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企業口コミサイトは"ダメ社員"の匿名書き込みが主…鵜呑みで「応募中止・内定辞退」の前に必ず見るべきソース

プレジデントオンライン / 2024年3月7日 11時15分

エン・ジャパン「『転職活動時のクチコミ閲覧』実態調査」より

2025年春入社の就活がスタートした。転職活動も活発だ。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「求人企業の“口コミサイト”は参考になる情報も掲載されているが、匿名の内部社員が個人的な不満のはけ口に利用したり、一部を誇張して批判したりすることも多い。より正確な情報を得たいなら、違うソースを当たるべきだ」という――。

■求人企業の“口コミサイト”情報は玉石混交である

就活や、転職活動で求人企業の「口コミサイト」を覗く人も多いだろう。面接対策をはじめ給与や残業時間、有給休暇の取得しやすさ、職場の雰囲気など、企業の実態を知るのに参考になる。

実際に口コミサイトを見ている人は多い。エン・ジャパンの「『転職活動時のクチコミ閲覧』実態調査」(2024年2月20日)によると、転職活動中に企業の社員口コミを見ている人は50%もいる。最も多いのは20代の57%だ。

この中には就活生は含まれていないが、社会人のスタートとなる会社だけに多くの学生が見ている可能性が極めて高い。

一方で企業側も口コミを恐れている。建設業の人事担当者はこう言って肩を落とす。

「周囲との人間関係になじめない、上司との相性が悪くなり、退職する若者もいる。あるいは上司のパワハラ相談を受け、内部調査の結果、パワハラに当たらないことを本人に伝えたが、納得しなかった社員もいる。その中に口コミサイトに投稿している人がいることは容易に想像できる。学生や中途採用に影響を与えるのは非常に困るが、防ぎようがない」

懸念するのは採用活動への影響だ。前出の調査によると、社員口コミを見ている人のうち、「応募前」に見ている人は91%と当然ながら多い。続いて「応募後~一次面接」で見る人が30%、「選考中~最終面接前」(14%)、「内定承諾前」(10%)と続く(複数回答)。

「応募前」と回答した人の中には「応募する前に確認しないと、その後に確認して応募をキャンセルするのは失礼になるから」(20代男性)という声もある。

「応募後~一次面接」では「試験内容などを確認する」(20代男性)、「内定承諾前」では「複数社から内定をもらっている時は、条件の見直しや比較のために見る」(20代男性)、あるいは「本当にこの会社でいいのか心が揺らぐことがあるから」(30代女性)という声もあるなど、さまざまな理由で活用していることがわかる。

ただし社員の口コミは、必ずしも真実が書かれているとは限らない。匿名であるため、職場の不満のはけ口に利用している社員もいれば、会社の制度の不備を誇張して批判するなど、ネガティブで主観的な声も少なくない。いわば、自身の思い込みやミス、仕事上の不出来を棚上げして上司や会社をディスってやる、と感情的になった結果というケースも多い。投稿された時期が古く、現在は制度が改善されている可能性もある。口コミを鵜呑みにするのは禁物だが、社員の口コミを見て「応募を辞めた」人が67%と、7割近くもいる。

また、社員の口コミで「応募を辞めた」「選考辞退した」「内定辞退した」人にどのような口コミの内容が影響したかも聞いている。それによると「給与・賞与の不満」が48%もいるほか、「人手不足・人が辞める」(47%)、「従業員の士気の低さ・人間関係の悪さ」(47%)、「残業・休日出勤の多さ」(45%)、「上司によるハラスメントや心身への負担」(42%)が上位に挙がっている。

とくに20代は「給与・賞与の不満」が53%、「残業・休日出勤の多さ」が56%と突出して高くなっている。

■「こんなにがんばって成果を上げたのに評価が低い」と嘆く人の実力は

いずれの口コミも真実であれば、誰もが応募を辞めたり、内定を辞退したくなったりする気持ちもわかる。しかしこうした口コミは事実なのかを慎重に吟味する必要がある。

たとえば「給与・賞与の不満」に関しては、そもそもどの企業であれ、自分が受け取る給与に満足している人は少ないだろう。加えて給与の不満は、だいたい人事評価に対する不満が多い。

