プロなら「みんなに人気の店」とは絶対に書かない…面白い本を書くために敏腕ライターが使う「5つのテク」
プレジデントオンライン / 2024年4月11日 10時15分
■最後まで読んでもらえる文章に必要なこと
10万字の文章は、長い。だいぶ、長いです。そこで私たちライターはできる限り読者が途中で離脱しないように、さまざまな工夫を織り込んで文章を書いています。ここではその中から、参考になりそうなことをお伝えします。
具体的な話をする前に、ひとつ、考えておきたいことがあります。書籍の原稿の「ゴール」は何でしょうか。読者がどのような状態になれば、その原稿は「成功した」と言えるでしょうか。
これは、書籍のジャンルによっても差があると思いますが、ビジネス書、実用書、自己啓発書などのゴールは、「読者の態度変容」、つまり「読む前と読んだ後の読者が変わっていること」ではないかと私は考えます。
変わる内容はさまざまです。考え方が変わる場合もあります。態度が変わる場合もあります。行動が変わる場合もあります。
いずれにしても「この本を読んだことで、○○について考えた」「この本を読んだことで、○○ができるようになった」といった感想が聞ければ、その本は読者の役に立ったといえるでしょう。
そのゴールのためにも、まずいったん、「最後まで興味を持って読んでもらえる原稿」を目指します。読者を途中で離脱させないために、私たちライターはこんな工夫をしています。
■テクニック① エピソードファーストで書く
章や節の最初にエピソード(具体的な例)を配置すると、その先の総論や抽象論が読みやすくなります。この手法をエピソードファーストと言います。
世界的なベストセラー、日本でも100万部以上売れた『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』(ハンス・ロスリング/日経BP)は、まさにエピソードファーストで書かれた名著です。
この本は、「世界をとりまく多くの“事実”とされていることは実は事実ではなく、勝手な思いこみであることが多い」ことをこれでもかと並べている書籍です。が、最初から「貧困率は減り続けている」「人口は思ったほど増加していない」「犯罪発生率はどんどん減っている」と事実やデータを突きつけられると、拒否反応も生まれますし、読み進めるのに体力がいります。
この書籍の素晴らしいところは、導入がすべて、私たちの身近にあるエピソードから始まることです。読者にとっては、事実よりもデータよりも、ある人に起こった(そして自分にも起こるかもしれない)興味深いエピソードのほうが、読みやすいものです。
そのエピソードで何ページか本をめくってもらえたら、本を読む推進力がつきます。そこで本題に入る。これが読みやすさにつながります。
意識して見ていくと、この「エピソードファースト」で書かれた書籍がたくさんあることに気づきます。実は私の著書『本を出したい』も、前著『書く仕事がしたい』も、各CHAPTERの始まりはエピソードからスタートしています。
■テクニック② 結論ファーストで書く
もうひとつ、これも文章の典型的な型ですが、とくにビジネス書や実用書では、結論を先に書くと読みやすくなると言われます。
たとえば、「会社にAIを導入しようと思ったとき、最初に見積もりをつくらせるのはナンセンスです」と最初に結論を言ってしまいます。
この結論は、意外性があればあるほど引きがあります。「え? そうなの?」と思わせたら、「なぜなら〜」と理由を続け、文章に引き込みます。
この場合は、AI導入は本来それぞれの会社の状況によってカスタマイズすべきなので、調査をする前に見積もりなど出せるはずがないという理由でした。
「シャンプーで髪を洗ってはいけません」という結論から文章を始めたこともあります。これも、どうして? と思わせたら「シャンプーは髪ではなく頭皮を洗うためのものだからです」と続けます。
ヒット作を連発する編集者さんに「原稿の書き方のコツを教えてください」と聞いたら、「まず、結論をびしっと書く。真ん中はまあ適当にどぅらららららと書く。最後にもう一度結論を書く。これで売れる」とおっしゃっていて、ずっこけました。
ただ、真ん中の“まあ適当に”は冗談にしても、最初と最後で結論を2回くり返す方法は、たしかに著者の主張がはっきりして読みやすくなります。
■テクニック③ 具体的な話を盛り込む
書籍に重要なのは「再現性」です。誰かの課題の解決をするための本ですから、読んで自分もやりたいと思う。なるべくなら、自分もできるようになる。これが、ビジネス書でも実用書でも重要なポイントになります。そのためにはこんな工夫をしています。
具体例を出すと、読者は自分に引き寄せて考えやすくなります。個人的には、物事を抽象的に語ることや、抽象的に議論することはとても大事だと思っています。人と話すときは「具体的すぎるから、もう少し抽象的に話してほしい」とお願いすることもよくあるくらいです。
なんでもかんでも具体的に語るから、議論がシュリンクすると思うときも多々あります。しかし、自分が原稿を書くときはまた別です。
ある種の教養書を除き、ビジネス書や実用書で抽象論がずっと続くと、多くの場合、読み進めるのが辛くなります。何より、抽象論だけで語り続けると、課題の解決法がわかりにくくなります。
そこで私たちライターは、取材中に、「具体例は?」「事例は?」を連呼することになります。
