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なぜウェブライターの仕事は減ってしまったのか…人気ライターが「AIにはやく仕事を奪われたい」という理由

プレジデントオンライン / 2024年4月2日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lechatnoir

いい文章を書くには、どうすればいいのか。『文章を書くときいちばん大切なものは、感情である。』(アスコム)を書いたライターのpatoさんは「人間にできて、AIにできないことは『苦悩すること』だろう。書くことは苦しい。だからAIにはやく仕事を奪われたいとさえ思う。だが、そうやって書いた文章にはまだ価値がある」という――。

■ライターは「AIに仕事を奪われる職業」なのか

「生成AIが持つ無限の可能性」

そんな言葉がネットを中心に囁かれるようになってずいぶんと時間が経ったように思う。生成AIが無限の可能性を持つということは、それによって仕事を奪われる人にとっては無限の絶望があるわけだ。可能性のことを言われるたびにお前らは絶望しろと言われていることになる。ずいぶんなことだ。

僕自身、生成AIどんなものよ、と自分の同人誌において10本の記事を生成AIと書き比べてどちらが面白いか競ったことがある。2023年に書いた時点では、まだ生成AIが「おもしろ」をあまり理解していないようだったし、文体も生成AIのそれに近かった。

本来は、どちらが生成AIのものかわからない! となることを期待していたけれども、明らかに丸わかりで、同人誌の最後では僕の方から生成AIの文体に近づけていたくらいだった。早い話、こちらの命令の仕方も悪かったのだろうけど、生成AIの実力としては期待外れだったし、まだまだ書くことを奪われたりはしないな、という印象だった。

■「はやく奪ってくれ」くらいに思っている

ただ、この事実を持って「生成AI、たいしたことないな」となるのは早計であることを理解している。生成AIは恐ろしい速度で進化している。すぐに「おもしろ」を理解し、文体もよりナチュラルになるだろう。人間が書いたのかAIが書いたのか分からない、すぐにそうなる。だから、この文章があっという間に色褪せてしまうことだろう。へえ、この時点ではこんな余裕ぶっこしてたんだとなること請け合いだ。

ライターは生成AIに仕事を奪われるのか。

そう問われれば、まあ、奪われるのだろう。ただ、正直に言ってしまうと、奪われたところでべつに構わない。はやく奪ってくれくらいに思っている。はやく僕たちを解放してほしいのだ。

■取材に行かなくて記事が書けてしまう

ライターはすぐに生成AIに仕事を奪われる、そう言われるようになってずいぶん経つのに、僕自身はあまり言われたことがない。むしろ、どれだけ生成AIが発達してもpatoさんは奪われませんね、みたいに言われることがある。それはまあ、浅はかな考えだ。たぶん奪われる。

その考えのもとにあるのは、おそらく強烈な取材を敢行している記事が多いからだろう。

青春18きっぷで日本縦断したり、140円の切符で合法的に1000km以上移動したり、全都道府県のスタバにいったり、海抜0メートルから富士山に登ったり、廃線を100km以上も歩いたり、鹿児島から青森まで高速道路に乗ってすべてのSAでラーメンを食べたり、すべての新幹線駅で下車したり、そういった手足を使うことで成立する記事が多い。さすがにそういう実地の取材は生成AIには難しいという考えだ。

雨の日に京都竹林を通過する列車
写真=iStock.com/ferrantraite
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ferrantraite

そんなもの、取材に行かなくても生成AIならビッグデータからさも行ったように記事を書いてくれるよ、となるのだけれども、我々人類はすでにそれを通ってきている。コタツ記事騒動だ。行ってないのに行ったように、経験したいないのにネットの情報だけを組み立てて書くコタツ記事が跋扈し、それはダメだよねとなっている。きちんと取材にはいかねばならないくらいの共通認識はあるはずだ。

ただ、もうすでにその取材に行くことすら人間だけのアドバンテージにはなってはいない。手足というか人間と変わらないボディを搭載し、それらをナチュラルに動かすことができるAIまで開発されているようなので、そのうち生成AIが青春18きっぷで日本縦断して夜の大舘駅に降り立って、真っ暗闇に呆然とする記事を書いてくれるはずだ。そういう意味では、まあ、仕事を奪われるのだと思う。