一般的に自分の実力や実績を過信する人が多く、上司がつけた評価に満足する人は少ない。S、A、B、C、Dの評価ランクが昇給額に反映されるが、どの企業でも評価ランクごとに人数の割合が決まっており、昇給額の高いSランクは10%にも満たない。

「自分はこんなにがんばって成果を上げたのに評価が低い」と思うのは、その人以上に成果を上げた人がいるか、あるいは同僚の多くがその人と同じぐらいの成果を上げているからだ。

仮にS評価をもらった社員が口コミに投稿することはまずないだろうし、「給与・賞与の不満」は評価に対する主観的な鬱憤(うっぷん)晴らしにすぎない場合もあり得る。

「従業員の士気の低さ・人間関係の悪さ」や「上司によるハラスメントや心身への負担」が会社全体の特徴であるとすれば、こんな会社は生産性も落ちるし、そもそも業績が良いはずはなく、財務諸表を見ればわかる。おそらく口コミは特定の部署や上司に限定された話だろう。

また、「従業員の士気の低さ・人間関係の悪さ」は、口コミした本人がそう感じているだけかもしれないし、職場では浮いている人かもしれない。

とくに注意を要するのが「上司によるハラスメントや心身への負担」の口コミだ。もちろんどんな大企業にもパワハラ上司はいるし、内部通報窓口への「パワハラ相談」が一件もないという企業にはお目にかかったことがない。

さらに言えば、パワハラかどうかの判断基準はセクハラと違い、主観的判断ではなく「周囲の誰もがパワハラと感じた」など、“普通の人”の感覚が裁判では重視される傾向にある。つまり、口コミの社員が上司によるパワハラを受けたと言っても、周囲からは指導の範囲内と受け取られる場合も少なくなく、本人の主観的判断に基づいた投稿の可能性もあるのだ。

通勤する人々のシルエット
写真=iStock.com/Free art director
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Free art director

■口コミサイトはあくまでも参考にとどめ、客観的データを収集

一方、20代の応募の取りやめや、内定辞退の影響で最も多かった「給与・賞与の不満」や「残業・休日出勤の多さ」は就活生もとくに気にする点だろう。これも主観的な不満や、特定部署の残業にすぎないかもしれない。一社員が会社の平均残業時間や休日出勤日数を知っているとは思えないし、鵜呑みにしてはいけない。

口コミサイトはあくまでも参考にとどめ、客観的データを収集することだ。たとえば給与を知りたいのであれば、上場企業であれば、有価証券報告書に社員の平均年収と年齢が出ている。

たとえば「40歳、900万円」とあれば、初任給(22歳)を起点に40歳までの賃金カーブを描き、毎年どのくらいずつ上がっていくかが大雑把だが推測できる。

あるいは労働組合のある企業であれば、中央組織の連合の春闘結果に個別企業の30歳、35歳の事務・技術職の給与の妥結額が提示されている場合もある。その中には賞与の金額や月数も出ている場合もある。

また、有価証券報告書には公表が義務付けされた「女性管理職数」と「男女の賃金差」を知ることができる。

さらに厚生労働省のホームページの「女性の活躍推進企業データベース」では、「男女別の育児休業取得率」、「平均残業時間」「有給休暇取得率」などが企業名で検索すると見ることができる。

ただし、「男女の賃金の差異」(従業員301人以上)は22年7月、「男性の育児休業取得率」(1000人以上)は23年4月から公表が義務化されたが、他の項目は選択して公表できる。厚労省の担当者は「良いデータもそうでないデータも数多く公表している企業もあれば、求職者にアピールしたい項目だけを公表している企業もある」と語る。

逆に言えば「平均残業時間」を公表していなければ、この会社は残業が多いかもしれないと推測できる。そして最も手っ取り早い方法はOB・OG訪問や、面接で直接人事に聞き、真実を確認することだ。たとえば「口コミサイトにこう書かれてありましたが、どう思われますか」と聞く。納得できる答えが返ってくれば疑念は解消できるし、曖昧な答えが返ってくれば「もしかしたら口コミは本当かもしれない」と思うかもしれない。

口コミを鵜呑みにして応募をやめれば、せっかくのチャンスをふいにしてしまうことになりかねない。口コミの情報を参考に、自分の口と足を使って真実を確かめてほしい。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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