たとえば、著者が「読書の習慣が今の自分をつくった」と言ったとします。すかさず「具体的に、読書をすることとしないことの差は何だと思われますか?」「これまで、とくに自分に影響を与えた本は何ですか?」「習慣とおっしゃいましたが、毎日同じ時間に読むのですか?」などと、しつこく聞きます。
「DXをするぞと意気込む会社ほどDXがうまくいかない」という言葉を聞いたら、「失敗事例を聞かせてもらえますか?」「逆に、うまくいった企業の事例を教えてもらえますか?」と聞きます。
■なぜ具体例が必要なのか
具体例や事例があることの良さは、文章が読みやすくなるとか解決策がイメージしやすくなるだけではありません。
実は具体例や事例の一番大事な役割は、「自分との距離」を測れることにあると私は思っています。
Aさんは月に10冊読む、朝6時から読むなどと書かれていれば、自分はそれに比べて多い少ない、早起きだ寝坊だ、などの比較ができます。この比較が読者の「自分ごと化」を手伝います。
DXの件も同じです。事例に出てきた会社の話はうちの会社と似ている、ここが違うと比較することで、書籍の内容が自分ごと化されます。
読者に自分ごと化してもらうことは、課題解決の第一歩なので、具体例や事例は大事だと思います。著者本人から具体例が引き出せないときは、著者のクライアントに取材することもあります。
私はライターとして仕事を受ける際は、この周辺取材をよく行います。仕事熱心だと言われたりもしますが、周辺取材をしたほうが楽に原稿が書けるからです。以前、天才肌の著者さんのお手伝いをしたことがあります。
その人がコンサルをする会社は軒並み業績があがるのですが、その手法がどれだけ取材しても私には理解できませんでした。苦肉の策で、その著者さんのクライアントさんたちに何がすごいのかを聞いてまわったのですが、これが大正解でした。
著者のメソッドの素晴らしさを一番知っているのはクライアントです。ときには著者自身が気づいていないメソッドのオリジナリティをクライアントが知っていることもあります。
クライアントのエピソードを載せることで、読者は「自分もやってみたい」「私にもできそう」と感じやすくなります。その著者さんの本もよく売れ、本で紹介したメソッドはその年のビジネス流行語にもノミネートされました。
■テクニック④ 形容詞を使わない
とくにビジネス書や実用書では、ふんわりとした形容詞に逃げないことが大事です。
「ものすごく喜ばれた」ではなく「参加者の97%が100点満点の評価をした」と書く。「若い頃長期間頑張った」ではなく「19歳から22歳までの間、1日も休むことなくジムに通った」と書く。「みんなに人気の店」ではなく「業界ナンバーワン売上の店」と書く。ビジネス書や実用書では数字が命です。
なぜかというと、先ほど言ったように「読者が自分との距離を測れるから」です。自分と相手との距離を測り始めたらもう、その読者は著者の話を自分ごととして考え始めています。かといって、本筋に関係ない数字や固有名詞を連発すると、読者の脳内はそれを読み解くのにメモリを使ってしまいます。
伝えたいテーマに対して、その数字がとくに意味を持たないときは、むやみに数字を連発しないことも大事です。読者のメモリは文章を読み解くことではなく、文章を読んだことによる思考や行動のためにとっておいてもらいましょう。
■テクニック⑤ How Toだけでなく理由も書く
これはメイク本をつくっていたときに実用書の編集者さんに教わったことですが、人はそのやり方を聞くだけでは、自分でできるようにならないそうです。
たとえば「アイラインを引くときは、中央部分を太くするとよい」と言われても、その理由がわからないと、やる気になれない。やる気にならなければ、課題を解決できません。
この場合「なぜかというと、中央部、つまり黒目の上の肌色をアイラインで黒くつぶすと黒目が大きく見え、ひいては目がぱっちり大きく見えるからです」と説明すると、なるほどと思います。この理由とセットで初めて、人はそのテクニックを理解して実践できるようになるというわけです。
そう教えてもらってから周囲を見渡すと、世の中には意外と「やり方」しか書かれていない文章が溢れかえっていることに気づきます。
著者が自分で書く場合は、とくに注意が必要です。自分にとってはその「理由」が自明なので、ついつい「理由」を省略しがちだからです。理由がわからないテクニックは、読者は実践できない。これを肝に銘じて書いていきましょう。
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書籍ライター
1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社勤務を経て文筆業に転向。著書に『女の運命は髪で変わる』(サンマーク出版)、『書く仕事がしたい』(CCCメディアハウス)、『ママはキミと一緒にオトナになる』(小学館)など。また、執筆・構成を手掛ける書籍ライターとして50冊以上の書籍の執筆に関わっている。近年は「さとゆみビジネスライティングゼミ」を主宰。
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(書籍ライター 佐藤 友美)
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