■AIの文章には決定的に足りない要素があるが…

ただ、よく考えてみてほしい。いくら生成AIといえども、手足が搭載され、哀愁を漂わせながら青春18きっぷ握りしめて日本縦断していたらそれはもう人間だ。仕事仲間だ。ライバルでもありライター仲間でもある。なんか仕事の悩みとかないか。原稿料未払いとかされてないか。こんど飲み行くか。

そんな冗談はさておき、生成AIによって書く仕事は奪われるのかと聞かれると、奪われると即答するしかない。ただ、同時に生成AIは人間が書く文章に到達できないと思っている。それには彼らの文章にはある要素が足りないからだ。ただ、その要素を必要としない世間の潮流があるので、おそらく書く仕事は奪われていくのだろう。

生成AIが出力する文章に決定的に足りないもの、それは「苦悩」と「葛藤」そして「自問自答」だ。

これは先日出版した『文章を書くときいちばん大切なものは、感情である。』(アスコム)を執筆中に気が付いたのだけど、僕は自分自身をまったく信じていない人間なのだ。おそらく世界の中でもかなり上位に入るくらい僕は僕という人間を疑っている。こんなやつは信頼に値しない。

ネット上やSNSで多く見られるようになった「討論」や「議論」、「言い争い」。今日もSNSでは誰かと誰かが言い争っているのだけど、僕はその種の議論に参加したことがほとんどない。なぜなら自分が正しいと思わないからだ。

■苦悩し、葛藤した末に生まれた文章の魅力

なぜか、ネット上でのそれは、自分の意見を曲げると負けという風潮が強い。僕がある主張を持って意見を言い、誰かが反対意見を述べたとしても、僕はいちばん自分を信じていないので、こいつのいうことももっともだ、となってしまうのだ。たぶん僕がいちばん愚かでいちばん間違っている。きっと君が正しい。

これは他者との議論に限らない。こういった文章を書くときは心の中で自分と議論しながら書くことがほとんどだ。そんなかで絶対に自分が正しいとは思わないので、間違ってるなこれは、自分は愚かだな、と考えながら書いている。それでも、主張したいことをあるから書いている。書くしかないのだ。

それが書く際に身を焦がす苦悩であり葛藤である。僕は絶望から文章を書きだし、最後に妥協を持ってそれを世に送り出す。人の文章を読むときも、誰かがすらすらと書いたものより、苦悩し、葛藤した末に出てきたもの、それが垣間見えるものを好む傾向がある。

自分を疑いながら書く。そういった行為は図らずも自分をブラッシュアップしてくれる。

ノートパソコンを使用している人の手元
写真=iStock.com/golubovy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/golubovy

ある文章を書いたとき、それが読んだ人に伝わらなかったとしよう。そこで、もっと伝え方を工夫すれば伝わるだろうと努力する。これは自分の主張が正しいと確信しているからできることだ。ただ、その伝える主張が荒唐無稽で明らかに間違っていることだったらどうだろう。

明らかに間違っていることを伝わるように工夫することは詐欺の手法に近い。それよりも、伝わらないということはもしかしてこの考えが間違っているのか、となるほうがいくらか真っ当だ。

■なぜライターの仕事が減り続けているのか

自問自答し、葛藤し、苦悩する。本来、書くことはそれくらいの苦行であるはずだ。

生成AIが文章を出力する過程を見ていると、もう鼻歌まじりだ。サラサラと文章が出ている。とても苦悩しているようには見えない。

いちど「書くときに苦悩している?」と質問してみたら、「文章を書く際に苦悩することは一般的です。さまざまな要因がその苦悩を引き起こす可能性があります。その中には以下のようなものがあります。」みたいな回答が返ってきたので、まあ苦悩なんてしたことがないんだろう。

それどころか間違った情報を出力してもなんとも思っていないようだ。平然としてやがる。自問自答なんてしたことがないんだろう。

書き手の苦悩や葛藤、そして自問自答は重要なことだけれども、Webを中心とするメディアではそれが必要とされなくなってきている。利益を出すことが難しいので、数多くの記事を安く、大量にとなっている。じっくりと取材をしたり、書き手がじっくりと苦悩したり、じっくりと調べて書くような記事は採算が合わない。

