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なぜブラジルのサッカーチームが「追悼・鳥山明」を次々と表明するのか…ドラゴンボールとの意外な共通点

プレジデントオンライン / 2024年3月13日 17時15分

東洋人街の日系書店に並べられたポルトガル語版『ドラゴンボール』 - 筆者撮影

人気漫画『ドラゴンボール』の作者・鳥山明氏の訃報に、世界中のサッカークラブが追悼コメントを相次いで発表している。とりわけブラジルでは強豪チームからの発表が熱い。なぜなのか。ブラジル・サンパウロ在住フォトグラファー兼ライターの仁尾帯刀さんが取材した――。

■漫画・アニメファンにとどまらない鳥山氏への追悼

TVアニメシリーズ「ドラゴンボール」で世界的な人気を博した漫画家の鳥山明氏が3月1日に他界し、同月8日に死去が公表されたことで、故人への追悼の意が世界中で表明されている。

ここブラジルでは、筆者もかねて「ドラゴンボール」関連作品の人気が高いことを肌で感じていたが、鳥山氏への追悼が、いわゆる“オタク界隈”にとどまっていないことから、作品が及ぼした社会的影響が、他のアニメ作品と桁違いに大きいものであることを実感する。

特に驚きなのは、鳥山氏がスポーツ選手でなかったにもかかわらず、同氏を悼むサッカークラブや選手が多いことだ。

世界のサッカー界から寄せられたSNSにおける追悼をまとめた。

■ドラゴンボールをモチーフにしたコメントを発表

ヨーロッパサッカー5大リーグに数えられるフランスのリーグ・アンは、英語版公式Xで「Thank you, Akira Toriyama」のコメントとともに、目下同リーグ首位を独走中のパリ・サンジェルマンFCのサポーターグループが過去に行ったコレオグラフィーをコラージュして掲載した。

画像の下半分の孫悟空のものは2018年のリーグ通算7度目の優勝をかけた試合でのコレオグラフィーで、画像上半分の2019年のものは前年達成した7度目の優勝をドラゴンボールの7つの球になぞらえ、現れた神龍(シェンロン)をモチーフにしたものだ。漫画の原案をしっかりと表現していることに理解度の深さが感じられる。

イタリアのセリエA英語版公式Xもまた「カルチョ(サッカー)とドラゴンボールで育った」とのコメントとともに悟空の衣装を着た少年がサッカーの中継とドラゴンボールの放送を2台のテレビで同時に観賞する背中姿のイメージ写真をポストした。世代を超えた人気を示すために2台の古いテレビをセットに使用するなど作り込んだ写真には「私もそうだった」「泣ける」など共感を示すコメントが寄せられている。

■久保建英の所属クラブもコメントを発表

またイタリアの名門クラブACミランは「私たちは悟空のようなエネルギーとともに人生に挑戦していきます。ずっと愛していました。鳥山先生、安らかにお休みください」とのメッセージを記載し、昨年10月に左ウィングのラファエル・レオン選手がゴール後にディフェンダーのテオ・エルナンデス選手と決めたドラゴンボールの秘術「フュージョン」ポーズの写真をポストした。

一方、日本代表の久保建英選手が在籍するスペインのレアル・ソシエダは、連敗後の対グラナダ戦前日でもあった今月8日に、グラナダのアルハンブラ宮殿中庭の石台の上にチームカラーの衣装をまとい、胸元にチームのエンブレムをつけて片膝をつく悟空をコラージュした画像を掲載し、鳥山氏を悼みながらバスク語で「レッツゴー友よ、たくさんの夢とともに」とのコメントでサポーターを鼓舞した。

■「元気玉」やアニメ主題歌の一節で鳥山氏を追悼

ヨーロッパと肩を並べてサッカー人気の高い南米では、南米サッカー連盟(CONMEBOL)が英語版公式Xで、アルゼンチンの名手リオネル・メッシ選手と悟空の画像を並べて、「世代を超えて鼓舞してきた」とつづった。メッシの写真は、2016年コパ・アメリカ決勝でチリ代表に破れた後の気分転換のイメチェンで金髪に染めた際のもので、超サイヤ人として金髪になった悟空をなぞらえた。

アルゼンチン・ブエノスアイレスで、世界でも最も激しいと言われるダービーマッチ「スーペルクラシコ」を長年にわたって展開するボカ・ジュニアーズとリーベル・プレートもそれぞれ鳥山氏を讃えた。

ボカ・ジュニアーズは「鳥山明(1955-2024)氏を偲んで、いつでも猿」のコメントとともに、満月を背に、ボカ・ジュニアーズのユニフォームを着たサイヤ人の変形形態である大猿のイラストを掲載し、チームの常勝をアピール。

