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"年約5万人が死亡するサイレントキラー"大腸がんの初期症状はここに出る…医師が40代から年一回勧める検査

プレジデントオンライン / 2024年3月30日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Suzi Media Production

自覚症状のない病気はどう発見すればいいか。医師の石井洋介さんは「早期にはほとんど自覚症状がなく、『サイレントキラー』と呼ばれる大腸がんの初期症状は『うんこ』に現れる。下痢と便秘を繰り返したり、出血がみられたら要注意だ。大腸がん検診で行われる便潜血検査、いわゆる検便は、この微量な血(便潜血)を検出できる。少なくとも40代になったら年1回は受けるといい」という――。

※本稿は、石井洋介『便を見る力』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。

■1年に約5万人が大腸がんで死亡している

現在、日本における死因の第1位は悪性新生物、すなわち「がん」です。昭和56(1981)年からずっと変わらず死因の第1位(厚生労働省「人口動態統計年報主要統計表」)で、令和4(2022)年の全死因における割合は24.6%。

さらにその中での順位は大腸がんは男性2位、女性は1位と高い位置にあります。人数にすると1年間で5万人以上が、大腸がんで死亡しているのです。東日本大震災で亡くなった方の数が約2万人、新型コロナウイルス感染症で亡くなった方の数がこれまでの累計で約7万人と考えると、とても多いことがわかります。

一方で5年生存率と呼ばれる治療の成績は年々よくなっていて、直近のデータでは平均して70%程度の方は5年以上生きられる病気になっています。現代では、がんはきちんと治療すれば治る可能性の高い病気と言えます。

特に大腸がんは罹患早期のステージ0、ステージ1の段階で治療すれば、5年生存率は9割を超えます。しかし、死亡者が減らないわけはいくつかあります。

ひとつは高齢化の影響です。胃腸は皮膚などに比べて細胞の入れ替わりが早いため、途中のどこかで遺伝子の異常も起こりやすくなります。そのため長寿になればなるほど、大腸がんの患者数は増えるのです。

■高齢になってからのがんは進行も遅い

65歳以上のいわゆる高齢者人口は、1985年には10%ほどでしたが、2022年には29.1%となっています。発病の割合としては変わらなくても、母数である高齢者の数が増えているので患者数も増加しているのです。

また、年齢が高い患者が増えると手術や抗がん剤なども利用しにくくなり、治療困難となるため大腸がんによる死亡も増えるというわけです。

年齢が上がってからかかるがんのことを「天寿がん」と呼んだりもします。高齢になってからのがんは進行も遅く、死因としては「大腸がん」と書かれますが、在宅医として多くのがん患者さんを診た経験からしても、そこまでしんどいものではありません。

がんを手術で取っても、手術や入院の方が体に負担となったり、他の病気で亡くなる可能性も高く、手術で必ずしも寿命が延びるとは言えません。

大腸がんによる死亡が減らないもうひとつの理由は対策型がん検診の受診率が低いことです。大腸がんはステージ0、ステージ1の段階で見つけて治療すれば、治る可能性の高い病気です。

高齢(アメリカの学会では75歳)になったら検診しなくても寿命は変わらないといわれていますが、日本では40歳以上、アメリカでは50〜75歳の方に対して大腸がん検診が推奨されています。日本では大腸がん検診の受診率が低く、2019年のデータでは、大腸がん検診の受診率(40〜69歳)は男性で44.5%、女性は38.5%にとどまっているのです。

■日本の方がアメリカより死亡率が2倍以上高い

これと対照的なのがアメリカで、2000年に38.2%だった大腸がん検診の受診率が2018年には66.8%に上昇しています。その結果、大腸がん患者の死亡率も低下しています。

2020年のアメリカ対がん協会の推計データによると、大腸がんによる死亡者は5万3200人。日本とほぼ同じ数字ですが、人口比は約2.6倍なので、日本の方が大腸がんの死亡率が2倍以上高いということになります。

アメリカでは大腸がんの死亡率は低下傾向にあり、日本では逆にこの20年で1.5倍に増えている。このことからも大腸がん検診による早期発見が、死亡リスクを下げる大きな要因であることがわかります。

