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「胃の違和感」を放置してはいけない…自覚症状なしと思われがちな「すい臓がん」を早期発見する方法

プレジデントオンライン / 2024年4月10日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/magicmine

ほとんど自覚症状がないままがんが進行するすい臓は「沈黙の臓器」と呼ばれる。JA尾道総合病院副院長の花田敬士さんは「腹部の違和感や背中の痛み、下痢といった自覚症状を放置していると、そのうち白目や皮膚が黄色くなる黄疸が見られるようになる。とくに、原因不明の腹痛が長引く場合は、すい臓がんを疑ってみたほうがいい」という――。

※本稿は、花田敬士『命を守る「すい臓がん」の新常識』(日経BP)の一部を再編集したものです。

■すい臓がんの自覚症状で最も多いのは腹痛

すい臓がんが怖いのは、初期の段階ではほとんど自覚症状がなく、そのため見つかった時点である程度進行してしまっていることが多い点です。

肝臓も、病気がある程度進まないと自覚症状が起きないことがよく知られています。少々のことでは痛みなどの症状を出さないことから、肝臓もすい臓も「沈黙の臓器」と呼ばれています。

私たちがすい臓がんを少しでも早く見つけるためにまずできることは、その自覚症状について知っておくことです。

症状が現れるのは病状がある程度進行してからだとしても、なるべく早く検査につなげるためには、自分や身の回りの人にここで紹介する症状がないか注意することが大切です。

自覚症状としてよく見られるのは、腹部の違和感、背中の痛み、下痢、軟便などで、最も多い症状が腹痛です。

■「すい管」が圧迫されることで痛みが出る

なぜ、お腹が痛くなるのかというと、がんによって「すい管(すい液の流れる管)」が狭くなり、すい液の流れが悪くなることですい臓自体に炎症が起きたり、がんがすい臓の周りにあるお腹の神経を巻き込むことで強い腹痛を起こすためです。

【図表1】すい臓は胃の裏側にある
すい臓は胃の裏側に位置する。すい臓がんが進行すると、腹痛や背中の痛みが生じることがあるが、それがすい臓の症状だとすぐ気がつく人は少ない(出所=『命を守る「すい臓がん」の新常識』P22)

ただし、こうした腹痛の原因がすい臓にあると気がつく人はほとんどいません。

多くの人は「胃の不調かな?」と考えて病院を受診します。エックス線や胃カメラで胃を検査しても、当然のことながら異常なしと言われてしまいます。

そして、市販の胃薬を飲んでやり過ごしているうちに、白目や皮膚が黄色くなる黄疸(おうだん)が見られるようになり、ようやくすい臓がんを疑うケースも多くあります。原因不明の長引く腹痛は要注意です。

■背中に痛みや違和感が出るケースもある

背部痛、つまり背中の痛みもよくあります。

食事をした直後は消化のためにすい液の分泌が促されるのですが、すい臓がんがすい管を圧迫していると、すい管の内側にかかる圧力が高まってしまい、痛みが出るのです。

特に、「甘いものや脂っこいものを食べ過ぎたときに背中が痛くなる」と言う患者さんを検査してみると、すい臓に異常が見つかることがしばしばあります。甘いものや脂っこいものを多く食べると、それだけ多くのすい液が必要になり、すい管の圧力が高くなるためです。

カフェインやニコチンにもすい液の分泌を促す作用があるといわれています。そのため、コーヒーを大量に飲んだ後、あるいは喫煙時に背中に痛みや違和感を訴える人もいます。

下痢や軟便といった症状はどうでしょうか。これらは、すい臓がんによってすい液の分泌量が減るために起こります。

すい臓が作るすい液には食べた物を分解する消化酵素が含まれているため、それが不足することで消化吸収がうまくできなくなるのです。

■「すい臓がんとは限らない」のが厄介

すい臓がんが進行してくると、先ほども触れた黄疸の症状がよく見られます。

すい臓の十二指腸寄りの部分にすい臓がんができると、肝臓で作られた胆汁を運ぶ胆管が圧迫されることにより、胆汁の流れが悪くなって黄疸の症状が出てくるのです。

黄疸というと、肝臓が原因で起きる症状という印象があるかもしれません。肝臓の機能が低下すると、ビリルビンと呼ばれる黄色い色素が代謝できずに、血液のなかにあふれ出てきてしまうのです。

しかし、黄疸はこのようにすい臓がんによっても引き起こされるので注意が必要です。

腹痛や背部痛、下痢など、ここで挙げたような症状は、いずれもすい臓がん以外の理由でも起こることがあります。それが、難しいところです。

お腹や背中が痛くなっても、「すい臓に異常があるんじゃないか?」と思う人はまずいません。なぜなら、すい臓はあまりなじみのない臓器だからです。胃や腸などの問題を疑う人がほとんどでしょう。

そして、繰り返しになりますが、すい臓がんの自覚症状が出るころには、がんがある程度進行してしまっていることが多いので、すい臓がんを早期発見するためには、こうした症状が出る前に検査でチェックすることが必要になってきます。

■生命を維持するのに不可欠な役割を持つ

そもそも、すい臓はどのような臓器なのでしょうか。

肝臓や肺などの臓器に比べると、一般の方々にはなじみが薄いかもしれません。なじみがないために、すい臓に異常が起きても発見が遅れる場合があります。

ですから、すい臓がどのような臓器なのか、よく知っておきましょう。

すい臓は、私たちの生命活動の維持に、非常に重要な働きを担っている臓器です。みぞおちとへその間、胃の裏側に横たわるようにあり、全体の重さは70〜100グラムほど。比較的柔らかい臓器です。

