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過疎地よりも東京周辺で深刻化…これから確実に「買い物難民」になる人が住んでいる"家と立地"の特徴

プレジデントオンライン / 2024年4月8日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Panuwat Tienngamsuj

なぜ、都市部で「買い物難民」が増え続けるのか。ジャーナリストの河合雅司さんは、「要因は、人口減少に他ならない。単身高齢者ばかりでなく、いずれ若い世代にも深刻な状況が広がるだろう」という――。

■店あれど、買い物できず…

高齢者の4人に1人が、食料品の購入が困難な「買い物難民」となっている。農林水産省の農林水産政策研究所がこのほど公表した推計は、衝撃的な実態を明らかにした。

同研究所は店舗まで500メートル以上かつ自動車利用困難な65歳以上を食料品アクセス困難人口と定義しているが、2020年国勢調査などのデータを基にカウントしたところ、対象者は904万3000人に上ったのだ。900万人を突破したのは初めて。高齢者人口に占める割合は、なんと25.6%であった。

【図表1】食料品アクセス困難人口の動向(年齢階層別)
出所=農林水産省

前回(2015年)の推計とは集計方法が一部異なるためデータに連続性はないが、単純に比較するならば9.7%増だ。

店はあれども、買い物ができない。今、日本で何が起こっているのか。

今回の推計結果には2つの大きな特徴が見られ、その背景から買い物難民が増えている要因が浮かび上がる。

1つは、75歳以上が565万8000人(同人口の31.0%)で買い物難民全体の62.6%を占めていることだ。

70代後半や80代になると、現役時代のような収入を得られなくなる人が大半であり、マイカーの所持が困難となる人が増える。運動機能の低下で運転が難しくなり免許証を自主返納したりする人や、買い物どころか外出そのものが難しくなる人も多くなる。厚労省は2040年に高齢者の4人に1人が認知症になる可能性をも示している。

■買い物を頼めない独居世帯

年を重ねるほど買い物難民リスクが高まることは当然ではあるが、問題は昔に比べて独居世帯が多くなったことだ。

三世代同居が一般的だった時代には、大半の高齢者は食料品だけでなく日用品購入を子供世代に委ねていた。ところが、70代後半や80代になっても自分自身で買いに行かざるを得ない人が増加したということだ。「今晩の食事の買い物、お願いね」と頼める家族がいないのである。

日本の高齢化スピードは速く、75歳以上どころか80歳以上が増え続けている。

総務省のデータ(2023年9月15日現在)で80歳以上人口を確認すると、国民の10人に1人に当たる1259万人だ。2035年には1607万人にまで膨らむ見通しである。

80代以上ともなれば配偶者を亡くす人は増える。「人生100年」と言われる時代であり、それは単身になってから過ごす年月が長くなったということだ。一方、若い頃からシングルのまま高齢期を迎える人も少なくない。両要因が相まって独居高齢者が増え続ける見通しとなっている。

厚生労働省の国民生活基礎調査(2022年)によれば、すでに高齢者世帯(1693万1000世帯)のうち、51.6%が独居世帯(873万世帯)だ。高齢独居世帯のうち男性の27.1%、女性の44.7%が80歳以上である。女性の場合、85歳以上が24.1%となっている。

■買い物難民は、都市型難民

大きな特徴の2つめは、買い物難民は大都市に多いことだ。

買い物難民といえば、交通が不便な「過疎地の課題」の印象がある。これを裏付けるように各都道府県の高齢者に占める買い物難民の割合を見ると、離島が多い長崎県の41.0%を筆頭に、青森県37.1%、鹿児島県34.0%などが続いている。

だが、実数で比較すると全く異なる。ここが数字を読むことの難しさだ。最多は神奈川県の60万8000人で、大阪府53万5000人、東京都53万1000人、愛知県50万人など三大都市圏に位置する都府県が上位に並ぶ。都市型難民、というわけだ。

三大都市圏と地方圏を比較すると、買い物難民の人数は414万1000人と490万2000人と、大差がついているわけではないことが分かる。

買い物難民の45.8%は三大都市圏なのだ。

とりわけ東京圏に集中しており、買い物難民の5人に1人以上に当たる203万7000人である。

店舗が多く便利な東京圏において買い物難民が多いことは不思議に思えるが、最大の理由は東京圏に高齢者が集中していることにある。

高齢者の絶対数が多ければ、買い物難民の該当者も多くなるということだ。

国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の将来推計によれば、東京圏の2020年の高齢者数は927万3000人で全国の高齢者の25.7%である。これが、2050年になると1160万人を超え3割ほどとなる。2020年から2045年の間に増える高齢者の6割以上は東京圏だ。買い物難民は今後、どんどん「東京圏の難題」になっていくと言ってよい。