「大腸がんが増えているのは食の欧米化や、マクドナルドが原因ではないか?」と犯人探しをする患者さんに出会うことがありますが、アメリカでの死亡率が下がってきていることなどから、どうもそれだけが原因ではなさそうですね。

日本でも、厚労省ががん検診受診率50%達成に向けたキャンペーンなどを行っていますが、思ったようには増加していないのが現実です。

大腸がん検診に限らず、がん検診全体を見ても海外と比べて日本の受診率は低くなっています。その理由のひとつは、医療へのアクセスしやすさの差だと思われます。

患者の腹部を触診する医師
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

日本は国民皆保険制度があり、病院もきちんと整備されているので、ちょっとお腹が痛い程度でも病院へ行けばすぐに診てもらえます。

それに比べると海外は時間的にも金銭的にも受診のハードルが高いため、なるべく「病院にかかる」状況に至らないようにする意識が強いのです。

日本は医療へのアクセスがよいからこそ、本格的に具合が悪くなるまで病院に行かず、健康な人も予防にあまり興味が持てないという皮肉な状況にあるわけです。

■「サイレントキラー」の初期症状はうんこに現れる

大腸には痛覚がないため、早期の大腸がんにはほとんど自覚症状がありません。悪化して、腸が完全に閉じるくらいまで症状が進んでしまうとお腹が苦しくて痛みも出てきますが、初期状態では痛みが出たり、体重が急激に減ったりというわかりやすいサインがありません。

自覚症状が出た頃にはかなり進行していて、治療ができない状態になっている、というのが大腸がんが「サイレントキラー」と呼ばれる所以です。

そこで重要になってくるのが「うんこ」です。なぜなら、大腸がんの初期症状は「うんこ」に現れるからです。

大腸がんになるとがんが大腸の中で大きくなっていくため、大腸の内腔、つまりうんこの通り道が狭くなっていきます。うんこがどんどん細くなり、通りにくくなってくると、水状の下痢便だけが通過し、少しあとに形のある便が通過するので、下痢と便秘を繰り返すことがあります。

これまでは定期的な排便があり、さらに食生活の変化など思い当たることもないのに継続的に下痢と便秘を繰り返すようになった場合、大腸がんを疑ってみてもいいでしょう。

また、がんはとても弱い細胞でできているため、うんこが通過する際に細胞が壊れて少し出血することがあります。

患部が肛門に近い場合、赤い血が認められるので出血に気づきやすいのですが(ここで「痔かな?」と勝手に判断してしまうのは厳禁です!)、直腸から離れた場所での出血は黒っぽく変化し、うんこに混じってしまうことが多いので、自分の目で見てもわからないことがほとんどです。

トイレットペーパーのロールを片手にお尻をおさえる男性
写真=iStock.com/yanyong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yanyong

大腸がん検診で行われる便潜血検査、いわゆる検便は、この微量な血(便潜血)を検出することが目的です。

■40代になったら、少なくとも年一回は便潜血検査を

自治体が行う対策型の大腸がん検診は一次検診で便潜血検査を行い、そこで便潜血があれば、精密検査を行うのが通常の流れです。

大腸がんの罹患率は40歳を超えた頃から少しずつ高くなっていくので、40代になったら、少なくとも年一回は便潜血検査を受けるのが大腸がん死を減らす第一歩です。

便潜血が陰性だった場合は、かなりの高確率で「大腸がんではない」というデータが出ています。検便は自宅で簡単にできる検査なので、それによってまずは「ない」ことを証明できるのです。ぜひ、面倒くさがらずに受けてほしいと思います。

実際に、便潜血検査を毎年受診した場合には33%、2年に1度の受診でも13〜21%、大腸がん死亡率が減少することがわかっています。

そして、便潜血反応が陽性だった場合には、必ず精密検査を受けてください。日本ではそもそも便潜血検査を毎年受けている人が少ないうえ、そこで異常が見つかっても「内視鏡検査は怖いから」とか「痔を患っているからそのせいだろう」などと、そのままにしてしまう人が多いのです。