本人から見て右側は十二指腸につながっており、左側は脾(ひ)臓に接しています。「すい頭部」と呼ばれる十二指腸側は厚みが2.5〜3センチほどですが、「すい尾部」と呼ばれる脾臓側は厚みが1〜1.5センチほどと細くなっています。すい頭部とすい尾部の間の中央部分は「すい体部」と呼ばれています。

【図表2】すい臓の3つの部位
すい臓は、すい頭部、すい体部、すい尾部の3つに分かれる。すい臓がんのうち、全体の8割近くがすい頭部にできる(出所=『命を守る「すい臓がん」の新常識』P28)

■人間の消化活動を支えている「すい液」

すい臓には、2つの重要な機能があります。それは、外分泌機能と内分泌機能です。

外分泌機能とは、すい液という消化液を作って腸内に送り出す働きを指します。すい液には、糖を分解するアミラーゼ、たんぱく質を分解するトリプシン、脂肪を分解するリパーゼなどの消化酵素が含まれており、1日に約1リットルが分泌されます。

糖もたんぱく質も脂肪も分解するのですから、いかにすい液が私たちの消化活動において重要かということが分かります。

そして、すい臓で作られたすい液は、いずれもすい臓内を葉脈のように走っている「すい管」を通して、十二指腸に流れていきます。

内分泌機能とは、ホルモンを作って血液中に送り込む働きを指します。すい臓で作られる代表的なホルモンには、血糖値を下げるインスリン、血糖値を上げるグルカゴン、そしてインスリンやグルカゴンなどのホルモンの分泌を抑制するソマトスタチンなどがあります。

■すい臓の機能が落ちると糖尿病リスクが高まる

このように重要な役割を持っているすい臓ですから、正常に機能しなくなると、生命活動に大きな支障が生じます。

外分泌機能が落ちると、先ほども触れたように、消化不良を起こして下痢を繰り返すようになります。また、内分泌機能が落ちることで、血液中の糖からエネルギーを生み出すことができなくなったり、血糖値がコントロールできなくなって糖尿病を引き起こしたりします。

すい臓は、普段は目立たないけれども、生命維持に不可欠な役割を担っている臓器なのです。

すい臓の病気によってその機能が衰えてくると、薬などによってすい臓の機能を補わなくてはなりません。そのため、インスリンを注射したり、消化酵素薬を服用したりする必要が出てくるのです。

■早期発見、早期治療に挑戦した「尾道方式」

ほんの数ミリのサイズでも転移を起こす可能性があり、抗がん剤治療もその効果は2〜3割程度しか期待できない。となれば、できる限り小さなうちにがんを見つけて、転移が起こる前に切除することが重要になります。

これまですい臓がんでは早期発見、早期治療はほぼ不可能なことだと考えられてきましたが、そこに挑戦したのが「尾道方式」でした。

すい臓がんから命を守るには、手術可能な状態で発見することがカギになります。「尾道方式」では、そのためにできる最善の方策を考えました。

それは、腹部の症状などがある人だけでなく、危険因子を複数以上持つ人(詳しくは本書の3章で解説します)を対象に、地域の診療所で血液検査や、腹部エコー(超音波)などの画像検査をしていただき、そのなかからわずかでも疑わしいと思われる人がいれば、その地域ですい臓の精密検査ができる中核病院に紹介するというしくみです。

中核病院では、外来で行える、体への負担が比較的少ない、CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像診断)、EUS(超音波内視鏡)などの精密な画像検査を実施します。

その結果、さらに高度な検査が必要と判断されたときには、入院して行う精密検査を実施します。

そして、最終的にすい臓がんと診断された場合は、すみやかに適切な治療を行います。

また、早急な治療は必要ないものの経過観察が必要と判断された場合は、診療所と中核施設が連携して慎重に観察を続けていきます。

■地域の診療所と中核病院が連携し、検査

「尾道方式」のポイントは2つあります。

1つは、リスクが高い人に注目して、地域の診療所でも扱える血液検査や腹部エコーという方法を用いて、すい臓がんの可能性がありそうな方をうまく探しだすこと。もう1つは、地域の診療所と中核病院が連携して、効率的に検査を進めることです。

【図表3】「尾道方式」のしくみ
出所=『命を守る「すい臓がん」の新常識』P39

少なくとも現時点では、患者さんの体に負担が少なく、しかも効率的にすい臓がんを見つけられる最善の方法といってよいと思います。

花田敬士『命を守る「すい臓がん」の新常識』(日経BP)
花田敬士『命を守る「すい臓がん」の新常識』(日経BP)

考えてみれば当たり前のようにも聞こえますが、すい臓がんにおいて危険因子に注目して疑いのある人を絞り込んでいくという方法を実践した例は、日本のどこにもなかったのです。

2007年1月から2020年6月までの13年半の間に、すい臓がんが疑われる1万8507例を洗い出し、画像検査から精密検査を経て、610例のすい臓がんを発見できました。発見に結びついた確率は3.3%です。

通常の職場検診でのすい臓がん発見率は0.06%程度といわれているため、「尾道方式」はすい臓がんの発見率を大きく向上させる可能性があります。

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花田 敬士(はなだ・けいじ)
JA尾道総合病院副院長
広島大学大学院医学系研究科博士課程内科系専攻修了。医学博士。JA尾道総合病院内科部長・内視鏡センター長、広島大学医学部・臨床教授など経て、2021年より現職。すい臓がんの早期発見を目指して「尾道方式」と呼ばれるすい臓がん早期診断プロジェクトを立ち上げ、すい臓がん患者の生存率の向上に取り組んでいる。その功績により、2023年に「第75回保健文化賞」を受賞。

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(JA尾道総合病院副院長 花田 敬士)

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