こんな例がある。ある先輩の書き手は映画の批評記事を書く際、その映画だけでなく、その関連作品、その監督が過去に手掛けた作品まですべて鑑賞する。そこで「これは別の映画の影響を受けているな」と感じればその映画と関連作品も鑑賞する。そして、映画のレビューサイトに掲載されている何千というレビューも読む。そこで得た感想や考察を裏付けるために映画に限らずあらゆる資料にあたる。そうして得られる原稿料が1万円から2万円ということもあるらしい。

■じっくり取材した記事では採算がとれない

ライター側で考えてみよう。業で生計を立てていこうとした場合、サラリーマンなみの月30万円の収入を得ようと思えば、税金など一切考えずに荒っぽく計算すると1本1万円の原稿料の記事を30本ほど書かなければならない。1日1本は納品せねばならない。その中でじっくりと取材し、資料にあたり、自問自答して書く、どれだけのことができるだろうか。

僕はどんな記事でも自分を疑いながら書いているので、自問自答し、苦悩し、葛藤し、ときには資料を読み込み、ときには同じような論調の文章や、異なる論調の文章を読み、何度も書き直す。これは誤解されるかもと書き方を何度も変える。もうボツにしようと何度も思いながら、なんとか世に出すまでこぎつける。

やっていけるだけの原稿料を1本書くだけで出すので、1カ月みっちり取り組んで書いてくださいね。そうしてくれるサイトはほとんどない。よほど著名な書き手でもないかぎり絶対に採算が合わないからだ。

旅行記事を扱うサイトなどはもっと顕著だ。きっちり取材して、しっかりと濃厚で臨場感のある記事を書き、取材のネタだけでなくその背後にある歴史や文化にあたって書こうこうと思えば、かなりの手間と時間を要する。経費もうなぎのぼりだ。そんな記事で採算は無理なので、どんどん更新停止しているのが現状だ。

だから書く仕事は奪われるのだと思う。

■はやく僕らから書くことを奪ってほしい

けれどもそれでいいのだ。

実は書くことがないというのはとても幸せな状態なのだ。だって苦悩しなくていいのだ。葛藤しなくていいのだ。自分が嫌になるくらい自問自答しなくていいのだ。だからはやく僕らから書くことを奪ってほしい。

pato『文章を書くときいちばん大切なものは、感情である。』(アスコム)
pato『文章を書くときいちばん大切なものは、感情である。』(アスコム)

僕らの主張や慟哭は、苦悩しなくとも生成AIが代弁してくれる。それはとても幸せなことなのだ。頼んだぞ、生成AI。

僕は、苦悩と葛藤の末に生み出された文章を読みたいし、それを通じて考え方がブラッシュアップされた人間に興味がある。それはお金になるならないは別として、まだ多くの書き手がやってくれている。それがあるうちはまだまだ人間の勝ちだとすら思っている。

もしかしたら、生成AIがまた凄まじい進化を遂げて文章を書く際の苦悩や葛藤、自問自答それらを手に入れるかもしれない。でも、苦悩しながら文章を書く、それはもう人間だろう。仕事仲間だ。なにか悩みとかないか。原稿料未払いとかされてないか。こんど飲みに行こう、美味い砂肝を出す店があるんだ。

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pato ライター
累計5000万PVを超えるテキストサイト「Numeri(ぬめり)」管理人。ネット黎明期の2000年代初頭にサイトを開設。まったく誰にも読まれていなかったところから文章を鍛錬しつづけ、一躍人気サイトとなる。ライターとして複数の媒体で記事を書くようになると、たんなる商品紹介やPRを超えた「読ませる」文章に、ファンがじわじわと増えていく。JR東海クリスマスエクスプレスのCMへの愛を爆発させた分析記事や、『鬼滅の刃』にまつわるエッセイなど、100万PV超えの記事を連発。証券会社が運営する『インベスタイムズ』でなぜか映画『アベンジャーズ』についての記事を書き「たしかに投資だし深い」と絶賛されたり、『ぐるなび』のサイトで100本の醤油をレビューしたりなど、たびたびネット界を沸かせている。『日刊 SPA!』で連載を持つほか、『Books&Apps』、『SPOT』、『さくマガ』など、数多くのメディアに寄稿。いまもっとも売れているWEBライターと評され、各界のクリエイターや芸能人の中にもpatoファンを自称する人は多い。好きな言葉は、「人の心を動かすのは才能ではなく、真摯さとひたむきさ」。

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(ライター pato)

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