一方、リーベル・プレートは「鳥山明(1955-2024)氏を偲んで、最大の元気玉」と綴り、勝利後の選手たちの写真の上部に悟空の必殺技である元気玉を描いた。

コロンビアのビッグクラブのひとつミジョナリオスもまた公式Xにオマージュをポスト。選手たちの円陣から現れたかのような神龍が幻想的に描かれ、「Cha-la Head Cha-la、たとえ何が起こっても、私たちはいつでもその元気を持ち続けます。明さん、本当にありがとう」と、ドラゴンボール主題歌の一節から始まるコメントを掲載した。

■鳥山明はサッカーの神様「ジーコ」と同じことをしてくれた

世界各国からさまざまなかたちで偉大な漫画家・鳥山明に対する追悼のメッセージがネット上に上がっているが、筆者がブラジル在住者だという贔屓(ひいき)目を差し引いても、どうやらブラジルサッカー関係者からのコメントが最も熱がこもっているようだ。

元サッカー日本代表監督のジーコが現役時代に在籍したリオデジャネイロのフラメンゴは長めのメッセージで追悼した。

「今日で、漫画の天才、鳥山明がこの世を去ってから1週間になります。私たちの王様ジーコがブラジルに現れて、地球の裏側(日本のこと)までも魅了したように、鳥山先生も日本から(ブラジルに対して)同じことをしてくれました。ここにドラゴンボールの作者に対するの私たちの敬意を表します。ドラゴンボールは私たちに既に持ち合わせている以上の力を持つ存在へと成長するよう、これからも背中を押してくれるでしょう」

日本とブラジルは、サッカーにおいても長く深い絆があるからこそのコメントだ。

なお、写真のガビゴウ選手(左)とブルーノ・エンヒキ選手(右)はともに2019年よりフラメンゴに在籍し、主にガビゴウの鋭いパスにブルーノ・エンヒキが好反応するかたちで得点を量産し、チームをリベルタドーレス杯2回優勝(2019年と2022年)に導くなど数々のタイトルをもたらした。

歴史あるチームにあって後世に名を残すだろう名コンビの彼らのお決まりのポーズもまたドラゴンボールの「フュージョン」だ。鳥山氏の他界という悲しみもあって今年は得点後のポーズにサポーターがさらに熱くなりそうだ。

■サッカー選手を「サイヤ人」になぞらえて…

かつてロナウジーニョも在籍したブラジル南部ポルトアレグレのクラブ・グレミオのメッセージも熱い。

「常に団結して、勝利します。ドラゴンボールの作者、鳥山明さんが今月1日に私たちを残して旅立ちました。鳥山氏は一世代の全体を魅了し、その芸術でもって、私たちグレミオもまた大切にする、諦めない心と団結の大切さを唱えてきました。天はあなたの周りで光り輝いています。やすらかにお休みください」

同じくポルトアレグレの名門SCインテルナシオナルは、2006年に日本で開催されたFIFAクラブW杯で初優勝したことをリマインドし、決勝でバルセロナ相手に唯一のゴールを決めたアドリアーノ・ガビル元選手を、鳥山氏追悼メッセージの代表にしてメッセージを発表した。

「クラブW杯での『大衆のクラブチーム(SCインテルナシオナルの愛称)』の優勝に貢献したサイヤ人ガビルは、日本の偉大な作家である鳥山明氏のご逝去を悼みます。鳥山氏は世界のポップカルチャーに影響を与えた作品群の作者でした。作品の中で最も知られているのがドラゴンボールです。いいエネルギーで満たされた元気玉を鳥山先生のご家族とファンに捧げます」

■サッカーと鳥山明作品の共通点

それにしても、サッカーと漫画家という一見共通点が見えなさそうなジャンルにおいて、どうして多くのサッカークラブが哀悼の意を表明したのか。

SNSでの鳥山氏へのオマージュを手掛けたインテルナシオナル広報担当者は、その理由を熱く語ってくれた。

「私たちのクラブがこれまで世界一になれたのは唯一、日本で開催された大会においてでした。わずかなことですが、私たちも鳥山氏と日本の皆さんに心を寄せるべきだと思いました」

「いまはサッカー選手もサポーターもアニメを見て育つ時代です。ドラゴンボールは、アニメが文化のメインストリームとなることを導いた作品です。その作者を失うということはアートの世界に限らず、すべてのファンにとって大きな損失を意味するのです」

「ゴール後のポーズやキャラクターの絵が入ったスパイク、スタジアムでのコレオグラフィーなどを見れば、多くのサッカー関係者とサポーターもまた鳥山明のファンであることがわかります。困難を乗り越える粘り強さには誰もが共感することをドラゴンボールの人気が示してくれました」

■ブラジルの東洋人街での反応

サンパウロの東洋人街リベルダージ地区は、世界を席巻中のアニメと日本食人気により、かねてあったにぎわいが、週末ともなればもはやカオス状態だ。鳥山氏他界報道の後、最初の週末に地区を訪れると、案の定「亀」や「悟」の文字がプリントされたドラゴンボールTシャツを着た人が、あちこちで見受けられた。

