なぜ日本のサバは「小さくてイマイチ」になったのか…こだわる店ほど国産よりノルウェー産に変わった理由
プレジデントオンライン / 2024年4月1日 14時15分
■日本人が食べているサバの半分以上はノルウェー産
アジア最大級の食品などに関する国際展示会「FOODEX JAPAN」が今年3月上旬に東京ビッグサイト(江東区)で開催され、国内外の食品関連企業・組織が数多く出展した。
この中で、初出展したノルウェー大使館水産部は、同国自慢のサーモンとともに、縞模様がくっきりとした大西洋サバをPR。ブース内には「3月8日はサバの日!」と書かれたポップがひと際目立つ場所に掲げられていた。大使館の関係者は、「日本人が食べているサバの半分以上はノルウェー産。脂が乗ったノルウェー産は、すごく人気があります」と、誇らしげに語っていた。
■福井県の名産品「へしこ」もノルウェー産
日本のサバといえば、大分県で獲れる「関さば」や、宮城県産の「金華さば」、神奈川県産の「松輪サバ」といったブランド魚が知られている。こうした高級魚は別として、サバは全国各地で水揚げされるポピュラーな魚種。アジやイワシ、サンマなどと同様に青魚で「大衆魚」とも呼ばれ、たくさん獲れて「安い魚」というイメージがある。
サンマのように歴史的な不漁に見舞われている魚でさえ、輸入に頼っているわけではないのに、日本のサバ消費の半分以上がノルウェー産とは、さすがに言いすぎではないか……と思いきや、残念ながら嘘ではないのだ。
かなり以前からノルウェー産は日本に浸透しており、今やなくてはならない存在となっている。スーパーや弁当、定食屋チェーンだってノルウェー産を中心に扱っている。三陸産の〆サバや、福井県などの名産品「へしこ」に使われるのも、国産ではなくなっている。どういうわけか。
■漁獲量の多さではマイワシ、ホタテガイに次いで3位
日本のサバ漁獲量は、2022年が合計約32万トン(農林水産省「令和4年漁業・養殖業生産統計」)。種類別ではマイワシ、ホタテガイに次いで3番目に多く、4位のカツオ(約19万1000トン)を大きく引き離している。
ただ、この数字は「サバ類」として、マサバ・ゴマサバを合わせた生産量である。ともにサバ科の魚で、東日本でお馴染みのマサバに対し、西日本で好まれてきたゴマサバは、腹にゴマ状の斑点があるのが特徴だ。
サバ類は、巻き網漁や定置網漁などさまざまな漁法で漁獲され、漁港で水揚げされるが、2魚種は漁場が同じことが多く、混獲が当たり前。水揚げ時に分けられないのだ。一方、イワシなら、マイワシやカタクチイワシ、ウルメイワシといった種類があるが、これらは漁場が分かれることが多く、漁獲統計上も別カウントされている。
市場価値としては、おおむねマサバのほうが高い。ともに大型魚であれば食用として生のまま流通するが、一般にマサバのほうが脂の乗りが良くおいしいといわれる。東京・豊洲市場(江東区)では、同じ大きさならマサバのほうが2〜3割ほど高い。
時期的には例外もあって、太平洋産など「夏場の産卵期にはマサバの脂の乗りが落ちるのに対し、ゴマは逆に脂が乗って、マサバよりも高く売れることがある」と同市場の競り人。
ただしそれも大型魚に限った話で、小型のサバ・ゴマサバは食用ではなく、養殖魚の餌などに使われる。これが常態化しており、水揚げ時に一緒くたにされたまま、冷凍加工されることが多い。漁港関係者によれば、ゴマサバも小さいと斑点がはっきりしないため、マサバとの判別はしにくく、餌用ならば選別の必要もないということだ。
全国レベルではかつて、ゴマサバのほうが優勢だったものの、近年はマサバの水揚げが主力だ。したがって今回は、マサバをイメージして「サバ」の話を紹介したい。
■かつては130万トン獲れていたのが今や30万トン前後
マサバを中心としたサバ類の漁獲生産量は、ベスト3に入るほど多いのだが、勢いはかなり衰えてきている。農林水産省の調査によれば、1980年には約130万トン漁獲されていたものの、そこから急降下し、1991年には約26万トンにまで落ち込んだ。
その後は増減を繰り返し、ときには50万トン台まで回復しながらも減少傾向が続く。データはまだ明らかになっていないが、2023年もさらに減ったとの見方が多い。30万トン割れとなれば、21年ぶりである。
サンマやサケなど、不漁魚種が目立つ中、サバも減少傾向をたどっているのだ。
■メジャーな魚なのに半数近くが非食用
さらに、水産関係者の間でよく聞かれるのは、「最近のサバは大型が少ない」という傾向だ。アジほどの大きさのサバでは、食用としての価値は低く、大半が流通対象外となっている。
同省の産地水産物用途別出荷量調査結果によると、2022年のサバ類の「生鮮食用向け」の割合はわずか13%。マイワシ(15.1%)よりも少なく、鮮魚としてあまり流通していないことがわかる。これに対し、「養殖用または漁業用餌料向け」は48.5%と最多で、他魚と比べても比率が高い。いわゆる「サバ缶」向けは22.7%あるものの、メジャーな魚でありながら、半分ほどが非食用となっている珍しい魚種である。
