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60代後半までに「100歳まで住める家」に引っ越す必要がある…住まいのない「漂流老人」が急増する本当の理由

プレジデントオンライン / 2024年3月6日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/krblokhin

高齢者というだけで賃貸契約を断られ、住まいの見つからない「漂流老人」が増えている。司法書士の太田垣章子さんは「もし賃借人が孤独死すれば、事故物件となり物件価値が大きく下がる。このため高齢者お断りという賃貸物件が多い。このままでは高齢者の住む場所がなくなってしまう」という――。

※本稿は、太田垣章子など共著『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)の第4章「老後に住める家を見つけるダンドリ」の一部を再編集したものです。

■高齢者というだけで賃貸住宅を借りられない

高齢者――。ただそれだけで部屋を借りにくくなる現実があることを、ご存じでしょうか。

生きるのに欠かせないと言われる『衣食住』ですが、高齢になれば、日々着るものはすでに持っています。お出かけのための洋服や装飾品も、身に着けて行く場が少なくなれば必要がありません。食べるものへの欲求も小さくなっていくでしょう。連日、高級なフランス料理や肉なんて胸やけして食べられません。このように、高齢になると『衣』も『食』も重要度は低くなります。

一方、『住』は誰にとっても、何歳になっても必要不可欠な生きる基盤です。ところが、その住まいを借りられないだなんて、そんなことが本当にあるのかと思われるかもしれません。

しかし実際のところ、70歳を超えていることを伝えただけで、不動産会社の反応は鈍くなります。場合によっては、内覧希望をメールで送っても返事すら返ってこないこともあります。

大手企業を勤め上げて資産を持っていても、近くに身内が住んでいても関係ありません。高齢者というだけで、家主も不動産会社も、積極的に部屋を貸すのを嫌がるのです。

■家主が恐れる孤独死のリスク

私は20年前から、ふとしたことをきっかけに賃貸トラブルに関する訴訟手続きに関わるようになりました。

特に家賃を払わない滞納者の明け渡し訴訟が多く、その数はこれまでに3000件弱にのぼります。件数的にはもっとたくさん携わっている先生もいらっしゃると思いますが、相手方との関わり方の深さでは、日本一だと自負しています。なぜなら、相手方となる滞納者は最終的に住む場所を失うことになるため、どうしても深く関わらざるを得ないのです。

そのため私は、彼らが部屋を明け渡したあともホームレスにならないように福祉と繋いだり、次の転居先を探したり、親御さんのところに一緒に頭を下げに行ったりと、時には司法書士の仕事の枠を超えて関わりながら今まで数々の難題を解決してきました。

そんな私でも滞納者の年齢が70歳を超えてくると、心配が高じて夜も眠れない日が増えてきます。高齢者の場合、次の部屋を貸してくれるところがなかなか見つからないからです。

なぜだと思いますか。理由はさまざまありますが、一番は「高齢者には孤独死の恐れがある」からです。

■遺品を勝手に処分できない

そもそも一般の方々には知られていないのですが、賃貸借契約は財産権なので、契約を結んだ賃借人が亡くなった場合、その相続人に相続されます。

賃借権だけでなく、部屋の中の物もすべて相続人の財産となります。ところが荷物を全部撤去してから亡くなる賃借人はいません。家主側は勝手に他人の物を撤去できないので、荷物は相続人に片づけてもらうか、処分の同意を得ることが必要になります。

たとえば身寄りのない単身高齢者が亡くなった場合、家主側はまず相続人を探して、その方と賃貸借契約を解除して部屋を片づけ終わらないと別の入居者に貸すことができません。ましてや相続人が複数になる場合、法律上は相続人全員と解約手続きをしていくことが求められています。

しかし、個人情報の保護が叫ばれる現代では、利害関係者であったとしても相続人を探して連絡を取るのは非常に難しいことです。それなのに、民間の家主が相続人を探さなければならないとなると、これは大変な負担です。

ようやく相続人を確定できたと思っても安心はできません。相続人が行方不明の場合があるからです。行方不明だからといって、手続きがすぐに終わるわけではありません。この場合には、不在者財産管理人を選任して、その管理人と手続きしていくことになってしまいます。

うなだれる高齢男性
写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz

■ようやく相続人を見つけても…

また、ようやく見つかった相続人が、相続放棄してしまうことも多々あります。相続人側からすると、協力したいけれどできないといったところでしょうか。残念ながら善意で賃貸借契約の解約や荷物の処分をすると、その法律行為は、財産をいったん相続したものとみなされ、その後に相続放棄したくてもできなくなってしまうからなのです。