住宅街の空撮
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■買い物をめぐる「環境」の悪化

これら大きな2つの特徴の背景にある要因に加えて、買い物難民を押し上げているのが高齢者の住居形態である。

内閣府の高齢社会白書によれば、高齢者の4人に3人は一戸建ての持ち家に住んでおり、高齢者住宅や施設で暮らす人は1%ほどでしかない。一戸建ての持ち家の場合、駅前などの商店街から少し離れた住宅地エリアに建っていることが多い。

押上げ要因は店舗側の変化にもある。郊外に立地する大型商業施設が増加し、住宅街近くにあった食品スーパーの撤退や商店街の衰退が目立つようになったことだ。こうした動きは東京圏も例外ではない。

ちなみに、店舗の変化に関しては状況の改善につながったところもある。コンビニとスーパーの中間規模の新形態の店舗が住宅街周辺に増え、都道府県レベルで見ると東京都などは買い物難民の実数が減った。

押上げ要因としては、公共交通機関の縮小もある。最近は東京圏を含めて路線バスやタクシーの運転手不足で廃路線や運行間隔の広がりが目立つようになった。推計は徒歩を前提として集計しているが、公共交通機関を利用して何とか買い物をしてきた人たちも今や困難さが増している。

このように、70代後半や80代の人にとっては買い物をめぐる「環境」がどんどん悪化しているのだ。

■「買い物弱者」も拡大する…

買い物難民とは、高齢化で移動困難な人が増えるという「消費者側の変化」と、国内マーケットが縮小し小売店舗の経営が困難になるという「売り手側の変化」という2つの構造的課題が重なって起きている。

要因は、人口減少に他ならない。

社人研の将来人口推計は高齢者数のピークを2043年の3953万人としており、今後ますます増えることだろう。4000万人弱というのは、ヨーロッパの大半の国々の人口より多い。

同時にこれは、単に高齢者の問題として片づけてはならないということでもある。

人口減少によって引き起こされている以上、いずれ若い世代にとっても深刻な状況が広がる。人口減少によって国内マーケットが縮小し、各地で店舗が減っていくためだ。今後は、若い世代においても遠方まで買いに行かなければならない「買い物弱者」が拡大し得るだろう。

大型商業施設であれ、個人商店であれ事業を継続するには、「最低限必要な消費者数」というボーダーラインが存在するからである。これを大きく下回ると倒産、廃業、撤退に追い込まれる。すでに各地で小売業の淘汰が始まっている。人口減少が進み、縮小するパイの奪い合いが激化しているためだ。

勝ち残ったとしてもボーダーラインの問題は残る。絶え間なく店舗の再編や見直しを余儀なくされていくことになる。

閉店した店
写真=iStock.com/liebre
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/liebre

■「国民の飢餓」の予兆

買い物難民の増加を受けて、多くの地方自治体では対策を講じている。食料品の移動販売への補助や、スーパーマーケットやホームセンターなどを回る無料の送迎バスを走らせる事業を行っているところもあるが、人手不足で運転手の確保は難しく、利用者が少なくて採算が取れずに事業が打ち切られることも少なくない。

すべての食材をコストが高いネット通販で購入するのも現実的ではない。そもそも、これらの取り組みは内需の縮小で店舗経営が難しくなるという根源的な課題を解決しうるものではなく、限界がある。

政府は、世界人口の爆発的な増加に伴う食料不足に備えて食料安全保障の強化を急いでいるが、食料をどう安定確保しようとも国民にスムーズに届かないのでは意味をなさない。

人口減少社会とはあらゆるモノやサービスが届きづらくなる社会だ。

そうでなくとも日本の食料自給率は低く、基幹的農業従事者も高齢化で急速に先細る見通しとなっている。高齢者の4人に1人が買い物難民という現実は、将来的な「国民の飢餓」の予兆と言えなくもないのである。

これは超高齢社会である日本のリアルだ。目を背けることなく、人口が減っても機能する社会への作り替えが急がれる。

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河合 雅司(かわい・まさし)
作家・ジャーナリスト
1963年生まれ。中央大学卒業。産経新聞社入社後、同社論説委員などを経て、人口減少対策総合研究所理事長。高知大学客員教授、大正大学客員教授のほか、厚労省など政府の有識者会議委員も務める。2014年の「ファイザー医学記事賞」大賞をはじめ受賞多数。主な著書にベストセラーの『未来の年表』『未来の年表2』『未来の地図帳』(いずれも講談社現代新書)のほか、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮選書)、『世界100年カレンダー 少子高齢化する地球でこれから起きること』(朝日新書)など。

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(作家・ジャーナリスト 河合 雅司)

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