言っても無駄だ」「自分の意志は尊重されない」という経験が積み重なると、部下は積極的な行動をしない指示待ちになっていきます。一方的に部下を叱れば叱るほど、反発したり、無反応だったりする部下の意識や行動は前向きに変化するどころか、その状態が反復強化されるリスクがあります。

■ただの叱責で終わらないための方法論

それではどうしたら効果的に北風を吹かせることができるのでしょうか。その方法が、ネガティブフィードバックです。部下に「その行動をくり返してもらったら困る」「その考え方や行動を変えてもらいたい」と改善を促すという目的は「叱る」と同じでも、「叱る」が一方的な指示なのに対し、ネガティブフィードバックは上司と部下の双方向の合意を目指すコミュニケーションを前提としています。

つまり、上司が部下に「伝える」だけでなく、部下も上司に「伝える」、そのうえで双方が相手の意見を「聴く」。そして、上司と部下が一緒になって改善策を考える。部下も自分で意見を考えて発信するからこそ、「リフレクション(内省)」が生まれ、部下の意識や行動の変化につながるのです。

■「叱る」のではなく、「ギャップ」を伝える

ネガティブフィードバックも、「叱る」ときと同じように、上司から改善が必要な部下に厳しいことを伝えると、最初は言われた部下は反発します。部下は自分に改善が必要だと認識していない場合も多く、上司から「予期せぬ変化」や「自分が望まない変化」を求められるわけですから、すんなり受け入れられないのは人として自然な反応です。

難波猛『ネガティブフィードバック 「言いにくいこと」を相手にきちんと伝える技術』(アスコム)
難波猛『ネガティブフィードバック 「言いにくいこと」を相手にきちんと伝える技術』(アスコム)

しかし、ネガティブフィードバックは、一方的な叱責や指摘に比べて、いったんは反発されても、やがて行動変容につながります。なぜでしょうか。それは「この成績じゃマズいよ」「なんであなたはいつも出来ないんだ」「もっと協調性を持って働いてくれ」などと結果や人格へのダメ出し、否定ではなく、「解決すべきギャップ」に焦点を当てて話し合うことから始まるからです。

組織内でのギャップは、「会社や上司の期待」と、「部下の現状や志向」のズレから生まれます。そのズレは、部下の成果や行動や発言など、目に見える形で現れます。まずは、この「ズレ=ギャップ」の正体を顕在化して対話の土俵に乗せることが重要です。

■「もっとしっかりやれ」ではダメ

成長途上の若手社員のギャップの原因で多いのは、「能力のズレ」です。求められている能力を身につけていないため、期待される成果を上げられないでいます。

足りない能力は専門技術なのか知識なのか、語学力なのかコミュニケーション能力なのかITリテラシーなのか……。「何の能力が不足しているのか」「その能力をどう身につけるか」「その能力を高めるとどういうメリットがあるか」を具体的に考え、実践することができればギャップを埋めていくことができます。

表面上の成果不足だけに注目して、ただ「どうしてできないんだ」「もっとしっかりやれ」「この場合はこうしなさい」と叱ったところで、部下が足りないところに気づくこともなければ、持続的に成長することもないでしょう。

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難波 猛(なんば・たけし)
ミドルシニア活性化コンサルタント
1974年生まれ。早稲田大学卒業、出版社、求人広告代理店を経て、2007年よりマンパワーグループにて勤務。人事コンサルタント、研修講師として日系・外資系企業を問わず2000人以上のキャリア開発を支援。人員施策プロジェクトにおけるコンサルティング・管理者トレーニング・キャリア研修等を100社以上担当。官公庁事業におけるプロジェクト責任者も歴任。

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(ミドルシニア活性化コンサルタント 難波 猛)

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