そもそも賃借人が亡くなったことを知らず、家主側から連絡を受けるような場合や、賃借人が亡くなったことを知っても知らぬ顔をしている場合は、賃借人との関係が希薄なのでしょう。そうなると亡くなった賃借人が多額の借金や家賃の滞納をしていても、知らない可能性があります。後から相続人のところに借金取りが来ても困ってしまうため、保身を考えて相続放棄をしたいと考える人が多いのも致し方ありません。

ところが相続人が相続放棄したからと言って、不在者財産管理人のときと同じで、このまま終われるわけではありません。

相続人が相続放棄してしまい、次順位の相続人も相続放棄して、相続人が誰もいなくなった場合には、民法上は相続財産清算人を選任申し立てし、その清算人と手続きを取っていくことになります。すべての手続きが終わるまで、少なくとも1年以上はかかってしまいますが、家主側は当然、その間の賃料報酬を得ることができません。

■すべてが家主側の負担になる

また相続財産清算人はボランティアではないため、賃借人の資産から報酬が得られないとなると辞任せざるを得なくなることもあります。そうなれば、家主側は何もできない、ということになってしまいます。結果、家主側にすべての負担がのしかかってしまうというわけです。

部屋の賃借人が孤独死した場合の、具体的なトラブルを挙げてみます。

・相続人である家族が相続放棄してしまったので、荷物の処分をしなければならなくなった

・遺品整理に多額の費用と時間がかかり、その費用が家主負担となった

・死臭や亡くなった痕跡が残り、次の借り手が見つからず、建物が取り壊しとなった

・生活保護受給者だったが、亡くなった日からの家賃補助が打ち切られ、室内の家財道具撤去費用を負担してもらえなかった

・連帯保証人である遺族に無視され、遺品の引き取りにも来ない

・病死であっても近隣の噂で耳に入るので、募集しても入居申し込みがない

こうした声を聞くと、家主や不動産会社が「できれば高齢者に貸したくない」と思うのは無理からぬことかもしれません。

■孤独死によって「事故物件化」する賃貸が続出

いま賃貸物件に住んでいる中高年も10年、20年と経てば高齢者になり、亡くなる可能性が高くなります。孤独死もあるでしょう。

基本的に、事故物件となるのは自殺や他殺が原因であり、病気等で亡くなった場合は含まれません。ところが病死であったとしても、発見が遅れてしまって特殊清掃が必要になったりすると事故物件になってしまいます。そうなると自殺や他殺のように告知義務も発生し、次の入居者を確保できにくくなるという問題が生じてきます。

孤独死が原因で事故物件になった場合の家主や不動産会社の悩みを紹介します。

・ 孤独死が発生したが身寄りがなく、ご遺体の対処、滞納された賃料、リフォーム費用などがすべてこちらの負担となった。賃料を下げても風評被害でその後の入居者を見つけることができなかった。不動産の売却依頼を受けたが、やはり売れず、苦労した

・ 浴室で孤独死が発生。死亡翌日に発見され、病死だったことから本来次の入居者への告知義務はないが、入居後に知ることになる可能性が高いため、告知をしている。浴槽の交換をして家賃も下げたが、入居希望がなく、ずっと空室のまま。このようなことがあると、高齢者への紹介には二の足を踏んでしまう

・ 木造2階建てアパートで高齢女性が浴室で孤独死。原因は心不全。ご子息が母親と連絡が取れないことを心配して入室確認し、死亡が発覚した。死後2週間ほど経っていた。残置物は処理業者に依頼して処分。しかし腐敗臭は残ったため、賃貸物件として貸すことが不可能に。他の部屋の入居者も徐々に退去。その後、家主の希望もあって募集はせず、建物は解体して更地に。もともと家主は貸さないと言っていたにもかかわらず、死亡した高齢女性がどうしても借りたいと申し出て貸した経緯があったため、家主は今後中高年の単身者には貸さない方針を明確にした

■高齢者の住む場所がなくなってしまう

病死も、新しい入居者から「前もって知っていたら借りなかったのに」というクレームが来ないよう、家主側は告知しています。しかし、告知したらしたで、次の入居者を確保できなかったり、賃料を下げざるを得なかったりして資産価値低下につながっています。

結局のところ、入居者が孤独死すると家主側の負担が非常に大きくなります。そのため、入居者確保が少々困難になったとしても、事故物件化を防ぐために高齢者に貸すのを避けるしか方法がないのです。

しかし、このような現状は家主にとっても、賃貸を借りたい高齢者にとっても不幸な事態です。人は生きている限り、どこかに住まなければなりませんし、生きている人は誰しも必ずいつか死を迎えます。人が亡くなった場所をすべて事故物件化していたら、この日本に高齢者の住む場所はどこにもなくなってしまいます。

高齢者の増加によって死亡者数が増え、人口が減少していく「多死社会」もすぐそこまで来ています。今後は『死』に対する認識を、日本人は変えていく必要があると私は考えています。