■技術の進歩で内視鏡検査もバリエーション豊かに

大腸の内視鏡検査では、一般的に肛門から内視鏡を挿入し、大腸全体の画像を見ながら詳しく腸内の状態を調べていきます。実は大腸がんのほとんどが、最初はポリープだったものが徐々に大きくなって大腸がんに移行していくタイプ。

内視鏡検査中にポリープが見つかった場合は、ほとんどの場合そのまま切除できるので、早期発見という意味でも、内視鏡検査はぜひ受けてもらいたいのです。

内視鏡検査は下剤を飲まなければならなかったり、肛門からカメラを入れること自体への抵抗などがあったりして敬遠する人も多いようですが、最近では研究が進み、検査のバリエーションも増えています。

便潜血は胃がんの可能性もあるため胃カメラと同時に検査をすることもよくあります。最新の方法としては、まず麻酔をかけて胃カメラを入れ、同時に下剤を投与。

胃カメラが終わって目が覚めたときには下剤が効いてくるのでトイレに行き、腸がキレイになったら続けて大腸の内視鏡検査を行うという、胃と大腸の検査を1日で終わらせる医療機関も出てきています。

また、内視鏡を使わない検査として、カプセル型のカメラを飲み、体内を通過しながら画像撮影をしたカメラを、最後は排便から回収する方法や、大腸にガスを入れて膨張させCTで撮影するという手法もあります。

このような技術面の進歩もあるので、自分に合った検査をしてくれる医療機関を探し、定期的に検査を受けてみてください。

■検査や検診もたくさん受ければいいわけではない

明確に予防できる因子はわかっていませんが、大腸がん発症のリスク因子はわかっています。喫煙、肥満、運動不足、不健康な食生活(野菜不足、加工肉の食べ過ぎ、ビールの飲み過ぎ)などが、大腸がん発症との関係が強いことが知られています。

石井洋介『便を見る力』(イースト・プレス)
石井洋介『便を見る力』(イースト・プレス)

大腸がんに限らず体に悪いとされるものが並んでいますね。つまり「大腸がんを予防するにはこれ!」という決め手はなく、健康的な生活を送るというつまらない答えになります。大腸がん死を防ぐには、早期発見が大切です。

早期発見が大事なら毎日便潜血検査をしたり、全国民に無償で検査できるキットのようなものを配布したりすればいいのでは? と考えられる方もいると思いますが、それは間違った考え方です。

毎日検査をすれば、確かに大腸がんを早期発見できるかもしれないのですが、それ以上に偽陽性といって、大腸がんではないのに陽性反応が出てしまうことが増え、無駄に精密検査を受けたり不安になったりする可能性が増えてしまいます。

そういうデータを統計的にすり合わせて、今のところ我が国では40歳以上は年に1回、アメリカでは50歳〜75歳の方は年に1回検診を受けることが推奨されています。

新型コロナウイルス感染症のときにも同じような話がありました、とりあえず全員にコロナ検査をすると一定数無症状の感染症患者さんが出てくるのですが、これが早期発見のこともあれば、実は感染していない人を捕まえているだけのこともあるため、全員調べるスタイルは現代の検査キットの性能の限界といわれていました。

検査や検診もたくさん受ければいいかと言われると、そういうわけでもないので、適切なタイミングで適切な検査を受けることが重要です。

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石井 洋介(いしい・ようすけ)
医師、日本うんこ学会会長
19歳の時に潰瘍性大腸炎により大腸全摘出術を受けたことをきっかけに医学部受験を決意。高知大学医学部卒業後、研修を経て横浜市立市民病院へ。消化器外科医として大腸がんの手術などを多数手がける一方、厚生労働省勤務や「日本うんこ学会」創設など意欲的に活動。「大腸がんは見つかった時点で寿命が決まる」という厳しい現実を打開すべく、毎日うんこを観察するカンベン(観便)を推奨し、医療の現場はもちろん、ゲームアプリやエンタメを通して発信し続けている。近年は、病気の予防・治療に加えて在宅医療の必要性を感じ「おうちの診療所」を開設。著書に『19歳で人工肛門、偏差値30だった僕が医師になって考えたこと』(PHP研究所)。

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(医師、日本うんこ学会会長 石井 洋介)

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