サンパウロ市の東洋人街リベルダージの一角、近年ポップカルチャー色が強まる
筆者撮影
サンパウロ市の東洋人街リベルダージの一角、近年ポップカルチャー色が強まる - 筆者撮影

街角やショッピングモールでドラゴンボールを愛する通行人をつかまえて、なぜ作品がサッカー界までも魅了したのかを尋ねてみた。

地元ポルトアレグレでもドラゴンボールの人気は高かったと語るサントスさん
筆者撮影
地元ポルトアレグレでもドラゴンボールの人気は高かったと語るサントスさん - 筆者撮影

ブラジル南部ポルトアレグレ出身でグレミオ・サポーターのジエゴ・ゴンサルヴェス・サントスさん(40)は、自らのチームがXで鳥山氏オマージュの画像を投じたこと知っていた。ドラゴンボールは90年代の地上波開始当時からのファンだ。

「他界のニュースは悲しいけど、鳥山明は私たちに美しい遺産を残してくれました。ドラゴンボールこそが世界での日本アニメの人気の扉を開いたんです。現在、サッカー界で活躍している人はだいたい僕と同じかそれ以降の世代ですよね。多くの人が国籍に関係なくドラゴンボールを見て育ったんです。もちろんサッカー選手もです。ドラゴンボールの特筆すべき点は、悟空、ベジータ、ピッコロなどカリスマのあるキャラクターですよね。ブラジルではキャラクターの吹き替え声優も良かったんで、それが特にブラジル人の心をとらえたんだと思います」

■ドラゴンボールのフィギュア人気は別格

ショッピングモールのフィギュア専門店「AKIBAステーション」で店員として働くジョナス・ケルビンさん(20)。羽織った袖なしデニムジャケットの背中と胸元には「悟」の文字が入っている。

8歳の頃からドラゴンボールを追いかけてきたケルビンさん
筆者撮影
8歳の頃からドラゴンボールを追いかけてきたケルビンさん - 筆者撮影

「ドラゴンボールのファンは格闘家やサッカー選手などスポーツ界や芸能界にも多いですよね。ネイマールもドラゴンボールの大ファンだと言っています。ドラゴンボールは“絶対に諦めない”というメッセージが強いんです。どれだけ失敗しても、つまずいても、再び立ち上がり、仲間とともに戦うことでさらに強くなれるというのが、サッカーを愛する人の心に刺さったんだと思います。天下一武闘会というトーナメントも、サッカーの大会に似ていますよね」

お店で扱うフィギャアは近年のアニメ作品のものが多いが、それでもドラゴンボールのフィギュアの人気は衰えないそうだ。

■サッカー選手はドラゴンボールから大切なメッセージをもらってきた

リベルダージに恋人と街歩きに訪れたアレックス・サンタナさんは、前夜に鳥山氏を悼んで「ドラゴンボールGT」の最終話をカップルで観賞した。

カップルでドラゴンボールTシャツ姿のサンタナさん(右)とジオヴァナ・マルチンスさん
筆者撮影
カップルでドラゴンボールTシャツ姿のサンタナさん(右)とジオヴァナ・マルチンスさん - 筆者撮影

「僕は今本当に、喪中の気分です。ドラゴンボールシリーズが一番好きなアニメで、全作品見ています。サッカー界を含め世界中の人が鳥山氏の他界を悼むメッセージをSNSに投じていて大きな連帯を感じます。戦いごとにさらに強くなり、目の前にどんなに大きな困難が現れても、それを乗り越えるために努力する悟空の姿勢を通じて、有名サッカー選手も僕たち一般の人も鳥山さんからの大切なメッセージをもらってきたんです」と涙目で語った。

常日頃感じることだが、日本から遠く離れたブラジルは極めて親日的な国だ。

何よりも日本移民とその子孫が培った信頼の大きさによるのだが、国民スポーツであるサッカーの関係者が、ドラゴンボールのような日本のコンテンツを掲げて作者を悼む姿に、ポップカルチャーもまた日本とブラジルの絆を強く結ぶのだと感じる。

否、それはブラジルに限ったことではない。民族や国家の間の争いが常に耳に入る昨今において、「サッカー」や「アニメ」といった文化には、人と人とを結ぶ尊い力があることを鳥山明の他界は改めて示してくれた。

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仁尾 帯刀(にお・たてわき)
ブラジル・サンパウロ在住フォトグラファー/ライター
ブラジル在住25年。写真作品の発表を主な活動としながら、日本メディアの撮影・執筆を行う。主な掲載媒体は『Pen』(CCCメディアハウス)、『美術手帖』(美術出版社)、『JCB The Premium』(JTBパブリッシング)、『Beyond The West』(gestalten)、『Parques Urbanos de São Paulo』(BEĨ)など。共著に『ブラジル・カルチャー図鑑』がある。

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(ブラジル・サンパウロ在住フォトグラファー/ライター 仁尾 帯刀)

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