各地の魚介類が取引される豊洲市場では、日々おおむね十数トンのサバが入荷し、卸から仲卸、あるいはスーパーなどに引き取られていく。卸の競り人は「浜(漁港)でいくらサバが揚がっても、1匹500グラム以上はないと集荷しづらい」と話す。小さいサバは「脂の乗りが悪く、焼いても煮てもパサパサでしょ」と競り人。業務向けの需要が低いのだという。
■豊漁のマイワシに追いやられてはるか沖へ
なぜ国産のサバは、脂の乗りが良くない小型魚ばかりなのか。漁獲が低迷し全体の水揚げが減っていることも一因だろうが、海流や他魚種との関係を指摘する声がある。サンマと比べると、サバは資源水準が極端に悪いわけではない。
海況・漁況等を収集配信する漁業情報サービスセンターは、主漁場となる太平洋では「サバが北上するときの回遊がマイワシよりも沖になることが多い。ここ何年か、東北から北海道沿岸ではマイワシが豊漁となっているため、秋になって大きく成長したサバが南下する時期、漁船の操業範囲を超えてしまうほど沖へ遠ざかってしまっている」と説明する。
つまり、大型のサバも海にはいるものの、沿岸で幅を利かすマイワシに回遊コースを阻まれ、漁船が獲れないほど、遠い沖合へ追いやられているというのが専門家の見立てだ。
国産のサバの多くが、生鮮食用向けとして流通に乗らない理由はほかにもある。津々浦々の漁港で獲れるサバの大きさ・脂の乗りなどに「日々、ブレがあって安定した仕入れができない」と築地場外市場(中央区)で人気和食店の店主は打ち明ける。和食店だけでなく、塩焼き、味噌煮などで人気のサバだけに、安定した仕入れを求められるが、国産サバは小型が多いだけでなく、産地の水揚げが不安定なため、店の味や品揃えに安定感を欠いてしまうという。
■500グラム超えのサバがノルウェーではごろごろ獲れる
こうした嘆きの声に応えられるのが、ノルウェー産のサバなのだ。筆者は2022年9月、漁業が盛んなノルウェー南部西岸のオーレスンを訪れた。水産加工場に横付けされた1500トン級の同国巻き網漁船の水揚げ状況を取材したのだが、まず驚いたのは漁船からすぐ横の加工場へ送られるサバは、人手を介さずにすべてポンプを通じて流されていたこと。
加工場へ入ったサバは洗浄されてから選別機にかけられるが、日本で例えば石巻や銚子や沼津、福岡などで見たサバと比べて、かなり大きなものという印象だった。日本ではざっと「500グラム以上のサバは、全体の1割もない」(魚市場関係者)というが、ノルウェー・オーレスンの水産加工業者によれば、3割ほどが500グラム以上だという。漁獲は日本の秋にあたる9月から11月くらいまで。比較的大型で脂が乗ったジューシーなサバは、大半がすぐさま冷凍されて日本などへ輸出される。
ノルウェー大使館水産部によると、2023年の同国からの対日サバ輸出量は、約6万3000トンで、韓国への輸出量(約4万2000トン)を大きく上回って第1位。中国など、いったん第三国に渡って加工処理され、日本へ送られるノルウェー産のサバも少なくないとみられ、ノルウェーにとってはサーモンを含めて日本が大事な得意先となり続けている。
■冷凍のみならず生サバの空輸も始まった
同国産の大きなサバは冷凍されて日本へ送られ、いつでも脂が乗ったおいしい塩焼き、味噌煮が食べられる。そればかりか、2021年からは日本の秋に、現地で大きさや脂の乗りにこだわった生サバを「サバヌーヴォー」とネーミングして空輸。販路を拡大している。こうした状況から考えると、水産業界やサバの名産地だった青森県八戸市などが制定したとされる「サバの日」に、ノルウェー大使館が「3月8日はサバの日!」とPRするのは無理もない。
小型が多いとはいっても、日本でサバはたくさん獲れている。それだけに水産業界にとっては複雑な思いもあるだろう。乱獲は資源保護でコントロールできても、温暖化をはじめ海洋環境の変化は避けられない。
ただ、小さくても国産サバをおいしく食べる手段はあるはずだ。数十万トン獲っても食べるのはノルウェー産。国産魚の消費拡大へ、知恵を出し合うべきだ。
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時事通信社水産部長
1967年、東京都生まれ。専修大学経済学部を卒業後、1991年に時事通信社に入社。水産部に配属後、東京・築地市場で市況情報などを配信。水産庁や東京都の市場当局、水産関係団体などを担当。2006~07年には『水産週報』編集長。2010~11年、水産庁の漁業多角化検討会委員。2014年7月に水産部長に就任した。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)、『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文春新書)など。
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(時事通信社水産部長 川本 大吾)
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