住宅街の空撮
写真=iStock.com/imagean
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imagean

■60代のうちに「終の棲家」のめどをつけよう

60代になると定年を迎えて定期収入がなくなったり減ったり、ローンも組みにくくなり、一気に選択肢が狭まってきます。住むところを見つけるなら、賃貸にしても持ち家にしても収入の安定している60代でどれだけ準備できるかが勝負になります。

物件価格が高騰し続けている東京都で、余裕をもって家を買える人はほんの一握りです。そうなると賃貸を選ぶ人も多くなり、気軽に住み始められることから、今後はますます高齢者の住宅問題が増えてくるでしょう。

ただ高齢者になってからも簡単に部屋を借りられるようになるとは思えないので、賃貸物件を検討している人は早めの備えが必要です。

具体的には賃貸に長年住んでいる人も、老後は持ち家を売って賃貸に移ろうと考えている人も、60代後半までには自分の荷物や財産を整理して、これくらいの賃貸なら100歳まで生きても払い続けられると思える「終の棲家」を見つけ、早めに引っ越しておくことが大事です。

60代のうちであれば、年齢だけを理由に入居を断られることはまだないでしょう。家賃保証会社の加入で、身内の連帯保証人まで求められることも少ないはずです。そうして一度入居しておけば、トラブルを起こさない限り、住み続けることができます。持ち家と違って、備品が故障した場合には家主側が修繕してくれる点も安心です。

■自分の寿命より長持ちしそうな物件を選ぶ

終の棲家を探すときに、ひとつ注意してほしいことがあります。それは引っ越し先が10年、20年で取り壊しや建て替えにならないか、という点です。最後に住む家は、自分の寿命より長持ちしそうな物件を選ぶようにしてください。

住むエリアで『家』にかかる費用も大きく変わるので、自分のセカンドライフプランは早めから意識しているほうが良いでしょう。

現役時代は仕事が中心なのでアクセス重視ですが、毎日通勤しないのであればスーパーや病院など生活の利便性が重要になってきます。

故郷や昔転勤で住んでいた場所、学生時代を過ごした地、旅行で気に入った地など、楽しみながら終の棲家のためのエリア探しをしてみませんか。試し住みも、賃貸物件なら気軽です。子どもの校区なんて考えなくてよくなった世代ですから、ぜひご自身の『好き』を探してみてください。郊外なら地価も下がるでしょうから、高齢者に快適な平屋を建てやすくなるでしょう。

■いまから備えたほうがいい

「おひとりさま」なら、頼れる身内が近くに住んでいる物件を選んだり、身元保証や高齢者サポート等をしてくれる存在の確保をしたりすることも検討しましょう。自分が認知症になったり、病気になったりしても、すぐに来て対応してくれる存在がいるとなれば、家主側も安心して貸すことができますし、自分自身も心強いはずです。

見守りサービスを利用すれば、万が一のときもすぐに見つけてもらえるので事故物件にもなりません。今はそのような事業者もたくさんできているので、若いうちからサービスの内容を確認しておくことが重要です。

太田垣章子など共著『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)
太田垣章子など共著『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)

サポート費用はかかりますが、人に動いてもらう以上仕方がありません。費用を払って、安心を買う時代に入った(家族を頼らない)と割り切りましょう。経済力や任意後見手続き、見守り等で、家主側の不安をカバーできます。そこまで備えておけば、貸さない人はいないはずです。

また「UR賃貸住宅」は平均月収額が月々の家賃額の4倍以上あれば(家賃額6万2500円未満の場合)、年齢は問題になりませんし、保証人も不要で借りられます。礼金、仲介手数料も不要で、契約は自動更新、更新料もなしに住み続けることができます。月収がなくても貯金が月々の家賃額の100倍あるか、家賃を1年分前払いするかのいずれかの条件を満たせば入居できます。

このように賃貸であっても持ち家であっても、お金さえあれば何とかなることばかりです。誰しもが、必ず老いて死にます。生きる基盤である『住』をどうするかを考えることは、『生きる』ことを考えることでもあります。少子高齢化の社会では、とにもかくにもお金を貯めて若いうちから備えておくことが大切です。

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太田垣 章子(おおたがき・あやこ)
OAG司法書士法人 代表司法書士
専業主婦だった30歳のときに、乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。これまで延べ3000件近くの家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」や、おひとりさま・高齢者に向けて「終活」に関する講演も行い、会場は立ち見が出るほどの人気講師でもある。著書に『老後に住める家がない! 明日は我が身の“漂流老人”問題』(ポプラ新書)、『あなたが独りで倒れて困ること30 1億「総おひとりさま時代」を生き抜くヒント』(ポプラ社)などがある。

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(OAG司法書士法人 代表司法書士 太田垣 章子)

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